サウスポーの男と集中力がない男、その他見たもの、考えたこと
9時半に目が覚めたけれどコップ1杯の水を飲んでもう1度寝ることにした。
日曜の朝の陽の光は、12月と思えないくらい暖かったけれど部屋は十分寒かった。
もう一度毛布に包まり光を浴びながら眠りについた。
10時過ぎまで寝て、彼女からのメールに返信をした。
簡単にシャワーを浴びて、タオルで髪を拭きながらメールをチェックした。
彼女からのメールに返信し、髪を簡単に乾かしデニムを履いて、Tシャツを2枚着た。
メールを何度か送受信しながら、アウターを着て、帽子を被って外に出た。
今日のプールからの眺めは最高だった。
青だけの空が手が届きそうなほど近くにあった。
いつも通り1000メートルほど泳いで、いつも通りトレーニングをした。
ひたすら胸、背中、腹、腰を重点的に鍛えた。
汗がTシャツを最初はしっとりと、後にはぐっしょりに濡らした。
一通りのサイクルが終了し、シャワーを浴びて髪を乾かしてから外に出た。
歩いて讃岐うどん屋に向かった。うどんに、きすのてんぷらと、さばのおにぎりを付けた。
それから公園の前にあるカフェのテラス席にコーヒーを飲みながら座り本を読んだ。
本を読みながらたまに公園を見ていた。
秋が終わりを告げた公園は、どこかうら寂しいものだったけれど
黄色と茶色の落ち葉で埋め尽くさていて、どこかぬくもりも感じられた。
公園では若いカップルがギターを弾いていた。
その演奏と歌があまりに終末的だったものだから、僕はこの世の終わりを感じてしまった。
比較的広い公園の一角は緑色のフェンスで囲まれた
ちょうどプールと同じくらいの空間があった。
そこでは、1組の親子と大学生たちがキャッチボールをしていた。
大学生の一人は左利で見栄えがよかった。
しかし、フォームがデタラメだったものだからコントロールが悪く目も当てられなかった。
もう一人はまじめにキャッチボールすらできない集中力がない男だった。
あらゆるフォームで投げることを試し、左利きの青年が捕れないところばかりに投げていた。
それが楽しいんだろうな、と考えながら、目を本に戻して、煙草に火をつけた。
また本から外に目を向けて色んなものを見ながら意味のないことをあれこれと考えながら
時間が過ぎて帰ることにした。
電車で帰ろうかと思ったが、歩くことにした。
せっかくだし、何分で家まで着くか測ってみることにした。
スポーツシューズを履いて、比較的いいペースで歩いた場合のタイムはジャスト15分だった。
おそらく普通のペースで歩けば20分くらいなんだろうなと思った。
賃貸物件の表示で駅から徒歩15分と書いてあることを思い出して
僕が住むのには適さないなと思った。
家に着いて、スキーのゴーグルを買い換えようと思っていたことを思い出して
電車に乗って買いに行った。
彼女にメールでそれを伝えた。返信はないとわかっていたけれど送った。
街には、カップルや家族や友達同士の”組”をなした人たちで混んでいた。
大きなボードケースを持った人を何人も見かけて、冬だなと思った。
欲しかったゴーグルはなく諦めた。正確に言うと欲しい価格では売っていなかった。
同じゴーグルが同じ街で6000円も違う価格で売っていることに
需要と供給のバランスにより価格が決まるんだなと考えながら電車で帰った。
6000円高くても買うやつはいる?と考えながら少し混乱しながら帰った。
外で冷えた体をホットカーペットの上で温めている途中に眠ってしまった。
彼女と僕の家のホットカーペットの上で毛布を被りながら眠っている夢を見た。
目覚めた彼女が僕の名前を優しく呼んで、夢の中の僕は目を覚ました。
彼女を見ると、とても優しく微笑んでいてそれを見た僕は彼女にキスをした。
そんな夢を見て、とても幸せな気分になった。
煙草に火をつけて、そのことを彼女にメールで伝えた。
返信はないとわかっていたけれど送った。
*
泳いでいても、トレーニングをしていても、うどんを食べていても
本を読んでいても、公園を見ていても、家まで歩いている時も
スキーを見ていても、駅までの道とその居酒屋を見て、その帰りの電車でも
彼女のことを考えている自分がいる。
