人間の秘めたるエネルギーと治癒の謎 | kyupinの日記 気が向けば更新

人間の秘めたるエネルギーと治癒の謎

ECTによる治療と回復過程」の続き。

僕は退院後、気が向いたらデイケアに参加してみたら?くらいに言っていた。彼女は1週間に1度のペースで参加することにしたようだ。

退院1週間目
今は元気です。料理もしています。授業参観にも行ってみた。学校で他の子のお母さんと話したりして気分転換になりました。夜は熟睡しています。今は皮膚も良いです。
今回、レキソタンもあまり必要にないように見えるので6mgに減量している。

レキソタン   6mg
ロヒプノール   2mg
エゾウコギ15ml


退院3週間目
特に変わりないです。近所の人に前に退院した時よりも元気だねと言われた。小学校の行事にも参加している。ドッジボール大会の応援に行きました。今は不安感はないです。エゾウコギがだいぶん減ってきました。

彼女は結局デイケアには3回しか参加しなかった。学校の行事に参加することが多く、レベル的に釣り合わなくなってきたこともあったと思う。外来通院は3週間目からは2週間ごとにした。

退院5週間目
あいかわらず元気です。子供の保護者会がありました。子供はあさってから夏休みです。昨日はデパートに行った。ロヒプノールは飲まなくても眠れるので飲んでいません。レキソタンは服用している。顔のアトピーは良くなっているが肘のところには少し残っています。今は疲れがない。でもレキソタンは飲むと眠いですね。生命保険の給付金も出ました。ありがとうございましたという。

かなり活動範囲も広くなってきた。レキソタンは1日2回服用でも良いと伝えた(1日4mg)

退院7週間目
あいかわらず調子はよい。頬のアトピーはほとんど消えた。レキソタンは2回でも大丈夫でした。先月末に叔父が亡くなってショックでした。ちょっと悪くなったけど、次第に良くなってきた。肘のアトピーは日に当たらなければ良いようです。プール当番に行った時は日に当たらないように気をつけている。体のきつさは今は良い。夏バテもないです。

レキソタン  4mg
エゾウコギ15ml


退院9週目
家では何でもできます。表情もとてもよい。肘のアトピーは徐々に改善しているという。エゾウコギでアトピーは良くなってきたように見える。今は車の運転もバリバリしています。家事をしなくてはいけないので気が張っている。退院後、体重が少し増えました。

退院11週目
今は気持ちの方は大丈夫です。昼はたまに眠いです。気が張っていたら眠さはなんとか良い。アトピーは4~5年前よりはずっと良い。風邪を全然引かない。夫から「元気ね」と言われた。1年以上お弁当を作っていなかったが、今はできます。仕事をしたい。1週間に2~3日の仕事が良いです。

退院13週目
子供のミニバレーの応援に行った。今は歯科にも通院している。子供が言うことを聞かないですね。前より反発します。最近はPTAの仕事を手伝っています。樹木のことをしている。気分はよいです。前よりはお昼も眠くない。体もきつくない。肘のアトピーはずいぶんと良くなった。「すぐに眠れるんですよね」と言う。エゾウコギは夜に1回だけです。お弁当も毎日作っています。

退院5ヶ月目
久しぶりに飲み会に行った。飲んだ日の翌日もきつくはなかったです。今のところ、肌はだいぶん良いです。例年、アトピーは冬に悪くなるので少しだけ心配。1週間前に少しめまいがしました。小学校のPTA活動は今もしている。参観日も必ず行っています。たまにだるい時は20~30分眠ると良くなります。

退院半年目(年末頃)
元気は良い。ニコニコしている。アトピーは少し乾燥するくらいであまり赤くならないです。気にしていません。もう半年良いです。

僕はこの頃まで、「症状精神病」と言う点で、彼女が既に完治していることに気がついていなかった。しかしエゾウコギはともかく、レキソタンは意味不明だし、どの程度、精神面に貢献しているかもわからない。この状態は既に完治していてもおかしくはないと思った。僕は薬物中止を考え始めたのである。

