Bunkamuraザ・ミュージアムで「夢見るフランス絵画」を観た! | とんとん・にっき

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Bunkamuraザ・ミュージアムで「夢見るフランス絵画 印象派からエコール・ド・パリへ」を観てきました。観に行ったのは先月、10月26日のことでした。日曜日だったこともあり、会場内は思っていた以上に込んでいました。もちろんタイトルが「夢見るフランス」ということで好まれたことにもよりますが、比較的若い世代の人が目に付きました。


それにしても今年のBunkamuraザ・ミュージアムは凄いラインナップが続きました。1月は「シャヴァンヌ展」、4月は「ミラノ ポルディ・ペッツォーリ美術館」、6月は「デュフィ展」、8月は「だまし絵Ⅱ 進化するだまし絵」、いやはや凄いになんのって。で、今回は「モネ、ルノワール、セザンヌ、シャガール・・・、知られざるコレクション一挙公開!」。なんと「フランス近代美術のオールスターの競演!」とチラシにあります。いかにも日本人の多数がが好みそうな画家たちばかりです。


今年の4月23日から4月30日まで、「フランス」へ8日間、格安ツアーで行ってきました。ジベルニーのモネの家や庭園を観て、ルーアンやオンフルール観光をし、当然、最終日はルーヴル美術館やオルセー美術館を観て回りました。まさに「夢見るフランス絵画 印象派からエコール・ド・パリへ」の旅でした。「ブーダン美術館」まで行ったけど時間がなくて展示は観ることができなかったり、「ギュスターヴ・モロー美術館」へ行ったけど休みだったり、のハプニングもありましたが…。
「フランス」へ8日間、行ってきました!

永井荷風が見た「ふらんす」は、繁栄を謳歌していた第一次世界大戦前のフランスでした。印象派とエコール・ド・パリの芸術は、同じくフランスの繁栄と社会の安定を共通の背景としています。その中で画家たちは自らの感性に忠実に各々の目標に向かって邁進することができました。例えば、藤田嗣治は1913年(大正2年)に、「3年間の約束」で単身フランス留学に旅立ちます。建築家・前川国男の例を出すと、1928年(昭和3年)大学卒業と同時にシベリア鉄道経由でパリに向かいます。「2年間という約束と、青い目のお嫁さんは貰わない」という条件で…。


藤田嗣治と前川国男の間、佐伯祐三の場合、パリに渡ったのは1924年、憧れのヴラマンクに見せた自信作を「アカデミック!」とくそみそに批判されます。もちろん、この叱咤を契機として、苦難の末に事故の芸術を開花させることができたわけです。第一次世界大戦の終結とともに、ヨーロッパ諸国が平和を取り戻した1920年代、芸術の都パリをめざして遊学した日本人美術家の数は、200人以上、あるいは300人を超す、400人近かったとも言われています。それだけパリは芸術家たらんとする人たちを引き付ける、大変な魅力があったのでしょう。ルーヴルへ行けば必ず模写している人を見かけます。それだけ立派なお手本がたくさんありました。


と、まあ、画家がそうなら、受容する人たち、つまり我々も、猫も杓子もフランス、フランスとなるわけです。千足伸行さんは「近代美術の歴史はフランス美術の歴史である」と述べています。そして「印象派とエコール・ド・パリはフランス近代絵画のメインストリートである」と述べています。図録の千足伸行による巻頭論文「フランス絵画の黄金時代:印象派からエコール・ド・パリへ」は、まさにフランスの印象派からエコール・ド・パリへの歴史そのものを見事に解説しています。


ルノワール7点、ルオー6点、ヴラマンク10点、ユトリロ11点、藤田嗣治5点、キスリング7点、全部で16作家71点もの作品が集結しています。なんなんだろう、これは?「日本の個人コレクション」から厳選された作品です。「個人」ですよ、「個人」。凄いコレクションです。しかもその持ち主は公開されていません。謎です。ルノワールの大作「ド・ガレア夫人の肖像」は、これまでの画集や展覧会カタログにも紹介されてことのない「幻の名画」です。しかし、飛び切りの名画だと、かえって持ち主が特定されてしまいます。したがって今回の展覧会は、16作家の二番手の作品で構成されている、と言っては言い過ぎでしょうか。


