各位

2011年3月11日午後3時過ぎに500~1000年に一回と思われる大地震が
発生しました。12日になっても携帯、固定電話、メールも殆ど不通ですので近況を連絡します。


・自宅は食器棚や本棚が散乱しましたが、家族一同怪我はありません。
 コップや皿が10~20個ほど破損した程度です。

・家具の倒壊や破損はありませんでしたが、棚やソファーは20cmくらいずれました。
 またサッシ窓の鍵が振動で開き、50cmくらい窓が開きました。驚きました。

・余震はひっきりなしですが、12日朝からはそれほどでもありません。
 昨夜は大きな余震で2回ほど目が覚めましたがよく眠りました。

・電気、ガス、水道は全て問題ありません。ネットもつながります。
 ただしe-mailはサーバーがダウンしているらしくYahooメールくらいしか使えません。
 twitterが最も有用な情報源になるようです。デマも混じってますが、、。

・福島第一、第二原発とは十分離れているので全く心配してません。
 ただし炉内の蒸気を抜く決心をした様ですし、情報もまだ不足してますから

 「念のため、10km以内の方は非難した方が安心でしょう」とはいえ、

 被曝量は1000倍と言っても、50mSv/年(一年間現場にいてもCT撮影1~3回分) 
 程度ですので、癌患者の私からみたら気にならない程度です。

・午前中居室に行ってみましたが、停電、断水でした。道路の信号もストップしてます。
 急を要する用事がないなら自宅待機が賢明と思います。あ、勿論、部屋は荷物が散乱
 してますが、そんなもん後でどうとでも出来ます。心配する程ではありませんでした。

study2007
MRIC投稿予定原稿の3次稿です。
事実関係の誤認や、反対意見など、お寄せ頂けますと幸いです。
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「ある癌患者から診たイレッサ問題の教訓と今後の医療に望むこと」

癌患者 study2007 (http://ameblo.jp/study2007/)

イレッサ訴訟は国とアストラゼネカ社が東京・大阪両地裁の和解案を拒否し2月28日に大阪地裁で判決が下りました。和解案では国の責任も認定しながら判決では国家賠償は認められないなど、疑問点もありますが、本稿ではイレッサ問題から得るべき教訓と今後の医療に望むことを私の理解の範囲で記載致します。皆様の広範な御意見・ご批判など伺えますと幸いです。

1.イレッサについて:
私は2007年3月に多発肺転移を有する進行癌と診断され国立がんセンター中央病院で化学療法を開始しました[1]。初回治療はカルボプラチン+パクリタキセルでした。その後放射線治療と抗癌剤を繰り返しながら治療を継続しております。残念ながらEGFR遺伝子変異は無く私自身はイレッサ適応はありません。治療を開始した2007年以降もイレッサは広く医療現場で使われており、適応患者さんの経過を聞く度に羨ましく感じております。

近年改善されてきたとはいえ白金系やタキサン系抗癌剤の副作用が強いのは事実です。二剤併用レジメンは4~6コースが治療の目安で半年以上の継続は通常困難です。それに比べればイレッサの副作用は非常に軽微だと言えます。効果の程度や耐性までの期間に個人差はあるものの年単位の処方も可能です。2010年にはEGFR変異を有する手術不適応患者の化学療法として第一選択肢になりうることを示唆する治験結果も出ています[2,3]。イレッサは進行肺癌治療の現場にリスクを上回るメリットをもたらしました。その事実は現在も市販開始当時も同じだと思います[4,5]。大阪地裁の判決もイレッサの効能そのものは否定しておりません。

2.裁判の争点について:
判決では製造物責任法2条2項「指示・警告上の欠陥」が問われました。添付文書の記載が不充分で間質性肺炎の注意喚起が不充分だったという判断です。重要な項目は前の方に書くとの「通達」が根拠になった様です。もちろん原告が訴えたのは「文書だけ」ではありません。臨床試験や臨床試験以外で発生した副作用をアストラゼネカ社が軽視したこと。販売を急ぐあまり積極的な注意喚起を怠ったこと。また国がそれら副作用情報を得ていたにも関わらず承認時に深く考慮しなかった事、などの責任を追及しています[6,7]。

私も原告の指摘は方向性として正しいと思います。アストラゼネカ社も国も自らの判断と行動に反省すべき点がなかったか正直に振り返り今後の教訓とせねばならないと思います。その一方で、いくつかの抗癌剤を経験した癌患者としてイレッサの添付文書(初版2002年7月)に違法と言える程の不備があったとはやはり私には思えません。間質性肺炎の記述が2ページ目の重大な副作用の4番目に記載されているからといって、軽んじたり見落としたりすることは有り得ないと思うからです。

