10年代 演奏会ベスト8 -オーケストラ,オペラ,ピアノ- | れぽれろのブログ

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2010年代のマイベストを決めようシリーズ。

少し前に美術展のベスト10を、古典美術・現代美術それぞれについてまとめた記事を書きました。今回はクラシック音楽編。
自分は2010年の初めから現時点までで、全部で113のクラシックの演奏会にでかけました。大まかな内訳は、管弦楽(オーケストラ)の演奏会が59回、オペラが30回、室内楽・独奏(ピアノ・ヴァイオリン)が24回。

今回はこの中からとくに思い出深い演奏会を選び、マイベスト8を決めたいと思います。内訳は、国内オケから2つ、オペラから2つ、ピアノから2つ、海外オケから2つ、の順番にそれぞれまとめます。合わせて、当時のブログ記事のリンクも張っておきます。
2011年以前に鑑賞した演奏会は記事がありませんが、関連する記事があるものはそのリンクも記載します。

ご興味のある方はお読みください。



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まずは国内のオーケストラ曲から2つの演奏会をチョイスします。
いずれも近年の日本の音楽を考える上で重要な演奏会であったと感じます。


・佐村河内守 交響曲第一番"HIROSHIMA"

会場:京都コンサートホール
鑑賞日:2010年8月14日
楽曲:交響曲1番(佐村河内守 作曲)
演奏:秋山和慶、京都市交響楽団
関連記事リンク
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-11767354492.html
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12259759071.html

佐村河内守作曲、交響曲第1番全曲の世界初演。はっきり言ってこの10年の中ではこれが1位でいいのではないか、と思うくらい自分の中では重要な演奏会です。
当時は内容もあまり調べず気軽に聴きに行きましたが、2014年に作曲者のゴーストライター問題と詐病疑惑が発覚し、2016年に森達也監督によるドキュメンタリー映画が撮られ、後々これほど意味を持つ演奏会になるとは、2010年当時は思いもよりませんでした。
詳細は上記の関連記事に散々書いたので省略しますが、演奏会のポイントだけ書いておくと、会場内は反核的・人権啓発的なただならぬ雰囲気が漂い、佐村河内氏が左派団体に祭り上げられている感じが非常に強い。それでいて楽曲と演奏は後期ロマン派風で迫力のある楽しいもので、聴きごたえは十分。
昨今は信時潔「海道東征」を演奏する右派向けビジネスの演奏会が横行していますが、9年前はその左派版があったと考えると、この10年の日本社会の振れ幅を考えることもできます。
日本社会に根付いた西洋由来のクラシック音楽の一つの帰結として、非常に重要な演奏会であったと感じます。


・作曲家 西村朗 ~光と影の響像 1970-2013~

会場:いずみホール
鑑賞日:2013年2月2日
楽曲:オーケストラのための「耿」
   室内交響曲第3番 「メタモルフォーシス」
   クラリネットと弦楽のための協奏曲 「第一のバルド」 
   室内交響曲第4番 「沈黙の声」
   (いずれも西村朗作曲)
演奏:飯森範親、カール・ライスター、いずみシンフォニエッタ大阪
記事リンク
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-11462457254.html

とくに最近自分は文化のローカル性(地域性)とユニバーサル性(普遍性)ということをよく考えます。文化はユニバーサルに受け入れられやすいものと、ローカルな文脈を参照しないと受け入れられにくいものがある。また、ユニバーサルな文化であっても、文化が伝搬した際にローカルの文脈で変容する、ということもよくあります。
アジアでクラシック音楽を作曲し演奏することを突き詰めるとどうなるか、その一つの帰結が西村朗の音楽であるように思います。
旋律より響きが重視され、ときに過剰なリズムが現れる、音数や音色がくるくる変わり、ポルタメントが多用され、これが身体に非常に心地よい。西洋由来の楽器を使用しながら民俗的なイメージを表現する楽曲は、ユニバーサルがローカルに溶け込むような音楽です。
洋画家の梅原龍三郎や安井曾太郎は「日本で洋画を描くということはどういうことか」を突き詰めた画家たちだと思いますが、同じように、「日本で洋楽を作曲するということはどういうことか」という問題意識を最も感じたのが、ここ10年で自分が聴いた中では西村朗の演奏会であったと感じます。



