へうげもの
- へうげもの(10) (モーニング KC)/山田 芳裕
- 「 遊びの天下人、安土桃山を疾走する」
へうげものが手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞ということで、記念に紹介したいと思います。
- 主人公の古田織部は、大河ドラマや時代劇ではあまりなじみの無い人物ですが、利休の後に茶道筆頭となり、織部焼をはじめとして当時の文芸を先導した遊びの天下人と呼べる傑物です。
- この作品は織部を中心に戦国を生き抜いた武将・芸術家・商人達を、全て「数寄」の視点から描いています。戦や政治もありますがそれは脇役で、あくまで茶の湯や焼き物といった文芸を軸に物語が展開していく意欲作です。コミカルで大げさな絵柄が、欲望だけでなく苦悩や悲しみといったマイナス面も表情豊かに現しており物語に味わいを与えています。
- 安土桃山という時代は戦国時代の延長ですので、相変わらず生き死にの駆け引き、戦の匂いが絶えない危険な時代なのですが、楽市楽座によって生まれた豪商達の財力、南蛮貿易によるヨーロッパ文化、日明貿易や朝鮮出兵によって流れ込んだ唐物・朝鮮の職人達といった物と人が渾然一体となって、短期間に豪華絢爛な文化が花開いた稀有な時代です。太く、濃く、短い人生を派手に彩ろうとする人々たちの欲望が昇華し、建築、絵画、茶の湯、陶芸、歌舞伎や浄瑠璃といった幅広い分野で日本独自の文化が花開きました。
- そんな花火大会のような時代の中で、ひたすら独欲を追求し、また頑固に豊臣を支持して切腹することになった古田織部という人物は、政治に深く入り込み、暗い印象もつきまとった利休とは対照的に常に陽のエネルギーに満ちていて、読みながらテンションが上がっていきます。
- モーニングで隔週連載ですが、物語も後半戦に入ってきています。豊臣の滅亡と共にどのように織部が数寄を貫き最後を迎えるのか、作者の仕上げ方が今から楽しみでなりません。
難易度 ★★☆☆☆ インパクト ★★★★☆ 泣ける度 ★★☆☆☆ 笑える度 ★★★☆☆ 怖い度 ★★☆☆☆ 考えさせられる度 ★★☆☆☆ 推定読了時間 1時間(一巻)
麻雀放浪紀
- 麻雀放浪記(一) 青春編 (角川文庫)/阿佐田 哲也
- 「 悪漢小説の代名詞。人生にリーチをかけ続ける男達」
昨日人生で初めて飛びました。
私がやっている麻雀は赤ドラ、割れ目、オープンリーチ倍、ワンツー、デカピンなので南入する事が殆ど無く、誰かが東三くらいで飛んでダメージ大という所謂「目頭が熱くなる」ルールなのですが、堅い打ちまわしなので飛んだ事がありませんでした。ですが勢いドラ麻雀を防ぐ事ができずあえなく撃沈です。
ということで初飛びを記念して麻雀物を何か一つと思い、やはりバイブルといえるこの作品を紹介する事にしました。
登場人物の個性と人間模様、イカサマ技のカタルシス、印象的な数々の台詞が昭和の雑多な雰囲気と渾然となった所謂ピカレスク(悪漢小説)の傑作です。阿佐田さんは狂人日記や離婚のような純文学の大家でもありますが、私にとってはやはりこの作品がMUSTです。
役満上がると死ぬとか、二の二の天和とか、負けたら裸になるとか、強烈なインパクトの連続であり、読み始めると止めることができません。映画化もされていますが、風間杜夫や加賀まりこといった芸能界屈指の雀士が迫真の演技を見せており、こちらも名作です。
私はギャンブルは麻雀以外にしません。バカラやブラックジャックはルールが単純すぎ、運や心理の要素が強すぎますし競馬や競艇は予想しかできず、自ら何も行使できないところが自分の趣向に合わないためです。その点、麻雀は運と実力のバランスが良く、ルールも複雑で、長時間密度濃く楽しめるため他人の性格まで露になり、飽きること無く適度な刺激を得続ける事ができます。
この作品の登場人物のように麻雀に人生を投影して全てを突っ込むことはできませんが、ある種生き様を見せることができるこのゲームを止めることはできそうもありません。
| 難易度 | ★★☆☆☆ |
| インパクト | ★★★★☆ |
| 泣ける度 | ★★☆☆☆ |
