はじめに
Second Language Acquisition (第二言語習得論:SLA)という言葉があるように、言語は「習得する」ものという考えがあります。
一方、言語を「学習する」といっても、多くの人にはなんら違和感がないのではないのではないでしょうか。
「習得」「学習」
人によってはこだわりをもってどちらかを選んで使っていると思いますが(僕は「学習」を好んで使います)、もう一つ他の言い方でとても自然なものがあります。
言語(のスキル)を「身につける」
という表現です。
英語学習・教育に携わる中で、今一番しっくりくるのは「身につける」という表現かなと思っています。
今日はそんな話を少し、簡単にしていきます。
言語(のスキル)を身につける
言葉(特に第二言語、すなわち多くの人にとって英語)を「学習」「習得」するというと、どうしても机に向かって「頭」でするものな感じがしてしまいます(もちろんそういった学習も大切)。ですが、やはりもっと、語学には「身体性」が強調されていいのではないかと思うのです。
「身体性」とは、肉体を伴うということであり、これは僕たち人間とAIの大きな違いですよね。僕たちは生身の人間であるのです。
もちろんAIも感覚が身についてきたりしているとききますが、人間のそれとはレベルが違うと思います。
五感で「身に染みて」感じ、ことばを「身につけて」いくこと。
語学においてこの部分がもっと強調されていくべきだなと、この便利な時代だからこそ思うのです。
フランス旅行にて
前回の投稿で書いたように、先日僕はスペインとフランスに旅行に行ったのですが、実際に「身をもって」英語を見聞きし、使ってやりとりをするのは、日本で海外ドラマを通じて学ぶのとは次元の違うことでした。
たとえば大学時代にかじっていたフランス語を現地で使ってみたのですが、その感動といったら言葉では表しがたいものでした。
- スーパーの無愛想な店員さんに質問し、言われた"Je ne sais pas." (わからない)。
- モンマルトルの絵描きさんに突然フランス語を話せるかと聞かれて答えた、"Je ne parle pas français." (私はフランス語を話せません)
オノマトペについて学んでみて
もうひとつ、僕が今「身体性」に関心を持っているのは、旅行に行く前に偶然見つけて買った本の影響でもあります。
今井むつみ・秋田喜美 (2023). 『言語の本質:ことばはどう生まれ、進化したか』 (中公新書).
この本を読んで、オノマトペが人間の実体験(= 身を持って体感すること:身体性)から来ているということを知りました。まだ読み途中なので、読み終わったらまとめの記事を書きますが、とても面白い本ですごく影響を受けております。
ことばの「意味と表し方は恣意的な関係」といわれますが、オノマトペは必ずしもそうでなく、むしろ身体性の高いことばです。
そういったことを考えても、やはりもっと「身体性を伴った理解」が語学には必要なのだと思いました。
また、オノマトペのような身体性の伴うことばを身につけることは、よりAIが発達して情報のやり取りが容易になっても、語学の価値として残っていくだろうと思います。
おわりに
今回は、語学と身体性というテーマで、思いつくままに書いてみました。
今井・秋田 (2023) については今後しっかりまとめていきたいと思います(最近読んだ他の本についてももっと深めていきたいです)ので、どうぞお楽しみに。
最後に、SLAの偉大な本の一つである、Kramsch (2009) に使われていた表現を紹介しておきます。
“the flesh-and-blood individuals who are doing the learning” (Kramsch, 2009, p. 2)
その学習をしている、生身の個人
学習のプロセスも大切だけど、生身の人間ひとりひとりを大切にしていこうという文脈で使われていました。
ここにも「身体性」が感じられるし、identityにも関係していますよね!
こんなことをもう何年も前から考え、議論されていたと思うと、SLAの偉人たちには畏敬の念を抱かざるを得ません。
これからも色々と学び、身につけ、発信していけるようにしたいと思います:)
参考文献
今井むつみ・秋田喜美 (2023). 『言語の本質:ことばはどう生まれ、進化したか』 (中公新書).
Kramsch, C. (2009). The multilingual subject: What foreign language learners say about their experience and why it matters. Oxford University Press.