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続いて海外オペラから2つをチョイス。
いずれも演奏や音楽が楽しいものでしたが、現代社会を考える上でもたいへん面白いと感じる演出でした。


・スイス・バーゼル歌劇場 歌劇「フィガロの結婚」

会場:びわ湖ホール
鑑賞日:2013年6月30日
楽曲:モーツァルト「フィガロの結婚」
演奏:ジュリアーノ・ベッタ、スイス・バーゼル歌劇場
記事リンク
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-11564726969.html

自分は「フィガロの結婚」が好きで、この10年で5回も鑑賞しています。
その中で最も面白かったのがこのスイス・バーゼル歌劇場の来日公演。
モーツァルトのオペラと言えばテーマは何といっても恋愛と性愛。この公演での演出は、昨今の性愛フリー・ジェンダーフリーの傾向を反映してか、乱交とスワップの嵐、そこかしこに性愛的なコードが読み取れる、何とも自由なオペラになっていました。
モダンな演出で舞台はおしゃれですが、登場人物の性向は前近代的な貴族や民衆のそれ。しかしときにいくぶん病的な雰囲気を受ける(サボテンと紙飛行機によってコード化される)のが現代的で、これも本演出の面白かったところ。
演奏はピリオド風でサクサク進みますが、独唱ではたっぷりと歌手が歌い込むのも面白かったです。


・英国ロイヤル・オペラ 「ドン・ジョヴァンニ」

会場:兵庫県立芸術文化センター
鑑賞日:2015年9月23日
楽曲:モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」
演奏:アントニオ・パッパーノ、英国ロイヤル・オペラ
記事リンク
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12076763481.html

続いてもモーツァルトのオペラです。やはりテーマは性愛。こちらは上のバーゼル歌劇場とは逆の演出で、性的欲望の被害者になった女性の救済と、加害男性の断罪が描かれる、ポリコレ的に正しい演出になっていました。これも非常に現代的です。
一般的に「ドン・ジョヴァンニ」は、前近代的放蕩貴族が己の意志を貫いたまま誇り高く世を去り、一方の道徳的な新興ブルジョワジーの側も勝利宣言する、というややアイロニカルな筋書と受け取ることができます。しかし本演出では放蕩貴族は死ぬことはなく、罪を悔いながら生きるという演出になっていました。
ドン・ジョヴァンニを、快楽に溺れた結果罰せられたただの哀れな一人の男して描くのは、死刑を廃止した今日的な欧州標準の考え方、犯罪者を更生させることにより被害者の感情的回復につなげていく、ということが表現されているように見え、非常に現代的です。
上のバーゼル歌劇場もこちらのロイヤルオペラも、いずれも2015年以前、ブレグジットとトランプ以前の演出です。世界が保守化した現在、欧州オペラがどのように変化しているのか、最近海外オペラを見れていませんが、このあたりは20年代もウォッチしたいなと考えています。



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続いてはピアノの演奏会から2つをチョイスします。

・シプリアン・カツァリス ピアノリサイタル

会場:神戸新聞松方ホール
鑑賞日:2011年10月23日
楽曲:詩的で宗教的な調べ より「孤独の中の神の祝福」(リスト)
   ピアノ協奏曲2番(リスト、カツァリス独奏編曲版)
   その他
   (演奏後に公開レッスンあり)
演奏:シプリアン・カツァリス
関連記事
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-11228831940.html

シプリアン・カツァリスは好きなピアニストで、2010年代に計9回演奏を聴きに行っています。9回の演奏会のうちどれをチョイスするかで悩みましたが、この演奏会は終了後に公開レッスンが行われ、これもついでに鑑賞し、こちらのレッスンの内容が非常に興味深かったので、この演奏会をベストとしました。
レッスンの概要は上の記事のリンクの通り。
レッスンから推測されるカツァリスの考えをやや抽象的に書くと、カツァリスはスコアをテクスト主義的に読み取るのではなく、テクスト(スコアそのもの)よりコンテクスト(文脈)を非常に重視しているということ。

