歌劇「フィガロの結婚」 (スイス・バーゼル歌劇場) | れぽれろのブログ

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6月30日の日曜日、滋賀県のびわ湖ホールまでオペラを見に行ってきました。
演目はスイス・バーゼル歌劇場の「フィガロの結婚」。
この日は雨が降りそうなそうでないような感じ・・・。
傘を持たずに行きましたが、結局雨は降りませんでした。
久しぶりに晴れ男ぶりを発揮。

お昼1時40分ごろ、JR大津駅に着きます。
びわ湖ホールは公演によっては駅から送迎バスが出ます。
この日もバスが出ていましたが、バスはスルーし、いつもの如く目的地まで
トコトコと歩きます。
駅前から北上し、びわ湖の南端へ。

この日の開演は15時からなので、時間に余裕がありました。
びわ湖周辺をフラフラと散策。
釣りをしている人、走っている人、フリスビーなどで遊んでいる人、
ぼんやりしている人、寝てる人・・・。
いかにも「日曜日のお昼の公園」といった感じ、いい雰囲気です。

湖周辺には鳥がたくさんいます。
スズメ、ムクドリ、ハト、サギ・・・。
いつも我が家のベランダでやかましく鳴くハトも、
休日の公園で見ると何やら可愛らしい。
真っ白なハトもいます。白いのは大阪ではあまり見かけない子です。
サギが魚を狙っています。首を伸ばして様子を伺う姿がユーモラス。
琵琶湖周辺にはマンションがたくさんあり、ベランダもあります。
この辺りにお住まいの方も野鳥に悩まされているんでしょうか・・・。


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そんなこんなでスイス・バーゼル歌劇場の「フィガロの結婚」です。

「フィガロ」は今年1月にプラハ国立歌劇場の公演を見たばかり。
今年2度目の鑑賞です。
過去何度か書いていると思いますが、自分は
モーツァルト作曲&ロレンツォ・ダ・ポンテ脚本のいわゆる「ダ・ポンテ三部作」が
すごく好きなので、公演があれば何度でも行きたくなります。
しかしこのスイス・バーゼル歌劇場、チケットは高い・・・。
ランク3番目くらいの4階席のチケットですが、それでも1万を優に越えるお値段
・・・高い!
金額は高いですが、この公演、高いだけのことはありました。
演奏は素晴らしく、歌手陣も素晴らしい。フォルテピアノも良い。
お洒落なモダン演出、現代的な作品解釈・・・とにかくいい!
今まで「フィガロ」は5,6回見ていますが、今回のが自分にとっての
ベスト公演かもしれません。
結局のところ、オペラは値段なのでしょうか・・・うーん。


ということで感想です。

演奏について。
テンポ設定がすごく気持ちいいです。
2幕フィナーレなど、サクサク進む音楽。
古楽器(ピリオド)の演奏みたいなテンポです。
昔テレビでヤーコプスの古楽器の舞台を見たことがありますが、
2幕フィナーレは特にその雰囲気に近い。
アントニオ登場場面の音楽など、アップテンポで弦楽器が苦しそうです(笑)。

しかし独唱や二重唱の場面になると、一転してテンポが揺れる揺れる・・・。
ここぞというときに極端にテンポを落とし、そしてバウゼが多用され、
かなりドラマティックな歌唱になっています。
ケルビーノ1幕のアリア、後半でかなりドラマティックにテンポダウンし、感動的。
3幕の手紙の二重唱もたっぷりとしたテンポ設定。何とも気持ちいい・・・。
4幕のスザンナのアリア、この後半部分などバウゼがあまりにたっぷり過ぎて、
フライング拍手が飛び出しました(笑)。

