彼女が結婚したとしても

僕が彼女を愛してしまったのは、彼女の結婚までもう2ヶ月を切った頃だった。

2007年11月18日彼女は結婚して、2008年4月に結婚式を挙げる。

それでも一緒になりたいと思う僕と、そう出来ない彼女。

そんな彼女と僕の間に起こった事実と、僕の感情をここに。

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3月2日

ふいに涙が流れ出し、洗いたてのふわりとしたタオルでその涙を拭いた。

タオルは涙を吸い取りすぐに湿った。

涙は熱く、頬を流れ、これから畳むはずのTシャツに、ぽた、ぽたと音を立てて落ちた。

その音は、夏の夕方の雨の降り出しのようだった。そして、夏の夕立のように激しくなった。

涙は頬をつたわず、目から直接Tシャツへと落ちた。僕は吐くような体勢で泣き続けた。

まだ肌寒い3月1週の日曜の14時過ぎに、東京の25平米のワンルームマンションで

洗濯物を畳みながら、僕は文字通り、号泣した。


一通り泣き終えた後、洗濯物をまた畳み始めた。

鼻水をすすりながら、Tシャツを畳んだり、靴下をセットにして畳んだり、パンツを4分の1に

畳んだりしてすべてが畳み終わったら、それをクローゼットに入れた。まだ鼻水をすすりながら。

ティッシュペーパーで鼻をかんでから、洗面台でもう1回水で鼻をかんで、顔を洗った。

鏡はひどく泣きはらした顔を映し出していた。それはまるで僕の顔じゃないみたいだった。

冷たい水で顔を洗った手は自分の手じゃないみたいに冷たく、それまで泣いたことも

自分の行為じゃないみたいに現実感がなかった。


それでも、頭の中には彼女のことがあった。どうしようもなく現実的に。


現実的に伸びた髪を切るために予約した現実的な美容院に行って短くしてくれ、と頼んだ。

美容師はのんきに、「何かあったんですか?」と聞いてきた。

「お前は何も考えずにただひたすら髪を切れ!」とでも言ってやろうかと思ったがやめて

「いえ、春も近いですから短くしようかな、って思ったくらいですよ」と社交的に言っておいた。

美容師はその返答にいちいち、花粉症がどうだとか、仕事は忙しいのかとか聞いてきた。

2年以上、僕の髪を切ってくれるその美容師は、良くも悪くも会話を楽しもうとする傾向があった。

今日、とても良い気分とは言えなかった僕は会話を適当に、社交的に流しておいた。

髪はすっかり短くなり、また自分じゃないみたいになった。


一通り明日のための仕事を終わらせると、陽は落ちていた。

それは、ウィスキーを飲むことを許可するようなものに感じてグラスに氷をいくつかと

ウィスキーを指2本分注いでリビングテーブルでしばらくそれを眺めてみた。

一口飲んでから、時計を見ると18時少し前だった。

これから2時間ほどプールで泳ぎに行こうかと考えたが、体中のハリを考えてやめておいた。


本を読んだり、テレビを見たり、ウィスキーを飲んだり、何か気を紛らわしながらの週末。

もう慣れたものだ。問題はそれらの行動には慣れても、辛さや嫉妬、苦しみには慣れないことだ。


* * *


ねぇ。



早く会いたいよ。


いろいろ伝えたいことや、話したいことばっかりなんだ。

サウナ、仕事、ウィスキー

サウナの中で僕は彼女のことを考えていた。

彼女のことを考えながら、彼女のことを考えないようにしようとも考えていた。

皮膚からは玉のような汗が吹き出て、僕の表皮はまるでオーストリッチのかばんみたいだった。

じっとオーストリッチみたいな腕を見ているとだんだん気持ち悪くなってきて、それで彼女と

嫌いな柄について話をした金曜の夜を思い出した。

彼女は今頃何をしてるんだろう。時刻は22時過ぎだ。

彼女は他の男に甘えながら平穏な時間を過ごしているのだろうか。

