小学校低学年くらいまで、母に連れられてデパートに行ったことをよく覚えている。その日ばかりは母手作りのワンピースだったり、運動靴じゃない洒落た靴を履いてバスや電車でお出かけだ。
その時、デパートや商業施設で母がトイレの場所を店員さんに聞くのだが、
「御不浄はどちらですか?」
と言う。私はそれがとっても嫌で、
「お手洗いとかトイレって言えばいいのに」
といつも思っていた。
実際に母に聞いたこともあった。
「おかあちゃん、どうしてごふじょうっていうの?なんだかかっこ悪い気がする」
すると母は
「御不浄の方が丁寧な言い方なんだよ。上品な言い方なんだよ」
と言った。どうも無理して気取っているようでそれ以降も私は受け入れがたかったけれど、何も言わなかった。
そして‥‥‥。デパートに行くといつもお昼に上の方の階にあるレストランに行った。そこであの懐かしの「お子さまランチ」を食べた。ケチャップライスがこんもりと山型に盛られ、つまようじの国旗が立っていた。嬉しかったな。母はいつも焼きそばを食べていた。好物だったみたい。ところが決まって
「やわらかいのでお願いしますね」
と言うのだ。
私が知っている焼きそばはあの、祭りなどの屋台で売っている焼きそば。家で母が作ってくれる焼きそばだ。そこに「やわらか目」って注文をつけるとは、どんだけ奥様なんだろうと、恥ずかしかった。いつも下を向いていた私だった。
大人になってわかった。焼きそばには「あんかけ」とか「かた焼きそば」などの種類がある。そのことを伝えていたのかな?先日、母に聞いてみたら
「そんなこと言ってた?」
ってすっかり忘れていた。
さらに‥‥‥。母は、お財布を必ずきれいな花柄のハンカチにくるんで持っていた。だからお会計をするときはガラスケースの上でまず丁寧にそのハンカチを拡げ、お財布を取り出し、そこからお金を取り出すことになる。とても時間がかかる。いつもせっかちな母が何だか優雅にお会計をしているようで、私はそばで見ていてドキドキした。
私は気取ってトイレのことを「御不浄」と言い、焼きそばの硬さまで指示をし、お会計を厳かに行う母をずいぶん奥様気取りだなぁと思ってきた。御不浄って皇族女性方の言葉らしい。田舎から出てきた母も精一杯背伸びしていたのかな。
でも最近
「何でもありき」
「人それぞれ」
の今の時代だが、私が子どもの頃は
「人前で恥ずかしくない行動をしましょう」
が大事なことだったように思う。