※岩波文庫「古事記」を参考に書いています。
前回は「【古事記】第十九回 スサノオの大蛇退治2」でした。
有名な因幡の白兎です。
●稲羽の素兎
□原文
故、此大國主神之兄弟、八十神坐。然皆國者、避於大國主神。所以避者、其八十神、各有下欲婚稻羽之八上比賣之心、共行稻羽時、於大穴牟遲神負帒、爲從者率往。於是到氣多之前時、裸菟伏也。爾八十神謂其菟云、汝將爲者、浴此海鹽、當風吹而、伏高山尾上。故、其菟從八十神之教而伏。爾其鹽隨乾、其身皮悉風見吹拆。故、痛苦泣伏者、最後之來大穴牟遲神、見其菟言、何由汝泣伏。菟答言、僕在淤岐嶋、雖欲度此地、無度因。故、欺海和迩【此二字以音。下效此】言、吾與汝竸、欲計族之多少。故、汝者隨其族在悉率來、自此嶋至于氣多前、皆列伏度。爾吾蹈其上、走乍讀度。於是知與吾族孰多。如此言者、見欺而列伏之時、吾蹈其上、讀度來、今將下地時、吾云、汝者我見欺言竟、卽伏最端和邇、捕我捕我悉剥我衣服。因此泣患者、先行八十神之命以、誨告浴海鹽、當風伏。故、爲如教者、我身悉傷。於是大穴牟遲神、教告其菟、今急往此水門、以水洗汝身、即取其水門之蒲黄、敷散而、輾轉其上者、汝身如本膚必差。故、爲如教、其身如本也。此稻羽之素菟者也。於今者謂菟神也。故、其菟白大穴牟遲神、此八十神者、必不得八上比賣。雖負帒汝命獲之。
◆訓み下し文
故(かれ)、此の大国主神の兄弟(あにおと)、八十神坐(ま)しき。然れども皆国は大国主神に避りき。避りし所以は、其の八十神、各稲羽の八上比売(やがみひめ)を婚(よば)はむの心有りて、共に稲羽に行きし時、大穴牟遅(おほなむぢの)神に袋を負(おほ)せ、従者(ともびと)と為(し)て率(ゐ)て往きき。是に気多(けた)の前(さき)に到りし時、裸(あかはだ)の菟(うさぎ)伏せりき。爾に八十神、其の菟に謂ひけらく、「汝(なれ)為(せ)むは、此の海塩(うしほ)を浴(あ)み、風の吹くに当りて、高山の尾の上(へ)に伏せれ。」といひき。故、其の菟、八十神の教に従ひて伏しき。爾に其の塩乾く随(まにま)に、其の身の皮悉(ことごと)に風に吹き拆(さ)かえき。故、痛み苦しみて泣き伏せれば、最後(いやはて)に来りし大穴牟遅神、其の菟を見て、「何由(なにしか)も汝(な)は泣き伏せる。」と言ひしに、菟答へ言(まを)しけらく、「僕(われ)淤岐(おき)の島に在りて、此の地に度(わた)らむとすれども、度らむ因(よし)無かりき。故、海の和邇を欺きて言ひけらく『吾(あ)と汝を競べて、族(うがら)の多き少なきを計(かぞ)へてむ。故、汝は其の族の在りの随に、悉に率(ゐ)て来て、此の島より気多の前まで、皆列(な)み伏し度れ。爾に吾其の上を蹈(ふ)みて、走りつつ読み度らむ。是に吾が族と熟(いづ)れか多きを知らむ。』といひき。如此(かく)言ひしかば、欺かえて列み伏せりし時、吾其の上を蹈みて、読み度り来て、今地(つち)に下りむとせし時、吾云ひけらく、『汝は我に欺かえつ。』と言ひ竟(を)はる即ち。最端(いやはし)に伏せりし和邇、我を捕へて悉に我が衣服(きもの)を剥ぎき。此れに因りて泣き患(うれ)ひしかば、先に行きし八十神の命以ちて『海塩を浴み、風に当りて伏せれ。』と誨(をし)へ告りき。故、教の如く為しかば、我が身悉に傷(そこな)はえつ。」とまをしき。是に大穴牟遅神、其の菟に教へ告りたまひけらく、「今急(すみや)かに此の水門(みなと)に往き、水を以ちて汝が身を洗ひて、即ち其の水門の蒲黄(かまのはな)を取りて、敷き散らして、其の上に輾転(こいまろ)べば、汝が身本(もと)の膚の如、必ず差(い)えむ。」とのりたまひき。故、教の如為(ごとせ)しに、其の身本の如くなりき。此れ稲羽の素菟(しろうさぎ)なり。今者に菟神と謂ふ。故、其の菟、大穴牟遅(おほなむぢの)神に白ししく、「此の八十神は、必ず八上比売を得じ。帒を負へども、汝命(いましみこと)獲たまはむ。」とまをしき。