退院8ヶ月目
今は元気です。今日は授業参観に行ってきた。最近、子供が全員インフルエンザにかかったが、自分には移りませんでした。アトピーは頬はほぼ改善している。倦怠感も今はない。エゾウコギは1日1回15ccを水にうめて飲んでいます。
レキソタンは4mgを夕方1回にまとめて服用するように勧めた。1ヶ月に1回通院で良い伝える。

退院10ヶ月目
PTA活動で忙しい。よく学校に行きます。頬のアトピーは治っている。顔が白くなったと言う。肘は少し乾燥しますね。レキソタンは漸減し1日1mgとした。エゾウコギは飲んでおいた方が良いと伝えた。

レキソタン 1mg
エゾウコギ15ml


退院11ヶ月目
今、小学校のPTAの役員をしている。母がリウマチで世話をしているが、全然きつさはありません。薬を減らしても何も変わらなかった。頬にはアトピーの跡は残っていない。肘は日によっては痒い時があると言う。ケーキ屋さんにアルバイトに行くつもりという。

退院1年目
レキソタンを中止するように言う。エゾウコギは何ヶ月かは飲んでおいたらと伝えた。

この日をもって、カルテの記載は終わっている。

病院での治療は終了したのである。彼女はその後3ヶ月くらいはエゾウコギを服用していたようである。その後、エゾウコギも中止している。(当時、数ヶ月に一度挨拶に来院されたのでわかる)彼女は初診後、約2年で完治したのである。

まとめ
彼女はきわめて活発な人で非定型精神病の性格傾向に近かった。社会へのかかわり方が積極的なのである(参考)。その後の彼女の様子だが、病院の近所に住んでいるので、うちの病院の看護師さんがよく知っている。小学校のPTA会などでよく一緒になるからである。今もPTA活動に積極的に参加しているらしい。

ECTの時、「えっー」と思ったと言う看護師さんが最近、彼女にマーケットで出会ったという。その看護師さんの話では、「あの時は○○病院の皆さんには本当にお世話になりました」と言い、涙をこぼして感謝されたらしい。入院後もう数年経っていてこんな感じなので、症状精神病エピソードとしてはどうみても完治であろう。

なぜ完治になったかだが、いろいろな考え方があると思うが、僕はこのように考えている。症状性の場合、元の身体疾患(アトピー、免疫疾患、肺炎、種々の癌など)が発生すると神経毒性を持つ謎の物質が産生される。これは脳の神経システム以外にはあまり毒性を持たない。もちろん、これは僕のイメージであり自信を持って言っているわけではないし、わかりやすく考えるためのイラスト的発想だ。

このような神経毒性物質は、僕は特に肺疾患のケースで強くそれを感じる。その肺疾患とは、肺炎、COPD、肺癌、胸郭出口症候群などである。胸郭出口症候群は肺というよりむしろ整形外科的疾患とも言えると思うが。整形外科的疾患のうち、特に関節系疾患はなぜかわりあい症状精神病が出現しやすいと思う。これについては精神科サプリメントのSAMeなどの向精神作用もそれと関係が深い。SAMeを調べていくと、謎が解けるかもしれない。(参考

このような何かはっきりした身体疾患から派生する症状性精神病状態を改善するためには2つしか方法はない。

① 身体疾患を完治させる。
肺炎などの感染症なら簡単にできるが、そうもいかない疾患も多数。精神科の専門書を読むと阿呆のようにまず身体疾患を治療すべきと書かれているが、バカじゃないかと思う。これが治らない疾患なら、「あんたは治らない」と言っていると同じじゃんと言いたい。


