義父からすれば、
僕は「完全にアウトな人」だろう。
愛娘(まなむすめ)と2人の孫は、
そんなアブナイ人に人質(ひとじち)に
とられているようなもの。
「神秘体験したから会社を辞める」
という僕のバクダン発言に、
身がよじれる思いをしたに違いない。
義母の制止を振り切って、
ふたたび立ち上がる義父の勢いに、
僕は縮こまった。
妻がそんな二人の間に割って入り、
落ち着いた声で話し始めた。
「家族みんなで四国に星をみにいったの。
とても神秘的な星空だったわ。
そんな夜空の下で旦那は
仕事一色だった人生を振り返り、
『本当にやりたいことで身を立てるべき』
って悟ったそう。
私もそれを応援したいと思う」
退職のあいさつを終えた帰り道、
星空の話で機転をきかせた妻が
「貸しだからね」と僕の肩を小突いた。
たしかに妻に救われたのだが、
僕が思うに、
義父は彼女の言葉をうのみにして
振り上げたこぶしを引っ込めたわけではない。
じいじが怒りを収めたのは
いつのまにか大人になり、
妻になり、
母になった愛娘(まなむすめ)の言葉を
「大きな覚悟」として受け止めたからだ。
結婚式のときに、
じいじが僕に託した「重いバトン」はいま、
妻の手にわたっている。
かくして、
ざんねんなパパに成り下がり、
問題だらけの育児に専念する僕だが、
「大黒柱のポジション」を
あきらめたわけではない。
そのあたりの話題は
また別の連載で紹介するとして、
退職あいさつ編はここでひとまず完結させたい。
40代退職 ささやかな日常ときどき不思議な話
~退職あいさつ編~完
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⇒ 第一話(28話さかのぼります)