今日がそうであったように、”今は”彼女と共に生きることは出来ない。
けれどそれが”今だけ”であることを願ってる。
* * *
ただ、願っている。
射し込む光だけ見て
今日、久しぶりに彼女以外の女性と2人で食事をした。
感想を一言で、とインタビュアーから聞かれれば間違いなくこう答える。
「最低、最悪だった」と。
彼女が的外れなことばかり言ってるものだから、いちいち対応せずに
ずっと彼女のことを考えていた。
こう言ったらこういう表情をするんだろうな、こういう風なことを言うのかなと
その女性と食事をしながら、僕はイメージの彼女と食事をした。
2人で向かい合って食事したり、隣に並んで食事したりしてることを考えた。
2人で鍋をしたときのことや、会社のデスクから見る彼女を思い出した。
そうすることで多少は楽しい食事になるのかと思ったが、違っていた。
時間の経過と共に、その女性に段々苛立ち始めた僕は
表情にそれを出し、とても冷たい態度をとった。
食事も美味しくないし、お酒も美味しくなかった。
ひたすらビールを飲み続けた。
これほど楽しくない食事をしたのはいつ以来だろうな、と考えながら
またビールを飲み続けた。
途中から2人の間には沈黙しかなかった。
彼女が、家族が亡くなったという事実をぼそりと言ったのは店を出ようとした時だった。
──凍りついた。自分がした言動に対して振り返って一瞬凍りつき
彼女がなぜそれほど感情的なのか全て納得できた。
辛さ、寂しさを誰にも話すことができず、受け止めて欲しかったらしい。
けど僕は、「申し訳ないけど、それはおれにはできない。
おれは弱い人間だから、人の弱さを真に受け止めることなんてできない。
ただ、聞いて欲しいかっただけかもしれない。でも、それすらできない自分がいる。
君が求める男ではないから、二度とおれを誘わないでくれ。」と言った。
彼女は泣いていた。
僕はその震える肩を抱くこともなく、隣でビールを飲んでいた。
自分は最低の人間だな、と思った。
でも最後の最後まで彼女に優しくすることはしなかった。
嘘をついた。
弱い自分でも、人の弱さを受け止めることが出来る場合がある。
それが彼女なら、真剣にそれを受け止め、彼女を守るよう必死で努めただろう。
*
歩きながら、感情を受け止めて欲しい相手について考えた。
それが僕なら彼女だし、彼女だったら他の男なんだろうな、と考えた。
矢印は、一方通行ばかりで、”⇔”はほとんどないんだろうな、と考えた。
今夜食事をした女性が僕を諦めることについて考えてみた。
僕が可能性を断絶したからだ。
同じように、彼女が僕に振り向く可能性は限りなくゼロに近い。
ここで諦めれば、これ以上傷つくこともないのかもしれない。
確かにそうかもしれない。でも、彼女との未来も完全になくなる。
傷ついたとしても、彼女との未来への可能性を探ろうと、考えた。
ふと、結婚相手はエアコンみたいなものだ、とある先輩が言っていたことを思い出した。
空気は酸素としての側面もあれば、気温という側面もある。
酸素のように必要と思える相手でなければならず
気温のように居心地がいいものでないといけない、ということなんだろう。
そう理解している。
そんな相手にはお目にかかることが出来ない。
やっぱり彼女なんだ。
* * *
おれには、闇の中にいるけれど、射し込む光の筋しか見えない。
本音の鍋、そして決断、もたらされた嘘
彼女と2人で鍋をつつきながら、美味しいねと笑顔で話した。
満腹になり、2本目のビールとウィスキーを飲みながら彼女と少し話した。
ほとんどの時間を彼女とホットカーペットの上で横になって抱き合ったりして過ごした。
彼女は僕の右肩に頭を、左胸に手を置いていた。
彼女は右手を、僕の胸の上で何度か動かした。胸が割れていることについて彼女が話したり
くすぐったりして時間を過ごした。
床で、ベッドで彼女を強く抱き締めながらキスをした。
彼女と家で過ごした時間は予想以上に幸せだった。
彼女は優しい笑顔で僕を見たり、DVDを見たり、鍋の具を鍋に入れたりした。
「もう1本飲む?」と優しく微笑みながら聞き、うん、と答えると
ひざで歩いて冷蔵庫からビールを取り出してくれたりした。
彼女が僕の右側にいて、右を見るだけで彼女がいた。