歌手の皆さん、すごくいい歌唱ですが、とくにロジーナとケルビーノの
お二人が気に入りました。
自分はオペラを見に行くと、なぜかやたらと泣く(笑)のですが、
この日も涙腺が緩む緩む・・・。
好きな音楽が、感動的で技巧的な歌唱で目の前で再現されると、
それだけで感激するのです。
個人的に(ベタですが)好きなのが、ケルビーノ2幕の「恋とはどんなものかしら」。
転調と半音階を繰り返し、どんどん変容していく最強のメロディ。涙腺弛緩音楽。
3幕のロジーナのアリア、シェーナからドラマティックな歌唱で、
いきなりウルっときます。
ということで、とにかく涙腺緩みっぱなし(笑)。
なんでこんなに泣くんでしょうね・・・自分でもよく分りません。
曲が良いのといろんな条件が重なって泣けるのです。
やたらハンカチで目鼻を拭きまくってたので、周りは引いてたかもしれません
・・・笑。

そして、フォルテピアノが面白いです。結構遊んでます。
突然不協和音になったり、ジャズ風の和声になったり・・・。
呼び鈴の音をフォルテピアノで表現したり。
スザンナを回想するシーンでは、スザンナ2幕のアリアのメロディが引用され、
3幕の伯爵の「足はもういいのか?」のセリフのシーンでは
2幕フィナーレのフィガロの「足をくじいてしまいました」のシーンの
メロディが引用されます。
なぜか突然K545(ピアノソナタ15番)のメロディが出てきたり、
さらにはワーグナーの「ローエングリン」のメロディも登場。
時代の先取り(笑)、楽しいです。


演出について。
お洒落な感じの衣装と舞台、18世紀的ではなくモダンな演出です。
しかし、一見小奇麗な舞台ですが、何やら病的な雰囲気もあります。

会場では始まりから幕が開いており、
舞台上にはトラとキリンの人形、そしてベビーベット(?)のような小さなベット。
壁には大きく描かれたキャラもの系のネズミのイラスト
子供部屋という設定なのでしょうか・・・?子供は登場しないオペラなのに・・・?
この部屋がフィガロとスザンナの新居になるのでしょうか・・・?
序曲が始まると、この部屋に伯爵夫妻がやってくる、
2人の仲は何やら険悪ムード。
そして人形とベッドを撤収するバジリオとフィガロ。意味ありげな始まり方です。
2幕のロジーナの部屋。
衣装箪笥には夥しい数の服・・・。すべてロジーナの衣装?
そして浴室は全面ピンク色に塗られています。
舞台で見るとお洒落ですが、現実にこんな部屋はイヤやな・・・。

そして、その他演出のキーワードは「サボテン」と「紙飛行機」

サボテン。
1幕フィナーレ「もう飛ぶまいぞこの蝶々」。
このシーンで、ケルビーノはだいたいどの演出でもフィガロにメチャクチャに
されるのですが(笑)、この日は結構酷いメチャクチャぶりで、
上着を後ろ前に着せられ、ロジーナのリボンで股間から肩にかけて縛られ、
そして段ボールに詰められ、サボテンに強制的に抱きつかされます。痛そう・・・。
3幕、えんじ色の壁のお部屋、窓の外にサボテンがたくさんあるのが見えます。
そして4幕は夜のお庭、サボテンが生い茂る中、愛憎劇が繰り広げられます。
このサボテンの量、舞台で見る分には面白いですが、
現実にこんなにサボテンが並んでるのも嫌やな・・・。
都会の砂漠に咲くサボテン、ということなのでしょうか。

紙飛行機。
舞台上、ピンク色の紙飛行機がときどき飛んできます。
右から左から上から・・・
紙飛行機を飛ばすのは、主にケルビーノ。
彼の鞄の中には(3幕で鞄をひっくり返すのですが)、
大量の紙飛行機が入っています。
そして3幕フィナーレ、結婚式のシーンでは夥しい数の紙飛行機が
舞台上を襲来します。
綺麗ですが、何だか怖い感じも・・・笑。

全体的にぱっと見モダンで綺麗な演出ですが、細部をあれこれ観察すると、
なんとなく現代人の病的な雰囲気を表現しているようにも見える・・・。
そんな演出であるように思います。