② 謎の神経毒性物質の脳の反応性を変える。
現実的にはこの方法が良いと思われる。アトピー、リウマチ、膠原病などは元の疾患が大物なので、もし謎の毒性物質があるとして、それが消失するなんてことは難しい。だから受け手の脳の反応性を変える治療法である。


彼女の場合、アトピーがいくらか改善したこともあるが、ECTを契機として脳神経の反応性が劇的に変化したため、エゾウコギの中止後も再発せず完治になったと思われる。これは僕は必ずしもECTなどのドラスティックな方法を採らなくても可能と考えている。(過去ログのこの人

このように脳神経の反応性を変える物質ないし手法は僕はいくつか発見している。そのうちの2つがECTとエゾウコギである。他の方法は長くなるのでいつか今回のようなシリーズでアップしたい。脳神経の反応性が変わるからこそ薬物を完全中止しても再発もない(治癒に至る)し、そういう方法だからこそ、精神症状の内容がどうだからというのがないのである。

エゾウコギが免疫疾患に限らず精神疾患全般になにがしかのプラスの作用を及ぼすのは、神経細胞をリフレッシュし、向精神薬に対する反応性を変えるからだ。たぶん2つの側面があり、それ自体の抗精神病作用と、神経細胞の薬物の反応性を活性化するからに違いない。だからこそ、エゾウコギを服用後、相対的に薬が多すぎるような感じになるのだろう。これについては読者のこれのさんのブログのコメント欄で少し触れている。

このブログは精神科医のブログなのに、心理の話があまり出てこない。なぜなら、僕の精神科治療はそれ以前の根本的な生物学的側面の治療に主眼を置いているからだ。

彼女に限れば、特殊なケースで精神症状の展開的にこういう方法を採らざるを得なかった。僕は彼女の症状の理解や治療について、最初から最後まで大きな見落としやミスがほとんどなかったと思っている。

亜昏迷や昏迷はもともと器質性疾患で出現しやすい。もちろん統合失調症の急性期や急性増悪期、うつ病(躁うつ病)の極期、非定型精神病の増悪期にも出現しうる。これはたぶん、これらの内因性疾患の増悪期には脳の急性~慢性炎症が生じているからであろう。だから急性期において亜昏迷や昏迷を呈するような局面には内因性でも器質性色彩が出てくるのだと思う。これは、このような昏迷に限らず、幻覚妄想のクオリティについてもそうである(参考)。

統合失調症の慢性炎症が、いわゆる脳膿瘍や腫瘍のようなものによって生じる炎症との相違点は可逆的な点である。

統合失調症による慢性炎症は、それが止まると元に戻る範囲が意外に広いのである。もちろん何十年も患っている場合は、非可逆的になっているケースももちろんある。しかし30年クラスでもほとんど痕跡も残さず軽快するケースもあるので、回復の期待値みたいなものは見た目以上に高い。

僕は精神科医になって以来、特に治療パフォーマンスが良かったと思う人を5名挙げるとしたら、彼女もぜひ挙げたい。なぜなら、彼女の治療には僕の精神科医としての臨床経験のすべてがあるからである。(参考1参考2参考3

余談だが、過去の特にパフォーマンスが良かった5人を挙げてみると(順不同)

アトピーによる精神病状態
3人目の女性患者
育児ストレスによる精神病状態
双極2型の激鬱とECT
激うつ、パニック、慢性疲労の人


上のうち、①④⑤の人はECTを実施している。だからいつかも書いたことがあるが、ECTという治療法を否定してしまうと、すべての難解な人を治療するのことが少し難しくなるように思うのである。

ところが、最近、この5人を遥かに凌駕する人が現れた。これはとても長くなるので、いつかまとめて今回のような連載でアップしたい。できれば1年以内に。

参考
①アトピーによる精神病状態
②混沌
③泥沼化
④死生命あり、富貴天にあり
⑤ECTによる治療と回復過程
⑥人間の秘めたるエネルギーと治癒の謎


(これで「アトピーによる精神病状態」の話は終わりです)