大好きな笑顔が右側にあった。
その笑顔のおかげでとても安らぐことが出来たし、想いは深まり、広がった。
こんな時間がずっと続けば、人生はパーフェクトになるのにな、と考えた。
でもそれはやっぱり妄想の域を超えなかった。
彼女はキスにとても感じていたけれど、僕は彼女を抱かなかった。
抱かなかった、のではないのかもしれない。
抱けなかった、と表現した方が正しいのかもしれない。
彼女を抱きたい、と心から思うし願うけれど
そうすることで潜在的にあるものが顕在化するような気がしてならない。
極めてシンプルに言うと、怖い。
*
彼女との現実は常に厳しい。
彼女は0.1%の可能性すら認めないという決断を下した。
ありとあらゆる扉が音を立てて閉められ、その扉の鍵を閉める音が聞こえた。
目の前のあらゆるものが黒とグレーと白でしか描かれていないモノクロームな
ところに僕は閉じ込められた。
世界の端っこから、ついに突き落とされた。
世界の端っこにすらいられなくなった。そこへの扉は閉ざされ、鍵がされた。
僕が放り出されたその場所は、酸素が薄く、時に手が痺れるようなところで
自由もなければ平等もなく、同情もないし、哀れみもない。意思すらない。
人間としての尊厳すらない。そもそも人間に尊厳なんてない、とすら思える
そんな、闇の中だ。
そこにあるのは、絶望と嫉妬、あるいは”死のような生”だけで
そしてその構成員は、システマチックな社会における本質的な敗者と
人間関係というパニックの中からドロップアウトした人間だけだ。
僕自身が、紛れもなくそこにいた。
そんな僕を見ていることが出来ず、彼女は優しい嘘をついた。
その素敵な嘘は、0.1%の可能性を認めるものだった。
哀れみから生まれた優しく、素敵な嘘だった。
僕は弱い人間だ。弱いからその嘘を嘘とわかっていても支えにすることにした。
そうじゃないと、まともにいられないと思ったからだ。
考えて手が震えた。それを手に力を入れて必死でこらえた。
4年前のことをを思い出した。
手が震えて、呼吸が乱れ、酸素が肺に届かなくなり、視界から色が失われる夜を思い出した。
ベッドの近くに置いてある紙袋を口にあて、呼吸を必死で整え
発作時用の薬を何錠か飲み、感情的な涙を流し、死んだように眠る。
起きても何も手につかず、ずっと部屋に閉じこもるそんな生活を思い出した。
嘘でも支えにしなければ、まともに生きていけないと思った。
0.1%だけ、僕との将来を考えてくれる彼女が”いるということ”にしようと思った。
きっと、彼女はこんな想いに対して怖いとか重いとか言うんだろうと思った。
嘘と本音は使い分けることはできないものだな、と考えた。
それでも、今日は彼女に、素敵な嘘をついてくれてありがとうと言いたい。
* * *
哀れみでも、嘘でもないよっていう嘘も、うれしかった。
君を愛してしまったおれの負けなんだ。
惚れたら地獄、だよ。
仮に0.1%、本当におれとの将来を考えてくれるなら、一緒にそれを叶えたいね。
そのために笑顔でいるから。
マキを笑顔でいさせるから。
特攻精神的想い
言葉にならない涙がスコールのように突然、落雷のように激しく流れた。
彼女は結婚している。
彼女にとっては、僕はもう終わったことなのかもしれない。
そう思ってしまってからは、声を出して泣いた。
吐くような姿勢で、ひざをついて声を出して泣いた。
*
それでも、本気でこう思う。
彼女はおれにとって100%の女で、たとえ結婚していたとしても
そう思える女性と出会えた自分は幸せ者なんだろうな、と。
*
彼女と出会うまで、何もかもうまくいかなかったわけでもないし
何もかもがうまくいっていたわけでもない。
あらゆるシーンでの僕を評価すべき人から、普通の人よりも評価される
人生を生きてきたし、スポーツも勉強も、仕事もそれなりにできる方だったし、今もそうだ。
恋愛もそれなりにしてきたし、得るべきものは多く得てきた人生だと思う。
しかし、ほとんどの人がそうであるように、後悔の方が圧倒的に多い人生でもあった。
何にも満足していなかったし、不安でしかなかった。
ある日、彼女と出会って一瞬で恋におちた。
僕の人生に欠けていたものを全て彼女が埋めてくれた。