そして、もう少し時間が経過すればきっとその男と風呂に入って風呂から上がり

キスをして、セックスをして、その後また甘えて眠るんだろうな、と考えた。

彼女はその間、僕のことを脳からゴミ箱の中に葬りそれらの行為に集中するんだろうと考えた。

あるいは土日の48時間、まったく僕のことなんて頭にないんだろうと考えた。

彼女が他の男とキスをすること、セックスをすることにももちろん、すべてに嫉妬してしまう。

まったく、嫉妬深い嫌な男になってしまったものだ。

どうしようもない気持ちになり、サウナを出て水風呂に入り冷水に頭のてっぺんまで浸かった。

風呂から出て、体重を計ると、年明けと比較して6キロ以上落ちていた。胸、背中は締まってきた。


友人とバーで酒を飲みながら仕事の話をしたり、それ以外の話をしたりした。

テレビがくだらない番組を放送したり、それ以外の番組を放送するように、ほとんどが仕事の話だった。

彼も僕も、仕事が嫌いじゃないんだろう。端的に言って好きなんだろうとすら思う。

彼の話を聞きながら、人生の優先順位について考えた。

彼女に伝えたIからWeへの転換の話を思い出した。

デジタル時計を見たとき、時刻は23:23と表示していた。

時間帯的にセックスをしている蓋然性が高い時間だな、と考えながら彼の話を聞いていた。


まったく、どんなときも彼女のことが頭から離れない。いつも嫉妬してしまう。

さらに困ったことは、彼女が僕との未来を全くと言っていいほど見ていないことだ。


困ったというよりも、辛いし、寂しい。

そう思えば、目の前にあるロックグラスに注がれた琥珀色のウィスキーはどこまでも

寂しい味に感じられる。

辛く寂しいウィスキーを飲みながら、それでも彼女を想ってる。


爆弾投下について

風の音がうるさくて目が覚めた。あまりにそれが突発的ですさまじいものだったから

東京のどこかに爆弾でも落とされて、その爆風がきたのかと思った。

僕の想像はどこか終末的だったりするのだ。

本気でその可能性について確認しなければならないと思い、テレビをつけてNHKを見た。

意識的には、NHKのことを信用しているわけではないが、こういうとき自然とチャンネルをNHKに

するというのは無意識的にはNHKを信用しているのかもしれない、と思った。

意識よりも無意識の方が正しい判断をすることもあるのかもしれない。

事実、ほかのチャンネルでは普通にくだらない番組を放送していたが

NHKでは、番組をやりながら文字情報で電車が遅延になったり、運休になってるということを

伝えていた。しかし、風の原因について触れられてはいなかった。

これにより、爆弾投下の可能性はないということが理解でき、テレビを消した。


しばらく、ベッドで横になったまま風の音を聞きながら無意識と有意識について考えた。

特に答えがでるわけもないことを考えることも比較的好きな方なのだ。

自分の言動について無意識と有意識について考えてみた後に、彼女のそれについて考えてみた。

彼女が無意識的に言うことは、僕を喜ばせたり、悲しませたりすることについて考えた。

相反する2つの感情を抱かせるのは、彼女と僕の関係がとてもシリアスな関係だからなんだろうなと考えた。

つまり、彼女は僕のことを好きだから無意識的にそれを伝えてしまう言動をとったりすることもあるが

6年もともに過ごしている男がいるものだから、そしてその男と結婚してしまったという認識もあるだろうから

それを無意識的に伝えるケースもあるんだろうと、思った。

シリアスな関係か、と思った。


冷蔵庫の中もすっかり何もなくなっていたから、何を買わないといけないか考えながらシャワーを浴びた。

・インスタントコーヒー

・お茶2ℓ

・食パン

・チーズ

・バナナ

・ヨーグルト

・納豆たくさん

