はじめに

夏休みもあっという間に残り2週間ほど?になりましたね。

まだまだ暑いんだから、もう少し夏休みが長くても… なんて思ってしまいますが笑、まあ楽しめるうちに楽しんでおきたいと思います。

 

さて、前回の投稿に引き続き、今回も論文を読んだ感想を書いていきたと思います。

今回読んだ論文はこちらです。

 

Kutuk, G. (2023). Understanding Gender Stereotypes in the Context of Foreign Language Learning through the Lens of Social Cognitive Theory. TESOL Quarterly, 0 (0), 1-25. https://doi.org/10.1002/tesq.3267

 

では早速みていきましょう!

 

  英語学習におけるジェンダーと偏見

「英語学習におけるジェンダーと偏見」と聞いて、どのようなことを思い浮かべるでしょうか?

特に浮かばないなあという人もいるかもしれません。僕も最初はあまり思い浮かびませんでした。

では、これならどうでしょう?

 

「理系といえば男、文系(特に言語分野)といえば女」

 

ここまではっきり思っている人はいないかもしれませんが、「リケジョ」という言葉があるように、理系に進む女の人は少し特異な存在と思われている節はあると思います。

このような「偏見」についての研究が今回紹介する論文です。

実際、この論文でも上のような「偏見」が取り上げられていました。つまり、日本固有の考えではないということですね。

 

さて、この研究の設定について簡単にまとめます。

 

  • トルコ(ジェンダーイメージがはっきりしている国)の大学、
  • 6つの大学から32名の教員と学生(教員17名(女10名、男7名)、学生15名(女7名、男8名)、
  • インタビューをして内容をテーマ分け、social cognitive theory (SCT)* から分析

*人間の機能は行動的、個人的、環境的なプロセスの相互作用で形成されるという考え

 

行動的なプロセス

  • 忍耐力:女性の方が男性より強い。ゆえに言語学習に成功しやすいのではないかという意見。男性は「できる人」というセルフイメージを守るために成功しなさそうなタスクは避ける傾向あり。
  • 学習に対する責任感:女性の方が強い。社会で成功するためには、男性より優れていると証明する必要があるから。女性の頑張りをスタンダードと思わない方がいい。女性にはプレッシャーをかけるし、男性の努力の価値を下げてしまうから。

個人的なプロセス

  • 特性:女性の外国語学習に対する興味が成功につながっている。生まれ持ったものではない。
  • 感情:女性の方がオープン。弱みもさらけ出せる。男性は「強い」と思われなければいけないという期待からそれが難しい。

環境的なプロセス

  • 他者(親、同僚、教員など)からの期待:男性は理系、女性は教員がいいのではないかという期待。(幼い頃)綺麗な発音は女性の外国語学習成功者のイメージだからあえて避けたりする。
 
いかがでしょうか?
だいぶラフにまとめてしまいましたが、結構「わかる〜」ってなったことが多かったのではないかと思います。
 
一番重要なことを先に書くと、この研究はあくまでこの文脈の話でしかないけれど、この研究の意義は、もし学習者が学習にやる気がないように見えたり活動に参加していないときには、このような原因があるのかも?と参照できることだと思います。また、教員のインタビューもあるため、知らず知らずのうちに形成された教員側のバイアスをもって接してしまっているのではないかと自問できるようになることもこの研究の意義だと思います。
 
実際、僕がみている中高生は、確かに女子の方が言語学習に取り組みが良く、それもあってか成果が出やすい印象でした。
男子は大雑把で適当なことが多い年頃だからかもしれないけど、もしかすると期待感によるプレッシャーとか、言葉を丁寧に学ぶことになんとなく恥ずかしさを持っていたりするのかもしれない。そのようにみてあげることで、見え方も変わってくるかもしれないと思いました。
 
また、日本の中高生の多くは大学受験を「最終」ゴールに英語学習に励んでいることも多いと思うので、これは男女関係なくプレッシャーがあると思いますが、やはりいまだに「男はいい大学に行ってしっかり働くものだ」という価値観が見え隠れする社会なので、そういったプレッシャーは男子生徒の方が多く受けているのかもしれませんね。
女子生徒は、(「理系では無理だから)語学で成功しなければ!」とまでは思っていないと思いますが、真面目に取り組む特性ゆえに、英語学習に不安 (anxiety) を持っているかもしれないと改めて感じました。

 

  おわりに

最後に、この研究でも僕が一番面白かったニッチなところを述べて終わりにします笑。

 

先ほども書きましたが、以下の部分が一番興味深かったです。

 

「(幼い頃)綺麗な発音は女性の外国語学習成功者のイメージだからあえて避けたりする。」

 

日本でも、英語の発音を上手にするといじられたり恥ずかしかったりしてあえて「カタカナ発音」をする学習者を何人も見てきましたが、ここにジェンダーの要素が関わってくることもあるのだなあと気付かされました。まさにidentityの問題ですよね。

 

これを踏まえると、もしかしたら「男子同士ではしっかりと英語の発音をしているのに、自分より発音が上手とされる女子と話すときにはあえてカタカナ発音にする」ということをしているかもしれません。

これは会話分析(conversetion analysis) を通じて明らかにできると思います。

私も授業中には少し、このような観点から生徒の発音に注意を向けてみようと思います。

 
いずれにしても、このように論文を読むことは、最近の英語学習ではどのようなことが議論されているのかを知ることができてとても刺激的です。
普段は教職の業務に忙殺されてしまいますが、時間がある時はできるだけ最新の研究に触れていきたいと思います。