| 笑える度 | ★★☆☆☆ |
| 怖い度 | ★★☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★★☆☆ |
| 推定読了時間 | 4時間 |
竜馬がゆく
- 「 人生を楽しむということ」
第100回目位の竜馬ブームがやってきたようです。
日本人はよほどこの人物が好きなようで、設定や登場人物をアレンジしながら、何度となく様々なメディアで取り上げられてきました。
そこで竜馬物で何か一冊ということで、定番ですが司馬さんの竜馬がゆくを載せたいと思います。
この作品でも司馬さんは史実をベースに淡々と語りながらも、何故かドラマティックに行間を読ませてくれます。そして時代の閉塞感を打ち破る象徴としてある種ステレオタイプに受け止められがちな竜馬という人物を、何か人生を大いに楽しんだ一人の快男児として颯爽と描いています。
司馬さんは明治時代の狂信者ですが、制度やシステムではなく、その時代をひたむきに熱意を持って走り抜けた人々に憧憬の眼差しで焦点を当てています。そしてその人物を決して判断する事無く、いつも静かに物語を終え、読者に後を委ねます。この作品でもそのスタイルは貫かれているようです。(ただ司馬さんは結構大物しか相手にしないところが藤沢周平と違うところでありますが)。
様々な竜馬伝がありますが、竜馬の人生をたどる基本書として一度読んでみるのが良いかと思います。
| 難易度 | ★★☆☆☆ |
| インパクト | ★★★☆☆ |
| 泣ける度 | ★★☆☆☆ |
| 笑える度 | ★★☆☆☆ |
| 怖い度 | ★★☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★★☆☆ |
| 推定読了時間 | 5時間(一巻) |
昆虫探偵ヨシダヨシミ
今日発売の週刊モーニングで、昆虫探偵ヨシダヨシミが哀川翔兄貴主演で映画化されることを知りました。
| 難易度 | ★★☆☆☆ |
| インパクト | ★★★★☆ |
| 泣ける度 | ★☆☆☆☆ |
| 笑える度 | ★★★★☆ |
| 怖い度 | ★☆☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★☆☆☆☆ |
| 推定読了時間 | 1時間(一巻) |
LIAR GAME
ライアーゲームが面白いです。
ゲームというのは確率という定量的な側面と、心理という定性的な側面が振り子のように揺れ動きながら勝敗に結実していきますが、そこが何か人生の縮図のようであり、人を引き付け時には破滅させます。この作品でも両者のバランスをうまくとりながら最終的には大逆転に繋がっていく「王道」を見せてくれます。
それにしても人を騙すのは良くない事と言われながら、騙すことにこれほど快感を感じてしまうのは人の業なのでしょうか。「騙されるより騙すほうがつらいんだよ」と嘯いた詐欺師の台詞を何故か思い出してしまいました。
| 難易度 | ★★☆☆☆ |
| インパクト | ★★★★☆ |
| 泣ける度 | ★★☆☆☆ |
| 笑える度 | ★★☆☆☆ |
| 怖い度 | ★★☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★★☆☆ |
| 推定読了時間 | 1時間(一巻) |
語り手の事情
「性的嗜好の語り方」
この小説はビクトリア朝を舞台に、男にも女にもなれる語り手が、様々な性的嗜好を持つ人々との関わりを語っていくという一見変わった小説です。
酒見さんは中国物の第一人者ですが、性描写についても”密かに”こだわりをもっていると私は感じていました。後宮小説や陋巷に在りでも、控えめながらもそうした表現を用いて物語に雰囲気を出すことを試みてきたと思います。
一方、日本は性的多様性については恐らく世界一豊富なのだと思いますし、それを語ることはかなりオープンになってきました。ですが、結局のところそれはあまりに個人的な嗜好であり、頭では理解しても万人が分かり合うことは不可能な領域なのかと思います。また人の根源的な部分に触れることから、声高に主張すればその人の他の個性は全てさて置かれ、全て性的嗜好で認識されてしまいかねないという危険がつきまとうものです。
