Bunkamuraザ・ミュージアムで「フェルメール《地理学者》とオランダ・フランドル絵画展」を観 | とんとん・にっき

Bunkamuraザ・ミュージアムで「フェルメール《地理学者》とオランダ・フランドル絵画展」を観


Bunkamuraザ・ミュージアムで「フェルメール《地理学者》とオランダ・フランドル絵画展」を観てきました。観に行ったのは、3月10日でした。フェルメールの作品はたった1点のみ、他はオランダ・フランドルの絵画でした。Bunkamuraがよくやる「一点豪華主義」というヤツです。例えば「○○とその時代展」のように。


フェルメールの「地理学者」は50.0×46.6cm、思っていたよりも小さい絵でした。フランクフルトにあるシュテーデル美術研究所蔵です。フェルメールには珍しく、モデルは男の人です。これと似たような「天文学者」という絵があります。ルーヴル美術館蔵です。「地理学者」は1669年の作品、「天文学者」は1年前の1668年の作品です。絵の中に「年紀」が入っているから分かるのだそうです。その当時、大航海時代、天文学も地理学も、最先端の学問でした。ともに「書斎の学者」という伝統的な主題に従ったものだそうです。


フェルメール研究の第一人者である小林頼子によれば、「天文学者」と「地理学者」では、わずか1年の制作時期のズレにしては、決定的なまでに絵としての質が違っている、という。それは衣服の描き方で分かるという。ちょうどこの2作の間にフェルメールの歩みの大きな分岐点があるのではないか、洗練を極めた1660年代の最後の輝きと、次なる1670年代、フェルメール晩年の兆しがハッキリと感じられる、というのが、小林頼子の説です。


「地理学者」、背景が凄い。細部に凝っています。まずは、壁に掛けられている「海図」、そして後ろの戸棚の上には「地球儀」です。机の上には「地図」でしょう。手には「デバイダー」、横のテーブルの上には「直角定規」が置かれています。まさに科学的な研究をしている「地理学者」を表しています。幅木は「デルフト焼きのタイル」、椅子は「ゴブラン織り」でできた豪華なものです。戸棚も高価なものです。衣服から裕福な上流階級だと分かるという。赤い生地の裏地がついた、青いガウンを着ています。


フェルメールの「地理学者」、僕はこの絵が全体的にぼやけていて、人物は鼻筋の通ったところだけはいいとして、他は焦点の定まらない、締まりのない絵だと思っていました。また「どてら」のようなガウンがどうにも描かれる人物が着るようなものには思えませんでした。有吉玉青は「恋するフェルメール」のなかで、この絵のことをフランクフルトのガイドが、この地理学者の表情を「宇宙の心理を知った表情」と言ったが、実は自分はそれまで、ボケた顔をしていると思っていたが、言われてみると、確かに人は何かを知ったとき、呆けたような顔になり、目は焦点がどこにも合わず、どこか遠くを見ているのだ・・・、と書いています。




展覧会の構成は、以下の通りです。

Ⅰ 歴史画と寓意画

Ⅱ 肖像画

Ⅲ 風俗画と室内画

Ⅳ 地誌と風景画

Ⅴ 静物画


オランダ・フランドル絵画は、人気が高く、毎年のように展覧会が開かれています。「フランドル絵画」といえば、今から10年前、2001年4月19日から5月20日まで、伊勢丹美術館で開催された「黄金期フランドル絵画の巨匠たち展」です。アントワープ王立美術館の所蔵する、17世紀フランドル絵画をごっそりと持ってきた展覧会でした。「北方ルネサンスの画家たち」「ブリューゲルの子孫と継承者たち」「バロックの三巨匠―ルーベンス、ヨルダーンス」「ヴェン・ダイク」そして「17世紀フランドル絵画―宗教画、神話画、肖像画、風俗画、静物画、風景画の世界」、という項目分けでした。ブリューゲルは別として、今回の展覧会とたいへん似た構成の展覧会でした。


今回の展覧会は、フランクフルト・シュテーデル美術館所蔵の「オランダ・フランドル黄金期の絵画」が展示されています。厳密に言えば、日本人が「オランダ」と呼んでいる国の正式な名称は、「ネーデルランド王国」になるようです。「オランダ」は「森の国」、「ネーデルランド」は「低い地方」の意味のようです。が、しかし、「ネーデルランド(低地地方)」という言葉は、現在のオランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、そして北フランスの一部を含むものとして広範囲に使われてきたという。また、「フランドル」とは「水に埋もれた地方」を意味するという。