・大国主神の兄弟―異母兄弟。
・八十神―多くの神々。
・稲羽―因幡国。
・八上比売―因幡国八頭郡八上の地に因んだ名。
・袋を負せ―旅行用具を入れた袋。
・氣多の前―気高郡にある岬。
・海鹽―海水。
・淤岐の島―隠岐国のことか。
・海の鮫―鮫を出雲の方言でワニと言った。
・読み―数え。
・水門―河口。
・水―淡水。海水に対して。
・蒲黄―蒲の花粉。
・輾転―寝帰りして転がれば。
・素菟―はだかの兎の意か。白兎の意の説も。
■現代語訳
大国主神には大勢の兄弟がいました。しかし皆、葦原中国を大国主神に譲りまた。譲った訳はその大勢の神々が因幡国の八上比売に求婚しようと、共に因幡へ向かった時、大穴牟遅神に旅の荷物を背負わせ、まるで従者のように連れて行きました。さてその神々が気多の岬についた時、毛をむしり取られたの兎がふせっていました。大勢の神々は兎に向かって、「お前がすべき事は、海水を浴びて、良く風に当たって、高山の頂上で伏せることだ。」と言いました。兎は八十神の教えに従って伏せていた。するとその海水が乾くにつれ、身の皮が風に吹かれ裂けてしまった。痛み苦しんで泣いて伏せていると、最後に来た大穴牟遅神に、「何故お前は泣き伏せているのか。」と尋ねられ、兎は、「私は沖の島(or隠岐の島)に住んでいて、この地に渡ろうと思いましたが、渡る手段がありません。そこで和邇を騙し、『我々と君達のどちらの同族が多いか少ないか競おうじゃないか。君達は同族をできるだけ連れてきて、此の島から気多の岬まで、一列に並んでくれ。そして僕がその上を踏んで、走りながら数を数えて渡って行くよ。これでどちらの同族が多いか解るだろう。』と言ったのです。うまく欺き和邇を一列に並べ、その上を踏み数えながら渡ってきて、ちょうど地上に降りようとした時、『君達は僕に騙されたのさ。』と言終わるやいなや、一番端にいた和邇に捕らえられ、毛皮を剥がされてしまったのです。そうして泣いいた時、先に行かれた八十神に『海水を浴び、風に当たって伏せていろ。』と教えられたのです。なので教えの如くすると、私の身はことごとく傷ついてしまいました。」と答えました。
大穴牟遅神はその兎に、「今すぐ、そこの河口に行って、真水でその身を洗って、すぐその河口にある蒲黄の花粉を取って、敷き散らして、その上に転げ回れば、お前の身は元の膚のように、必ず癒えるだろう。」と仰せになりました。その教えの通りにすると、身は元のようになりましたた。これが稲羽の素菟で、後に菟神と言われてます。
その兎、大穴牟遅神に向かって、「八十神は、八上比売を得ることはできないでしょう。帒を背負い従者のようにあつかわれていらっしゃいますが、あなた様こそ得られるお方です。」と言いました。
【古事記】第一回 別天つ神五柱
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【古事記】第五回 大八島の生成
【古事記】第六回 神々の生成
【古事記】第七回 火神被殺
【古事記】第八回 黄泉の国1
【古事記】第九回 黄泉の国2
【古事記】第十回 禊祓と神々の化生
【古事記】第十一回 三貴子の分治
【古事記】第十二回 須佐之男命の涕泣
【古事記】第十三回 須佐之男命の昇天
【古事記】第十四回 天の安の河の誓約
【古事記】第十五回 須佐之男命の勝さび
【古事記】第十六回 天の岩屋戸
【古事記】第十七回 五穀の起源
【古事記】第十八回 スサノオの大蛇退治1
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