第120審/日常の犯罪③
本誌発売より前、28日発売の九条の大罪14巻にすでに収録されている回です。こんなことあるんだな…
佐々木求馬にいっぱい飲まされて寝てしまい、知人の中川ゆめの家に泊めてもらうことにした曽我部。中川さんは女性だが、そういう関係ではなく、弱った野良犬でも入れるみたいに中川さんは曽我部を受け入れる。平気で薄着にもなっちゃう。
ベッドには子供が寝ている。曽我部は覚醒剤の売人として中川さんと知り合ったらしい。いまはやってないそうだが、リスカ痕の上側にはまだ生々しい注射のあとがある。テーブルの上にもぜんぜんいろいろあり、隠してもいない。
夜があけて、いやな予感がしたのか、帰り道に調べてみると、百井の顧客リストには中川さんの名前がしっかりあるのだった。
その足で曽我部が行うのは、公衆トイレで紙袋と金を入れ替える、求馬に頼まれたアルバイトである。紙袋のなかはスリの窃盗団が不要とする免許証の束だ。
それで作ったクレジットカードでスマホやゲームを爆買いしてこいとの指示である。いちおうこの件は百井も知ってるらしく、空き時間のみの手伝いということである。求馬は、曽我部がなにをしているかしっかり見てると脅しつつ、日給3万のうち2万「納税」するようにいうのだった。それを百井への借金にあてると。求馬はこんな感じのチンピラだが、百井にはあたまが上がらないっぽい。であるのに、その部下の曽我部を利用する。たぶん、百井がどういうつもりで曽我部を使っているか、わかっている(つもりな)のだろう。彼は裏切りを許さない。今回は別に裏切りではないが、その際に許されないのは求馬ではなく曽我部なのである。
九条と烏丸は久我から送られてきた毛蟹をさばこうとしている。いい感じに盛り付けもできたところで薬師前も呼んでいつもの屋上で食事会。薬師前はとなりのビルで働いてるのかってくらいいつも身軽にやってくるな。市田も呼んだそうだ。薬師前は酒もたくさん買ってきたが、九条が最初はビールみたいな保守的なことをいうので舌打ちする。
屋上生活の達人である九条がグラタンや寿司などちゃっちゃと用意するのが薬師前も楽しそう。寿司は、ポーション、お米の量が多いらしい。さらには炊き込みご飯。そばにいるブラサンはよだれダラダラだ。味がついてるからあげられない。
そこへ、薬師前のスマホにまた公衆電話から着信。薬師前の勘通り、相手は曽我部である。だが黙っているので、近くに九条もいるし、何かあるなら話せと薬師前はいう。曽我部は電話を切ってしまうが、とりあえず九条の存在をリマインドすることはできた。
薬師前の曽我部に対するいつもの大声にブラサンがビクッとする。身近に犯罪があるとまたすぐ罪を犯してしまうと、すでになにが起きつつあるか理解している九条はいうのだった。
つづく
次回は23号とのこと。
曽我部にとって母親か姉のような中川さんだったが、かつての、おそらく金本時代の客だったようである。そしていまもクスリをやめることはできていない。百井は対面ではなく郵送で届けるので、会わなかっただけなのかもしれない。
曽我部はそのことがこたえているっぽい。もともとは売人として知り合ったわけだが、いま中川さんには子どももいるし、曽我部としても、金本配下ではないのと郵送であるのとで、罪の意識が薄れて、それこそ「日常の犯罪」、日常に溶けこんだ犯罪になっており、実感がなくなっていたところ、やはりじぶんのしていることは「悪いこと」なんだということを突きつけられた感覚だろうか。百井がまたああいうタイプで、ぜんぜんチンピラっぽくはなく、ドライに薬物をさばいているのも効いてるだろう。曽我部はどこか、ほんとうに「ビジネス」をしているつもりになっていたのかもしれない。
九条サイドのやたら念入りに描かれた蟹描写、特に米が多いということについての言及はなんだろう。直前に求馬が税金のはなしをしているし、年貢のことのようにも思われる。日給3万で2万の納税はバカでかい。しかし、1万は残るわけで、日給1万と考えればごく標準的な額におもえる。なぜ曽我部の仕事が3万もするかというと、むろん、リスキーだからである。捕まるリスク、また優しい彼からすれば、中川さんのようなひとを薬漬けにするやましさ、こういうものに2万が払われているわけである。だからこれが標準の金額になると、太く短い成金人生はただの短い人生になってしまうのである。
この金は、求馬がおしおきとしてヤクザの久我から要求されたものだ。それを百井がかわりに払い、百井に借金しているかたちになった求馬が百井に払い、それは曽我部の金であると。税金ではなくともまさしく上納システムとなっているのだった。
もちろん、曽我部が求馬に納税しなければならない理由などないのだが、ここで奪われる2万は、いわばおもてに出せないお金だ。標準が1万としたとき、リスクをとって得たぶんが2万となるのだから、求馬の要求を、たとえば「不当」という言葉で退けることはできないのである。それをいうなら、そもそも曽我部が得たぶんが違法であり社会的には不当なのだから。これを拒もうとしたら、曽我部は求馬と同じ位置で、非弱者としてふるまうしかない。つまり、福利厚生的なものから離脱したアウトローしか、この要求を拒むことはできないのである。こうみると、論理の向きは逆だが、ただの恐喝ではなく、求馬の徴税は彼のなかで筋が通っている可能性がある。あの2万は、社会的保障の外で、単独で生きることのできる無法者しか手にとることのできない金なのだ。そうではない曽我部からは奪うべきであると、こんな理屈が、はっきり意識されていないとしても、求馬のなかにはあるのかもしれない。
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