吉田修一の「パーク・ライフ」再読! | 三太・ケンチク・日記

吉田修一の「パーク・ライフ」再読!


本を紹介した記事について、ブログ仲間から「何を書いているのか判らない」と言われて、ボディブローを打たれたようにけっこう落ち込んでいます。実は、前にもその人に同じ様なことを言われて悔しい思いをしていたのですが。勉強になるかと思い「本・書評・文学」のカテゴリーへ行って幾つかのブログを読んではみましたが、これといった成果はありませんでした。ここで論理を駆使して「文学評論」をやろうと思っているわけではありません。まあ、書きたいことを書きたいときに書く、なにしろ「日記・blog」ですから、そう思ってはいるのですが。分相応に淡々とね淡々と


吉田修一の「パーク・ライフ 」を最初に読んだのは、芥川賞を受賞したときに2002年3月号の文芸春秋で読んだので、今から3年ちょっと前になります。97年、「最後の息子 」で第84回文学界新人賞を受賞。同作が第117回芥川賞候補作となります。2002年パレードで第15回山本周五郎賞、5回目にして「パーク・ライフ 」で2002年上半期第127回芥川賞を受賞とありますから、その頃の吉田の活躍は目を見張るものがあります。2001年下半期第126回芥川賞を受賞した長嶋有の「猛スピードで母は 」と比較されることも多いように思われます。ブックオフで購入しておいたこの本、吉田修一の最高傑作といわれている「パーク・ライフ 」を、今回読み直してみたというわけです。


この作品に出てくる「日比谷公園」ですが、明治36年(1903年)に開園されて以来、丸100年が経過し、平成15年(2003年)には100年記念として各種の行事が行われました。日比谷公園は面積約16ヘクタールの「都市公園」です。この公園は我が国初の「近代西洋風公園」であり、全国の都市公園のモデルとしての役割を果たしてきた特別な公園です。我が国の「都市計画」はこの「日比谷公園」から始まったと言われています。過去にこのブログで、日比谷公園の管理事務所として建設された 明治期のドイツ風バンガロー様式の木造建築物「旧日比谷公園事務所」について、記事を書いたこともあります。

*過去記事:旧公園資料館・篤志家、いでよ!

        :旧公園資料館、都が貸し出し!


さて吉田修一の「パーク・ライフ 」です。停車してしまった日比谷線の中で、勘違いして見知らぬ女性に話しかけてしまう。こんなことってよくありますよね。知り合いのふりをしてくれた彼女は同じ駅で降ります。日比谷シャンテ店で入浴剤を売る毎日、「日比谷公園」で遅いランチを食べる「ぼく」は、スターバックスのコーヒーを片手に歩いてくる日比谷線で話しかけてしまった女とまた会ってしまう。2年前に離婚した奥さんとの間に晴子ちゃんという娘がいるという会社の先輩近藤さんは、この女を「スタバ女」と名付けます。彼女から「この公園で気になる二人がいる。その一人があなただったの」と言われます。「ベンチに座っているとき、俺、何を見ているように見えるのかと思って」と聞くと、「大丈夫よ。あなたが見ているものなんて、こっちからは見えないから」と彼女にさりげなく言われてしまいます。「松本楼」で二人で食事をしたりもします。

松本楼:http://www.matsumotoro.co.jp/


都会の公園には、気球を飛ばすことに熱中する老人、体力測定を淡々と行う中年男などもいます。一方で、高校時代の同級生「ひかる」には「弟にそっくりだから」と告白を反古にされた過去を持つが、ときどき電話で話したりもする。自分たちの離婚の危機を別居生活で乗り切ろうとしている宇田川夫妻宅のマンションで、飼い猿の世話もしています。駒沢公園近くの自宅アパートには、毎年10日間ぐらい母親が東京見物を兼ねて泊まりに来ます。しかし「パーク・ライフ 」は、まったくといっていいほど事件のようなものは起きません。様々な都会の人間模様が、名前も職業も尋ねない、お互いに踏み込まない距離感を持ちながら、ごく自然に親密であるような付き合いが、淡々と続けられていきます。でも、決して単調で退屈な作品にはなっていません。東京の「」を感じさせる作品と言えます。


二人で行った写真展で「私ね、ここで生まれたのよ」と指さされた先には、停留所前の「杉浦産婦人科」という古い看板が写っています。「ここはどこですか?」と聞くと「秋田県の角館辺り」という答えが。一通り写真展を鑑賞し終わると彼女は足を止め、ぼくをみつめて「よし。・・・私ね、決めた」と呟きます。ギャラリーを出て、表通りに出ると振り返った彼女は「それじゃ」と軽く片手をあげて、そのまま歩き出します。「あの、明日も公園に来てくださいね!」とぼくは彼女の背に向かってそう叫びます。淡々と過ぎていく日常を日比谷公園を軸にして描くこの物語は、余韻を残して終わります。この先どうなるのかは誰にも判りません。


日比谷公園派出所:設計横河健