それは、これまでの恋愛経験では絶対に経験することが出来なかった奇跡のようなものだった。
一瞬で、完全に好きになった。
彼女を好きになってから日々を考えると、幸せと言うしかない。
確かに他の男と結婚したし、それに絶望も感じている。
でも、総論で幸せだ。ある場合を思い出せば、各論すら天国のように幸せだ。
いつも、そう、いつだって彼女の笑顔は僕を深い井戸のような気持ちから救ってくれるし
その笑顔を見るために、彼女を本気で守りたいと思うし、彼女のためにがんばろう、と思える。
彼女のために。
*
愛する彼女を守るために、本気で命もかけたいと思う。
* * *
おれは日本男児だから当然だ。
なあ、じいちゃん。おれは今初めて、特攻だってできるぜって本気で思えたよ。
どうせ、Fucking world だもんな。
誰かのためにそう思えることすら素敵なことだよな。
What a fucking world!!と叫びたい夜
そこには、25メートルのプールがあって、温水が張ってあり
僕はただ、そこを行ったり戻ったりしているだけだ。
水の抵抗を体に感じながら、ただただ前に進もうとするだけだ。
水中を見ると、残り5メートルのラインが見えた。
タッチを合わせにキックを強くした。
クロールで息継ぎをすると、太陽の光が眩しく高層ビルが目に入った。
ふと、ここがどこだかわからなくなった。
現実的な太陽の光と、現実的高層ビルなはずなのに、非現実的なプールにいる僕は
日常を忘れさせてくれる空間の中で、自分が何者かさえわからなくなった。
タッチを合わせゴールして僕に、Tが「今、875?」と聞いてきた。
僕は、「そう。あと125」と答えた。
──そうだ。ここは現実的な社会だ、と自分に言い聞かせ心臓に手を当てた。
とても、鼓動が早かった。現実的速度を上回る鼓動。負荷がかかった体。
*
現実的な社会は、実にやりがいのあるものを僕に提供してくれる。
こんなに愛している女が他の男と結婚したり、仕事だったり、減量だったりと
僕が退屈をしないように、様々なものを提供してくれる。
実にありがたい。退屈はしない。
だけど、退屈なんてしないから、少しだけ平穏をくれ、と願う。
それでも、やっぱり、やりがいのあるハードルをとことん提供してくる。
だから、どうしようもなく面白いし、どうしようもなくやるせなくなる。
誰かに必要とされて、誰かが見守ってくれていればそうではないんだろうけど
僕は、誰にも必要とされてはいないし、誰も見守ってはくれていない。
ふと、捨ててきた人たちのことを考えた。
彼らは僕を救ってくれたのだろうか、と考えた。
答えはもちろんノーだった。みんな、同じだ。
吐きたくなった愚痴とか、誰にも言えない悩みを僕に言って、それに対して
もっともらしいことを、もっともらしく伝える。
彼らの誰にも言えない辛さを、僕が、この性格とキャラクターで受け入れる。
僕の中にある、やるせない思いや孤独はどうすればいいんだろう。
誰にも言えない思いは、これまでどうやって処理してきたんだろう。
これからどうやって処理すればいいんだろう。
彼女は3年後だって振り向いてはくれない。
一生支えられる、支えて欲しいパートナーを見つけたのに、彼女は他の男のもの。
彼女との平穏な生活。それすら叶わない。
彼女は僕ではない人の意見により揺さぶられ、僕との将来を純粋に見れない。
僕が彼女に伝えた言葉たちは、いつも宇宙の果てに飛んでいく。
誰も癒してはくれない僕の心は、どうすればいい。
誰にも気づかれる事もなく降り続ける、海の上を降る雨だけが知ってくれるのか。
大西洋のど真ん中の海を想像しながら、ウィスキーを飲んだ。
夢くらいは、少しは優しい世界を見せてくれるだろう、と思い、寝よう、と思った。
* * *
君の隣で眠れたらどれだけ幸せなことだろうと思う。
現実でも、おれは君に癒され、夢でも多少は現実から逃れることが出来る。
夜中に夢から覚めて、隣を見ると君が寝ている。
それだけで、おれは本当に安らぐよ。
*
でもこれは、こちら側から見た世界であって、彼女にとってそう願うのは
僕じゃない男だと考えるとやるせない。
What a fucking world!
