予定、急遽変更。
17時25分。
天野次長と大杉主任はロビーで伊達木を待っていた。
「お二人、こっちよ、こっち!」
ホテルの玄関先から、あの女性が手を振って呼びかけている。
そのすぐ背後には、黒塗りのアルファードが音もなく停まっていた。
運転手がドアを開けると、伊達木が軽やかに先に乗り込む。
「さあ、さあ、乗って乗って!」
3人は、黒塗りのアルファードの後部座席に静かに身を沈めた。
スーッ……と音もなくスライドドアが閉まると、車は長崎の街へと滑るように動き出した。
昼間はあんなに晴れていたのに、いつの間にか空は雲に覆われ、小粒の雨が窓ガラスを叩き始めた。
「長崎は今日も雨だった……ね」
伊達木がぽつりと口にし、それから少し声を弾ませた。
「でも、雨の石畳って滑るのよ。特に坂道。タイヤも、人間も、ね」
とケラケラと楽しそうに笑う。

その笑い声は、長崎の湿った空気に不思議とよくなじみ、どこか懐かしさすら感じさせた。
外はまだ明るいが、雨に濡れた石畳は、車窓越しにぼんやりとにじむ。
車内にはしばし静寂が流れ、誰もがそれぞれの思いにふけっていた。
ただの夕食になるのか、それとも――
何かが動き出すきっかけになるのか。
誰にも、まだ分からなかった。
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