第241話/元ホストくん①
月曜祝日のため、今回はスピリッツ土曜発売です。
記事を書き始めて気づいたけど、副題がホストくんから元ホストくんになって、番号も仕切りなおしている。
高田の回想は、このエピソードのなかにおいての分派的なものではなくて、どうやらそれじたいでひとつのおはなしとして扱われていたみたい。
これまでは、ホストのありよう、その宿命、そうしたことを、高田と愛華の関係や、慶次・隼人とのたたかいを通して、じつにウシジマ的なリアリズムで描き出してきた。
ここにきてはなしは「元ホストくん」となる。
高田はもちろんそうだし、きちんと辞めてはいないだろうが隼人も、いままさに「元ホスト」になろうとしている。いや、「ホスト」としての仕事をまっとうできていないと隼人が感じているなら、広い意味で彼はすでに「元ホスト」なのかも。
また、今回丑嶋たちと対立(?)しそうな男たちのボスは、堕ちた慶次なのだ。鼓舞羅だってまだなにものかわからない。
というわけで、「元ホストくん」は複数のにんげんを指すことばなのであって、「ホストくん」よりさらに的がしぼられるということはなく、いつものように重層的な響きのサブタイトルとなっていくんだろう。
高田の回想がおわり、はなしは現代に戻っている。慶次のもとを離れ、鼓舞羅から逃げ出したい隼人は、高田をたよりにカウカウにやってきているのだ。客ではなく、入社希望者として。
事務所のなかには、裸にされた債務者が洗濯バサミみたいので乳首をつままれていじられている。ギャグっぽい光景だけど、それをしている男たちはみんなおそろしくこわもてだ。奥に座る丑嶋なんかほとんど魔王である。
丑嶋は隼人に服を脱ぐようにいう。さらに柄崎がくちのなかを、というか歯をチェック。クスリをやっていないか確かめているらしい。そのへん、隼人はクリーンらしく、とりあえず今日一日高田をまわることになるのだった。
最初はハルコで、ふたりにはやりやすい相手かもしれない。なにしろホストにはまって風俗にまで沈められた女なのだから。かばんのなかにはスプーンとか注射器みたいなものも見える。前とちょっと様子が異なるのは、クスリのせいもあるのだろうか?
今度はもとアイドルで、丑嶋をパパと呼び数千万の利息を払い続けているモモカ。前回モモカは丑嶋にお姫様だっこされながら高田を疎んじていたが、今日は「お兄ちゃん」と呼んでやや距離が縮まっている。抱っこしてというから高田が手をのばすと、モモカは「さわるなー!!」と大声をあげる。なかなか、会話にならない感じだが、高田は笑顔でこれを受け入れる。
今日がちょうどそういう客ばかりだったからというのもあるかもしれない、隼人は「闇金とホストってなんか似てるな」という。隼人には、あの客たちがホスト狂いの女たちの末路のようにおもえたのだ。それを聞いて、高田の眼前に愛華がよみがえる。愛華の足はすね近くまで白骨化しており、彼女が高田と同じか、少なくとも停止ではない、動きのある時間のなかを彼とともに生きているということがわかる。要するに、ぜんぜん克服とかはできていないのだ。
ふと隼人が目をむけると、異様な風体の男が歩いている。鼓舞羅や先週の脱走した債務者が来ていた「ORE」と書かれたジャケットを着てフードまでかぶり、マスクもしているのだが、目の周りや頭部にまで彫りぬかれた刺青は隠せない。逃げ出して全身に不気味なコブラーレッドのタトゥーをいれられた霧人というホストだ。
幽霊のように重さが感じられない足取りで歩く霧人は、鼓舞羅と合流し、どこかに歩いていく。もう霧人にはまともな生活をおくることなんてできない。人格を無視した鼓舞羅の、拳の暴力よりはるかにおそろしい罰は、霧人を完全に屈服させたにちがいない。会話があるわけではないのではっきりしたことはわからないが、マインドコントロール的に、もう霧人は鼓舞羅の奴隷なのかもしれない。
隼人はこの世にもおそろしいふたりを目撃してすぐに車のかげに隠れる。高田は彼らには気づいていない。そして、この街でやっていくのはどちらにしても無理があるかもしれないと考える。
仕事がおわって事務所に戻ったところで、隼人は今日の売り上げをわたされる。明日の9時に入金しろと。ちょっと考えれば、そんな大金を試験中の隼人が預かるというのはへんなはなしだとわかりそうなものだが、これから「入社祝い」にいくというのだから、隼人には「信用できるか試されてる」くらいに感じられたのかもしれない。小百合まで含めたカウカウのフルメンバーで、どこかの居酒屋にいき、乾杯をする。
隼人はビールがあんまり好きではないのだが、つきあいということで、くちをつける。そういうふうに従順でいたことが、うらめにでる。
「はい。失格。
売り上げ金抱えたまま酒を飲むようなだらしがねェバカは金融に向いてねェよ!!
