5月のこと、ちぃさんと上野の「国立西洋美術館」で””西洋絵画、どこから見るか?”展鑑賞の続き。
「サンディエゴ美術館(SDMA)」と「国立西洋美術館(NMWA)」の共同企画展で、両美術館所蔵の88作品が展示されている。
サンディエゴから出展される49点(常設展示場で展示される5点を含む)は全て日本初公開。
この絵画展は、個人使用目的での写真撮影は可能。
SNSでの発信が禁止されている作品には”禁SNS”のタグが付けられている。
見逃された方のために、少し詳しくアップ。

第Ⅳ章は19世紀。
H.P.の説明を添付。


オレノ・ドーミエは19世紀のフランス写実主義を代表する画家。
近代都市パリの光と闇が描かれている。

オレノ・ドーミエ「観劇」(1856ー60年頃) 油彩/板 NMWA(旧松方コレクション)
観劇する人々を後ろから描くと言う面白い構図。

オレノ・ドーミエ「劇場を後にして」(1865年頃) 油彩/カンヴァス SDMA
この時代になると、シルクハットの紳士たちだけでなく、庶民も劇場に足を運んでいたことがわかる。

ブーグローは19世紀後半のフランス画壇で保守的陣営を代表する画家。
歴史画の大作を描く一方で、戸外を舞台に愛らしい子供や清らかながら官能的な少女を描き、人気を博した。

ここにはウイリアム=アドルフ・ブーグローの少女の二枚の絵。

まさにハッとする美しさ。
ブーグローの人気の理由がわかる作品だ。

ウイリアム=アドルフ・ブーグロー「小川のほとり」(1875年) 油彩/カンヴァス NMWA(井内コレクション)
写真と見紛う程の精緻な筆遣い。
モノトーンな色調の中で、赤い花冠が少女の美しさを引き立てている。

ウイリアム=アドルフ・ブーグロー「羊飼いの少女」(1885年) 油彩/カンヴァス SDMA
あどけなさが美しさに変貌する瞬間のようだ。

印象派の画家が好んで描いた田舎の情景。
垣根のモティーフに焦点を当て、印象派の大御所のピサロと、モネのジヴェルニーで学んだアメリカの画家、ロビンソンの絵が取り上げられている。

カミーユ・ピサロ「立ち話」(1881年頃) 油彩/カンヴァス NMWA(松方コレクション)
二人の若い農家の女性が立ち話をしている姿が、中央を横切る垣根によってとても印象的な情景として描かれている。

セオドア・ロビンソン「闖入者」(1891年) 油彩/カンヴァス SDMA
越えてはいけない境界を、垣根の脇をすり抜けて入ってきた子供。
見付かってしまった瞬間を、背後に聳え立つ垣根を配することにより緊張感を持つ情景に表現している。

19世紀後半になると、女性を理想的な姿としてではなく、踊り子や娼婦など、現実に生きる姿をありのままに描くようになる。
そんな女性を描いた二人の代表的な画家、ドガとロートレックが取り上げられている。

ドガとロートレックの「裸婦」を見比べ。

エドガー・ドガ「背中を拭く女」(1888ー92年頃) パステル/紙 NMWA
踊り子の絵を得意としたドガらしく、女性の動きに焦点を当てた躍動感ある絵となっている。

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック「うずくまる赤毛の裸婦」(1897年) 油彩/ボード SDMA
一方でロートレックは裸婦と一定の距離感を持ち、冷静に女性の姿を画題として描いているように感じる。

最終の展示は、スペインの写実主義の画家が描く、家族や子供の暖かな情景。
2歳で両親を失った画家は、特に子供に深い愛情を込めた絵を描いている。

ホアキン・ソローリャ「水飲み壺」(1904年) 油彩/カンヴァス NMWA
スペイン語でボディホという水飲み壺は素焼きの陶器であるため揮発によって中の水が冷たく保たれる。
夏が暑いスペインでは愛用され、多くの絵画に描かれている。

ホアキン・ソローリャ「ラ・グランハのマリア」(1907年) 油彩/カンヴァス SDMA
モデルは、画家の娘。

スペイン、バレンシア地方の暖かな太陽を感じる絵だ。

ホアキン・ソローリャ「バレンシアの海辺」(1908年) 油彩/カンヴァス SDMA
この場面もバレンシアの海。

平日の午後はそれほど混んでいないので、ゆっくり鑑賞することが出来た。

もう脚はかなり疲れているが、展示はこれで終わりではない。
常設展の中にも「サンディエゴ美術館」からの出品作品が5点展示されている。
広い幾つもの展示室の中のどこにあるのか、宝探しのような面白さ。

ジョヴァンニ・ボンシ「バーリの聖ニコラウス」(1365ー70年頃) テンペラ/板 SDMA
バーリの聖ニコラウスは4世紀に現在のトルコで慈善活動を行った聖人。

コズメ・トゥーラ「聖ゲオルギウス」(1475ー76年頃) 油彩、テンペラ/板 SDMA
コズメ・トゥーラは、15世紀後半の宮廷都市フェラーラの代表的画家。
この絵はフェラーラの聖堂の祭壇画の一部。

ソフォニスバ・アングィッソーラ「スペイン王子の肖像」(1573年頃) 油彩/カンヴァス SDMA
ソフォニスバ・アングィッソーラは16世紀ヨーロッパで最も成功した女流画家。
絵のモデルはスペイン王フェリペ2世の早逝した息子、フェルナンド王太子と考えられている。

フランシスコ・デ・ゴヤ「ラ・ロカ公爵ビセンテ・マリア・デ・ベラ・デ・アラゴン」(1795年頃) 油彩/カンヴァス SDMA
ゴヤはスペインを代表する肖像画家。
モデルは、王立歴史アカデミーの会長に就任したばかりのラ・ロカ公爵。

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル「フェイディアスの習作」(1827年、1866年に拡大) 油彩/カンヴァス SDMA
アングルはフランスの新古典主義を代表する画家。
1827年に描いたフェイディアスの頭部を、およそ40年後に別のカンヴァスに貼り付け、腕などを描き足して完成させたもの。

常設展示場には人が少なく、ゆっくり鑑賞することが出来る。

出口前には記念品の販売コーナー。

前庭に出ると、陽が長くなりまだ明るい。
正面はオーギュスト・ロダン、「カレーの市民」。
その奥には「考える人」。

左手に目をやると、右は、オーギュスト・ロダンの「地獄の門」。
その左右に「アダム」と「エヴァ」。
左は、エミール=アントワーヌ・ブールデルの「弓を引くヘラクレス」。
そろそろディナーのお店に向かうことにしよう。
ちぃさんと過ごす、上野の楽しい夜は続きます。