10年代 美術展ベスト10 -古典美術編- | れぽれろのブログ

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美術、音楽、本、日常のことなどを思いつくままに・・・。

2010年代もそろそろおしまい、残すところあと3か月を切りました。
この10年間を振り返ってみようということで、美術・音楽・本などについてのいくつかの記事を書こうと思っています。

まず第1回は美術展について。
自分は2010年の1月から2019年の9月までで、美術について合計167の展示を鑑賞しました。
内訳は、概ね20世紀中盤までの美術作品を展示する企画が101、20世紀後半以降の美術作品の展示が66となります。おおよそ古典美術が101、現代美術が66となり、古典/現代の比率がだいたい3対2の割合で鑑賞していることが分かります。
今回はこのうち古典美術の101の展示の中から、とくに面白かった展示、気に入った展示を選び、10年代のベスト10として並べてみたいと思います。
自分は大阪府在住ですので、当然のことながら近畿圏で開催される展示を多く鑑賞していますので、ベスト10といっても地域性には偏りがあります。
近畿圏在住者の目線でのベスト10ということでご了承頂きたいと思います。

以下、選んだ10の展示のタイトル、展示会場、自分の鑑賞日、コメントなどです。2012年以降は各展示の記事のリンクも張っておきます。



・THE ハプスブルク



会場:京都国立博物館
鑑賞日:2010年1月9日

2010年代の幕開けとともに最初に訪れた展示です。
中欧を長らく支配したハプスブルク家に関わる展覧会、ウィーン美術史美術館とブダペスト国立西洋美術館の所蔵作品の大規模な来日展示で、鑑賞するや否や、これはこの10年のベストではないか?、といきなりびっくりした展示です。
展示は主にイタリア、スペイン、ドイツ、フランドル&オランダの4地域に分かれており、美術史上の巨匠がひっきりなしに登場する展覧会。ティツィアーノ、ティントレット、ラファエロ、エル・グレコ、ベラスケス、ゴヤ、デューラー、クラーナハ、ルーベンス、レンブラントなど、名だたる巨匠の作品が続々。
とくに個人的にお気に入り度の高いベラスケスが3点、クラーナハが2点鑑賞できたのが印象的。ベラスケスの「白衣の王女マルガリータ・テレサ」「皇太子フェリペ・プロスペロ」の大胆な筆致で描かれた可愛らしい子供の肖像、クラーナハの「洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ」の過剰な細密性と装飾性が非常に印象に残っています。



・生誕100年 ジャクソン・ポロック展


会場:愛知県美術館
鑑賞日:2011年12月23日

わざわざ愛知県まで出かけて鑑賞した展示。
ポロックが古典美術かというと少し疑問があるかもしれませんが、20世紀中期アメリカの抽象表現主義の作家ということで、一応現代美術ではなく古典の方に分類しました。
本展はポロックの有名なドリッピング(ポーリング)作品の展示とともに、その制作過程の映像が会場に映し出されており、管理された偶然性であり、抽象とシュルレアリスム(オートマティスム)の折衷であるといった、ポロックの作品の傾向がよく分かる展示になっていました。
現物のポロック作品を鑑賞すると、何より線と色が目まぐるしく重なる様子が非常に楽しい。珍しい初期の具象画も展示されており、流線型に描かれた身体が後年の作品を予期するようで面白かったです。



・シャルダン展-静寂の巨匠


会場:三菱一号館美術館
鑑賞日:2012年9月28日
記事リンク

https://ameblo.jp/0-leporello/entry-11367275710.html

出張のついでに東京で鑑賞した展示。
18世紀のフランスはロココの時代で、華やかな宮廷絵画が目立つ時代ですが、そんな中、静謐な静物画や風俗画を描き続けたのがシャルダンです。
シャルダンは美術史の中ではやや地味な画家ですが、落ち着いた作風が素敵で、とくに風俗画が素晴らしく、有名な「食前の祈り」をはじめ、「羽を持つ少女」「セリネット(鳥風琴)」などの展示が印象的。風俗画は子どもの可愛らしさと室内の画面構成がとくに素敵でした。
なかなかまとまって鑑賞できることが少ない作家なので、この2012年の展示は非常に貴重な特集だったと感じます。



