小説 火の鳥 大地編 (8) 七章 「広島」完結 作:桜庭一樹 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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                             終章 超あらすじ


小説 火の鳥  作 :桜庭 一樹 画:黒田 征太郎
             原作:手塚 治虫
   連載期間:2019/4/6 ~ 2020/9/26

 

感想
要造の告白が延々と続いた四章が終わってからは、五、六章を6連載分でスッ飛ばし、何かイヤな予感がしていたが、アッという間にドラマが終わってしまった。
超ざっくりと全ストーリーを振り返ると
導入部の「火の鳥調査隊」結成から

  タクラマカン砂漠に着くまで   
メンバーを殺そうとしたマリアの告白  
鳥の首を使って歴史改変をして来た

  三田村要造の告白    
鳥の首争奪と太平洋戦争繰り返し

  →原爆投下で火の鳥は復活し空に戻る   8
こんな感じか。

序盤は手塚の遺稿に準じて話がすすんでいる。
だがそこで書かれていた「火の鳥の血に含まれる未知のホルモン」の話は単に枕言葉として書かれただけであり、基本ストーリーは、ちょん切った首を使っての「時間巻き戻し」に終始した。
火の鳥と愚かな人間との関係、というマクロな括りの中では、それなりに「火の鳥」が描かれていると言っていいだろう。
例えばマンガ「火の鳥」の「望郷編」では
若い二人が悪徳不動産屋から辺境の星「エデン17」を買って移住するのだが、紆余曲折を乗り越えて星を繁栄させるものの、結局元の不毛の星に戻るという話。
要は、持って行きかたの「センス」の問題かな?
そういう意味から言えば「鋼鉄鳥人形」が出て来た時点で「アウト!」

だったんだろうなァ・・・
まあそれを割り引いたとしても、③の、要造の告白に10ケ月もかけたのが、ペース配分を間違えたという事か。
この事で、一般読者が完全に離れてしまった。

ワタシみたいにしつこく付き合った読者なんて1%もいないだろう。

週一の連載でこんな事やってたんでは、そらー強制終了だわな。
この小説で共感出来たと言えば三田村要造が「60回」の時に山本五十六の死を前にして言い、今回猿田博士がマリアのミイラに別れを告げる時に言った「人間とは記憶だ」の一言。
この長すぎるエピソードの流れの全てを記憶しているのは、結局猿田博士ただ一人。これが鳥の首と対をなすキーワードだった。

最後に残したから猿田博士の、マリアに対する愛情(というか恋情)もテーマの一つだったのかな。

レビューもこれが最後なので、手塚治虫の残した原稿全文を以下に・・・ (桜庭クンも、まあ良くがんばった・・・・)
序章 タクラマカン砂漠の一角。果てしない荒野。さまよう猿田博士。
第一幕
昭和13(1938)年1月、日中戦争の勝利に湧く上海。
西安路にある一流クラブ。日本軍幹部将校、財閥、各国総領事夫妻などの大夜会。ダンス、スィング・ジャズが流れる。
中に将校達にまじって将来を保証されている関東軍司令部づき副官、間久部緑郎少佐。スキのない美男子。殊に三田村財閥の会長三田村要造の愛嬢麗奈と一年前結ばれてからは異例の出世。
だが早くも我儘で緑郎を見下そうとする麗奈と、ある謎の女性に心が惹かれている緑郎との間には深い溝が出来ている。
さんざめく夜会の中に、かつて大学の恩師で今は大東亜共栄圏資源開発庁の研究センターに籍をおいている猿田博士が間久部緑郎と密談。
猿田博士は中国の遥かな西域、タクラマカン砂漠の中に「さまよう湖」があり、そこに火の鳥と呼ばれる伝説の鳥が実在し、その鳥の血には驚くべき未知のホルモンが含有されていて、その湖周辺の動植物と、住民に強い影響--長寿、活力など--を与え続けていることが調査で判明したと打明け、皇軍の士気高揚に是非必要と云う。
大本営付犬山元帥、向内大将が現われ、極秘裡に現地へ調査隊--火の鳥の捕獲--のための隊長に間久部緑郎が任命されることを告げる。感動する間久部。

これが成功すれば彼は一躍世紀の英雄になれるのだ。
一行の帰ったあと、憲兵隊司令官西宮少佐が、八路軍の便衣隊数名を捕えたが中に日本人でどうも間久部少佐の血縁続きの者がいるようだと耳打ちする。

クラブの裏口で、その男に会う間久部。果して、男は間久部の弟間久部正人である。緑郎はこの男はたしかに自分の弟で、間違って捕えられたのだと釈明する。正人は放免される。

