その瞬間はスローモーションで、

いまでも鮮明に覚えている。

 

 

 

爆笑する先輩が真顔に変わった次の瞬間

鼻からうどん

つるりと飛び出した。

 

昼下がりの午後――。

 

我に返った先輩はトイレに駆け込み

鼻から出たうどんを自力で抜いて戻ってきた。

 

 

 

店を出て「そんなつもりじゃなかった」と

涙目で許しをこう僕に、

「鼻からうどんが出ると、痛いんだね」とはにかむ先輩は

どこまでもやさしく、

何よりかっこよかった。

 

ひるがえって、

義父の前でパニックになった

僕がさらした醜態(しゅうたい)は

そんなさわやかなものではなかった。

 

 

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