Bunkamura で「アンカー展」を観る! | とんとん・にっき

Bunkamura で「アンカー展」を観る!



Bunkamuraのザ・ミュージアムで「アンカー展」を観てきました。いや、実にお恥ずかしい、アンカーという画家はてっきり女性の画家だとばかり思っていました。チラシが赤く、2匹の猫を抱いた少女だったので、僕の勝手な思いこみで、そう思ってしまったのでしょう。それでお分かりになるように、実はなんの下調べもせず、あまり期待もせずに観にとにかく行きました。ところが入ってすぐに、考えが変わりました。「鶏」「鶏に餌をやる少女」「水を運ぶ子供たち」、この3枚の油彩画を観て、アンカーという画家がどういう人かを、僕は一気に察知しました。なにしろ子供の表情が素晴らしい。


チラシの裏面には、次のようにあります。
19世紀スイスの自然主義の画家アルベール・アンカー(1831-1910年)。日本では殆ど知られていないが、国民的画家として本国では大変な人気を誇っており、その作品はスイス国内の多くの美術館に所蔵されている。スイス中央部のインス村(ドイツ語名/フランス語ではアネ)出身のアンカーは、創作活動のために秋から春まではパリに暮らし、夏だけ故郷に滞在する生活を送ったが、描き続けたのはパリではなく、生まれ育った故郷の村の情景であった。村の子供や老人などの日々の生活を題材にし、とくに幼い少女を描いた作品はアンカーの代名詞になっている。スイスの人々の心をとらえて話さない、細密で穏やかな色調で描かれた情景の数々は、我々日本人が見てもどこか懐かしく、ぬくもりを感じさせる。



「油彩を中心に素描も含め100余点の作品で構成され」とありますが、会場の構成もゆったりとして、質・量ともに満足いく展覧会でした、というのが僕の感想ですが。以下に会場の構成をあげておきます。このグルーピングが、なかなか分かり易くてよかったと思います。


Ⅰ故郷の村
Ⅱ静物
Ⅲよく遊び、よく学べ
Ⅳアンカーの愛した風景
Ⅴ教育と学習
Ⅵ肖像
Ⅶアンカーとファイアンス陶器



先日のフェルメール展でも話題になりましたが、いわゆる「風俗画」というのでしょうか、アンカーも生活に密着したものを描いています。当時の暮らしぶりがよくわかります。そして、「これ写真じゃないの?」と言えるほどスーパーリアリズムな描き方、特に静物や肖像画はそうでした。題材の選び方や描き方は、時代はやや新しいのですが、アメリカで言えばアンドリュー・ワイエスの絵に近いものがあります。 (話は変わりますが、Bunkamuraザ・ミュージアムで、来年の11月8日から12月23日まで、「アンドリュー・ワイエス―創造への道程―(仮称)」が開催されるそうです)


油彩の「少女と2匹の猫」(1888年)はチラシの表面になっています。同じく油彩の「髪を編む少女」(1887年)は図録の表紙になっています。このふたつの作品がやはり圧巻、今回の展覧会の目玉でしょう。少女の金髪がともに素晴らしい。僕が特に驚いたのは、「木炭」で描いたものです。「木炭でここまで描けるの?」という素朴なオドロキです。それだけ画家としての下地、というか、基礎がしっかり出来ているのでしょう。「猫を膝に抱く少女」や「幸せな家族」がそれに当たります。



「よく遊び、よく学べ」のセクションは、子供の遊びを題材にして描いた作品が集められています。「骨玉遊び」「あやとり」「積み木」「ドミノ」「人形」「シャボン玉」等々、子供の表情が生き生きと描かれています。。ネーデルランドのブリューゲルに通じるものです。「教育と学習」のセクションは、やはり子供を描いていますが、「筆記板を持つ小学生」「宿題をする子供」「書取をする少女」等々が描かれています。


「アンカーの愛した風景」、わずか6点ですが、小品ながら、水彩でサラッと描きあげた見事なものでした。「アンカーとファイアンス陶器」のセクションには、ファイアンス陶器用下絵として「日本の女性」という鉛筆画が出ていました。アンカーは1878年と1889年の二度、パリで万国博覧会を見ているそうです。万博で日本の芸術に始めて触れて、感銘を受けたようです。いわゆる「ジャポニズム」ですね。



「おじいさんと二人の孫」(1881年)は、今回の展覧会の一方の目玉です。解説によると、プロテスタント信仰とアンカーの制作活動とは切り離して考えることは出来ない、「おじいさんと二人の孫」に描かれた世界は、キリスト教的信念とも一致する“よき世界”である、とあります。一般に画家の自画像は若いときに描かれることが多いように思われますが、アンカーの「自画像」は画家が70歳の時に描かれています。


「マリー・アンカーの肖像」は、黒い衣服を纏い学校用の鞄を肩に掛けた、アンカーの次女を描いたもので、アンカーの肖像画の傑作と言われているようです。油彩画の「死の床につくリューディ・アンカー」と鉛筆画の「死の床につくエミール・アンカー」の前では、足がすくみました。アンカーは二人の息子を早くに亡くしたそうです。死せる愛息の描写は、悲しみを乗り越えて、画家として冷静な目で描いています。