あらすじ
[66]「十七回目の世界が始まっている」 2020/8/29
・・・途中から
七章 広島
1937年12月の満州国指令官室。戦局について口論する東條英機と石原莞爾。続行を主張する東條に対し、無茶な進軍を否定する石原。
同じ頃、鳥の首の記憶を失った三田村要造と、娘婿の緑郎がレストランで談笑している。同席する、仕事のパートナーの道頓堀鬼瓦。
山本五十六海軍次官の一団が来るのを見て直立する緑郎。
 

上海、フランス租界の阿片窟で目覚めた芳子。

約5年時が巻き戻った事を理解する。
ふらつきながら外に出ると、義兄の三田村硝子と歩く緑郎にぶつかる。芳子だとは理解しているが、緑郎に前の記憶はない様だ。
鳥の首を手に入れ、今度こそ清王朝を復興させる、とタクラマカン砂漠に旅立つ芳子。
フランス租界のダンスホールで激しく踊る麗奈。

南京陥落で、日本人客が乾杯を繰り返す。
今が十七回目の世界だとは、誰も知らない・・・前の世界で夫を殺した、とソファーに突っ伏して泣き出す麗奈。


[67]「砂漠の佳人よ!さらばじゃーっ」 2020/9/5
南満州鉄道の車内にいる猿田博士。時が巻き戻った時には満州国にいたため、上海にいる麗奈に会おうと思っていた。
だが歴史改変を企む者たちへの恐れが沸き上がり、旅の手配をしてタクラマカン砂漠に向かった。
楼蘭王国でマリアと再会する猿田博士。

彼女は前の記憶を失い、永遠の一日を繰り返していた。

マリアが経験した長い、長い話を伝える博士。
マリアは祭壇にある鳥の首を博士に託した。

一緒に行かないかとの誘いに、ここで消えると言うマリア。
博士が出るとマリア、楼蘭王国とも砂塵と化した。
タクラマカン砂漠を歩きながら猿田博士が叫ぶ。「逃げろっ、世界!

 

上海の三田村家。一族の豪華な昼食会。

要造は不気味さを失くし緑郎、硝子も楽し気に談笑。
そこの庭先に現れた猿田博士。見つけた麗奈が慌てて走り寄る。
ボロボロになった鳥の首を託す博士。

隠すつもりで持って来たが、心が変わってしまった。

設計図を知っている自分がその力を使おうとするのが怖い。
博士の異変で部屋に逃げ戻った麗奈は緑郎に、しばらく上海を離れたいと申し出る。
博士は通りに出て歩き出す。鳥の首を持つ者は欲望に捉われる・・・



大日本帝国は1941年12月8日、真珠湾攻撃により開戦を宣言。

大東亜戦争が始まった。麗奈を探す川島芳子。

また猿田博士も、再び鳥の首を求めて麗奈を探していた。
最初の半年は快進撃だったが、各戦地で負け始めた日本。

1943年、山本五十六がソロモン諸島上空で撃墜され戦死。
三田村要造も病没。新京から長女の汐風が夫婦で駆け付けた。


[68]「誰にも鳥の首を渡すな!」 2020/9/12
通夜の席で、泣きながら浪曲を唄う道頓堀鬼瓦。別れに涙する汐風。旧い友 田辺保が声をかけ、森漣太郎も内地から連絡を入れた。
三田村財閥は長男の硝子が継ぐという。麗奈は姿を見せない。
負け続ける日本。イタリアは既に降伏。

そんな時に鳳凰機関の噂が立ち始める。
東條英機もそれに注目。

要造の妻夕顔が持っていた能力と、その娘麗奈の不在。麗奈探しを命じる日本軍の暗号を米ソも解読し、彼女の捜索を始めた。
日本軍は麗奈の夫緑郎を呼び出すが、知らないと突っぱねる緑郎。

同じ頃、大阪の間久部本家で鰻屋を営む、緑郎の叔父である老人が麗奈を匿っていた。
訳も分からず緑郎に頼まれた。そこへ青年団員が訪ねて来て、間久部正人の招集令状を渡した。
数週間後上海で、届いた赤紙を見る正人。

不在のルイに手紙を書く正人。
数日後、ボス黄金栄の任務から帰ったルイは、正人からの置手紙を読む。泣き崩れるルイだが、そこに書いてあった、川島芳子が何度も訪ねて来た事に首をかしげる。

疎開のため、旧友 森漣太郎を訪ねる田辺保。

だが森宅では末の孫がルソン島で特攻兵として戦死した報を受けていた。雄大な山々を見ながら嘆く保。
南太平洋の島で、米軍に特攻を仕掛ける緑郎。

正人がこの島に派遣されていると聞いても、それどころではない。
敵の砲弾を受けて緑郎の右腕が飛ばされた。次第に体力を失う中、米兵がやって来てとどめを刺そうとするが、そこに傷だらけの正人が姿を現す。兄さんには僕がいるから大丈夫だって!
--ズサッ! 鈍い音を立て、正人の体に銃剣が突き刺さる。
「ま、まさっ・・・・」緑郎は声にならない悲鳴を上げ、気を失った。