夢も希望もない。
眠りに就く前に
彼女といた時間とか空間とか、表情とか、言ったこととか思い出して、
今ひとり少し寂しくなったり、楽しくなったりして、何故か少しにやけてる。
やっぱり彼女といると幸せだ。
*
この文を一度メールに書いたけれど、送信できなかった。
だから、ここに書いた。
*
一緒のベッドで一緒に寝たい。
おやすみ。愛してるよ、と言ってキスをしたい。
* * *
おやすみ。愛してるよ。
会議室3Xでのキスと話したかったこと
”男”という概念、というものが存在すればの話だが
僕は小さいころからこの”男”という概念と価値観やそれに基づく判断基準を
父親や祖父から教え込まれてきたような気がする。
幼稚園 年長のとき、転校生だった僕はいじめられた。
普通の子よりも背も大きく、体も大きくて目立つ存在だった僕は
転校生だからという理由以外でも、彼らの目にとまり、その対象となった。
どんないじめられ方をされたかなんて覚えていない。
けれど、こたつがある季節に(秋の終わりか、真冬か、冬の終わりか忘れてしまった)
大きな傷を付けて帰ってきたことがあった。
その傷をみて、祖父がどう聞いたか、それに対して僕がどう答えたかは覚えていない。
ただ、祖父は、男なんだから、やられたらやり返してこい、と5歳の僕に言った。
やられっぱなしは、恥ずかしいことだ、とも言われた。
そして翌日、滑り台の上から彼らのうちの準リーダーと思われる者を突き落とした。
彼が大泣きしていたことを少しだけ覚えている。
*
その幼児体験以外にも、”男”教育を受け続けた僕は
ある場合においては”男”という判断軸と、価値観をとても重要視するような大人になった。
”男”である以上、守らなければならないものと、どうやってでも奪わなければならないものがある。
そこに、プライドを持ってなければならないと思うし、ある場合においてはプライドすら捨てる覚悟も必要だ。
守らなければならないとき、勝たなければならないときがあって
それを成し遂げるために、その手段を選ん出はいられないときがある。
今、僕は純粋にこう思う。そして、それは間違いだとも思ってない。
(もっとも、すべてにおいてこう判断しているわけでもない。局地的判断の場合においてだけだ。)
*
今日、彼女と外で会えなかった。
コーヒーを一緒に飲めたなら、今日は”男”な話をしたと思う。
なぜかというと、今日ある男が仕事で・・・・・・、やっぱりやめよう。これはどうでもいいことだ。
まぁ、いろいろあって、僕に内在する”男”としての価値観を痛烈に感じたからだ。
会議室でこっそり会うことしかできなかった僕たちに、こんな無意味な話をする時間はなかった。
時間はなかったけれど、僕は永遠すら感じられた。
彼女は、暖色系のニットを着て、黒のスカートをはいていた。瞳は深く、僕をじっと見ていた。
とても安らぐ時間だったし、今日はすこし、ほっとしていたから彼女に甘えたかった。
そんな彼女にキスをしたり、抱きしめたりした。
会議室でキスをしたり、少し話したり、抱きしめあったりするのはとても異常な興奮を感じた。
彼女は、ぐだぐだのキスでごめん、とメールで言った。
確かに、それは集中力がないキスだった(キスに集中力が必要という前提だけれど)。
それでも僕は幸せを感じられた。
彼女を抱きしめたとき、彼女のほっそりとした体を感じ、背中の骨を少し触った。
これは僕だけが思うことなのかもしれないけれど、彼女をハグするとフィットするように感じる。
靴や服がそうであるように、サイズ的問題によって、合う、合わないは絶対にある。
179.8cmの僕と、159.8cmの彼女の体はフィットする。そう思った。
やっぱり100%だな、とも思った。
そんなことを考えながら帰りの電車に乗り、昨日買った新刊の文庫本を読みながら家に帰った。