を買おうと決めて、スーパーに行ったがこれら以外にもたくさん買ってしまった。

・レタス

・きゅうり

・トマト

・ハム

・ソーセージ

・コッペパン

・卵

僕はスーパーでは無駄な買い物をしがちな人間だ。その瞬間にサンドウィッチを作りたくなっただけで

大量に買い物をしたことについて、そして、コーヒーを買い忘れたことに気付いて

少し後悔しながら突風の中歩いて帰ってきた。

作ったサンドウィッチは、ハムときゅうり、チーズとレタスとトマト。それぞれ、マスタードをつけて食べた。

新鮮な野菜のサンドウィッチは美味しい。少なくともこの時は歩いていたときの後悔はなかった。

そう。僕は物事を良いほうに考える癖があるのだ。


食べ終わって、読みかけの本を読んでいたが、性的な描写になったときに

彼女のことを考えすぎて、小説の内容について考えることすらできなくなって本を閉じた。

彼女とセックスをしそうでしなかったことについて考えた。

ストッキングの上から、彼女に触れたことについて、彼女が僕のキスと愛撫に感じていてたことについて

考えた。ほんの少しだけしてくれたフェラチオについて考えた。

そして、今夜あたり、きっと彼女が男に抱かれるんだろうな、と考えた。

相変わらずの絶望的で、終末的な思考になり、ジムに行くことにした。

何も考えることができない状況に自分を追いやるしかなかない。

今はあまりに辛すぎる。


*


ジムでは2キロ泳いで、腹筋と背筋を中心に鍛えた後に、20分間走った。

体重は順調に減っている。

筋肉もどんどんついていってるし、締まった体になりつつある。

挙句の果てには、なぜか性欲まで強力になってきている。

困ったものだ。相手がいない。


*


ロックグラスに、氷を何個か入れ、たっぷりとロックのウィスキーを作って少しだけ

ソーダ水を入れてちびちびと飲みながら今この文章を書いている。

何もなかった1日を振り返りながら。

何も起こらないであろう1日を予想しながら。

決して良いとは言えない想像をして、あらゆることに嫉妬しながらウィスキーを飲んでいる。

ある場合においては”いつも通り”に。


こんなことなら本当に爆弾でも落ちれば面白いのに、と思い、たった今、それを戒めた。


53日、不変、変化、シーソー

さあ、久しぶりの更新。

最後の更新は2008年1月2日。最後の更新から53日。

この間、人並みの喜びも怒りも哀しみも楽しさもあった。人並み以上のそれらもあった。

しかし、この間ブログを更新することはしなかった。

この間、更新しなかった理由があるように、今日、更新する理由がある。

太陽が沈む理由があるように、昇る理由がある。それは表裏一体なのだ。たぶん。


*


この53日、僕から見える景色は何も変わらなかった。

彼女から見える景色は少し変わったのかもしれない。

彼女は結婚式へ向かい事務的な作業であったり、情緒的な物事を進めている。

傍らで僕が常に彼女を常に思っている。構図で表すなら、こうだ。


≪僕→彼女⇔男≫


何も変わってない。変わる可能性も低い。


*


きっとこの週末だって、彼女は男に抱かれるんだ。

僕とは頑なにしない、セックスをして、僕を頭の片隅からすら追いやるんだ。

そう思うと、思考のすべてが悲しいベクトルに向かってしまう。

悲しい味にならないように気をつけながら、ジョニーウォーカーのロックを飲み続け、

仕事について考え、人生について考え、プールでいかに早く泳げるかについて考え、

彼女との将来の生活について、静かに考える。


* *


辛く、激しい日々がまだ続く。

それを楽しくて、幸せで安らげる時間で相殺して過ごし

結果がプラスである以上、僕は彼女が欲しい。

シーソーのように、繰り返されたとしても、最後がプラスなら変わらない。


何も変わってない?