・狩野山楽・山雪


会場:京都国立博物館
鑑賞日:2013年4月27日
記事リンク
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-11522229408.html

美術好きとして、近畿圏に住んでいる最大のメリットは、京都国立博物館と奈良国立博物館の展示を鑑賞できることです。西洋美術の来日展示や現代美術の先進的な展示では東京圏の美術館には敵いませんが、近世以前の日本美術となればやはり京都と奈良に分があります。
京都国立博物館はとくに近世の絵師を特集した展示が面白く、この10年の中では長谷川等伯、狩野山楽・山雪、海北友松、池大雅の特集展示はいずれも面白く、どれを落とすかで非常に悩みましたが、等伯と大雅が面白いのは当然として、日本美術史ではやや傍流の(?)山楽・山雪及び友松に光を当てた展示を選ぶことにしました。
狩野山楽・山雪は京狩野と呼ばれる狩野派の一派で、幕府お抱えの狩野派とは全く違うディープな画風が楽しい。
とくに狩野山雪のエキセントリックな画面構成と細部への異常な拘りは非常に面白い。とくに「老梅図襖」の画面構成や、「長恨歌図巻」「雪汀水禽図屏風」の細部を鑑賞する楽しさは異常(笑)。小動物が意外と可愛らしいのも山雪の特徴でした。



・マグリット展


会場:京都市美術館
鑑賞日:2015年7月14日

記事リンク
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12056253439.html

20世紀のシュルレアリスムの作家として有名なマグリット。本展はマグリットの作品を概ね年代順に並べ、その変遷を考えるという構成になっている展示で、非常に面白かったです。
マグリットと言えばいわゆるデペイズマン(意外な組み合わせ)の作品が有名ですが、それだけに非ず。作品を年代順に俯瞰すると、20年代はシュルレアリスム、30年代は戦後コンセプチュアルアートを先取りするような実験的な試み、40年代は表現主義に傾倒していることが分かります。
我々がよく知るデペイズマンの作品は50年代以降の後期の作品(「光の帝国」「赤いモデル」「ピレネーの城」など)が多いですが、これ以外のとくに30年代の作品(「透視」「人間の条件」あたりが有名か)が改めて鑑賞するともっと概念的な作品で、このあたりはデペイズマンとはかなり傾向が違うことが分かり、マグリットの作風の幅を考えることができる面白い展示になっていました。



・白鳳 -花ひらく仏教美術-


会場:奈良国立博物館
鑑賞日:2015年8月18日

記事リンク
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12063437123.html

上に書いた通り、近畿圏に住むメリットは京博と奈良博に簡単に行けるということ。奈良国立博物館のこの10年のベストとして本展をあげておきます。
日本史の激動期である白鳳時代、本展は白鳳期の様々な文物を展示する展覧会ですが、なんといっても本展の目玉は仏像です。

柔らかな体躯の仏像が白鳳期の特徴かと思いますが、如来像・菩薩像のうちとくに菩薩像が面白く、やや身体がアンバランスながら服装の装飾性が目立つ小さくて可愛らしい菩薩像がたくさんあって楽しかったです。菩薩像のメインは薬師寺の月光菩薩立像で、サイズも大きく端正でありながら柔らかな感じも持ち合わせているいう見ごたえのあるもの。
本展は奈良国立博物館開館120周年記念企画とのことで、かなり気合の入った企画だったように思います。



・岩佐又兵衛展



会場:福井県立美術館
鑑賞日:2016年8月13日
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12190497470.html

