今日はM&Aの現場で感じる、少し意外な話。
「実は、資産の多い会社ほど売りづらいことがある」という話です。
自分はエージェントとして日々M&Aの支援をしていますが、
一般的にはこう思われがちです。
資産が多い会社=良い会社=売りやすい
これは半分正解で、半分間違いです。
■ 資産が多いほど、価格は上がる
まず前提として、
土地・建物・現金などの資産が多い会社は、当然ながら企業価値が高くなりやすい。
純資産が厚い会社は、
「安全性が高い」「潰れにくい」という評価にもつながる。
つまり、“良い会社”であることは間違いありません。
■ でも、買い手から見ると話が変わる
ここからが現場のリアルです。
資産が多い=買収価格が高くなる
つまり、
買い手が用意しなければならない資金が大きくなるということ。
これが一気にハードルを上げます。
特に「現金」が多い会社は一見魅力的ですが、
その分、買収時にその現金ごと買う構造になるため、
資金効率の観点で敬遠されるケースもあるのです。
■ 買収後に現金を吸い上げるという発想
よくあるのが、
「買収後に子会社から現金を吸収すればいい」
という考え方です。
代表的な手段は2つあります。
① 貸付で吸い上げる
子会社から親会社へ貸付という形で資金を移す方法。
これはシンプルですが、
親会社側に有利子負債が乗る形になります。
連結で見れば内部取引のためバランスシート自体は膨らみませんが、
親会社単体では負債が増えるため、財務指標や銀行評価に影響する可能性があります。
さらに、もともと別会社だった組織同士なので、
資金運用や意思決定が思ったほどスムーズにいかないケースも多いです。
② 配当で吸い上げる
もう一つが、子会社から親会社へ配当として資金を上げる方法。
こちらは負債が増えないため、
バランスシートはきれいに保てます。
ただし、ここには税務の論点があります。
■ 配当は“ほぼ非課税”だが、完全ではない
日本には「受取配当の益金不算入制度」があり、
-
100%子会社の場合 → ほぼ非課税(※一部のみ課税)
-
持株比率が低い場合 → 一部課税
という仕組みになっています。
つまり、完全子会社であれば税負担は軽いものの、
完全にゼロではないというのが実務上の理解です。
また、
・利益剰余金の範囲内でしか配当できない
・手続きやタイミングの制約がある
といった点もあり、
買い手からすると「自由に使える現金」とは見なされにくい。
■ では、売却前にどう設計するか
ここが実務の腕の見せどころです。
現金が多い会社の場合、売却前に
-
配当で現金を整理する(ただし総合課税)
-
役員退職金として適正に支出する
-
減資などで資本構成を見直す
といった方法で、
買い手にとって扱いやすいバランスに整えることが重要になります。
■ 「優秀すぎる」というジレンマ
結果として、
純資産がしっかり積み上がっている会社ほど、
・価格が高くなる
・買い手の資金負担が重くなる
・資金の取り扱いに制約がある
という構造になります。
本来は成績優秀であるはずなのに、
その“優秀さ”が、逆に売却の難易度を上げてしまう。
M&Aは「良い会社=売れる」と単純ではなく、
誰にとっての価値かで見え方が変わる世界です。
良いはずの現金が、構造次第では“扱いづらい資産”になる。
これもM&Aの面白いところだと思います。