NOだ。


僕の彼女への気持ちはさらに高まったし、前よりずっと彼女が欲しい。


53日前よりも強く。激しく。やさしく。


空想と現実の狭間で思うことについて

ウィスキーを飲みながらずっと空想について考えている。

何の意味もなさない空想について考えている。

10畳近くある部屋の全ての蛍光灯を消して、間接照明だけにして、

僕が最も落ち着く空間の状態にして、何杯も飲んでいる。

彼女以外の誰とも話したくないし、同じ時間を共有したくもない。

何人かの誘いを断り、煙草を何本か吸いながら彼女との空想の世界について考えた。


彼女が僕に振り返ってくれたら今頃・・・、11月18日に婚姻届を出さなければ今頃・・・、と

無意味な、たら・ればを頭を巡らせた。

残ったものは、悲みしと、彼女を強く想う気持ちだけだ。

他には何も残らない。残ってない。


*


彼女を抱きしめたい。

強く抱きしめたい。

頭の中にある悲しみとか、いろんなうつろなことを消し去るくらい彼女を強く抱きしめたい。


彼女が明日、男の実家に行けないくらい強く抱きしめたい。

彼女が明後日、結婚式の打ち合わせに行けないくらい強く抱きしめたい。


* * *


わがまま過ぎるなんて言わないでくれ。


受け止めてくれ。



0.1%受け止めてくれ。



頭の片隅に0.1%だけでいい、置いていてくれ。



そうすれば、2人は、2人の周りは、世界はもっと素晴らしくなるから。




2007年

彼女とのメールを全て読み返してみた。

2007年、もうすぐ終わろうとする1年という振り返ったとき
彼女の存在のみが頭の中を包み込む。

彼女と交わした言葉が、彼女の微笑みが、彼女のとのキスが、優しく包んでくれる。

彼女と出会いで全てが変わった。
彼女は僕にとって100%の女だと再確認した。

彼女として、妻として、母として、ある場合においては

純粋な理解者として彼女は100%の女だと思った。


そう思える人と出会えたことはきっと素晴らしいことなんだろうと思う。

たとえ、彼女が結婚したとしても。


客観的に見れば、とても辛いことがあった1年と振り返ることもできるだろう。

ただ、僕として主観的に振り返れば、そんなことは頭からなくなる。

”最高の女と出会えて、僕は彼女を愛して、彼女が僕を好きになってくれた”

そう振り返る年なんだと思う。


*


2007年もあと8時間足らずで終わる。

来年は、前だけを見ていたい。

なのに、2008年が明けたとき、彼女の心の中は僕を消そうとしているんだろう。

あまりに現実的で実際的なリアリティが彼女の頭の中を交錯して

そういう思考になるんだろうと思う。


一緒に、できれば、一緒に前だけを向いていたい。

一緒になれる可能性の未来だけを見ていたい。

それが0.1%だったとしても。


* * *


ねえ、まき。


おれを消さないでくれ。


おれとお前は誰かが放した風船みたいなものなんだよ。

だから2人は離れちゃいけないんだ。

どこかで誰かが手放した風船2つが、空を舞っているうちに2つの風船が出会ったんだ。

2つの風船は互いに恋におち、互いに愛し合うんだ。

風が吹くこともあるだろうし、雨が降ることもあるだろうね。

でも、いつだってお互いを思って支えあって生きていけるんだ。

いつか、疲れて地上に舞い降りる時だって2つ同じ場所に落ちるんだ。


今は風も雨も強いかもしれない。場合によっては雪も降るかもしれない。

でも、大丈夫だよ。

まきのそばにはおれがいるし、ずっとまきを支えていてあげる。

そして、いつか一緒の場所に降り立とう。


そんな未来を、可能性の未来を2人で見ていよう。

来年もまきの光を届けてくれ。


今年、まきに出会えたことに感謝してる。

誰よりも、ありがとう。


そして、


誰よりも、愛してるよ。



酒場にて

おれは、“大人になった“んじゃない。もともと大人なんだ。
君の男とは違うんだ。


では大人とは何だ。

あるシーンにおいて、自分を殺すことができること、そう思ってるんだろう。


じゃあ、殺されたおれはどこへ行くんだ?