家に帰っても、まだ彼女を抱きしめている感触が、僕の胸と腕にあった。
ウィスキーをロックで飲んだ。
彼女のキスと体について考えて少し興奮した。
ジャッキーカルパスを食べながらウィスキーを何杯か飲み、サッカーゲームをした。
時々、携帯のメールを問い合わせたりしたが、彼女からのメールはなかった。
ふと、今日彼女と廊下でキスをしたことを思い出した。
*
何杯かウィスキーを飲んで、今この文章を書いている。
記憶の保存として、会社で初めてしたキスを書き記そうと思ったからだ。
今日の僕は、自己療養の試みとしてこの無意味な文章たちを書いてはいない。
* * *
なあ?
それはおれたちにとって、それはとても重要なことだと思わないか?
楽しくいなきゃいけないんだろ。おれたちは。
*
そんなことを思いながら、ウィスキーをまた一口飲んで、彼女を抱きしめた瞬間を思い出している。
僕が酒を飲むこと、彼女が思うことについて
今、彼女の声が聞きたくて、彼女に僕はこうなんだよ、と言いたい。
今すぐに、どうしようもなく言いたい。
彼女に自分のありったけの想いと、将来の青写真について話したい。
語り合うというよりも、一方的に”こうなんだよ”とか”こうなれたらいいね”って話したい。
*
今まで僕と付き合った彼女たちは、必ずと言っていいほど僕にこう言った。
「酒に酔ってるあなたが一番いい」と。
伝え方はそれぞれあったけれど、高校生のときの彼女も、前の彼女も例外なくみんなそう言った。
なんで?と聞くと、酔ってる時の方が素直だからいいんだよ、と彼女たちは言った。
へぇ、言ったり、思ったりした。
それは、いつも素直じゃない自分を認めるという訳ではなく、単に自分に感心したからだ。
僕は、表情に感情が出やすいタイプだし
むしろ人より素直と受け取られても、おかしくないタイプだ。
でも、表情に、言葉に、自分の全てを晒すことは、絶対にしなかった。
彼女たちに自分の想ってること全てを話してしまうと、全てが終わる、と判断していたから
少なからず、自分自信に殻をして自分を隠していた。
殻を破って、かつ、彼女たちに全てを話さない、ギリギリのところで話を止めるのが
酒に酔った自分だ。
だから、彼女たちは酒に酔った自分が好きなんだろう。
酔いが覚めるように、そういった僕も消えていく。
彼女たちは、また酒を飲まないの?とたずねてくる。
実に、くだらない。
*
彼女には酔ってない運転中から僕の全てを話した。
今、酔っている僕が彼女に話したいことは、僕が綿密に想像する未来だったり
それに向かって一緒に歩こうね、という、そのプロセスだったりだ。
──たとえ、2人の間に青い薔薇しかなかったとしても──
もう、全て話してしまったし、今自分が酒に酔って話すのは、ひょっとしたら
普段、絶対に、誰にも語らない本当の自分なのかもしれない。
そんな風にできる相手と出会えたこと自体、僕は幸せなんだろうな思ったりもする。
──たとえ、青い薔薇であっても──
*
彼女は僕が酒飲みであることを嫌う。
けれど、僕は酔ったら、彼女相手だったら世界一素敵な未来の語りべになれる。
僕から語られる未来は、心の奥底からの願いであり、僕の全てでもある。
それは、今の僕たちなら、3年後の未来についてだし、もし一緒になれたなら
子供が出来たときについてだし、子供ができたなら、子供と僕たちの将来についてだし・・・・
僕は、彼女と一緒に過ごせたら、現実的理想を限りなく話せると思う。
今日、彼女はとても可愛かった、というよりも美しかった。
黒のタートルにオレンジのスカートがとても彼女の体に似合っていた。
フロアに入り、彼女に目をやると彼女が背筋を伸ばし、柔らかな笑顔でキーボードを叩いていた。
そのメールはたぶん僕に送られるもので、
僕はPCにログインして彼女からのメールをすぐにチェックした。
やっぱり彼女は僕にメールを送ってくれていた。
