イタリア語でフィノッキオ、英語ではフェンネルと言う。
漢字もあって、茴香(ういきょう)と書くそうな。
イタリアにいた時分、マーケットや八百屋などで見かけたものの、一体全体どうやって食べるのかが分からず、買ったことがないままだった。
西洋人の間では、香りをつけるためだけの野菜などという誤解もある。
やはり食べ方を知らないのだ。
確かに、その種は香辛料の一種であり、カレー粉にも入っている。
こちとら種も使うが、その実(球根)が食べたいのだ。
さて、よくよく思い起こしてみれば、イタリア滞在中、お世話になった方々の数は相当数にのぼる。
住まいが、とある侯爵家の家の一部だったこともあって、侯爵夫妻のお住まいに出入りしていた。
公・侯・伯・子・男(こう・こう・はく・し・だん)と言うから、上から2番目ではないか。
と後で気付くが、実に気さくな方々だった。
何の機会だったかを忘れたが、昼食に招かれた時の事である。
イタリアは、忙しいミラノなどは別として、昼食は本格的な食事だ。
夕食も本格的なので、昼食も、と言った方がいいかもしれない。
侯爵は北イタリアの方だったが、侯爵夫人は南でシチリアの出身だ。
大変小柄な女性で、食事が進む中、ウイキョウを小さなサラダボウルに入れて持ってこられた。
その光景を忘れることは出来ない。
今でも脳裏に焼き付いている。
静止画ではない、動画でだ。
実は最初は何なのか分からなかったので、何なのかを訊いた。
それもその筈、当然原型のまま食べる訳もなく、スライスしてあったからだ。
見掛けによらず、たいへん美味な野菜ではないか。
得も言われぬ香りと食感と味なのだ。
イタリアの家庭料理のひとつなのだろう。
イタリアでもレストランでは見かけたことがない。
食べ方は至って簡単。
通常のイタリア式のサラダの如し。
すなわち、塩コショウにワインビネガーとオリーブ油をかけて混ぜるだけ。
無論、他の野菜と混ぜてミックスサラダで食べる事も出来るが、その時は単品だった。
その方がウイキョウの本来のおいしさが楽しめるからだろう。
そういういきさつがあるので、筆者も単品サラダとして食べる事の方が多い。
尚、スライスの仕方だが、繊維に逆らって直角に切る。
一個を食べきれる人数だったら、切ってから洗った方が綺麗にスライス出来るかもしれない。
この時、侯爵夫人は、おいしいウイキョウの選び方も教えてくれた。
ウイキョウにはオスとメスがあり、メスを選べと言う。
オスはやや平べったく、メスは丸い。
イタリア以外では、イタリアで食べる程おいしいウイキョウは、なかなか見つからないのではなかろうか。
自国には♀を全部とっておき、♂ばかり輸出しているのかもしれない。