悲しみよこんにちは
- 「サガンが綴る青春の衝動 」
若き天才女性作家と言われたサガンのデビュー作です。ポール・エリュアールの詩から引用した印象的なタイトルだけでも心を揺さぶられる青春小説の傑作と言えると思います。
大人になろうとする少女の鋭い感性とはかない心情を激しくも繊細に綴ったこの作品はあまりにフランス文学的でありながら、時代も国境も超えて青春の輝きと残酷さを讃えていると思います。
自身の恋に対する飛ぶような感情に身をまかせながら、抑えきれない父の恋人に対する葛藤がせつない結末へと繋がっていく展開は、詩的な文章と相まって、南フランスの穏やかな風景と少女の情熱をありありと映し出します。
サガン本人の死はとてもせつなく悲しい物でしたが、この作品の現す彼女の透明で敏感な感性を思うとそうした死が運命づけられ、相応しいものにすら思えてくる一冊です。
| 難易度 | ★★☆☆☆ |
| インパクト | ★★★★☆ |
| 泣ける度 | ★★★☆☆ |
| 笑える度 | ★★☆☆☆ |
| 怖い度 | ★★☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★★☆☆ |
| 推定読了時間 | 4時間 |
記憶の書
- 「 確かな愛の物語 」
世界ファンタジーノベル大賞を受賞した白い果実
全三部作の内の二作目です。
前回白い果実をめぐって崩壊した理想形態都市から脱出した主人公クレイは、小さな村に避難し静かな生活を営みます。
ところが村人たちが次々と眠りから覚めなくなる病におかされ、クレイは病の治療法を求めて再び廃墟と化した都市に戻ります。そこで同じ病に冒された独裁者ビロウの姿を発見したクレイは、治療法を求めてビロウの記憶の中に潜入します。
崩壊し始める記憶の中、水銀に浮かぶ宮殿でクレイは幻の愛に溺れ、そして絶対的な悪と認めていたビロウの意外な過去に触れながら、現実の世界に引き戻されます。
結末は本書に預けますが、記憶の中で繰り広げられた冒険でありながらクレイは本当の愛の物語に触れたのだと思います。そして最後に登場する緑のヴェールの謎を残し最終巻へとつながっていく流れは前作ほどの奇抜な仕掛けはありませんが透明感は増しており、「記憶の書」という象徴的なタイトルに相応しい一級のファンタジーに仕上がっています。
翻訳は前作の山尾さんに代わって貞奴さんが参加しています。山尾さんのような圧倒的な完成度はありませんが、美しく脆い記憶の世界が十分に表現され、白黒映画を見ているような気分にさせてくれる作品に仕上がっています。
| 難易度 | ★★☆☆☆ |
| インパクト | ★★★☆☆ |
| 泣ける度 | ★★☆☆☆ |
| 笑える度 | ★★☆☆☆ |
| 怖い度 | ★★☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★★☆☆ |
| 推定読了時間 | 5時間 |
ミーナの行進
「ミーナの行進と共に、やさしさと郷愁がふりそそぐ」
2006年の小川洋子さんの作品ですが、これほど完璧にそれでいて控え目にやさしさと郷愁を歌い上げた作者の想像力と大胆さに素直に感動させられた作品です。
病弱ながら裕福な家に生まれ、暖かい人々に見守られて育ったいとこのミーナと、その家に一年間だけあずけられた主人公の日々が淡々と綴られます。センセーショナルな事件も大恋愛もありませんが、宝箱の中にそっとしまわれていたかのような物語は、無条件に心に清涼感を与えてくれます。
二人が共に過ごした日々は、懐かしいお菓子と本と動物たちに囲まれ、家族は誰一人欠けることなく、永遠に続くかのような幸せのマーチが鳴り響いているようです。
読めばきっと、幼いころの懐かしい人に会ったような気持ちになれると思います。
| 難易度 | ★★☆☆☆ |
| インパクト | ★★★☆☆ |
| 泣ける度 | ★★★☆☆ |
| 笑える度 | ★★☆☆☆ |
| 怖い度 | ★☆☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★★☆☆ |
| 推定読了時間 | 4時間 |
ジョーカー・ゲーム
「極限状態だけが、生きている事を実感させる」
日本は太平洋戦争において物質的にも戦略的にも政治的駆け引きにおいてもあらゆる面で完敗だったわけですが、そのような状況下で孤高の活躍を見せた少数部隊がいたという設定は創作者の意欲と読者の好奇心を刺激し、過去にも多くの作品が生み出されてきました。
この小説もそうした作品の一つですが、特筆すべきは日本のスパイ活動を格子に据えているところです。実際戦時中の日本はゾルゲ事件に代表されるように、スパイ活動は貧弱で暗号も筒抜けという状態でしたがそうした領域に狙いをつけて、かっこいい小説にしたてあげた作者の選球眼は愁眉と言えると思います。
