[これまでのあらすじ]
カレーうどんが評判で一見順風満帆に見える、俊彦のうどん屋。
しかし、妻・幸恵と母・美由紀の喧嘩が絶えず、俊彦は二人の間で頭を悩ませ続けていた。
俊彦は取立てに来た辻本の協力を得て、幸恵と美由紀の仲直りを試みるが、
嫁姑の喧嘩は収まるどころかエスカレートし、幸恵がドスで美由紀に襲い掛かる事態に。
辻本が止めに入り、幸恵からドスを取り上げた際、誤って子分・平山を傷つけてしまう。
[第二幕…セット紹介]
『旅館・睦のロビー』
典型的な茂造旅館セットです。
⒈
舞台下手端…旅館入り口通路
舞台下手寄り奥…2階客室への通路、扉状(引き戸)
舞台中央奥…下手から上手に向けて二階への階段
舞台上手奥…フロント。額縁に飾られた絵画
舞台上手端…大浴場や事務室等への通路
⒉
壁…富士山や松の絵が描かれている
[第二幕:旅館編]
⒈
⑴
15分間の換気休憩が終わると、場内が次第に暗くなり、
Tammy Wynette『Stand By Your Man』が流れ始める。
新喜劇ではカントリー調の洋楽曲の使用は珍しく、
品の良い名作映画が始まるような空気感が生まれる。
(勿論、実際に始まるのは茂造のハチャメチャ新喜劇だが。)
(動画1:22辺りからの)曲の盛り上がり「♪Stand by your man」の箇所で緞帳が上がると、
めでたいお正月を思わせる金色風『茂造旅館セット』が現れ、
客席全体として「わぁ」「おお」と感嘆の声が起こる。
⑵
海沿いの景勝地にある、旅館『睦』。
若めの番頭・大島(大島和久)がフロントで今日の宿泊者チェックをしていると、
若者カップル客、玉置(玉置洋行)とゆう(小林ゆう)が来館する。
ゆう「うわぁ、素敵な旅館ねー! 洋行君、連れてきてくれて、ありがとう
」
玉置「ゆうちゃんに喜んでもらえて良かった」
大島が二人に気付き、
大島「いらっしゃいませ!」
玉置「予約していた玉置です」
大島「どうぞ、こちらにお座りください」
大島に促され、玉置が中央テーブル席下手側、ゆうが上手側に座る。
その際、玉置は客席側にボストンバッグを置き、『後』の準備を済ませる。
⑶
(玉置↓中央テーブル↓ゆう↖︎大島、という立ち位置で)
大島が上手端通路の方に呼びかける。
大島「お客様がご到着されましたー!」
すると、新人アルバイトの白髪女性・アキコ(アキ)がお盆にコップを乗せて現れる。
アキ「いらっしゃいませー」
しかし、アキコは宿泊客の玉置たちよりも観客の方が大事なようで、
舞台前方で会釈しながら笑顔を振り撒く。
アキコが満足したところで、玉置たちに対し、
アキ「当旅館名物の温泉水をお持ちしました」
アキコはテーブルにコップを置こうとして、ゆうの足で躓き、
コップの水を玉置に掛けてしまう。
玉置「服、ビチョビチョやないか! どないしてくれんねん!
」
玉置が怒るが、実際には水が入っておらず、玉置の『演技プラン』を揶揄う、アキコ。
アキ「すみません、和ませようと」
玉置「和みませんよ!」
ゆう「洋行君。怒ったら折角の旅行が台無しよ?」
玉置「それもそうやな」
⑷
ゆうが大島に、
ゆう「夕食の海鮮料理を楽しみにしてきたんです」
大島「目の前の海で捕獲された、えー、新鮮な魚介類をご用意しております」
大島「夕食、楽しみにしててくださいね」
大島のたどたどしい台詞や『捕獲』の言葉に観客も演者も皆がクスクスと笑い出すが、
誰も明確には指摘せず、次の場面に進む。
⒉
⑴
大島が玉置たちに尋ねる。
大島「ところで、従業員が駅前までお迎えに上がったはずなんですが…」
ゆう「いえ。自分たちで来ました」
大島がアキコに叱る。
大島「初日からサボるって、アキコさん、あんたの旦那、どうなっとるんや!」
アキコが謝る。
アキコが慌てて、旅館入り口通路の方を覗きに行き、
アキ「あっ、帰ってきました!」
⑵
楽しげな出囃子が流れ、
茂造「えらいこっちゃー!」
と、新人アルバイトの白髪お爺さん・茂造(辻本茂雄)が勢いよく登場。
主役中の主役が現れ、客席が大きく沸く。
茂造がバッグを蹴り飛ばすと、
「わぁ」という声も混じり、更に大きく沸く。
飛んだバッグを拾い、ダッシュで戻ってきた大島が茂造を問い詰める時間。
・何で蹴ったんや!?→あったからー!
・サボった理由→路上での傷害事件発生→喫茶店のTVドラマで見た話
・怒られ逆ギレ→「全集中、怒りの呼吸!」とバッグをフルスイングし、玉置を叩く
・玉置「何してんねん!」→記憶に無いー!
・玉置「何ちゅうジジイや!」→茂造~!
