射し込む光だけ見て
今日、久しぶりに彼女以外の女性と2人で食事をした。
感想を一言で、とインタビュアーから聞かれれば間違いなくこう答える。
「最低、最悪だった」と。
彼女が的外れなことばかり言ってるものだから、いちいち対応せずに
ずっと彼女のことを考えていた。
こう言ったらこういう表情をするんだろうな、こういう風なことを言うのかなと
その女性と食事をしながら、僕はイメージの彼女と食事をした。
2人で向かい合って食事したり、隣に並んで食事したりしてることを考えた。
2人で鍋をしたときのことや、会社のデスクから見る彼女を思い出した。
そうすることで多少は楽しい食事になるのかと思ったが、違っていた。
時間の経過と共に、その女性に段々苛立ち始めた僕は
表情にそれを出し、とても冷たい態度をとった。
食事も美味しくないし、お酒も美味しくなかった。
ひたすらビールを飲み続けた。
これほど楽しくない食事をしたのはいつ以来だろうな、と考えながら
またビールを飲み続けた。
途中から2人の間には沈黙しかなかった。
彼女が、家族が亡くなったという事実をぼそりと言ったのは店を出ようとした時だった。
──凍りついた。自分がした言動に対して振り返って一瞬凍りつき
彼女がなぜそれほど感情的なのか全て納得できた。
辛さ、寂しさを誰にも話すことができず、受け止めて欲しかったらしい。
けど僕は、「申し訳ないけど、それはおれにはできない。
おれは弱い人間だから、人の弱さを真に受け止めることなんてできない。
ただ、聞いて欲しいかっただけかもしれない。でも、それすらできない自分がいる。
君が求める男ではないから、二度とおれを誘わないでくれ。」と言った。
彼女は泣いていた。
僕はその震える肩を抱くこともなく、隣でビールを飲んでいた。
自分は最低の人間だな、と思った。
でも最後の最後まで彼女に優しくすることはしなかった。
嘘をついた。
弱い自分でも、人の弱さを受け止めることが出来る場合がある。
それが彼女なら、真剣にそれを受け止め、彼女を守るよう必死で努めただろう。
*
歩きながら、感情を受け止めて欲しい相手について考えた。
それが僕なら彼女だし、彼女だったら他の男なんだろうな、と考えた。
矢印は、一方通行ばかりで、”⇔”はほとんどないんだろうな、と考えた。
今夜食事をした女性が僕を諦めることについて考えてみた。
僕が可能性を断絶したからだ。
同じように、彼女が僕に振り向く可能性は限りなくゼロに近い。
ここで諦めれば、これ以上傷つくこともないのかもしれない。
確かにそうかもしれない。でも、彼女との未来も完全になくなる。
傷ついたとしても、彼女との未来への可能性を探ろうと、考えた。
ふと、結婚相手はエアコンみたいなものだ、とある先輩が言っていたことを思い出した。
空気は酸素としての側面もあれば、気温という側面もある。
酸素のように必要と思える相手でなければならず
気温のように居心地がいいものでないといけない、ということなんだろう。
そう理解している。
そんな相手にはお目にかかることが出来ない。
やっぱり彼女なんだ。
* * *
おれには、闇の中にいるけれど、射し込む光の筋しか見えない。