太平洋戦争中に存在した秘密諜報機関「D機関」とそこに属する選び抜かれ、鍛え上げられたエリートスパイ。そして機関を創設した神と呼ばれる中佐。これだけでミステリーファンの心を動かすには十分ですが設定に負けない何かが迫ってくるような緊迫感と早い展開、そして一切の無駄な描写を除いてスパイ活動のみに注力した潔さが、エンターテイメントとしての完成度を高いレベルに押し上げています。
そして小説の最大の見どころはマシーンと化すことを自らに義務づけたスパイ達の死線を楽しむような生き様です。平穏を唾棄し、極限状態こそ生きる場所と定め、中佐の命令に絶対に服従する。そうする事だけが生を実感させるというスパイ達はリアリティのある闇のサイレント・ヒーローとして、なにか颯爽とした印象すら与えます。謎解きの意外性はあまりありませんが、アクションとして読めば間違いなく一級品です。
既に続編がでていますので、そちらも今後紹介したいと思います。
| 難易度 | ★★☆☆☆ |
| インパクト | ★★★☆☆ |
| 泣ける度 | ★☆☆☆☆ |
| 笑える度 | ★☆☆☆☆ |
| 怖い度 | ★★☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★☆☆☆ |
| 推定読了時間 | 4時間 |
ウォール街のランダム・ウォーカー
「賢者の知恵は言う、欲深きものは滅びると」
金融市場というのは不思議なもので、人間が作ったにも関わらず完全にコントロールする事ができません。古くはチューリップバブルから最近のサブプライムローンまで、市場が無限に拡大するという錯覚から奈落に突き落とされるという事態が歴史上何度も繰り返されています。
世界中の投資銀行は、多くの優秀な頭脳と膨大なお金をかけて、市場を、リスクをコントールしようと努力してきましたが、それは悉く跳ね返されてきました。つまり金融市場をコントロールできないということは、人の欲望を完全にコントロールする術を人は持たないということなのかもしれません。
今回紹介するのは、そうした市場に立ち向かうための賢者の知恵と言える一冊です。著者は市場効率化仮説に基づき、インデックスファンドに対するパッシブ運用こそが市場に勝つ唯一の方法だと説きます。そして短期的に売買を繰り返す”ランダム・ウォーカー”は一定期間勝利を得る可能性はあるが、長期的に勝ち続ける事はできないと喝破します。
恐らくこの本は正しいのでしょう。では何故世界中の多くの人はわかっていながらそうしないのでしょうか? そこには「自分だけは違う」という根拠の無い楽観が働いたり、長期投資は退屈なため短期の”ゲーム”を楽しみたいという人の業があるように思います。
最近低迷してきた市場がまた動き始めました。なりを潜めていた”ランダム・ウォーカー”達がまた市場に吸い込まれていく姿が見えるようです。
| 難易度 | ★★★☆☆ |
| インパクト | ★★☆☆☆ |
| 泣ける度 | ★☆☆☆☆ |
| 笑える度 | ★☆☆☆☆ |
| 怖い度 | ★☆☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★★★☆ |
| 推定読了時間 | 5時間 |
生命とは何か
「知の冒険」
本書は波動方程式や猫のパラドックスで有名な天才物理学者エルヴィン・シュレーディンガーの公演をまとめた知の結晶です。
物理学が生命活動について何も述べていないことに疑問をもったシュレーディンガーは、その超絶的な知能をもって、生命のエントロピー活動の根源が量子力学に結びつくのでは、という仮説を展開します。 量子はエネルギー状態も運動法則も我々が目で見、生きている世界と趣を異にします。ですが人に限らず全ての生命体は結局量子の集まりで出来ているわけです。これは世界最大級のミステリーの一つです。
このミステリーに心を動かされた偉大なる天才は、物理法則に逆らいながら種を保とうとする生命という存在が結局は物理法則によって説明可能である(はずだ)という卓越した洞察力・想像力を披露します。まるで将来のDNA螺旋構造の発見や分子生物学の勃興を予言していたかのようです。
1944年に出版された本ですが、科学を志す人のみならず、知の冒険を楽しみたいと思う人は是非一度読むべき一冊だと思います。
| 難易度 | ★★★★★ |
| インパクト | ★★★☆☆ |
| 泣ける度 | ★☆☆☆☆ |
| 笑える度 | ★☆☆☆☆ |
| 怖い度 | ★☆☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★★★☆ |
| 推定読了時間 | 8時間 |
チャイルド44
「全体主義。それは小説にとって最高の素材」
全体主義社会というのは、はたで見ている分には非常に興味深いものです。そこでは簡単に黒は白になり、白は黒になります。そしてその世界に盲目的に軍隊的に順応できる者にとっては、このディストピアはまさにユートピアと化します。
この小説はそうした全体主義社会の極致とも言えるスターリン時代の旧ソ連を舞台にしたミステリーですが、当時の人々の暗澹たる生活や感情を見事に描き切っており、ミステリーを超えた文学的格調さえ感じさせ、様々な賞を受賞した事に素直に納得させられます。