そこでこの小説は語り手という存在を置くことによって、単なる一人称とは違う客観性を持たせると共に表現が難しい性的内容についてもさりげなさを出すことを試みています。いわゆる実験小説です。
性的表現をやりたかったのか、実験をしたかったのか、いずれが第一位だったのかは不明ですし試みが成功したかどうかは微妙なところですが、こうした挑戦的な意欲を持った作品が少なくなってきた中でとても貴重な作品であり、また一つの小説としてみても何故か語り手に感情移入してしまうという不思議な世界に引き込んでくれる大変興味深い作品です。
| 難易度 | ★★☆☆☆ |
| インパクト | ★★★☆☆ |
| 泣ける度 | ★★☆☆☆ |
| 笑える度 | ★★★☆☆ |
| 怖い度 | ★★☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★☆☆☆ |
| 推定読了時間 | 4時間 |
スモールワールド・ネットワーク
世界中の任意の誰とでも6回知人をたどれば辿り着く、という有名な仮説(都市伝説?)があります。40年ほど前にミルグラムという社会学者が提唱してから、最近Microsoftの研究員によってインスタントメッセージを使った実証実験が行われるなど(結果は平均6.6人だったそうです)、古くて新しい設問として人々の好奇心を惹きつけ続けてきました。
人類は皆兄弟とか、友達の友達は皆友達といった有名な言葉もあるように、世界は無関係のようでいて何かしらの有意性をもって繋がっているのでは?ということを(ある程度)科学的に検証しようとする試みをネットワーク科学と呼びます。この本はそのネットワーク科学の基本を理解するための入門書といえる一冊です。
先ほどの”6次の法則”やハリウッド俳優は何人たどるとケビン・ベーコンに辿り着くかというベーコン指数のような冗談めいたものはさておき、送電線故障の伝播、金融危機の波及、SNSなど現実の社会はまさにネットワークによって形作られている事は間違いありません。ですが本書を読むと、そうした世界がそのタイトル通り、意外と小さな近いつながりによって成り立っているということを理解する事ができます。
ただ本書でも述べられているように、社会ネットワークはあまりに複雑で多様であるため、その全てをモデル化する事は永遠に不可能かもしれません。ですが”世界の繋がり”という身近で不思議な問題を科学のアプローチで触れる事は非常に有意義だと思います。
数学や情報科学の知識がないと若干難しい内容もありますが、ネット社会に生きる我々現代人には目を通してみる価値はあると思います。
| 難易度 | ★★★★☆ |
| インパクト | ★★★☆☆ |
| 泣ける度 | ★☆☆☆☆ |
| 笑える度 | ★☆☆☆☆ |
| 怖い度 | ★☆☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★★★☆ |
| 推定読了時間 | 6時間 |
ライ麦畑でつかまえて
- 「反抗する魂の結晶 」
反抗期のアイコン、我らがホールデン少年の心の叫びを綴る青春小説のバイブルといえる一冊です。50年代に書かれた小説でありながら今なお読み継がれているのは青年の葛藤と自意識を不変的に表現しているからと言えるでしょう。
ニューヨークをさまようホールデンの大人に対する不信感と自身の無力さに対する焦燥は、発禁処分になるほどのスラングで彩られながら、なぜか気品すら感じてしまいます。自意識が芽生え、世の中が見えてくるようになれば、誰もが多かれ少なかれ一度は感じるであろう反抗性はこの小説の中で見事に結晶となっており、世界中の若者の心を強烈に揺さぶった事が当然の事として納得できます。
すっかり大人になった今読んでみても、こうした脆くも鋭利な感情が鈍った心を少し研ぎ澄ましてくれるような気分になれる作品です。