* * *


叶わない希望は絶望となり、話した言葉は空へ消え

存在自体が記憶から消されようとしている。

まるでこれまで何もなかったかのように、全てがゼロへ向かっている。


それでも自分を殺して生きるのが大人なのか。



違う。



例え、自分を解放したとしても彼女がもう振り返らないと知ってるから、殺すんだ。

彼女は振り返らない。

そして、自分は自分で殺す。


絶望の淵のような酒場でうらびれた酒を独りで飲みながら

この文章を書いている。彼女を想いながら。


絶望の中、夜の叫びとともに。



* * *



夜はとても長い。


そして、そんな孤独な夜はまだ始まったばかりだ。


耐えないといけないのに、君の声が聞きたい。


どうしようもなく。

どうしようもないんだ。

ウィスキーを飲みながら

「彼女は最高の女性だよ。君にとってパーフェクトだよ。惚れるのも仕方ないさ。」

なぜ、君にはそれがわかるんだ?とロックグラスを左手持ったまま聞いた。

「わかるさ。でも、誰にもわかるというわけでもないよ。僕にはそれがわかるんだ。」

と彼は少し笑いながら言った。

わかるようで、わからないな、と言った僕に、彼は続けた。

「君の彼女と、君の思考をずっと見てきたんだ。

君が求めるのはああいう女性だということはわかるんだよ。」

グラスをテーブルに置いて、僕は煙草に火をつけた。


「でも、彼女は君のものにはならないんだろう、と思うよ。」と彼は静かに、寂しげに話した。

なんでそう思うんだ?と聞いても彼は少し口ごもった後、静かに言った。

「もう、君にもわかってるんじゃないのかい?」

少し考えた後、僕は、これはわかる、わからないの問題じゃない。

理解の問題は問題ですらない。持つか、持たないかのもっと意識の問題がはじめにあって

そして、その意識の問題をクリアしたときに、次のステップが待ってるんだ。

発展的に思考しなければならない、と強めの口調で静かに言った。

「発展的思考か。君らしいね。」と優しく微笑みながら言った。

そんなことない、本気なだけだ。と言った。

「そんなこと言わなくても分かってるさ。

今夜は、発展的に考えよう。君に付き合うよ。

発展的で、ハッピーエンドになる途を探そうよ、2人で。楽しだろ?」

そうかもしれない、と僕は言って2人で酒を飲むことにした。


ロックグラスにはもうウィスキーが入ってなかったから

氷はそのままにウィスキーを足して口に含んだ。


ウィスキーならたくさんある。飲もう、ハッピーエンドは見つからないかもしれないけど、

と僕は彼に言った。

「飲みすぎると、明日つらいよ」と彼は言った。

僕は、関係ない、と言った。

真っ黒な闇が目の前を覆うこと、光の断絶について

僕がいるここには、僕以外何も存在しない。

人も、感情も、ものも、システムも、カレンダーもないし、曜日もない。


ただ、僕ひとり、いるだけだ。


僕がここにいることを知っている人間はいない。

僕が何を想おうと、何を書こうと、全ては闇の中に吸い込まれていく。

何をしても、真っ黒な闇のせいで誰もそれに気付かない。

ここに射し込んでいた光は、日曜日に消えた。

ここで僕は泣いていても、誰も気付かない。誰も相手にはしない。

真っ黒な闇が目の前を覆って、ここから出られない恐怖が僕を襲う。

闇に怯え、孤独を抱え震えながら眠る。


 *


この真の闇に一筋、射し込んで僕を照らした光が失われた。

光が失われただけでなく、彼女自体を失った。

僕にとって最も重要なものが失われ、それによって僕自身も失われた。



* *



渡すことすらできなかった手紙は破り捨てた。



風と雪崩

一体何を書けばいいのだろうか。

どれくらいの時間を書いたり、消したりして時間を過ごしているのか、時間の感覚すら失われてきた。

それは、お酒を飲んでいるからか?いや、これくらいの量の酒では気分はよくなっても

記憶がなくなることはない。

というよりも、どれだけ大量の酒を飲んでも、僕は飲まされても記憶がなくならないタイプだ。

正確に記憶していることと言えば、21時前に家に帰ってきて、缶ビールを1本飲んだ後

ウィスキーを飲みながら、何かを書き始めたということだ。

それから色々なことを考えて、思い出して、たくさんのことを書いた。そして全てを消した。

読み返してみて、これは本当に自分が書きたいことではないような気がして、全てを消した。


文章を書くという作業は(これは、あくまで僕にとって)おそろしいことであるような気がする。

適当な一節を書き出し、その続きを何となく書いて、その続きが”それ”しかなくなった時、

自分の感情以上のものを書いてしまう。書き出すと止まらなくなり、それが自分が書いたものかすら

わからない、ある場合においてはとてもひどいことを書いてしまう。

思っていることと全く逆のことだって書けてしまう。


ほんの少しの風が吹いただけで、世界がまるまる覆われてしまうような雪崩が起きてしまうのと同じだ。

その雪崩被害は、風にとっても予想を超えすぎていたものだから

風は雪崩の被害を見てきっと後悔して、「そんなつもりじゃなかったんだ」と言う。

でも、雪崩の被害に遭った人たちや山は、風を許すことができず、風を恨み続けるようになる。

何年か後に、山の麓に神社が出来て、山の神様に風を黙らさせるように、お爺さんや、そのひ孫までの

村人たち全員で祈りを捧げ、風はあてもなく退屈に西に向かって彷徨う。

そして、「そんなつもりじゃなかったんだ。予想を超えていたんだ」とたまに思う。


また、無意味なことを書いてしまった。


けれど、僕が風でないように、このブログも雪崩ではない。彼女と僕との関係も雪崩被害にはならない。

というよりも、僕は”風”にはなりたくはない。彼女との関係を”雪崩”によって壊したくない。

そう思うから、書き直している。

でも、一体何を、どういう順番で、どう書けばいいのか、今の僕にはわからない。

自分の想いを書きたいだけなのに、うまく書けない。


 *


事実をちゃんと時系列に沿って整理しよう、と思って整理してみたが

事実なんて、どうだっていいと思った。


想いを書きたいだけなのに、書けない。


彼女に手紙を書くことにした。



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