今週の刃牙らへん/第40話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第40話/スズメバチ



自宅で横になっているジャック。デカすぎてベッドに入り切らず、椅子を追加している。床には薬やらなんやらが散乱したまま。注射器とか踏んだら痛そう。


そこへ、開いた窓からスズメバチが侵入してくる。常人なら一大事だが、ジャックは「捕らえられるか?」という視点からみる。手足でしとめるぶんには、彼らにはなんでもないだろう。ジャックが考えるのはもちろん、歯で、かみつきで捕らえられるのかということだ。それも、しとめるわけではなく、体をそっとおさえるかみつきかただ。プッと吐き出した勢いのままスズメバチは飛んでいく。たんに強力なだけでなく、噛道は繊細さも備えているのだった。


そこにいきなり勇次郎が話しかけてくるからジャックもたまげる。いつのまにか部屋に入っていたのだ。勇次郎ははなしの続きをするみたいに宮本武蔵の逸話を語るが、その前にいつからいたのかという状況である。息子のプライベートに勝手に踏み入る親だよな。いや、このふるまいは、勇次郎の親アピールなのかも。


刃牙道にあったはなしだ。武蔵といえば、とんでいるハエをはしでつかまえたものが有名だ。しかしこれは少し現実と異なっている。武蔵は、羽のみをつまみ、一枚いちまい羽を振りちぎって飛行不能にしたのだ。

だから、次の機会、スズメバチに出会ったら、同じことを歯で行えと勇次郎はいう。スズメバチはわりとぐにゃぐにゃからだを動かすし、ふつうにさされそうだ。


すると、さっきのやつなのか、またスズメバチがやってきてしまう。ジャックは笑みを浮かべ、ぜひやって頂こうと勇次郎を煽る。力みまくりの勇次郎は見事に応える。人差し指で空間を裂き、スズメバチの羽のみ落とすのだった。



つづく




話題をかえ、勇次郎はジャックに、花山の何を知るかと問う。

勇次郎が花山を語るというのか。


このような導入でジャックに語りかけるからには、勇次郎からして、じぶんは理解しているが果たしてジャックはそれができているものかどうかあやしいものがある、というはなしのはずである。それはどういうものか。

勇次郎は、噛道を極めたジャックをして、真似できないとしていた。おそらく同じ論理でいま、勇次郎は花山を語りうるのではないかとは考えられる。

かつては勇次郎も花山へ人権を無視したような無慈悲な暴力を加えたことがある。幼年期バキとのファイトの直後だ。そのときのことは花山にとってもトラウマ、とはちがうが、強い引っ掛かりとなっており、スペック戦で思い出したりしている。じっさい、あのころの勇次郎にとっては花山もまた「非勇次郎」な、雌化可能などうでもいい人類のひとりに過ぎなかったのだろう。(このあたりは以下前話参照)





しかし、いまの勇次郎はあのときとは異なっている。前回のふるまいを政治的なもの

、範馬勇次郎を演じたものとしたのはそれがあるからだ。親子喧嘩を経た彼は、他者を獲得した。他者を獲得するとは、不如意な存在をそのままに受け入れるということである。あまりにも強大なパワーをもつ彼は、少なくともパワーという評価軸のもとでは、他者の存在価値などないに等しかった。パワー、また強さという観点からは、「相手にできてじぶんにできないことはない」と思われたからだ。そして、あまりにも強力なパワーがすべてのわがままを許すなら、わざわざ「パワーという評価軸」などという但し書きをするまでもなく、パワーは存在価値そのものなのだ。


しかし、刃牙との親子喧嘩は、彼に他者を受け入れる余白をもたらした。「じぶんではないもの」を、じぶんのもつもの、つまりパワーを経ずに解釈することができるようになった、少なくともしてもいいと考えるようになったのである。それが彼にジャックを受け入れさせた。厳密にいえば、いまジャックのようなふるまいを勇次郎がとれないなら、前からそうだったはずである。しかし以前なら、これはパワーで塗りつぶし、噛みつきなど戦場では常識などとし、とるにたらないものであることをわがままに示すものだったのだ。だが、いまの彼は、そこまでの過程を含めて、文脈の評価ができるようになっている。それなら、花山という稀有のファイターをみる目も変わっているはずなのである。


花山は滅私の喧嘩屋だ。持って生まれた彼は、最初に徹底的にじぶんを殺すことで負い目をなくし、やがて拳そのものと化す。主語たる「花山薫」という授かりものを滅することで生じる公平性が、拳を自律させ、述語のみで動く概念のようなものにするのである。自らの持つものがどれだけ相手を圧倒するか、つまり主語のみで動いているような勇次郎とは正反対である。もし勇次郎がそれを存在として容れることができるようになっているなら、語れることは多いはずなのである。





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