吉田修一の「横道世之介」を読んだ! | とんとん・にっき

吉田修一の「横道世之介」を読んだ!

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吉田修一の「横道世之介」(毎日新聞社:2009年9月20日発行)を読みました。2年半前に買っておいた本ですが、やっと読み終わりました。実はなぜか“時代物”だと勘違いして、手をつけずにいたわけですが、あるときそうではないことが判って、一気に読んだというわけです。吉田 修一は、1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。2002年、「パレード」で第15回山本周五郎賞を受賞し、同年には「パーク・ライフ」で第127回芥川賞を受賞します。


吉田修一と言えばやっぱり映画にもなった「悪人」ですね。たしか「悪人」を読んだときに、僕は「吉田修一は、大化けした」と書いたような記憶があります。吉田の初期の作品は、よく読んでいました。今でもツタヤに行くと映画化された「パレード」が目につくところにあるので、いつか借りて観たいとずっと思っていました。確か「東京湾景」もテレビでドラマ化されたように思います。「悪人」は朝日新聞に連載され、この「横道世之介」は毎日新聞に連載されたものです。


本の帯には、「なんにもなかった。だけどなんだか楽しかった。懐かしい時間。愛しい人々。吉田修一が描く、風薫る80年代青春群像」とあります。僕が学生時代を過ごしたのは、もととだいぶ前、全共闘華やかな時代でしたけど。主人公の名前は横道世之介、この名前は井原西鶴の「好色一代男」の名前を借りていますが、好色とはまったく関係なく、ただの気弱な、どこにでもいそうな現代の若者です。この物語は桜の咲く4月、世之介が大学へ進学するために九州から上京してきて、新宿東口の駅前広場を歩いているところから始まります。


地方出身者の大学生の典型的な例ですが、都会生活を始めるとはいえ、独り暮らしのはじめは、都心ではなく、埼玉県に近い西武新宿線の花小金井、住所は東久留米というところの、エアコンのないワンルームマンションです。早速知り合ったのは隣人で、シチューをご馳走してくれたヨガのインストラクター。入学式で知り合った同じ学部の倉持一平。倉持と一緒に入ったサンバサークルの阿久津唯。人違いで仲良くなった、実は同性愛者だった加藤。高級娼婦らしい片瀬千春。そして自動車教習所で出会ったお嬢様、与謝野祥子。流れのままに世之介は多くの人と出会います。


世之介が高校まで過ごした地元には、かつて恋心を抱いた同級生がいましたが、今では同級生の恋人になっています。上京してから年上の高級娼婦らしい片瀬千春に憧れますが、それは遙か遠い夢でまったく相手にされません。自動車学校で出会った場違いの女性、家業は残土処理業者として成功した家のお嬢様、与謝野祥子にいつしか世之介は惹かれていきます。


インターネットも携帯電話もない時代です。祥子は、いつも黒塗りの自動車で送り迎えされ、電話で連絡すると必ずお手伝いさんが出ます。祥子とは家柄は“格差”はあるのですが、夏休みに世之介の実家に連れて行くと、祥子と母親は意気投合して仲良くなったりもします。あるとき、倉持一平は阿久津唯が妊娠したことを、世之介に告げます。2人はサンバサークルに来なくなり、そして学校を辞めたことを世之介は知ります。


物語は、上京したての一人の大学生の「なんてことない」一年間を、事細かに描き出しています。20年後、世之介は事故で亡くなります。そのモデルとなったのは、JR大久保駅で線路に転落した人を助けようと、カメラマンと韓国人留学生が亡くなった事件でした。与謝野祥子は、ロンドンの大学で4年間過ごし、一旦結婚はしましたがすぐに別れて、国連の職員として難民キャンプで働いています。世之介の母から祥子への手紙で、この物語は終わります。吉田修一は「世之介のようにいろんな人に思い出してもらえる人生って、いいなあと思います」と、インタビューに答えています。


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