夏の旅行で福井県に行った際に鑑賞した展示。
越前の絵師、岩佐又兵衛の特集展示。小規模ながらもさすが地元ゆかりの絵師の特集と言った感じで、主要な作品がかなり展示されており、見ごたえ十分。
何よりも会場に人が少ないのが素晴らしい(笑)。もし京都でこのレベルの展示が開催されるなら10倍くらい人が集まりそうですが、ゆったりと鑑賞できたのは福井県なればこそ。
中でも「金谷屏風」の連作と「山中常盤物語絵巻」を鑑賞できたのがよかったです。とくに「金谷屏風」は作品ごとにかなり異なったタッチで描かれていることが分かり、又兵衛がかなり作風の幅が広い絵師であることが分かりました。
又兵衛作であるということが確定された「洛中洛外図屏風(舟木本)」もじっくり鑑賞できた展示でした。



・クラーナハ展-500年後の誘惑
 


会場:国立国際美術館
鑑賞日:2017年1月28日
記事リンク

https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12244411042.html

 

北方ルネサンスの画家クラーナハの大規模な来日展示。
ルネサンス期のドイツの画家の中でクラーナハはデューラーなどと比べるとややマイナーな画家なので、本展は非常に貴重、まさかクラーナハだけの特集が日本で開催されるなどとは思ってもいなかったので、非常に嬉しかった展示でした。
細部の細密描写と、独特のくにゃっとした身体表現がクラーナハの面白いところ。身体表現の独自性が際立つ裸体画も多数展示されていました。
クラーナハは宗教改革と同時代の画家で、ルターの肖像画やルター訳新約聖書の挿画も手掛けており、このことからプロテスタントとの関わりが強い画家と思われがちですが、本展を見る限りクラーナハは様々な作品を手掛けており、もっと幅広い画家だということが分かる展示になっていました。




・海北友松



会場:京都国立博物館
鑑賞日:2017年5月20日
記事リンク

https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12278306626.html

上で予告した京博のもう1つのベストが、この海北友松の展示です。
戦国末~安土桃山時代と言えば、狩野永徳や長谷川等伯が有名、京博でも2007年に永徳、2010年に等伯の特集展示がありましたが、本展は友松もまた彼らと負けず劣らず面白い絵師であったことが分かる展示になっていました。
友松の面白さは何といっても筆の勢い、そして一部の作品に見られる楽しいデフォルメです。とくに「竹林七賢図」はかなり早い筆致で身体が描かれていると思われ、面白い。「野馬図屏風」の可愛い馬のデフォルメや、「月下渓流図屏風」の静謐さも印象的です。



・プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光



会場:兵庫県立美術館
鑑賞日:2018年6月16日
記事リンク

https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12385979396.html

プラド美術館の来日展示は過去何度か鑑賞したことがありますが、この2018年の展示はなんといってもベラスケスが6点も来日したという、ベラスケス好きとしては稀有な展示で非常に楽しかったです。(ベラスケス以外の作品も多数出展。)

7つのテーマに分かれての展示でしたが、7つ中6つのテーマでベラスケスが取り上げられているという素晴らしさ。
ベラスケスの大胆な筆致が堪能できるのはもちろんのこと、ダイナミックな構図と可愛らしさが同居する「王太子バルタサール・カルロス騎馬像」や、17世紀スペインの作品とは思われないような写実主義的な「バリェーカスの少年」など、実物を見ると非常に素晴らしく、印象的でした。



以上、10展を選んでみました。

西洋美術から6点、日本美術から4点。
西洋美術は2011年のポロック、2012年のシャルダン、2015年のマグリット、2017年のクラーナハはいずれも貴重な展示、あとは個人的な嗜好からややベラスケスに偏っていますが、それを差し置いても、2010年のウィーン美術史美術館と2018年のプラド美術館の来日は良い展示だったように思います。
日本美術は2013年の狩野山楽・山雪、2016年の岩佐又兵衛、2017年の海北友松がこれまたいずれも貴重な展示、奈良の白鳳は展示数も多く非常に力の入った企画で良かったように思います。


次回は現代美術の展示の中から、お気に入りベスト10を発表したいと思います。絵画以外に写真、インスタレーション、映像作品なども登場する予定です。