電撃療法と統合失調症 | kyupinの日記 気が向けば更新

電撃療法と統合失調症

電撃療法は、うつ状態、特に放っておいたら自殺でもしかねない人には非常に有効である。その他、うつ病による昏迷、躁鬱混合状態や、非定型精神病の夢幻様状態にもきわめて有効と思う。

自殺のリスクが非常に高まっている時、そういう治療に逡巡して、死なれたら相当に悔いが残る。普通、自殺念慮は、ちゃんと治療しておれば一生のうちでも一時的なものだからだ。ただ、うつ状態の酷い希死念慮以外のケースでは、それで直接死ぬわけではないので電撃療法は決してしないという方針は理解できる。

電撃療法はエビデンスもある治療法なのに、患者さんならまだわかるが、精神科医の一部の人まで絶対しないほうが良いと真面目に言っている人がいることは、僕にとって謎なのである。これは電撃療法を見たことがないか、あるいは失敗した例を経験してトラウマになっているのかもしれない。

僕は、基本的に統合失調症にはあまり電撃療法をかけない。なぜなら相性があまり良くないと思うから。特に統合失調症の若い人にはもう長いことかけていないし、今後もかけたくない。基本的に、幻覚妄想を電撃療法で止めようという発想に無理があると思う。(効くのは効くわけだけど)

統合失調症で電撃療法をかける価値があると思える病態は、緊張病症候群に至り、薬は飲まない、食事は摂らない、水も飲まない、点滴もさせないような時。これは非常に電撃療法の効果があるパターンだし、このまま放置もできない。こんな状況で、薬物療法で無理に治療しようとすると、悪性症候群になりやすいのである。電撃療法は食欲を出すし、また悪性症候群を防ぐので治療としてバランスがとれている。もともと悪性症候群に電撃療法は有効なのである。

しかし、実際はこのような病態でさえ、精神科医の裁量では電撃療法は行えない。本人には話してもわからない状態なので、家族に必要性を説明し了解を受けないといけない。もし家族が同意しない場合には、仕方がないのでそれ以外の方法でなんとかするしかない。これは周囲もすごくエネルギーを使うし、だいたい患者本人が一番大変だと思う。

上記のような緊張病症候群を起こしやすい病型は「緊張型」だが、この病型なら欠陥症状もあまり残らないように見える。破瓜型の統合失調症の場合、電撃療法をしないと仕方がないという局面もあまりないのだけど、僕は基本的にかけない。なぜなら、こういう病型に電撃療法を行うと、なんとなく病気が進行してしまうように見えることがあるから。すべてではないけど。

若い患者で発病してまだ2ヶ月ほどなのに、電撃療法をしたために、陰性症状が5年分くらい進行してしまったように見えることがある。へラっとした感じになり、深刻味がなくなり、精神が薄っぺらになったように感じる。まぁ幻聴もなくなり落ち着きはするが、これでは良くなっていることにならない。周囲が手がかからなくなるだけだ。

この病状変化は、かつて業界語で「ヘベる」と呼ばれた。「ヘベる」のうち「ヘベ」まではカタカナで、ヘベフレニー(破瓜型統合失調症)に由来しているのである。かつては、この病状もある意味、治療状態と見なされていたように思う。しかし、現在では治療に失敗していることに他ならない。

統合失調症のすべての病型は時間が経つと、なんとなく破瓜型っぽくなるので、なおさら統合失調症にはかけにくい。もちろん、破瓜型でもあまり変化が見えない人も多い。しかしそんな人であるかどうか、実施前にはわからないのだ。そんなこともあり、長く幻聴が続いている場合でも、電撃療法は選択枝にはあまり上がってこないのである。

統合失調症以外の疾患、例えばうつ病や非定型精神病では、こういう変化がほとんどないのでデメリットがないように見える。統合失調症で希死念慮が強い人は、これはうつ病に親和性が深いわけで、もし破瓜型だったとしてもあまり崩れない傾向がある。一般の人にも電撃療法がベストに近いと思える病態があるのを知っておいてほしい。

参考
3人目の女性患者
カッコーの巣の上で
うつ病と自殺
去年の患者さん
外来の電撃療法(その2)