等、茂造登場時の一連のネタの場面。その都度、客席が大きく沸く。
怒る玉置に、
大島「すみません、夕食をサービスしますので」
玉置「それやったら許します」
茂造「ありがとう、クリリン」
茂造「全集中、感謝の呼吸!」
と、玉置の股間にバッグを全力で投げつけ、玉置を子泣き爺のような姿勢にさせる。
茂造「痛みを覚えて成長するんや」
茂造の接客態度に妻・アキコが怒る。
アキ「茂造!、お客様にバッグをぶつけるなんて、ダメでしょ!」
アキ「私、絶対に許さないからね!」
茂造「、すいませんっ!」
アキ「いぃよぉ~」
大島「ダメでしょ!」
人気の場面が次々と登場する。
⑶
ゆうが茂造に対し、
ゆう「ちょっと、さっきから失礼じゃないですか!」
と肩を突く。
茂造「突いた!」
怒った茂造が突き返すと、ゆうは身体を海老反りし、逆Uの字を作る。
全員「わっ!」
ゆう「洋行君、どこ行った?」
玉置が手を叩いて音を出し、
玉置「ゆうちゃん、こっちこっち」
音の方に向かって、逆U字のままルンバのように不規則に進み、
皆を怖がらせる、ゆう。
玉置のもとに辿り着いたゆうが身体を起こす。
茂造がアキコに近づき、
茂造「アキコ、今の、エクソシストや!」
次の瞬間、二人で一歩前に出て、客席に向けポーズを作り、
茂造・アキ「ホンマやねー!」
茂造が嬉しそうに
茂造「アキコ~。この絡み、ほんま久しぶりやー!」
次の瞬間、再びポーズを作り、
茂造・アキ「ホンマやねー!」
⑷
玉置たちに鍵を渡す『何々の間』ネタでは
柔道や水泳等、旬の五輪ネタを入れる、茂造。
⑸
玉置とゆうが階段を登り、2階の部屋に行く場面。
玉置が演技モードからネタモードにスイッチを切り替える。
玉置「ここはテーマパークだ!」
全員「…(苦笑)」
玉置が階段を見て、
玉置「あそこにジェットコースターがあるぞ!」
ゆう「乗ろ、乗ろ」
ゆうが2階まで上がり、まだ上がりきっていない玉置に対し、
ゆう「怖い。落っこちちゃう!」
玉置「僕が君の安全ベルトになるから、もう落っこちないぞ!」
二人の階段ネタが終わる。
しかし、茂造はすぐには壁を叩かない。
茂造「…?」
玉置と顔を見合わせ数秒置いてから叩き、玉置を階段から滑り落とす。
茂造「オチが分からんかった。(苦笑)」
茂造「あいつ、ワシの目ー見て、『今です!』って訴えかけてきた!(半笑)」
アキも大島も玉置の行動に笑いを堪えきれない。
アキ「凄い目で見てた。(半笑)」
※
補足
この場面、玉置さんと小林ゆうさんの考えたネタは
階段落ち用のネタとしては完成度が高く、どの回もウケていました。
落ちる結末ありきで、辻本さんが落とす理由を考えていることがまた楽しかったです。
①
別の回では、例えば
彼女と旅行できて嬉しい玉置がポップスを演歌調で歌い出し、
ゆう「ちょっと、洋行君。演歌になってる」
玉置「こんな感じで『え~んか?』」
茂造に落とされ、
茂造「ここはプロが登る階段や! ただの酔っ払いのおっさんやないか!(苦笑)」
②
また別の回では
彼氏と旅行できて嬉しいゆうが、
ゆう「洋行君。一緒に『恋』を歌いながら登ろうよ」
ゆう「♪胸の中にあるものー いつか見えーなくなーるもーのー」
玉置「♪男は いつも 待たせるだけで~」
と交互に歌う。
ゆうが登り切ったところで、登り切っていない玉置に対し、
ゆう「洋行君、松山千春さんの『恋』になってる 曲違いよ?」
玉置「いつだって、恋は『す、れ、違い』」
茂造に落とされ、
大島「なんで落としたんや!」
茂造「歌詞、間違えてた。自分で考えて間違えるって…」
⑹
ネタの出来にかかわらず、茂造に滑り落とされる運命の玉置。
茂造が壁を叩くと階段が元通りに。
大島「階段、どうなってんねん!?」
茂造「ワシの手作り」
大島「こちらからも行けますので」
と、大島が下手寄り奥通路の扉(引き戸)を開く。
玉置が通路から部屋に行こうとして、茂造が壁を叩くと扉が勢いよく閉まり、
驚いた玉置が腰を抜かす。
玉置「うわっ!」
大島「これも改造したんか!?」
茂造「イエス、アイドゥー」
ゆうは階段上から、玉置は一階下手奥扉から部屋に向かった。
⑺
大島が、旅館を私的に魔改造して楽しんでいる茂造を叱る。
大島「直しといてや!」
茂造「はいはい。はいは一回!」
⑻
大島が茂造夫婦の接客態度についても注意する。
大島「茂造さんもアキコさんも、接客ちゃんとして!」
茂造「偉そうに言うとるけど、接客ちゃんとせなあかんのはお前の方やないか!」
茂造「『目の前の海で水揚げされた』やのに、『捕獲された』って」
茂造「ここ、クジラ出すんか?」
大島「そこで見てたんやったら、早よ来い!(苦笑)」
茂造「そんな空気じゃなかった」
大島が改めて茂造夫婦に対し、
大島「オーナーが組合の会合から戻ってきたら、指導してもらうからな!」