マーラーの6番 サロネン&フィルハーモニア管弦楽団 | れぽれろのブログ

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ゴールデンウィーク中の旅行記の途中ですが、直近で鑑賞した演奏会の感想を先に残しておきます。

5月14日の日曜日、西宮の兵庫県立芸術文化センターに行ってきました。
目的はエサ=ペッカ・サロネン指揮、フィルハーモニア管弦楽団の演奏会。
サロネン&フィルハーモニアの実演を鑑賞するのは自分はこれで3度目です。
過去2回はシベリウスのプログラムでしたが、今回は待ちに待ったマーラー、しかも交響曲6番!
これは是が非でも聴きに行かないわけにはいきません。

通常、マーラーの交響曲6番のような巨大な交響曲のプログラムの場合、1曲だけの演奏になるケースが多いですが、この日は前半のプログラムがベートーヴェンのピアノ協奏曲3番、しかも奏者が2015年ショパンコンクールの優勝者、チョ・ソンジンでした。
なかなか贅沢なプログラムです。


まずは前半の覚書。
チョ・ソンジンによるベートーヴェンのピアノ協奏曲3番。

1楽章、チョ・ソンジンはコロコロと綺麗な音で、比較的力を抜いて演奏している感じでした。
ショパンコンクール覇者にしては軽め、ブレハッチやアヴデーエワに比べると軽めかなとも思いましたが、2楽章で印象が変わりました。
緩徐楽章ではやはりロマン派的な情感のある歌い方でたっぷりと演奏しており、やはりショパン弾き、といった感じ。
アンコールはドビュッシー。
綺麗な音でさらりと弾いており、このスタイルの方が向いてるのかなとも思います。

ベートーヴェンではなく、ドビュッシーももっと聴いてみたいですし、がっつりしたロマン派の協奏曲もぜひ聴いてみたいですね。


後半はマーラーの交響曲6番「悲劇的」です。
この後半の印象が強すぎて、前半のチョ・ソンジンの印象はすっ飛んでしまいました。
とにかくかっこいい演奏!
マーラーの6番は過去5回鑑賞し、3回記事化しましたが、今回はその中でもベストの演奏、たいへん素晴らしい演奏でした。

まず、過去にも書きましたが、サロネンはとにかく指揮姿がかっこいいです。
後ろから指揮姿をを見ているだけで楽しい。
サロネンは結構動きが激しく、指揮台の上を右へ左へ、いろんな方向に動きます。
ヴァイオリンを歌わせたいときは左に寄り、低音の時は右に寄る、指揮台の上を縦横無尽に動き尽くしています。
手は表現力豊かにリズムを刻み、両腕の動きがしなやかでかっこいいです。
しかし体の中心はあまり動かず、重心がぶれない指揮姿。
80分以上の長い曲ですが、指揮姿が見応えがあるので、今回自分はほとんどずっとサロネンの後姿を見ていました。

1楽章。
サロネンは拍手が鎮まるを待たずに、いきなり振り出します。
拍手が収まらないまま、ズンズンズンズンと例の低音が始まる。
まるでカツァリス(拍手が終わる前に弾きだすピアニスト)のようです 笑。
第1主題は比較的ゆるやかなテンポで始まり、この後の第2主題が素晴らしく、アルマ主題はかなり緩急をつけて美しく歌わせていました。
いきなり感動的、この第2主題で早くも来てよかった感が漂います。
提示部は繰り返しあり、素晴らしい第2主題を2度鑑賞。
展開部はサクサクと進みます。
サロネンはここぞというところで力を込めて歌うように表現し、そうでないところは比較的あっさり早めに進みますが、流して演奏している感じではなく、表現はあくまで力強くかっこいい。
展開部後半、チェレスタがすごくよく聴こえます。
カウベルと合わせて、如何にもベル・エポックのユーゲントシュティール的なキラキラした響きを堪能。
再現部もテンポを落とすところはガッツリ落とす、ドラマティックな演奏。
コーダはかなり加速した後、最後はオケをぴしゃっと静止させ、サロネンは「気をつけ」の姿勢。
これは前回のシベリウス5番、同じく1楽章の終わりの指揮姿に似ています。
この1楽章だけで、かなりの大満足です。

2楽章。
開始前に、指揮台脇に置かれたペットボトルを拾い上げ、たっぷり水を飲むサロネン。
2楽章はスケルツォでした。中間楽章はスケルツォ→アンダンテの順。
全体的にサクサク進みますが、中間部(トリオ部)の途中で極端なパウゼが入り、脈拍が一瞬乱れるような心地悪さというか、面白い効果を出しています。
この楽章の中間部は「赤ん坊の顔面が徐々に歪むような、可愛いものが不気味なものに変わる感じ」(過去の演奏会での佐渡裕さんの解説)がありますが、サロネンは不気味さを演出するな雰囲気はなく、絶対音楽としての劇的な効果を如何に表出するかを考えて演奏しているようです。

