狩野山楽・山雪 | れぽれろのブログ

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27日の京都遊び、後半。
京都国立博物館の「特別展覧会 狩野山楽・山雪」と題された
展覧会に行ってきました。

この展覧会ですが、非常に面白かったです。
タイトルは「狩野山楽・山雪」となっていますが、実質的な主役は狩野山雪です。
展示の比率も山雪が多い。
山雪を紹介するために、一世代上の山楽からの流れを紹介しているような
そんな構成になっています。
もちろん山楽も面白いですが、個人的にも鑑賞していて
圧倒的に楽しいのが山雪でした。

この日は連休初日の土曜日でしたが、16時を過ぎているということもあってか、
会場はかなり空いていました。
2007年の狩野永徳や2010年の長谷川等伯の特集では異常に混んでいましたが、
今回はネームバリューがやや小さいこともあってか、
比較的人は少ないようにも思います。
しかし、個人的にはこの展覧会、2006年の曾我蕭白の特集に匹敵するくらいの
驚きの展示でした。
展覧会の主催側もかなり気合が入っているのか、
絵画に添えられるキャプションにも何やら力が入っているような気がします。

室町時代以降、徐々に発展してきた狩野派。
桃山時代の狩野永徳の時期にピークを迎え、以降は江戸幕府の
お抱え絵師の流派として、やや美術史的にも地味な存在になります。
そんな江戸の狩野派に対し、豊臣方の流れを汲み、京都に残った人たちが
いわゆる"京狩野"。
山楽も山雪も、この京狩野の流れに属する方です。
江戸時代の京都の美術と言って個人的にすぐに思い出すのが、
18世紀の応挙・蕭白・芦雪・若冲といった人たちですが、
彼らは突然出てきたわけではなく、17世紀の京狩野、とくに山雪の延長上から
派生していることが分る、そんな展覧会になっています。
なので、18世紀京都画壇系がお好きな方なら絶対に見ておいて
損のない展示だと思いますので、お見逃しすることなきよう。


ということで以下、いくつか面白かった作品についての感想と覚え書きです。
まずは狩野山楽。

・松鷹図襖
木の配置や枝ぶりが、狩野永徳の檜図屏風によく似ています。
檜図屏風には動物はいませんでしたが、こちらには鷹がいます。
そしてこちらは着色なし、一筆の勢いで描いた枝ぶりの様子が心地よい。
絵の具を塗り重ねていく西洋絵画とは真逆の面白さです。

・龍虎図屏風
この絵は2009年の妙心寺展でも展示された絵です。めでたく再開。
右側に一匹の龍、左側に二匹の虎。
虎は一匹は縞々の体ですが、もう一匹は斑点になっています。
正確には虎一匹と豹一匹・・・?
全体的に龍より虎の描写に気合が入っているように見えます。
とくに右側の虎、縞々の方の虎が良いです。
会場にのキャプションには、永徳の唐獅子図との比較コメントが
書かれていましたが、確かに唐獅子図に匹敵する格好よさです。

・帝鑑図押絵貼屏風
中国の政治家による様々な善行と愚行が並べられた屏風絵です。
そして、当然の如く愚行を描いている方が面白い・・・笑。
酒池肉林
 お酒を山から流して池を作り、お船を浮かべて酒をすする(笑)。
 愚行とはいえ、楽しそうです。
 酒池に比べて肉林の方は、糸でチョロチョロお肉を吊り下げてるだけで、
 意外とショボい感じ。
焚書坑儒
 穴に落とされる哀れな儒者の後ろ姿に何やら愛着が湧いてきます。
妲己害政
 中世の地獄絵の黒縄地獄の如く、炎の上の細い柱を渡らせられる人。
 落ちたら炎に焼かれる。それを鑑賞する妲己。なんとも悪趣味。

・車争図屏風
細かい人たちによって、屏風いっぱいに繰り広げられる大乱闘シーン。
何でこんな絵を屏風にして部屋に飾ろうと思ったんだろ・・・笑。


続いて狩野山雪です。
今回鑑賞して感じた山雪の特徴は以下3点。
細部へのこだわりが強い描き込み、大胆でエキセントリックな画面、
そして意外と可愛らしい動物たち。
このあたり、18世紀の蕭白・芦雪・若冲などに特徴が
受け継がれているようにも思いました。


・梅花遊禽図襖
本展では狩野山雪・山楽の合作となっています。
山雪が主体となって描き、山楽がサブ的に支えたのだとか。
右側から左に向かって伸びる梅の枝。
良いバランスで、好きな作品です。
その昔、プレヴィン(指揮者&ピアニスト)とNHK交響楽団が
テレビでモーツァルトのピアノ協奏曲24番を演奏したとき、
この絵の前で演奏していたような記憶があります。
確かにこの絵だったように思いますが、
どなたかご記憶のある方はおられないかな・・・?