展覧会の構成は、以下の通りです。


第1章 印象派とその周辺の画家たち

第2章 革新的で伝統的な画家たち

第3章 エコール・ド・パリの画家たち


第1章 印象派とその周辺の画家たち

1860年代後半、パリのカフェ・ゲルボワに集った若手の画家達は、伝統的な美学から離れ、新しい絵画の創造を目指していました。やがて彼らはキャンヴァスを戸外に持ち出し、目に見える風景を写しとり始めます。それはまた、事物に降り注ぐ太陽の光を捉える試みでもありました。揺らぐ輪郭と踊る原色によって、自然のうつろう美しさを表現した印象派の誕生です。セザンヌは故郷の風景に現れる形や構図を幾何学的に捉え、その再構成を試みました。モネは風景が刻一刻と変化していく様子を、すばやい筆遣いと豊富な色彩で描きとめました。ルノワールは彼をとりまく人々に愛情深いまなざしを注ぎました。彼が描いたのは生きる喜びを内側から発散させるような幸福な人物像ばかりでした。フランスの牧歌的風景、都会のきらめき、そして若き芸術家たちが新たな絵画の創造を追い求めたこの時代の空気は、今もなお新鮮な輝きをもって絵画の中から語りかけています。






第2章 革新的で伝統的な画家たち

20世紀に入って、印象派の画家たちの新しさが理解されるようになり、次いで古典的な過去の作品が新たな文脈で評価されはじめると、若い画家たちは、それをふまえてさらなる表現の革新を求めるようになりました。原色を使い筆触を際立たせる描き方で、目に見える以上のものを表現しようとするフォーヴィスムや、現実にある事物を見て描くアプローチそのものに根本的に挑んだキュビスムの動きがそれです。同じ関心から出発したために、当初彼らの作品は互いに似かよっていましたが、1920年代になると、各々独自の作風を確立することとなります。また、両大戦間の社会の状況は、フランス人画家である彼らに、古典に回帰してフランス美術の偉大な伝統に連なることを期待しました。彼らはそうした期待に応え、フランス国内だけでなくアメリカ、そして日本へと広がった市場でも人気を得て、第二次大戦後に至るまで存在感を示し続けました。




第3章 エコール・ド・パリの画家たち

第一次大戦後のフランスは人間性の回復、そして芸術の伝統の復興をとなえ、戦争の惨禍からの立ち直りを図ります。首都のパリには、大戦前にもまして多くの外国人芸術家が集い、モンマルトルやモンパルナスを舞台に個々の創作を展開していきました。当時のパリの街角は、ユトリロが哀愁漂う風景画として作品に残しました。イタリア出身のモディリアーニが描いた裸婦は、単純化された形態の中に人の生にまつわる哀歓をしのばせています。ポーランド人のキスリングは、なめらかな質感と鮮やかな色彩で、対象の存在そのものを極立たせ、肯定するような様式を確立しました。また、ロシア系ユダヤ人のシャガールは、故郷の風景につながる幻想的な光景に、豊かな色彩をちりばめました。一方で、日本の繊細な感覚を西洋の肖像画に見事に織りこんだ藤田嗣治も、ユニークな様式を確立した一人です。





「夢見るフランス絵画 印象派からエコール・ド・パリへ」

第一次世界大戦前の繁栄を謳歌していた頃のフランスでは、美術の全く異なるふたつの切り口が顔を合わせていました。印象派とエコール・ド・パリです。両者の背景として共通するのは、フランスの繁栄と社会の一応の安定があり、画家たちは自らの感性に忠実にその各々の目標に向かって邁進したことでした。そしてそれはいわば夢の実現でもあったのです。日本人が抱くフランスへの憧れの源泉には、おそらくこの国が長年にわたり文化芸術をリードしてきたことがあるでしょう。その象徴が「芸術の都パリ」の存在であり、絵画作品はその結晶なのです。日本の個人コレクションで構成される本展は、日本人にとって最もフランス的なるものである絵画を通じての日本人からフランスへのオマージュであるとともに、それを描いた画家たちの一人ひとりの夢を追体験する試みといえるでしょう。

「Bunkamuraザ・ミュージアム」ホームページ


yume1 「夢見るフランス絵画 印象派からエコール・ド・パリへ」

図録

編集:

兵庫県立美術館

Bunkamuraザ・ミュージアム

北海道立近代美術館

宇都宮美術館

神戸新聞社

表紙デザイン:

梯耕治

制作:

印象社
©2014 神戸新聞社




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