吉田修一の「女たちは二度遊ぶ」(角川文庫:平成21年2月25日初版発行、平成28年9月20日9版発行)を読みました。2006年3月、角川書店から刊行された単行本を文庫化したものです。
新聞には上のような広告が載っていました。
映画「怒り」の原作者が描く、現代のリアルな男と女。ときに苦しく、哀しい女たちを描いた珠玉の短編集。
以前からこの本のことは知っていましたが、この広告を見たらなぜか急に「女たちは二度遊ぶ」が読みたくなって、アマゾンに注文し、一気に読み終わりました。吉田修一といえば、新聞小説、そしてそれが映画化される、そのような流れで王道を歩き、今の地位を築き上げました。が、こんな軽い小説、しかも短篇も書いていたんですね。元々は、角川の「野生時代」に2004年から05年にかけて連載したものです。
本のカバー裏には、以下のようにあります。
電車で遭遇した目を見張るように美しい女。電話ボックスで見かけた甘い香りを残した女。職場で一緒に働く世間に馴染めない女。友人の紹介でなんとなく付き合った怠惰な女。嬉しくても悲しくてもよく泣く女。居酒屋から連れ帰った泥酔する女。バイト先で知り合った芸能界志望の女。そして、中学の時に初めて淡い恋心を抱いた女…。人生の中で繰り返す、出会いと別れ。ときに苦く、哀しい現代の男女をリアルに描く短編集。
例えば「夢の女」。
大学のころ、友達と、駅から出てくる女の人を品定め、目を見張らせるような美人がいました。あの女のあとをつけてみようかということになり、どんな家に住んでるのか一人暮らしなのか、そしてアパート住まいか、マンションか、二人で想像しながら後をつけました。女の家はオートロック付きのマンションではなく、何度もリフォームされた古いアパートに入って行きました。女の外見とは似ても似つかない、木造モルタルのアパートでした。それからしばらくして終電ギリギリの電車に飛び乗ったら、その車両に女が乗っていました。ドアが開き女が降ります。僕はホームを歩く女に、「あの、すいません」、と声をかけます。女は「何か?」と振り返ります。女は「君、学生なんだ?」と馬鹿にしたように微笑みかけてくる。「信じてもらえないと思うけど、誰かに似てると思って・・・」と僕。とっさに出てきた嘘がこれでした。「すみません、嘘です」というと、女は「だよね」と笑い出した。改札を出るとき女は「どっち?」と左右の通路を指さした。僕は正直に西口の方を呼び刺した。女は「私はこっち」と東口の方へ目を向けた。
吉田修一:
1968年長崎市生まれ。97年「最後の息子」で文學界新人賞を受賞し、作家デビュー。2002年に発表した「パレード」で山本周五郎賞受賞。同年発表の「パーク・ライフ」で芥川賞を受賞。07年に上梓した「悪人」で毎日出版文化賞、大佛次郎賞を受賞。著書に「東京湾景」「7月24日通り」「さよなら渓谷」「元職員」など多数。
目次
どしゃぶりの女
殺したい女
自己破産の女
泣かない女
平日公休の女
公衆電話の女
十一人目の女
夢の女
CMの女
ゴシップ雑誌を読む女
最初の妻
解説:田中敏恵
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