3楽章はアンダンテ。
サロネンは指揮棒を置き、手だけで指揮をしていました。
手のひらがひらひらと動く、この手の表情もまた見ものです。
曲はやたらと美しく進んでいき、各声部がよく聴こえるバランス感覚のある演奏。
とくにホルンが素敵です。
マーラーのアダージョ風アンダンテの素晴らしさを堪能できる、素敵な歌わせ方です。
後半のクライマックスの、特に強調される美しいメロディの部分(練習番号61番、173小節目)は、スピードを落とし、特にたっぷりと表情を付けて演奏しており、鑑賞者の涙腺を緩ませます。

そして4楽章。

再び指揮棒を手にするサロネン。
個人的にこの楽章は細かいことを言わず、とにかくイケイケで演奏してほしいところ。
この楽章のサロネン&フィルハーモニアの演奏は、チョ・ソンジンのピアノ目当てでやって来た観客を地獄に叩き落すような(笑)圧倒的な演奏でした。
不気味な序奏部に始まり、提示部以降はサクサクとかっこよく演奏。
提示部第2主題付近のスコア上の指示、「指揮者への注意:徐々に2/2拍子に移る。しかしテンポは変えずに。」、205小節目(練習番号118番)から指揮が2つ振りに変わりましたが、この部分の4つ振り→2つ振りの指揮姿の変化がまた見応えがあります。
展開部のハンマーは、心臓に響くような太い音ではなく、ベチンというかガツというか、硬い感じの居心地の悪い音がします。
ハンマー1発目の後の行進部分(385小節目あたり)で、サロネンはまたテンポを煽る煽る 笑。
ハンマー2発めの後、展開部のラスト(練習番号142番、504小節めあたり)、ここからまたえらい勢いでテンポを煽って、扇情的に再現部へなだれ込み、チェレスタの音で再現部開始と同時に一気にテンポを落とす、これがまたかっこいい。
再現部もかなり歌わせ方に表情を付けるような指揮で、オケの推進力の勢い余ってか一部アンサンブルが乱れるような場面もありましたが、ここはイケイケで演奏してほしいので、これくらいがちょうどいいです。
再現部の頂点(725小節め、練習番号161番の3小節前)は、怒涛のシンバル4枚。
コーダの弱音→大音響の部分もかっこよく決めて、おしまい。

以上、たいへん素晴らしい演奏でした。
4楽章は久しぶりに手に汗を握り、気が付くとハンカチを握りしめていました。
こんなにドキドキする演奏は久しぶりです。


最近、自分は文化のローカル性とユニバーサル性について考えることが多いです。
グローバル化と言われる昨今、ローカルな文化が廃れグローバルなものに置き換わっていく流れは避けがたいものがあります。
クラシック音楽も同じです。
ローカルなものに固執して隘路に陥るよりも、ユニバーサルに変化しながら形を変えて広がっていく方が良いのではないかというのが最近よく思う自分の考え方。
サロネンのマーラー6番は、明から暗へ、動から静へ、マーラーが幸福な時代に作曲した何やら不吉な曲、といった解釈はあまり感じられず、あくまで絶対音楽的に楽曲を捉え、どう演奏すれば劇的な効果を得られるかを考えて、演奏に反映させているように感じられました。
マーラーと同時代の文脈やローカル性よりも、ユニバーサル性が際立つ演奏。
サロネン&フィルハーモニアの演奏は、演奏解釈の面では様々な意見があるやもしれませんが、劇的な演奏効果を演出するという点では、かなりの程度成功しているのではないかと感じました。

 

ということで、今後もサロネンにはついて行きたいと思います。
マーラーの他のナンバーもぜひ聴いてみたいですね。


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さてさて、マーラー6番恒例の(?)統計コーナーです。

今回の演奏は以下の通り。

・1楽章提示部の繰り返し  あり
・2楽章・3楽章の順序  スケルツォ→アンダンテ
・ハンマーの回数  2回
・4楽章再現部終盤(725小節目)のシンバル  4枚


過去自分が鑑賞した演奏会の比較まとめ。

・1楽章提示部の繰り返し
  あり 5回 (83.3%)
  なし 1回 (16.6%) 

・2楽章・3楽章の順序

  アンダンテ→スケルツォ 2回 (33.3%)
  スケルツォ→アンダンテ 4回 (66.6%)

・ハンマーの回数
  2発 4回 (66.6%)
  3発 2回 (33.3%)

・4楽章再現部終盤のシンバル
  4人 2回 (33.3%)
  3人 3回 (50%)
  2人 1回 (16.6%)


スコアに忠実に演奏するなら、ハンマーは2回、中間楽章はアンダンテ→スケルツォですが、やはりというか、後者は逆の方がが多いです。
中間楽章の順序も、ローカル(アンダンテ→スケルツォ)vsユニバーサル(スケルツォ→アンダンテ)という対比で、あれこれ考えることができるのかもしれません。

以上、おまけでした。


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