今回は名訳と呼ばれている野崎訳と村上春樹訳を載せてみました。賛否・好き嫌いは分かれますが、読み比べてみるとそれぞれ違ったホールデンに出会えると思います。
| 難易度 | ★★☆☆☆ |
| インパクト | ★★★★☆ |
| 泣ける度 | ★★★☆☆ |
| 笑える度 | ★★★☆☆ |
| 怖い度 | ★☆☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★★★☆ |
| 推定読了時間 | 5時間 |
キャプテン
- 「努力こそがドラマを生む 」
バンクーバー五輪が閉幕しましたが、こうした大きなスポーツイベントが終わるとなぜか思い出してしまうのが、この作品です。 古典の部類に入りますが、文庫版の後書きで酒見賢一氏が「努力を描ききった傑作」と贈ったように、ただひたむきに、ひたすら練習し続ける平凡な少年達の姿が強烈に心に響く野球漫画の傑作です。
この作品には今時の漫画のようなヒーローも、美少女も登場しません。根拠の無い万能感も、もちろん恋愛もありません。坊主頭の少年達が練習する姿が坦々と描かれ、試合よりも練習しているコマが多いのではと思えるほどひたすら徹底的に努力を描きます。
そして試合では通常勝てるはずの無いような強豪校を相手に、ねばり、食らいつき、全てのメンバーが犠牲の精神を発揮して奇跡を起こし、そして時に敗れます。ですが勝った姿も負けた涙も私達に同じ感動を与え、心からのエールを送る気持ちにさせてくれます。
オリンピックに出る選手立ちは、華やかで、才能もあり、墨谷二中のメンバー達とはまったく異なる境遇だったかもしれません。ただどちらも私達が遊んでいる時間に、ただひたすら同じ事に打ち込み、そして多くの競争に打ち勝って大舞台まで上りつめる姿に違いはありません。そして結果敗れる事もありますが、積み上げた努力の上でやり切ったその姿はいつも清々しいものです。
努力や根性は古臭いものかもしれません。また結果は大切かもしれません。ですが人を成長させ、他人に勇気を与える方法が何なのかを、この作品は教えてくれているように思います。
| 難易度 | ★★☆☆☆ |
| インパクト | ★★★★☆ |
| 泣ける度 | ★★★★☆ |
| 笑える度 | ★★☆☆☆ |
| 怖い度 | ★☆☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★★★☆ |
| 推定読了時間 | 1時間(一巻) |
秘密結社‐世界を動かす「闇の力」
- 秘密結社―世界を動かす「闇の権力」 (中公新書ラクレ)/桐生 操
- 「秘密は人に力を与える 」
人というのはクラスメート同士の秘密から、政治的な陰謀まで、大小関わらず秘密というものが大好物なようです。知りたいという好奇心、知らないことによる不安や恐怖、そうした感情の動きから逃れられないのが人の性なのでしょうか。
そうした秘密を共有し、結束して行動する集団の中で社会に影響を及ぼすような力を持つにいたった集団を秘密結社と呼びますが、この本は真偽確かざるものから現存するものまで、世界の代表的な秘密結社を俯瞰できる入門書といえる一冊です。
フリーメーソンやテンプル騎士団のような有名どころから、悪魔協会のような怪しげなものまでその生い立ちや関連したとされる歴史的事件などを簡単に整理してあり、雑学として秘密結社の基礎知識を得るには非常に手軽な内容になっています。
彼らが本当に存在し、実際に政治や経済に影響を及ぼしているのかは知る由もありませんが、怪しげな儀式、鋼鉄の掟、強力な財力など、 彼らを彩る要素は小説、映画、ゲームなどあらゆるジャンルに登場しますので、知っているとそうしたエンターテイメントをより一層楽しめるようになると思います
| 難易度 | ★★☆☆☆ |
| インパクト | ★★★☆☆ |
| 泣ける度 | ★☆☆☆☆ |
| 笑える度 | ★★☆☆☆ |
| 怖い度 | ★★★☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★☆☆☆ |
| 推定読了時間 | 5時間 |






