ツナグ⑧

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 かあちゃんは無事に出産した。キヨシと名付けられたその子は、僕にとって3人目の弟、やっぱりかわいかった。

 

 成昭学院高校の推薦には「3年生の2学期の成績がすべての教科で5段階の3以上であること」という条件があった。学費だってかかるし、無理とはわかっていたが、2学期に僕なりに勉強した。走ること以外でも1つ懸命に取り組んでみよう、と思ったのだ。何か変わるかもしれない……。

 

 が、結果は知れたものだった。今まで、2がたくさんあったものをすべて3以上って。11月の3者面談で担任から聞かされた成績は、案の定、オール3なんてついていなかった。焦燥感だけが残った。

 

「今までの僕の成績、知っているだろ!なんで夏休み前に成昭の話なんて持ってきたんだよ」

成績の条件、前以て言ってくれれば、無駄な努力しなくてすんだよ。飴をぶらさげられて、100メートルを10秒で走れと言われたってことか。いや、飴じゃなくて走りの得意な馬、ニンジンか。僕は担任さえ憎らしかった。

 

 かあちゃんは生後半年にも満たない赤ん坊を背負って面談に来てくれたが、

「子どもとよく話し合った結果、就職を希望します」

だとさ。そんなに話し合いしたっけ?三中から進学しないのは僕だけのようだった。

「タモちゃんも高校に行くのか‥‥‥」

急にタモちゃんの顔が浮かんだ。

 

 そんな時に池田先生から話があった。僕が唯一絶対の信頼を置く先生だ。

「鶴河高校がツヨシを待っていると言ってくれているが、どうだ?やっぱり就職するのか?」

しかも鶴河高校は僕の場合『特1』と言って、入学金や学費を全額免除してくれるらしい。成績も「1がなければよい」だって。そして全寮制だ。寮費は負担しなければならないが、家に居たってそれなりに金はかかる。栄養士さんがついて管理してくれて、ひもじい思いもしなくて済む。僕は天にも昇る気持ちだった。

 

 とうちゃんは「全額免除」の四文字熟語に飛びついた。あっけなく僕の進学の夢が叶った。金を稼ぐ僕の役割がなくなり、さらに寮費という出費が増えるというのに、とうちゃんの手のひら返しはなんだ?僕はとうちゃんに嫌われているのだな。僕の姿を見なくてすむことを選んだとうちゃんだった。

 

 鶴河の陸上競技部、特に駅伝は総体にも出場するほどの強豪校だ。

「絶対にメンバーの1人としてがんばるんだ」

僕は既にそんな気持ちになっていた。駅伝で鶴河の名前が入ったタスキを繋いでみたかった。

 

   続く