化学療法中に肺炎を併発することの恐ろしさは患者も医療者も文字通り骨髄に染みて感じています。間質性肺炎は一般には馴染みのない病名かもしれませんが、記述そのものが最大限の注意喚起です。レントゲンを頻回に撮り、また咳や熱に注意し主治医と相談しながら治療を行います。イレッサは一般の消費者が薬局で自由に買える薬剤とは違います。医師による処方と指示に従いながら投与をすれば他の抗癌剤に比べ決して危険とは言えません。確かに数万人が服用した現在に比べ販売開始当時の知見が乏しかった事は事実だと思います。しかしながら間質性肺炎の恐れを隠したわけでは無く「頻度が不明」である事も含め添付文書に明記したアストラゼネカ社と、販売を承認した国に法的責任まで認定するのは行き過ぎだと感じます。

3.真の問題はなにか?:
販売後わずか2年半に500人以上が死亡した事実は甚大です。全症例を解析しないと明確なことは言えませんがイレッサ関連死が一定の割合で起こったであろう事は私も疑いません。ですが、その原因の全てが「添付文書の記載が目立たなかった」事だけに拠るとは恐らく誰も考えていないはずです。

・原告に限らず「夢の新薬」や「神の手技」を追い求める信仰が我々癌患者には無いでしょうか?。週刊誌やインターネットの情報は信じても腫瘍内科医の提案には耳を貸さない。内容を理解せず手術の同意書にサインをし「先生にお任せします」。日常的にそういった患者・家族を見かけないでしょうか?

・マスコミもプレスリリースを吟味せず無責任な報道をしなかったでしょうか?。例えば現在も「抗癌剤は効かない」とか「がんもどき」など証拠レベルの極めて低い情報が週刊誌に大々的に報じられ治療判断に悪影響を与え続けていないでしょうか?。そういった出版社の過失責任はアストラゼネカの無過失責任とは比較にならないくらい重大だと思えます。

・また販売当時の医療現場に慢心は無かったでしょうか?。ある原告の方の治療経過では間質性肺炎が明記されている新薬の、それも初回治療にもかかわらず「30日分処方して退院させ」前縦隔への放射線治療から僅か2週間後に服用を開始させています。こういったケースに見られるように医療者側にも経口抗癌剤に対する油断があったと疑わざるを得ません。

イレッサ訴訟は医療問題に対する裁判の限界をも示していると感じます。今回も癌治療の背景と土壌に横たわり続ける本当の問題を考え直す機会を逸しました。また癌患者の抗癌剤へのアクセスを更に悪くしたとも懸念します。「ドラッグラグを人質に取るのは卑怯」との意見もありますが、もしも今回の司法判断を受け入れるのなら今後は副作用の頻度とグレードを第III相試験で統計的に見極め、法令か通達に基づく字体、大きさ、字色、順番、などを忠実に守らねばなりません。承認までの期間と試験量が増大することはいわば数学的事実です。卑怯かどうかとは関連がありません。それは誰も望んでいないことでしょうし、とりわけ治療が必要な癌患者にとってはまさに死活問題です。

イレッサ問題を真に教訓とするならば、通常の裁判所の下位に医療問題を扱う調停機関として医師による医療裁判所を設けることを検討してはどうでしょうか?。第三者の医師・専門家が審理する合理的な判断の場をつくり、原則として責任追及よりも原因の解明、改善策の示唆、補償内容の提示を行う。希に起こる「故意」による医療事件などは通常の裁判所に廻し医師の職権の停止・剥奪なども行う。医療問題ではしばしば病院や医師の能力・資格についても国民の関心が集まります。これらの問題を国の管理・指導に頼らず医師の自治で解決できる様になれば国民はそれを受け入れると思います。医療裁判所は国民と医療の信頼関係を醸成する一助に成り得るのではないかと考えます。

4.患者が望むもの
患者が最も強く望むものは何でしょうか?それは「治癒すること」だと確信します。それは原告も同様だったと想像します。手術不適応進行癌における治癒とは癌に勝つ事ではなく、長期にわたる引き分けだと私は定義しています。例えば私は「診断から5年生存」をひとつの目標に設定しました。もしも世界中の抗癌剤や分子標的剤、ワクチン療法や高性能放射線装置など、全ての武器を自由に使わせて貰えれば恐らく5年はクリアできると想像しています。さらにBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)などの開発費も出して貰えれば10年生存も夢ではないと期待しています[8]。費用や治療待ち期間に制限されず全ての患者が個々に最適なルートを辿れば全生存期間は飛躍的に伸びると信じます。

