退職あいさつ編~義父激怒の章⑭~義父に「神秘体験したから会社を辞める」と話した結果
義父からすれば、僕は「完全にアウトな人」だろう。愛娘(まなむすめ)と2人の孫は、そんなアブナイ人に人質(ひとじち)にとられているようなもの。「神秘体験したから会社を辞める」という僕のバクダン発言に、身がよじれる思いをしたに違いない。義母の制止を振り切って、ふたたび立ち上がる義父の勢いに、僕は縮こまった。妻がそんな二人の間に割って入り、落ち着いた声で話し始めた。「家族みんなで四国に星をみにいったの。とても神秘的な星空だったわ。そんな夜空の下で旦那は仕事一色だった人生を振り返り、『本当にやりたいことで身を立てるべき』って悟ったそう。私もそれを応援したいと思う」退職のあいさつを終えた帰り道、星空の話で機転をきかせた妻が「貸しだからね」と僕の肩を小突いた。たしかに妻に救われたのだが、僕が思うに、義父は彼女の言葉をうのみにして振り上げたこぶしを引っ込めたわけではない。じいじが怒りを収めたのはいつのまにか大人になり、妻になり、母になった愛娘(まなむすめ)の言葉を「大きな覚悟」として受け止めたからだ。結婚式のときに、じいじが僕に託した「重いバトン」はいま、妻の手にわたっている。かくして、ざんねんなパパに成り下がり、問題だらけの育児に専念する僕だが、「大黒柱のポジション」をあきらめたわけではない。そのあたりの話題はまた別の連載で紹介するとして、退職あいさつ編はここでひとまず完結させたい。40代退職 ささやかな日常ときどき不思議な話~退職あいさつ編~完最後までお読みいただき、ありがとうございました。次回の連載は「不思議体験編」を予定していますが、しばらく「日記」や「雑記」のたぐいを執筆してまいります。今後ともよろしくお願いいたします。\検索不要で更新記事がすぐ読めます/連載の第一話はこちら⇒第一話(28話さかのぼります)