吉田修一の「東京湾景」を読んだ! | 三太・ケンチク・日記

吉田修一の「東京湾景」を読んだ!


吉田修一の本は、芥川賞を受賞した「パークライフ」を最近読み直し、その後、「ランドマーク」を読み、そしてこの「東京湾景」を立て続けに読みました。つまり、3冊目、ということになります。山本周五郎賞を受賞した「パレード」を読みたかったのですが、今のところ手に入らないので、先にブックオフで手に入ったこの作品を読むことになったわけです。


本の帯には、「今度こそ、信じたい」「バカな女になれたらいいのに」。東京湾岸を舞台に描かれる、寄せては返す強く儚い想い。乾いた身体と醒めた心を潤す、長編ラブストーリー。とありますが、これだけではまったく作品の内容を表していません。というか、これだけでは誤解されやすい表現です。


東京湾景」、僕が読んだ2作と比べると、格段に底が浅い、というか、薄っぺらな作品です。これが芥川賞、山本賞受賞作家の作品か、と言いたくなります。ドラマ化されて、「月9」で放映されたようですが、ここではそれについては触れません。なぜなら、僕がそのドラマ化されたものを見ていないこともあります。そして、在日韓国人社会を組み込んだ、かなりの部分、改編されているようなので。


最初がメールだったから仕方がないかもしれないけど、なんかずっと、お互い相手を探っているっていうか・・・。信じようとは思うのに、それがなかなか出来ないっていうか・・・」亮介の声を聞きながら、美緒は窓辺に近寄った。「ほんと、なんでだろうね?」


品川埠頭の船積み貨物倉庫で働く亮介対岸のお台場にある大手石油会社の広報部に勤める美緒、二人を結びつけたのがメールの出会い系サイトという設定です。「会うのなら羽田空港がいい」という「涼子」からのメールで、「了解。羽田空港の出発ロビーでに8時」と、亮介は返信します。どうして二人があえて出会い系サイトを利用することになったのか、その必然性は詳しくは描かれていません。「涼子」は偽名だし、最初から二人は大きくずれています


「涼子ちゃんって、何やってる人?浜松町で働いているんだよね?」「そ、そう、浜松町のキヨスク」、もうこの辺から嘘をついてることがみえみえです。半身の構えです真剣な恋愛などはほど遠い。羽田からの帰りのモノレールから、貨物倉庫に挟まれた亮介の住んでいる古い木造アパートを二人で見たとき、「亮介くん、あそこで暮らしてるんだ?」というところは、妙にリアリティがあります。しかし、女性小説家が登場して小説「東京湾景」と同時進行するところや、亮介が同棲していた女先生との破局から火傷を負うところ、「真理」が美緒のあとをつけて住所をつきとめるところ、等々、あまりにもリアリティがなさ過ぎです。


東京湾景」では、登場する女性は巧く描けていません。「涼子=美緒」の「乾いたからだと醒めたこころ」は潤すどころか、ますます乾ききってしまいます。「このまま別れたほうがスマートなのかな?それとも、もう一回ちゃんと会って話すべきなのかな?」と美緒が聞くと、「美緒も亮介くんも何も初めてないじゃない。始まるのが恐くて、お互いに目をつぶったまま抱き合ってただけじゃない!」と、声を荒げた佳乃に言われてしまいます。これでは身体の関係はあったとしても、心の関係はまったく成立しません。たとえ亮介が、品川埠頭からお台場まで泳ぎ切ったとしても。


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