年代 |
作曲 |
作詞 |
1820年
文政3年 |
三代目
杵屋佐吉 |
二代目
桜田治助 |
文政三年九月。江戸中村座では三代目坂東三津五郎大阪上りお名残公演が開催されていた。演目は『一谷嫩軍記』。その二番目大切は『月雪花残文台』という三津五郎お得意の七変化舞踊。その中の一つが『まかしょ』である。『まかしょ』は俗称で正式名称は『寒行雪姿見』という題名である。
七変化全盛期。当時、この坂東三津五郎と中村歌右衛門はライバル関係にあって、この二人は多くの七変化舞踊を発表した。いやいや、贅沢な舞台ですよ。綺麗なお姫様が急に厳つい男性に変身したりして。
この『月雪花残文台』は月と雪と花の構成。脚本は桜田治助。長唄は杵屋佐吉で、清元は清澤満吉が作曲した。
振り付けは藤間勘兵衛・市山七十郎。
①長唄『浪枕月浅妻』→現在は『浅妻船』という題名で親しまれている。
上段、一番左の絵がこの演目の絵のようです。
②清元『玉兎月影勝』→現在、『玉兎』として親しまれている。
上段右の絵。美しい遊女が粋な兄さんに変身。吃驚仰天です。
③長唄と清元の掛け合い『狂乱雪空解』
中段左の絵。いなせな兄さんから物思いの病の若侍に変身。男性から男性なので吃驚度はちょっと♪
④長唄『猩々雪酔覚』
残念ながら絵が見つからなかったけれど、、、前の演目の絵に小さく描かれている。
狂乱の若侍から、赤毛の猩々に変身。これは吃驚ですね。
⑤長唄『寒行雪姿見』→現在、俗称の『まかしょ』で親しまれています。
赤の装束から、真白に変身。これが好評だったらしいです。中段の右の絵。
⑥富本節『女扇花文箱』
願人坊主から綺麗な御殿女中に変身。これも吃驚でしょうね。下段左の絵。
⑦長唄『恋奴花供待』
またまた、綺麗なお女中から男臭い奴さんに変身。俗称『うかれ奴』といわれているらしいです。下段右の絵。
さて、『まかしょ』の主人公は願人坊主。願人坊主とは市中を徘徊し、門付などをしてセールス。他人に代わって祈願したり水垢離をしたりする乞食坊主の事です。
江戸末期という時代背景が反映され、大変、退廃的な作品である。ふざけていて、ちょっとエッチで。
しかし、曲調が軽妙でケレン物の面白さが優れている作品という事から、今もオーソドックスな長唄として親しまれている。
投げ節とか、そそり節とか、阿呆陀羅経などが曲に用いられている。
投げ節とかそそり節というのは、江戸後期の流行歌、いわゆる俗謡というやつである。七七七五調で詞が構成されている。
投げ節は島原の柏屋又十郎が抱えた引舟女郎の河内が唄いはじめたものらしい。弄斎節から発展したものらしい。弄斎節というのは、僧の弄斎という人が隆達節に創作を加えて三味線伴奏付きの歌謡にしたものだという。江戸時代初期のもので最も古い詞章なのだそうだ。京都の島原で流行して、江戸に入ってくる。江戸弄斎から投げ節が生まれたとも言われている。
そそり節というのは、遊里をひやかし歩きながら客が口ずさみながら歌ったとされる流行歌だそうです。どういうものかはちょっと不明。
阿呆陀羅経というのは、願人坊主が銭や米を乞うために,門付けして歩いた話芸である。本来は小さい木魚を手に合いの手を入れながら語るものらしいが、のちのち寄席芸に発展。寄席では三味線で合いの手が入って語るという形になったようだ。
三代目坂東三津五郎は、この作品以前にも
文化八年(1811年)に常磐津『願人坊主』を踊っている。『願人坊主』は『七枚続花姿絵』という作品の中の一つで長唄の『汐汲』など入った七変化舞踊です。作者は二代目桜田治助。きっと、この作品が好評だったので、またまた願人坊主が主人公の『まかしょ』を書いたのではないでしょうか。なんて、これは私の想像で根拠はありません。
ちなみに、この常磐津『願人坊主』はのちのち六代目尾上菊五郎によって常磐津『浮かれ坊主』と題名を変えて再演された。『七枚続花姿絵』では猿回しから願人坊主に変身だったようですが、この再演以降は『羽根の禿』の禿から願人坊主への変身という演出が多いらしいです。
七変化舞踊。一つの人物が思いがけない人物に大変身。これが七役も楽しめるのですから、お得な演目ですね。猩々から願人坊主も驚きますが、可愛い禿からほとんど裸に近い状態の願人坊主の変身は意外性があって吃驚ですね。
そういえば、歌詞を読んで思ったのですが・・・
今も昔も変わらないですね。
時々見かける「セールスお断り」のシール。
この時代にも「無用の札」なるものが入口にぶら下がっていたりしたのですね。
「セールスお断り」のシールも見えないふりをして、色々な営業の人がピンポーンしてきますが、いやいや、当時の営業の皆様も「無用の札もなんのその」。今も昔も変わらない風景だなあと感じました。
二十代の時に外回りの営業のアルバイトをしたことがあるので、ついつい変な事に関心しちゃいました。
【参考】
絵は
演劇博物館浮世絵閲覧システム
からお借りしました。