15世紀にはブリュッセルが、16世紀にはアントワープが交流し、南ネーデルランド全域(現ベルギー)に及ぶ文化圏が形成され、そこに誕生した美術も「フランドル絵画」と呼ばれるようになった、という。昨年、BUnkamuraザ・ミュージアムで、「フランダースの光」展が開催されたし、「ブリューゲル版画展」も開催されました。オランダも、ネーデルランドも、フランドルも、そして北フランスの一部まで、結局は繋がった文化圏と言ってもいい、ということになるわけです。なるほど、同じような風景表現の絵が多いということは、そういうことだったのか、と妙に納得したりもします。


歴史画では、ルーベンスとレンブラント、2人の「竪琴を弾くダヴィデ(王)」がありましたが、作品はあくまで対照的でした。ヤン・ブリューゲル(子)の描く「楽園でのエヴァの創造」は、さまざまな種類の動物が、花や過日が生い茂った風景を生き生きとしたものにしています。いったい何種類の動物がいるのでしょうか。風景はあくまで北ヨーロッパが描かれています。「画家の娘、シュザンナ・ド・フォスの肖像」は、肖像画家であり歴史画かでもあるコルネリス・ド・フォスの作品。シュザンナ・ド・フォスは自分の娘で、子どもの肖像画は珍しい。


フランス・ハルスの「男の肖像」は、「女の肖像」と一対の作品です。ふたつの長い楕円形の板に、オランダの貴族出身である裕福な夫婦の、ほぼ原寸大の堂々とした半身像を残しています。フランス・ハルスは、17世紀のオランダ絵画における重要な肖像画家に数えられるという。デイルク・ファン・バーブレンの「歌う若い男」と、アドリアーン・ブラウエルの「苦い飲み物」、ともに顔の表情が見事という他ない。まさに風俗画の極まりです。


赤いレザー針の椅子に座り、ヴェネツィアンガラスのワイングラスを口に運ぶ裕福な市民階級の女性を描いたヘラルト・テル・ボルヒの「ワイングラスを持つ婦人」、そして暗い室内にたった1本の蝋燭に照らし出された丸顔の若い女性と、ランタンを手の持った女の子を描いたヘリット・ダウの「夕食の食卓を片づける女性」は、ネーデルランド美術の伝統に従った「室内画」に他なりません。ルーカス・ファン・ファルケンボルヒの「凍ったスヘルデ川とアントワープの景観」は、ブリューゲルの作品の伝統の流れに従っています。アントワープの町を背景に、大人も子どもも氷結したスヘルデ川の上ではしゃぎ回っています。前景には農民や市場の商人が、たき火で身を暖めています。


風景画は、もうバルビゾンも、フランドルも、ネーデルランドも、オランダも、みな同じようで区別がつきません。静物画は17世紀になってようやく登場したという。静物が絵画の独立した主題になるには、長い時間がかかったという。描かれているのは花瓶の花、調理台の上の魚、果物や野菜、グラスや陶器、合金の盆、はては死んだ家禽、野兎や鳥、等々、それが精密に細部にわたって描かれています。狩猟の静物画は、始め17世紀以降貴族階級が支配していた南ネーデルランドで定着したが、すぐに独立国になったオランダの反映していた貴族にも好まれるようになったという。


Ⅰ 歴史画と寓意画



Ⅱ 肖像画


Ⅲ 風俗画と室内画



Ⅳ 地誌と風景画




Ⅴ 静物画



「フェルメール《地理学者》とオランダ・フランドル絵画展」

17世紀オランダ絵画の巨匠フェルメールは、日本で最も人気の高い画家ですが、その作品は30数点しか現在では確認されていません。そのなかでも2点しかない男性単身を描いた作品のうちのひとつ、傑作《地理学者》を中心に、オランダ・フランドル絵画の黄金期を振り返る展覧会を開催します。フェルメールのほかにもレンブラント、ルーベンス、ヤン・ブリューゲル、ハルスなど同時代を代表する画家の名作全95点が、ドイツ・フランクフルトにあるシュテーデル美術館のコレクションから一堂に会します。ヨーロッパでも屈指のオランダ・フランドル絵画のコレクションを有する同館の改築工事に伴い、約200年前の開館以来、まとめて作品を貸し出す初めての機会です。そしてフェルメールの《地理学者》は、東京では初公開となります。


「Bunkamura ザ・ミュージアム」ホームページ


とんとん・にっき-bunka1 「フェルメール《地理学者》と

オランダ・フランドル絵画展」

図録

編集:Bunkamura ザ・ミュージアム

    豊田市美術館

    読売新聞社

発行:読売新聞社







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