予定、急遽変更。
タクシーに乗り込み、本日の宿泊先『ホテルインディゴ長崎グラバーストリート』へと向かう。
石畳の急な坂道をゴトゴトとのぼる道中、天野次長のスマートフォンが震えた。画面には「千﨑部長」の文字。
天野次長が通話ボタンを押すと、すぐにいつもの張りのある声が返ってきた。
「あ、千﨑です。ちょっと急で申し訳ないんだけど、今夜の夕食、予定をひとつ変更してもらえないかな」
「どういったご用件ですか?」
「要点だけ伝えるとね、お二人だけで食事してもらう予定だったんだけど、急遽、女性を一人加えていただきたいんです」
「女性…? ええ、問題はありませんけど。どんな方なんです?」
「まあ、会ってのお楽しみだけど、インディゴホテルの関係者の方です。個人的に大変お世話になった方でね。たまたま宿泊者リストに“大阪ビジネスコンサルタンツ”の名前を見つけたらしくて、私の携帯に連絡があったんですよ」
「なるほど」
「夕食が“料亭橋本”だと伝えたら、ぜひご一緒したいと。私のほうから料亭にも一名追加の連絡は済ませてます。まあ、ビジネスでなくプライベートなお願いだと思いますので、うまく頼みますよ」
「承知しました。お任せください」
通話を終えると、タクシーはホテルの正面にゆっくりと停車した。
急な坂道と石畳に囲まれたその場所は、ネットで見る以上に趣があり、どこか異国情緒すら感じさせる。

車を降りた大杉主任が、思わず息を漏らした。
「ネットで見てましたけど……立地も景色も、雰囲気も最高ですね。これはいいホテルだ」
「ええ、長崎らしいわね」
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