体制に従順に行動し、出世街道を行く主人公は、身内の裏切りで左遷されます。そして左遷先のとある事件をきっかけに彼は人間性を取り戻し、体制に逆らいながら事件の解決に奔走します。そして自らの生い立ちの闇に迫る結末へと向かっていきますが、重厚ながらスピード感を保ちつつ、一瞬たりとも飽きさせないその構成力にはただただ脱帽です。
若干29歳のイギリス人が書いた作品ですが、若き天才作家の出現と呼ぶにふさわしい作品です。
| 難易度 | ★★☆☆☆ |
| インパクト | ★★★★☆ |
| 泣ける度 | ★★★☆☆ |
| 笑える度 | ★☆☆☆☆ |
| 怖い度 | ★★★☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★☆☆☆ |
| 推定読了時間 | 4時間(上巻) |
ゴールデンスランバー
「スピード感とオチを楽しませる伊坂作品の集大成」
ゴールデンスランバーも映画化されるようです。
少し前は東野さんの作品がよくドラマや映画化されていましたが最近は明らかにメディア的には伊坂時代がやってきているように思えます。
好き嫌いはあると思いますが、爽快感でいうと明らかに伊坂作品>東野作品なのと、舞台や複線、コマ送りのような構成が映像に向いているのかもしれません。
この作品は首相暗殺事件に巻き込まれた主人公が周囲の人の助けを借りながら逃げるというあらすじですが、氏の特徴であるスピード感、複線の妙、ほんのり暖かいオチをこれでもかと楽しめる、まさに伊坂作品の集大成と言える作品です。
ミステリーのようであり、大人の青春アクションのようでもある、軽く活字が欲しくなった時には最高のお供になる作品です。
| 難易度 | ★★☆☆☆ |
| インパクト | ★★★☆☆ |
| 泣ける度 | ★★★☆☆ |
| 笑える度 | ★☆☆☆☆ |
| 怖い度 | ★★☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★☆☆☆☆ |
| 推定読了時間 | 3時間 |
Blue 中村佑介
「そっと秘密を打ち明けられたような気持ちにさせられる画集」
イラストレーター中村佑介氏の初の画集です。
私が始めて彼の絵に触れたのは、夜は短し歩けよ乙女 の表紙絵ですがポップでカラフルながら、どこかノスタルジックな絵にとても心を惹かれました。
Webでいろいろと調べていくと、アジカンのジャケット絵や他の小説の表紙絵も手がけている人気クリエイターである事が判明したのですが、作品はCDや本以外ではWebでポストカードなどが買える程度で、まとまった作品集が無く残念に思っていました。
そんな折に今回の画集が発売されるということで、さっそく購入して楽しんでみました。ペンなのか、筆なのか、CGなのか、写真のようにも見える独特なタッチの氏の作品の殆どがこれ一冊で堪能できます。
そして最大の魅力はやはりほぼ必ず描かれている少女の絵です。物憂げで何かを見透かしたような彼女達から、そっと秘密を打ち明けられているようなそんな気持ちにさせられます。
時折開いて不思議な清涼感を楽しみたいと思います。
| 難易度 | ★☆☆☆☆ |
| インパクト | ★★★★☆ |
| 泣ける度 | ★★☆☆☆ |
| 笑える度 | ★☆☆☆☆ |
| 怖い度 | ★☆☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★★★☆ |
| 推定読了時間 | 1時間 |
GANTS
- GANTZ 1 (ヤングジャンプコミックス)/奥 浩哉
- 「 圧倒的なドライブ感。ただ戦闘シーンを楽しむべし」
GANTZが今度実写映画化されるそうです。あの世界観を実写でどう表現するのか、相当お金をかけないと原作にまったく付いていけずという事になりそうです。製作者のお手並み拝見というところでしょうか。
初めてこの漫画をヤングジャンプで読んだとき、その絵の緻密さ、設定の異様さ、ドライブ感(そしてネギ星人)に圧倒された事を今でも思い出します。
突然見知らぬ世界に放り込まれて戦闘を強要されるという設定はそれほど珍しいものではありませんがRPGのようにポイント制で強化される武器や、一度死んでも生き返らせる方法があるというGANTZ世界のルールは登場する敵達の斬新さと相まって過去に類のない異様な輝きを放っています。
恋愛模様や人間関係描写もありますが、私からするとそれらはまったく冗長で、ただ戦闘シーンを、彼らがどう生き残るかを楽しむべき作品だと思います。
それにしても岡八郎には生きていて欲しかった。。
| 難易度 | ★★☆☆☆ |
| インパクト | ★★★★☆ |
| 泣ける度 | ★★☆☆☆ |
| 笑える度 | ★★☆☆☆ |
| 怖い度 | ★★★☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★☆☆☆☆ |
| 推定読了時間 | 1時間(一巻) |