・龍虎図
上記の山楽の壮大な龍虎図屏風と比べて、こちらは小さくてコミカルな龍虎図。
龍がマヌケな顔をしています。
虎の方も、猫がミルクを舐めるように、水を飲んでいます。
何やら可愛らしく、愛着が湧いてきます。

・竹虎図杉戸絵
こちらはまんまるく丸まった虎です。
やはり猫に見えます。

・松梟竹鶏図
ちょこんと木の上にとまるフクロウが特徴的です。
やたらと可愛らしい。

・猿猴図
これまた可愛いお猿です。
先日のこのブログでも登場した長谷川等伯の枯木猿猴図の猿と
同じような形態ですが、体毛の描き方に差が見られます。
山雪の方は、墨のにじみをうまく使ったような表現になっています。

・老梅図襖
メトロポリタン美術館からはるばる帰って来た作品で、
今回の展示のハイライトの1つと言っていい作品だと思います。
自分は実はこの作品を鑑賞するのも二度目、やはり2009年の妙心寺展で
見たことがあります。
おそらく山雪で一番有名な作品で、
自分も山雪というとまずこの作品を思い出します。
グニャグニャと・・・というよりカクカクと、奇妙にねじれた梅の枝。
ほとんど直角に曲がっています。
現実にはありえない形態で何とも不思議な絵ですが、
何やらものすごいパワーを感じる作品になってます。
大胆不敵、エキセントリックな山雪。

・蝦蟇鉄拐図(泉桶寺)
・群仙図襖
・蝦蟇鉄拐図(佐賀県立博物館)
蝦蟇仙人&鉄拐仙人が描かれた3作。
群仙図襖の方は、老梅図襖の裏側になっています。
やはり面白いのは、蝦蟇仙人&ガマです。
泉桶寺の方のガマ、体表のポチポチが印象的。
このポチポチの質感、蕭白の群仙図屏風のガマを思い出します。
メトロポリタンや佐賀県立博物館のガマは、さらっとした表皮の
シンプルなガマになっています。
泉桶寺とメトロポリタンの蝦蟇仙人は何だかマヌケな顔ですが(笑)、
佐賀県立博物館の方は凶悪な面構えです。
後の画家への影響や、山雪自身の描写の差異が面白いです。
鉄拐仙人の方は、佐賀県立博物館を除き、
鉄拐のシンボルである"呼気"の描写がありません。なんでやろ。
元絵は顔輝の蝦蟇鉄拐図でしょうか。
こちらは過去に京都国立博物館の常設展示でみたことがありますが、
顔輝の方はあまりデフォルメの要素は少なく、
仙人もガマもリアルに描かれていたような記憶があります。
それに比べて山雪はずっとデフォルメ度が高い。面白い作品です。

・長恨歌図巻
これまたすごい作品です。今回の展示のハイライトその2。
長恨歌(玄宗皇帝と楊貴妃の物語)を絵巻物に仕立て上げた作品ですが、
物凄く密度の高い描写になっています。すごい!
玄宗が楊貴妃に出会い恋に落ち、政治を放り出して色に耽る。
やがて起る安史の乱。楊貴妃は処刑され玄宗は追放される。
玄宗は楊貴妃が忘れられず、部下の方士に楊貴妃の魂の捜索を命じ、
方士は黄泉の国へ。
遠くアイルランドからはるばる帰って来た作品とのことです。
自分は近世の絵巻物が意外と好きです。
中世の絵巻物は、人物や動物の描写が大胆で生き生きとしており、
楽しい作品が多いですが、保存状態が良くなく、退色も激しい。
一方近世の絵巻物は、有名作品こそ少なく、人物の描写も形式的ですが、
保存状態が良いですし、丁寧な着色が心地よくて、
実物をのんびりと眺めているだけで楽しい。
しかしこの長恨歌図巻の密度の高さ、細部の装飾性、着色、
近世の絵巻物の中でも出色の出来栄えなのではないでしょうか。
これを眺めるだけでも、この展覧会に来る価値ありだと思います。

長恨歌図巻をぼんやり眺めていると、あっという間に閉館時間が
近づいてきました。残念なことに時間がない。
この展覧会は山雪が主体です。完全にペース配分を間違えた・・・。
というか、七条に来るまで寄り道しすぎた・・・笑。
なので、この後の山水画・人物画・仏教絵画は軽く鑑賞し、
一気にラストの部屋へ。

・龍虎図屏風
山楽の龍虎図屏風に比べ、やはり龍はマヌケな顔で、虎は大人しそうです。
お行儀のよい虎ですが、体表の描き方は山楽よりずっと細かいです。

・寒山拾得図
エキセントリックな怪僧、寒山&拾得。奇妙な風貌です。
キャプションが面白いです。
「拾得が寒山をじっと見つめ、寒山があなたをじっと見つめる」
みたいなことが書かれていました。怖い・・・笑。

・雪汀水禽図屏風
波の描写が面白いです。たくさんの線のかたまり。
そして渡り鳥の連続的な描写。
見方によっては、後の琳派のような同一物の反復描写のようにも見えますし、
連続的な描写が、鳥の運動の軌跡を現わしているようにも
(なんとなくマイブリッジの連続写真を思い出す)見えて来ます。
面白い作品です。

・蘭亭曲水図屏風
川のそばで酒盛りをする人たち。
お屋敷、木々、岩、どれも描写が楽しい。
そして長い画面、大パノラマです。
これまたじっと見ているだけで楽しい絵。


とういうことで、大変面白い展覧会でした。
おそらく後々語られることになる展覧会になるような気がします。
展示終了まで、まだ10日ほどありますので、近世京都画壇ファンの方は
迷ったらGO!、ぜひこの展覧会へ。