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さて、お待ちかね(←?)。
モーツァルト&ダ・ポンテといえば、切っても切れないのが
エロ&セックスの要素です。
ということで、順番に振り返ってみましょう(笑)。

2幕、スザンナの「ケルビーノ着せ替えアリア」
ロジーナとスザンナ、2人してケルビーノを襲い、服を脱がせ、
そしてキスしまくってます。
2人で奪い合うようにケルビーノにキスする・・・。
そしてついにロジーナは(なぜか)自分も脱ぎ出し(笑)、
横たわるケルビーノに乗っかってキスの雨あられ・・・。
どうでもいいことですが、なんでお姉さま方はキスが好きなんでしょうね。
スナックとかで、酔うとやたらとキスして来る人、いますよね。
そういうところでキスされまくった男子、
間違いなく大人になってから「キス」が固着します(←誰のことやねん)。

3幕、伯爵のアリア
スザンナ、フィガロ、ロジーナ、ケルビーノ、バルバリーナが
揉み合うようにして抱き合っています。
この乱交ぶりは何なんだろう・・・。
伯爵の妄想を現わしているのでしょうか・・・謎です。

4幕、スザンナのアリア
ロジーナに変装したスザンナ。
フィガロが隠れているのを分かっていながら、いきなり下着を脱ぎ出します(笑)。
そしてフィガロの方に下着を投げる・・・何このエロスザンナ・・・笑。

4幕フィナーレ
今度はスザンナに変装したロジーナ、夜闇にまぎれて、
いきなり伯爵のズボンを脱がせます。
そして舞台のど真ん中でセックスを始める・・・。
ストレートな演出、いいですね(笑)。伯爵の青い下着が印象的です。

そして4幕のラスト
ロジーナが伯爵を許し、全員が横並びで歌うシーン。
だいたいどの演出でも、伯爵&ロジーナ、フィガロ&スザンナ、
ケルビーノ&バルバリーナ、バルトロ&マルチェリーナと並びます。
この舞台でも初めはそのように並んでいましたが、
いきなりバジリオが「人間シャッフル」を始めます。
そして、フィガロ&ロジーナ、伯爵&バルバリーナ、アントニオ&マルチェリーナ、
バルトロ&クルツィオ(←!)のカップルの出来上がり。
そしてバジリオ自らはスザンナと手をつなぎ、カップル化します。
複雑怪奇なスワッピングカップルの出来上がり(笑)。
そんな中、ケルビーノがひとり紙飛行機を飛ばす・・・。
面白いラスト!
しかし、混ぜっ返した後、カーテンコールではやはり元のカップルの組み合わせに
戻っています。


人の愛と性は予測不可能なもの。
妻帯者であれ恋人持ちであれ、誰が誰を好きになるかは分からないし、
そもそも人間の肉体は誰とでも愛し合えるようにできています。
この演出は乱交とスワップの嵐。
4幕フィナーレで皆が和解し、元の鞘に収まりますが、
ラスト1分でまたスワップされます。
「今後も心は移り変わるでしょう」という意味でしょうか。
しかし、カーテンコールで元のカップルに戻っているということは、
「再帰的に元の鞘に収まるのが一番」とうことなのかも・・・。
そんなことをあれこれ考えさせられる演出でした。
この演出家の「ドン・ジョヴァンニ」や「コジ・ファン・トゥッテ」も
見てみたい気がします。


ということで楽しいオペラでした。
会場を出ると軽い頭痛がします。
会場の空調が寒かったので、体が冷えたのかもしれません。
あるいは涙腺が緩みすぎたのかも・・・。
しかし気分は爽快、帰りも気分よく送迎バスをスルーして(笑)、
大津駅まで歩きました。

今年は秋には神戸に「魔笛」を見に行く予定もあります。
そして年末にはいずみホールで「イドメネオ」も上演されるとのこと。
これも行こうかな・・・・。