1945年3月。東京では空襲が相次ぎ、大阪も被災。

8月初めに日系人が麗奈を探しに来たが、老人が追い払った。

鳥の首を抱きしめる麗奈。
数日後、そんな麗奈を訪れる猿田博士。米、ソからも狙われる麗奈に、自分も含め絶対に首を渡すなと叫ぶ博士。
今の世界は1938年以降、改変されなかった十五回目の世界とほぼ同じ道を辿っており、今を「干渉されなかった世界」として、これ以上の改変を止めなくてはならないと言う博士。
この先鳥の首が持つ未知のエネルギーから、最終兵器が発明されるかも知れない・・・
「でも私は弱い女だし、無理よ」


[69]「あたしの手に世界の命運がかかってる」 2020/9/19
あんたは別の世界で間久部少佐を見事に殺し、ここまで逃げ続けた、と言う猿田博士にも、言われた通りに動いただけと自信がない麗奈。
そのうちに博士が七転八倒して、その首をよこせぇ!と叫んだり、それを自分で止めようとしたりを繰り返す。
そして博士が麗奈に飛びついた時、間久部家の老人が漬物石で猿田博士を殴り倒す。
麗奈は火の鳥の首を掴んで走り出す。

歴史を変える?最終兵器を開発する? ああ、それならこうすればいいのだわ、と何かを決意した麗奈。

夜の大阪の町には特高警察、ソ連のスパイも入り乱れて麗奈を探している。
人気のない駅で、駅員にその女性なら列車に乗ったと教えられる博士。い、行き先は・・・?
今日は何日?8月5日・・・?
大阪を出た夜行列車に乗っている麗奈。二つ前の15回目の世界と、この17回目の世界はほほ同じ歴史を辿っている。

だからこの列車の行き先では・・・
あたし世界を救うわ。お父さま、姉さん、夫の緑郎・・・ 

火の鳥よ、ありがとう。列車はもうすぐ広島に着く。


8月6日。原子爆弾が広島に落とされ、約14万人が亡くなった。
ソビエトの宣戦布告、長崎への原爆投下を経て15日、玉音放送により国民は大日本帝国の敗戦を知った。
8月6日の爆風と炎の中心から、小さな金色の何かがゆっくりと現れ、上へ上へと上がって行った。
あれは火の鳥だろうか?炎に焼かれ蘇えったか・・・
火の鳥は永遠にどこかに存在し続ける。

ただそれだけが確かなことなのだ。


道頓堀汐風が二人の子供を連れ、釜山港から引揚船に乗った。

夫の凍はシベリアへ連行された。
何とか日本の地を踏み、弟の三田村硝子の家へ落ち着いた汐風。
三田村家含め財閥は解体された。
古新聞に目を落とす汐風。

天皇陛下とマッカーサー元帥が並んだ写真。


[70]「人間とは記憶だ」 2020/9/26
陛下は人間宣言をなされ、軍は武装解除。
東條英機元首相は自決を図ったが、15回目の世界とは違い自殺は出来ず、1948年に絞首刑。

関わった者たちのその後。
洲桐太は釈放。石原莞爾は1949年に病没。
川島芳子は日本のスパイとして逮捕され、死刑判決を受ける。刑場の係官がルイだった。記憶のないルイに好きだったと最後の言葉を伝え、彼の持つ銃の引き金を押した。
道頓堀でテキ屋を仕切る片腕の男。それが間久部緑郎。

エピローグ 楼蘭 1980年5月
楼蘭王国の廃墟に、中国研究機関の発掘隊が集う。

それに参加した猿田博士。
「楼蘭の美女」と呼ばれるミイラが出土したと聞いて、一目会いに来た。
テントに安置されている一体に歩み寄る博士。
長いまつ毛と高い鼻梁、そして亜麻色の髪。

「王女マリアだ! あぁ、間違いない・・・」
マリアさん、かつてのあんたの願い通り、火の鳥の首はこの世から消え、もう時を巻き戻して歴史を変えようとする者はいない。
それはある勇敢な若いご婦人が成し遂げたこと。
火の鳥や、幾度も繰り返された世界、あんたの冒険など、それらを記憶しているのはわし一人だけとなった。
かつて三田村要造が言った「人間とは記憶だ」の言葉。
それならわしが覚えておる限り、あの時間も決して消えやしないだろう。
マリアさん、強く、勇敢で優しく、戦い抗いながら精一杯生き抜いた・・・
猿田博士はあふれる涙をぬぐい、
「砂漠の佳人よ--そしてすべての人よ!」
(了)