海北友松 | れぽれろのブログ

れぽれろのブログ

美術、音楽、本、日常のことなどを思いつくままに・・・。

5月20日の土曜日、京都国立博物館に行ってきました。
目的は海北友松(かいほうゆうしょう)の特別展覧会。
京都国立博物館開館120周年記念との展覧会です。
5月にしてはかなり暑い1日、京阪電車に乗って淀屋橋から七条へ。
会期末、最終日1日前なので混雑を予想していましたが、意外と待ち時間なく入館することができました。

海北友松は戦国末~江戸初期を代表する絵師です。
自分は永徳・等伯・友松とセットで覚えており、狩野永徳や長谷川等伯とほぼ同時代の有名人です。
永徳や等伯と比較すると知名度はやや劣るかもしれませんが、余白を残した大胆な構図と、一筆の勢いによる筆さばきが楽しく、魅力あふれる作家さんです。
京都国立博物館では2007年に狩野永徳、2010年に長谷川等伯の特集展示が開催されました。
今回は織豊期前後の絵師三部作の完結編。
永徳や等伯の展示に勝るとも劣らぬ、楽しい展示になっていました。


以下展示の感想や覚え書きなど。

まずは初期作品の展示。
友松は狩野元信に学んでいたとのことで、初期作品は後期の大胆さはなく、比較的丁寧に描かれています。
「柏に猿図」の猿が可愛らしく気に入りましたが、同様に牧谿の猿をお手本としたと思われる長谷川等伯の「枯木猿猴図」の大胆さには敵いません。
このスペースでは狩野永徳の「花鳥図襖」(聚光院)も展示されており、こちらの素晴らしさが引き立ちます。

続いてのブース、「松竹梅図襖」(禅居庵)あたりになると、友松らしい筆の勢いが楽しめるようになります。
(この日は「松図」が展示されていました。)

そして建仁寺の大方丈障壁画、ここで友松の本領が発揮されます。
「雲竜図」は大胆な筆の勢いがが形作る龍が素晴らしいです。
「山水図」も面白く、筆を左右にシュッと滑らせただけで一筆で表現された船が楽しい。
建仁寺シリーズで最も気に入ったのが「竹林七賢図」です。
賢人たちの身体を表現する筆さばきが素晴らしく、ぷっくりした体つきと身体のバランスが、おそらくかなりスピードの速い筆の動きで表現されています。
素晴らしき線の力、おそらくこのあたりが友松の真骨頂ではないかと思います。

建仁寺以降の作品も面白く、友松の興味深い作品のほとんどが晩年に集中しているようです。
以下、印象深いものをいくつか並べてみます。

「飲中八仙図屏風」の老人たちの身体の表現も見応えがありますが、比較してみると上記の「竹林七賢図」の方がかっこいいです。
「竹林七賢図」の筆の速度がプレストだとすると、「飲中八仙図屏風」はアレグレットぐらいまで落ちてる感じです。
しかし、八仙図の仙人たちのコミカルな様子は面白く、魅力的です。

「楼閣山水図屏風」も構図と余白の使い方が素晴らしい作品で、港に泊まる船の様子が、大胆に省略された線で描かれているのが面白いです。

日本画のデフォルメ力が遺憾なく発揮されているのが「野馬図屏風」です。
まるっこくぷっくりとデフォルメされた馬の体が魅力的で、これまた一筆の勢いで体の線を描く筆さばきが素晴らしいです。
そしてこの馬がやたらと可愛らしく、熊がくまモンになるような、デフォルメによる愛らしさを感じます。
「野馬図屏風」もお気に入りの一枚となりました。

彩色された作品の中では「浜松図屏風」が素敵です。
波の装飾的な描き方、金地に対する緑の描き方と配置のバランス。
松の緑のモコモコした描き方も大胆。
友松の本領は彩色なしの墨のみの筆さばきにあると思いますが、一部カラーの作品も魅力的です。
「網干図屏風」も金地に緑の作品で、草の緑の表現とともに、網の細かい表現も楽しめます。
(「浜松図屏風」と「網干図屏風」は並んで展示されており、それぞれ遠州の地名と播州の地名を想像しましたが、関係ありませんでした。余談 笑。)

最後のスペースに展示されていたのが「月下渓流図屏風」。
等伯の「松林図屏風」を思わせる静謐な作品ですが、細部に彩色された草やつくしが小さく描かれているのが何やら可愛らしいです。
この作品が友松の最高傑作とも言われているようで、詩情あふれる素敵な作品でした。

 

登場人物が皆泉谷しげるに似ているという噂の(?)「群仙図屏風」は前期のみの展示で、この日は展示はありませんでした。残念。



以上、楽しい展示でした。
一筆の勢いでバランスある造形と構図を形作る作品には、魔術的な魅力があります。
友松の魅力を堪能できる展覧会でした。


京都国立博物館の新館(平成知新館)での鑑賞は、自分は二度目です。
旧館(明治古都館)に比べ、動線が改善されているので、かなり見やすくなりました。
かなり余裕を持った形で展示スペースが確保されており、旧館であったような曲がり角の展示スペースで人が団子状態になるような状況も改善されました。
特別展の順路に常設展示が挟まる構成は違和感が無きにしも非ずですが、全体的にはかなり見やすくなっているように思います。

一方、現在の京都国立博物館のメンバーズカードでは、特別展は無料で入場不可で、団体割引適応になるのだそうです(以前は無料で入場できた)。
こちらはどういうわけかサービスが低下しているようです。
自分の持っている国立国際美術館の友の会カードでは、国立国際美術館の特別展が無料になる上、京都国立博物館その他のいくつかの施設の特別展が団体割引になります。
同じ国立(独立行政法人)の施設なのに格差があるのはなぜなのか・・・。


いずれにせよ、京博の日本画絵師の展示は外れなし。
次回、秋には国宝展が開催されるようですので、これもぜひ鑑賞したいですね。