うせろ!!」
つづく。
ふーむ、厳しいのかわかりやすいのか、ともかくシンプルな入社試験だった。
丑嶋に隼人を入れるつもりはあったのだろうか?
これまでずっとそうだったからそうおもえるだけかもしれないが、丑嶋は、大所帯になるより、信頼できる数人の部下を保持しつづけるほうを選んでいるような気がする。
ここからさらに仕事を増やしていくのなら、女性客担当の優男がもうひとりくらい必要になってもおかしくないのだが、その手の野心が丑嶋のなかで具体的にあるのかどうかはよくわからない。なにしろ特殊な仕事だから。
ともあれ、隼人は失格だ。
では、あそこで隼人がこの仕掛けに気づいて、意地でも飲まなかったとしてら、果たして丑嶋はこれを採用したのだろうか?
というより、元ホストの隼人に、あの場で酒を断ることが果たしてできたのか?
隼人がビールを飲むべきか考えているとき、高田は心配そうに彼のことを見ている。
つまり、彼には正解がわかっていた。
「あの瞬間、あの条件で金融屋がとるべきふるまい」というものが、あそこにはあったのだ。
だとしたら、ある種の意地悪というか、最初から入れるつもりなどなかった、というような感じではないのかもしれない。
しかし、くりかえすように、ホストの隼人にあの酒を断ることなどできたのだろうか・・・。
もしかするとここに、隼人的に似ているはずの闇金とホストのちがいがあるのかもしれない。
「元ホストくん」とはなんのことか。
ここでは仮に、隼人がむかしの慶次の姿に見ていた理想を、一般的な「ホスト」とする。
今回のはなしでは、最初に書いたように、むかし「ホスト」だったひと、が三人いる。
慶次は、肩書き的にはいまでもホストだが、隼人の見るところでいまではただのぼったくり、いわゆる「ホスト」ではなくなっている。
そこに与していた隼人も、もうホストではない。高田はずいぶん前に辞めている。
「元ホストくん」は、「ホストくん」に相対するものとして、「ホストではなくなったひと」という意味をただ含むだけではあるまい。わざわざ改題されるくらいなのだから、おそらく、ほかに呼びようががない「元ホストくん」という独自の価値が、この三者のなかにはあるはずである。
しかし、ホストシリーズがおもいのほか大作になっていっている。
これは高田の本質に迫るエピソードでもある。いまでも愛華をこころに住まわせている高田は、ということは、たしかに「元ホストくん」であって、「闇金くん」ではないのかもしれない。
とすると、彼が立つ社会的価値と、彼の内側に広がる本態は、微妙にずれたものであるかもしれない。
たぶんそのずれが、「テレクラくん」では丑嶋に殴られるという結果を呼び込んだ。
すっかりカウカウに馴染んでいる高田だが、構造的には会社に利用されているだけなのかもしれない。
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