彼女に、僕が考える未来について話したくなった。
少し前、仕事中彼女とメールをしていて、僕が彼女にメールを送った後に
プリントアウトした紙を取に行くふりをして、彼女を見ていたことがあった。
彼女は、とても素敵な柔らかな笑顔をしながら、PCのモニタに向かっていた。
世の中の全ての罪が許されるような、その素敵な笑顔を、プリンタの前から何気なく見た僕は
少し彼女に見とれた後、少し早歩きで席に戻った。
彼女からのメールには、”好きだよ”と書いてあった。
僕は、彼女のことを好きになっていたけど、まだ想いを伝えていなかったときだった。
あの時、彼女を、より一層好きになった。
* * *
素敵な未来だけでなく、素敵な過去まで、僕は話せるんだ。
それは、想像力と記憶力があるからじゃなくて、君を深く想っているからなんだと思う。
酒を飲む男は嫌いかもしれない。
過去の傷が癒えてないかもしれない。
でも、僕が酔ったときは、幸せな世界を見せてあげれるんだ。
いつだって。
絶対に君を傷つけたりはしない。
酒を飲むことは、殆どの場合、自分を解放する手段でしかないんだ。
死には青い薔薇を
ほんの少しの歯車が狂えば、積み上げたものが、いとも簡単に音を立てて崩れ落ちる。
そこに大きな力や労力や、ましてや時間という概念すらない。
ただ、自然的に歯車が少し狂うだけでいいんだ。
たったそれだけで、全てが、パーフェクトに、崩れていく。崩れ続けていく。
そこに残るのは、客観的には、空虚な空間と時間が、主観的には絶望と無念さがそっと残る。
それはちょうど、葬式の後、死者を火葬し、多少の酒を飲んで、あらゆる人たちが涙も見せず
あらゆるところへ帰っていき、家族しかいなくなったあの時間と空間と感情に似ている。
死についてもう少し考えてみよう。
僕は、生を受けた瞬間からその最期にある死に向かい、そこに着くのを”死”と捉えている。
小さいころからなぜか葬式に出る機会が多かった僕は、同年代の多くの人間よりも
早い段階から死について考えさせれてきた。
死をとてつもなくおそれた時期もあったけれど、今は通常の物事と同じように捉えているつもりだ。
それは、髪質や爪の形のように、いくら嫌っても、恐れてもどうしようもないことで
生と死は切り離せないものなんだろうな、と理解している。
死は、ある場合においては突然、ある場合においてはゆっくりとやってきて命が奪われる。
死は、生活のあらゆるものに似ているんだろうな、とも思う。
生(活)に含まれ、かつ、突然だったり、ゆっくりと訪れ、何かが奪われたり、失われる。
それは、人間関係だったりもするし、仕事かもしれないし、何でもいい。
生活において、突然あるいはゆっくりやってきて、何かがなくなる。
よくあることだ。そう、よくあること。それが”死”。
生活に含まれる"死"。
*
彼女は、彼からの電話とその会話により、改めて僕との距離を測り直した。
そんな些細な電話と会話により、また僕は失われた。
それは、突然やってきて、パーフェクトに彼女のすべてを奪っていった。
ヨクアルコトダ ソレガ”シ”
ここに残るのは、希望なき未来、すなわち絶望と、なみなみとある彼女への想い。
死をとめることはできないのに、僕は彼女に手紙を書いた。
彼女の返事は、基本的に、全般的に、一貫して、総論も各論も
英語でもポルトガル語でも、NOだった。100%のNO。
体の芯の力が抜け、もう全てのやる気がなくなった。
生きる意味とは何だ、と自分に問うた。
生きることは、幸せになることなんじゃないのか、という稚拙な答えが出た。
これほど愛していても、誰一人幸せにできない。
もちろん、自分も幸せではない。
”What a wonderful world” が空っぽの頭の中で流れた。
I see trees of green red roses, too.
