ブロンプトンで秘湯へ行こうリターンズ第十章。信玄の隠し湯シリーズ第九弾。
昇仙峡から向かったのは湯村温泉郷にある『杖温泉の宿 旅館弘法湯』だ。
湯村温泉は「信玄の隠し湯」とされている。戦国時代には武田信玄そして武田勝頼が湯村温泉で湯治を頻繁に行っていたとの記録も残る。正真正銘の信玄の湯なのだ。しかし、その歴史は信玄の時代を遥かに遡る1200年前にはじまり、山梨県内ではおそらく岩下温泉と並ぶ屈指の古湯である。
平安時代、今の湯村温泉のあたりに「志摩庄」（しまのしょう）という荘園があった。その一角に温泉が湧き出でるようになり、多くの人が集まる湯治場となったという。
伝承では、その起源は、傷ついた鷲が葦原のなかにしばしば飛来していることに気づいた地域の人が温泉をみつけた（鷲の湯）とも、あるいは、諸国を遍歴していた弘法大師が人々の諸病平癒のために自ら錫杖で湯を掘り当てた（杖の湯）ともいわれる。湯村温泉郷として旅館街が出来る前は、杖の湯・鷲の湯・谷の湯・産甫ノ湯の4湯が地域の人の共同湯として活用されていたという。
[走行データ]
総距離 35.74 km
使用機材 M3R black
湯村温泉通りをしばらく行くと塩澤寺（厄除地蔵尊福田山塩澤寺）だ。
塩澤寺は808年（大同3年）弘法大師の開創と伝えられる。湯村山（標高446m）麓の高台に位置し、甲府盆地が一望できる。
杖温泉弘法湯旅館は塩澤寺のすぐそばにある。旅館自体は昭和初期の創業だそうだが、その湯は湯村温泉では最も歴史のある杖の湯源泉（敷地内湧出）を使っている。古湯なのだ。
入浴をお願いし、渡り廊下を歩いて源泉のある別棟の杖の湯（男湯）へ。
弘法大師による杖伝説を始まりとする美肌の湯である。そして弘法大師ゆかりの厄除けの湯とも言われている。
脱衣所には弘法大師様が鎮座ましまして居られる。畏れ多いことです。
大同3年（808年）、弘法大師が東北巡行の帰りに信州から甲州へと入り、近くの厄除地蔵に泊ったそうだ。そのとき、今の湯村のあたりの道の真ん中に大石があり、旅人の通行に邪魔となっていた。弘法大師は呪文を唱えながら杖でその石を道の脇に寄せたところ、石があったところから温泉が湧き出したと云う。
引き戸を開けると・・・これは素晴らしい。透明の湯が贅沢にかけ流されている。
杖の湯（男湯）にはすぐ脇で湧き出したばかりのヌル湯が大量に注がれている。源泉温度40.3℃、湧出量（毎分）29.6リットル、PH値 8.4、泉質名 ナトリウム－塩化物泉とある。ヌル湯というが、湧き出したばかりなので投入までの泉温低下もなく十分に熱い。
女将さんによると、杖の湯（男湯）を含めて湯舟が三つしかないので、湯をこのように贅沢にかけ流せるのだという。
適温の湯なのでいつまでも入っていられる。極楽極楽。本日は炭酸水を持ってきていないのでお茶を飲もう。
古（いにしえ）から続く名湯を心行くまで楽しんだ。
帰りぎわ「いい湯でした。お世話になりました。」とあいさつして立ち去ろうとすると、女将さんが「お茶と氷を用意したのでぜひ飲んでいってください。」と声をかけてくれて、お茶と菓子をごちそうになった。これはまさにお遍路さんに茶菓や食事などをふるまう「御接待（おせったい）」そのものではないだろうか。
ブロンプトンで秘湯巡りをしている不思議な日帰り入浴客をここまでもてなしてくださるのはとても新鮮で有難く思えた。もしかすると、私のやっていることは自転車のお遍路さんのようなものなのかもしれないが。来年夏、桃を買いに山梨を訪れた際はまた来ようと思った。泊って存分に湯を楽しむのも良いだろう。
女将さんの「それでは道中お気をつけて」という言葉をあとに出発した。次は石和の富有柿を買いにJAふえふき富士見直売所へと向かう。
（「石和の富有柿（JAふえふき富士見農産物直売所） 」へ続く）
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