作曲者の意図を完全に再現することは不可能、その上で、自分なりにスコアの背景にある作曲者やその時代背景を考え、スコアの穴を自分で埋める、自分なりの意見を持って演奏することが重要。そのためには文学や絵画など他分野の創造性を参照し、音楽に活かすことも大切。そんなレッスンになっていたように思いました。
この日の演奏の方は、リストの様々な楽曲が演奏された演奏会で、とくに上にあげた2曲がドラマティックで印象的です。


・クリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル

会場:兵庫県立芸術文化センター
鑑賞日:2015年11月21日
楽曲:7つの変奏曲(シューベスト)
   ピアノソナタ20番(シューベルト)
   ピアノソナタ21番(シューベルト)
演奏:クリスチャン・ツィメルマン
記事リンク
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12098839483.html

カツァリス以外の独奏ピアノ演奏会から1つをチョイス。
どれにするか悩みましたが、ピアノ演奏の1つの完成形ともいえる、ツィメルマン(ツィマーマン)の演奏会をベストとしました。
ツィメルマンは非常に構築的な演奏会を計画する人で、演奏スタイルのみならず、会場の音響設計も含めて重視する印象。この日の演奏も、シューベルトの歌を重視しつつも、ソナタとしての構築性を強調するような印象で、シューベルトが歌(旋律)とその展開の作家であることがよく分かる演奏会になっていました。
がっちりした音のコントロールがある反面、演奏が重くてときに音楽が流れて行かない印象を受ける場合もありますが、これもツィメルマンの個性として、個人的には気に入っております。
最近はあまり聴きに行けていませんが、繰り返し聴きたいピアニストです。



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最後に、純粋に楽曲を聴く楽しさを堪能できた、2つの海外オケの演奏会をあげておきます。
オーケストラ曲では自分はマーラーの交響曲が好きなので、2つともマーラーの演奏会です。


・エサ=ペッカ・サロネン指揮 フィルハーモニア管弦楽団

会場:兵庫県立芸術文化センター
鑑賞日:2017年5月14日
楽曲:ピアノ協奏曲3番(ベートーヴェン)
   交響曲6番(マーラー)
演奏:エサ=ペッカ・サロネン、チョ・ソンジン、フィルハーモニア管弦楽団
記事リンク        
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12275314421.html

サロネン&フィルハーモニア管弦楽団も定期的に聴きに行っている組み合わせで、2010年代に3度演奏を鑑賞しており、その中でこのマーラー6番が一番良かったです。とにかくかっこいい演奏で、サロネンの指揮姿も含め、たっぷりと堪能。
マーラーの6番は長い交響曲のため1曲のみの演奏会となる場合も多いですが、
この日はチョ・ソンジンの協奏曲付きという贅沢なプログラム。チョ・ソンジはとくに緩徐楽章の歌い方が心地よかったように思います。


・ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

会場:京都コンサートホル
鑑賞日:2017年11月18日
楽曲:チェロ協奏曲4番(ハイドン)
   交響曲4番(マーラー)
演奏:ダニエレ・ガッティ、ロタチアナ・ヴァシリエヴァ、

  ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団    
記事リンク
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12330654778.html

海外オケのマーラーをもう1つ。
この演奏はとにかくコンセルトヘボウの音が心地よすぎて、本当に音楽を聴く楽しみを味わうことのできた演奏会でした。
メインはマーラーですが、前半のハイドンの時点で古典派の響きを堪能。これが後半のやや擬古典的な(?)マーラーの4番に続く形が心地よい。
独奏者・指揮者も素敵でしたが、オケの心地よさがより印象に残る演奏会でした。



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ということで、音楽マイベスト8でした。

次は、この10年間に出版され、自分が読んだ本の中から、マイベスト10冊を決めたいと思います。