「Ironbottom Sound(アイアンボトム・サウンド)」には、駆逐艦「夕立」の他にも多くの艦船が沈んでおり、その中でも日本側艦船の海底写真が存在するものとしては駆逐艦「綾波」が挙げられます。

 

駆逐艦・綾波の前部砲塔部分

 

綾波の艦尾砲塔部分

 

「あ」の文字が確認できる船体


これらの海底写真は、米国の海洋考古学者ロバート・D・バラード氏の著書「ガダルカナル」に掲載されています。「タイタニック号」やドイツの戦艦「ビスマルク」の発見で有名な同氏は、1992年の夏にアイアンボトム・サウンドの日米双方の沈没した軍艦を調査して、この海域の激戦の全貌を同著で明らかにしました。

駆逐艦・綾波は特型駆逐艦(吹雪型)の11番艦として1930(昭和5)年に竣工しました。ただし、実際は吹雪型(特Ⅰ型)の改良艦である為、綾波型(特Ⅱ型)の1番艦とする分類もあるようです。

 

駆逐艦・綾波 (Wikipediaより)


第3次ソロモン海戦の第一夜戦で阿修羅のような働きをしたのが夕立ならば、第二夜戦で鬼神のごとく活躍をしたのがこの綾波でした。様々な偶発的事情により、単艦で米・戦艦2、駆逐艦4を相手にしながら、敵・駆逐艦2撃沈、1炎上、戦艦1を一時戦闘不能にするという大きな働きをしています。
あまりにも劣勢の中での単艦突入でこれだけの戦果をあげた以上、当然自身も大きなダメージを受けて艦上は被弾炎上するものの、生存者が僚艦に救助されるまで持ちこたえ、やがて乗員救出を見届けるかのように沈没していきました。

前回記事の「夕立」やこの「綾波」が戦った第3次ソロモン海戦は、戦艦2を日本が失うものの、喪失艦艇数は米国の方が上回っており、海戦自体はほぼ互角の戦いでした。しかし本来の目的であったガダルカナル島への増援を日本は完全阻止され、戦略的には米国の勝利に終わっています。
もっとも、夕立や綾波の活躍を見ると、日本海軍はこの頃まで実に互角以上の戦いをしている事が良く分かります。
結局、大消耗戦となったガダルカナル海域の戦い以降、艦船喪失を補填できる工業力の差がそのまま日米双方の戦力差となって現れ、日本は次第に追い詰められていくのです。
 

 

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