木々の緑、赤く咲くバラ
I see them bloom for me and you.
僕と君のために咲いている
And I think to myself "What a wonderful world !"
ふと思う、”なんて素晴らしい世界”なんだろうって。
(訳:おれ)
Wonderful Worldなんてない。
僕と彼女のためには、木々は緑になっても、赤い薔薇は咲かない。
僕にあるのは黄色の薔薇で、2人の間にあるのは青い薔薇。
花言葉は・・・嫉妬と、
不可能。
* * *
死に飾る花として、ちょうどいいだろう。
いつものタバコと、いつも飲んでるウィスキーも添えてくれ。
家庭を持ちたい、と考えるときに考えること
彼女の声を聞いた夕方からの時間は幸せだった。
彼女は、私ひとりで電話しながら満面の笑みなんだよ、変な人だと思われるよ、と言った。
彼女はきっと本当に満面の笑みだったのかもしれない。
少し彼女を楽しく、幸せな時間を与えることができたのかもしれない。
今週中に2人で鍋やろう、おれの隣にいてくれて幸せな時間を過ごしたいだけなんだ、と言った。
彼女は、私もそうしたい、と言った。
ただ電話で話しただけ。なのに、安らいだし、とても幸せな時間を感じることが出来た。
彼女が笑えば、彼女の笑顔を思い浮かべた。
彼女が話せば、話すときの彼女の表情や仕草を思い出すことが出来た。
思い出されるそのすべては常におれを幸せにしてくれる。
*
「結婚を意識すると、全く別の視点で女を選ぶ」と友人に何気なく話して、
友人よりも自分自身がなるほどな、と思った。
ただ単に付き合うだけなら、彼女が言うように他の女でもよいかもしれない。
でも、結婚となると彼女じゃないとだめだ、と思う自分に気づいた。
彼女は結婚している。これは疑いようのない事実で、どうしようもなく絶望的だけれども
おれは"彼女=理想の結婚相手"としてのジャッジメントをした。それも疑いようのない事実だ。
テーブルの右も左も家族連れだった。
左のテーブルでは、両親と中学生の男の子一人の3人で、右のテーブルでは両親と
中学生の男の子と女の子の4人でそれぞれ、思春期の子供らしい会話と間とトーンで
食事をしていた。
それを見て、「家庭を持ちたい」という話をした。
それぞれの家庭観とか子供をこう育てたいとか、妻にはこれを望むというような話をした。
その間、常に彼女のことを思い浮かべた。
そして、彼女はやっぱり理想の結婚相手だな、と思った。
*
彼女が振り向いてくれるために必要なものが何なのかはわからない。
年収なのか、人間性なのか、ビジュアルなのか
はたまた、単に彼女の思い切りだけなのか、わからない。
どれをとるにしても、”時間”はとても重要に思える。
だとすれば、時間の経過を待つ。
季節が変わるように、彼女がおれのところにやってくればそれでいい。
2人で過ごすことが出来れば、一生一緒に幸せに過ごすだけだ。
そこには、理想的な夫婦があって、幸せな家庭がある。
それを築く絶対的な自信がある。
* * *
電話で少し話しただけで、会って食事するだけで、お互いに幸せな気持ちになれるんだ。
必ずそうなれるさ。
季節は必ず変わる。