3月2日 | 彼女が結婚したとしても

3月2日

ふいに涙が流れ出し、洗いたてのふわりとしたタオルでその涙を拭いた。

タオルは涙を吸い取りすぐに湿った。

涙は熱く、頬を流れ、これから畳むはずのTシャツに、ぽた、ぽたと音を立てて落ちた。

その音は、夏の夕方の雨の降り出しのようだった。そして、夏の夕立のように激しくなった。

涙は頬をつたわず、目から直接Tシャツへと落ちた。僕は吐くような体勢で泣き続けた。

まだ肌寒い3月1週の日曜の14時過ぎに、東京の25平米のワンルームマンションで

洗濯物を畳みながら、僕は文字通り、号泣した。


一通り泣き終えた後、洗濯物をまた畳み始めた。

鼻水をすすりながら、Tシャツを畳んだり、靴下をセットにして畳んだり、パンツを4分の1に

畳んだりしてすべてが畳み終わったら、それをクローゼットに入れた。まだ鼻水をすすりながら。

ティッシュペーパーで鼻をかんでから、洗面台でもう1回水で鼻をかんで、顔を洗った。

鏡はひどく泣きはらした顔を映し出していた。それはまるで僕の顔じゃないみたいだった。

冷たい水で顔を洗った手は自分の手じゃないみたいに冷たく、それまで泣いたことも

自分の行為じゃないみたいに現実感がなかった。


それでも、頭の中には彼女のことがあった。どうしようもなく現実的に。


現実的に伸びた髪を切るために予約した現実的な美容院に行って短くしてくれ、と頼んだ。

美容師はのんきに、「何かあったんですか?」と聞いてきた。

「お前は何も考えずにただひたすら髪を切れ!」とでも言ってやろうかと思ったがやめて

「いえ、春も近いですから短くしようかな、って思ったくらいですよ」と社交的に言っておいた。

美容師はその返答にいちいち、花粉症がどうだとか、仕事は忙しいのかとか聞いてきた。

2年以上、僕の髪を切ってくれるその美容師は、良くも悪くも会話を楽しもうとする傾向があった。

今日、とても良い気分とは言えなかった僕は会話を適当に、社交的に流しておいた。

髪はすっかり短くなり、また自分じゃないみたいになった。


一通り明日のための仕事を終わらせると、陽は落ちていた。

それは、ウィスキーを飲むことを許可するようなものに感じてグラスに氷をいくつかと

ウィスキーを指2本分注いでリビングテーブルでしばらくそれを眺めてみた。

一口飲んでから、時計を見ると18時少し前だった。

これから2時間ほどプールで泳ぎに行こうかと考えたが、体中のハリを考えてやめておいた。


本を読んだり、テレビを見たり、ウィスキーを飲んだり、何か気を紛らわしながらの週末。

もう慣れたものだ。問題はそれらの行動には慣れても、辛さや嫉妬、苦しみには慣れないことだ。


* * *


ねぇ。



早く会いたいよ。


いろいろ伝えたいことや、話したいことばっかりなんだ。