仮に治らないとしても「望んだ延命・緩和治療がうけられる」ことは切実な要望だと思います。この部分が適切にフォローされない限り「夢の新薬」事件はいつでも起こり得ると思います。「がんもどき」騒動が沈静化しても繰り返し同様のスキャンダルや根拠のない代替療法が現れると思います。この状況を抜け出し科学的で負担に見合った医療を実現する為には何が必要でしょうか?。私は乗り越えなければならない壁が少なくとも2つはあると感じています。

第一の壁は医薬品・機器の承認制度です[9,10]。薬や機器の使用や保険適応を監督官庁が主催する会議や所管する独立行政法人(PMDA)で一元的に承認・審査するのは合理的ではないと考えます。薬事承認と保険適応とを切り分けることが最適な医療にアクセスする為の第一条件だと考えます。例えば科学的コンセンサスのあるコンペンディア(NCCN drugs & Biologics Compendium)に載った抗癌剤は自動的に保険適応するなどの制度変更を望みます[11]。ある患者に抗癌剤が有用かどうかは学術的研究を基に個々の治療現場で判断する以外にありません。私は4年にわたる治療の過程でその現実を学びました。また保険負担とすべきかどうかは、その医薬品や機器の必要性や費用対効果、地域性など考慮し、県などの医療圏単位で医療費と医療現場の実状に合わせて調整すべきことがらだと考えます。

第二の壁は医療が分散している事です。進行癌の治療は通常何かひとつの特効薬や治療法では制御しきれない事も知りました。それぞれに高度な技量を持った複数の分野の医師に協力して貰う事が必須です。均てん化という政策は「分散化」の側面が強く、専門化と集約化が求められる現在の医療現場には対応できていないと思います。人口分布や疾病毎の統計を根拠とした効率的な医療施設の配置と専門医の育成が急務だと考えます[12]。

この二つの壁を乗り越える為に、患者(国民)も医療費や医師といった医療資源には限りがあることを思い直す必要があると思います。ランチバイキングに群がる様に医療に殺到し、全体のバランスを考えず「自分」達の薬や診療を声高に注文し続ける。こういった態度を改め「公」の医療を育てる自覚を持たない限り医療現場の疲弊は改善されず高度で合理的な医療の実現も程遠いはずです。

5.まとめ
イレッサ問題は「どこまで手を尽くしたのか?」がひとつの争点になったと思います。立場や考え方に差異があるのは当然ですが、少なくとも利益と不利益、目指すべき目標(容認できる事故発生率)などを定量的に話し合う必要があると思います。有限な医療資源(医療費、専門医、新薬開発に要する費用や時間)を度外視して究極の安全を求めるのは非科学的な幻想であることを国民は知るべきと考えます。「注意喚起が足りなかった」、「いや医学的には常識だ」という水掛け論でなく、癌治療における適切な合意点が得られることを一人の癌患者として願います。

また、現実には医療事故も副作用死もゼロにはならないと思います。しかしながら医療裁判所や無過失補償制度などを設けることで患者や医療者のリスクと不満を最小化することは目指せるはずです。「お上」がいて一部の団体が陳情する、難しいことは医者や企業に丸投げで、何かあれば訴訟を起こす。イレッサ問題がそういった従来型の発想ではなく権限と責任の一部を「民と地域」に移管・分散し、現場の事実の積み上げにより科学的に運用される、そういう効率的な医療の実現を目指すきっかけになる事を切に期待いたします。


参考文献:
[1] http://ameblo.jp/study2007/

[2] Maemondo M, Inoue A, Kobayashi K, et al. Gefitinib or chemotherapy for non-small-cell lung cancer with mutated EGFR. N Engl J Med. 2010;362:2380-8.

[3] Mitsudomi T, Morita S, Yatabe Y, et al. Gefitinib versus cisplatin plus docetaxel in patients with non-small-cell lung cancer harbouring mutations of the epidermal growth factor receptor (WJTOG3405): an open label, randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2010;11:121-8. Epub 2009 Dec 18.

[4] ZD1839, a Selective Oral Epidermal Growth Factor Receptor–Tyrosine Kinase Inhibitor, Is Well Tolerated and Active in Patients With Solid, Malignant Tumors: Results of a Phase I Trial. Journal of Clinical Oncology, Vol 20, Issue 9 (May), 2002: 2240-2250.

[5] Selective Oral Epidermal Growth Factor Receptor Tyrosine Kinase Inhibitor ZD1839 Is Generally Well-Tolerated and Has Activity in Non–Small-Cell Lung Cancer and Other Solid Tumors: Results of a Phase I Trial. Journal of Clinical Oncology, Vol 20, Issue 18 (September), 2002: 3815-3825.

[6] イレッサ薬害被害者の会 (http://homepage3.nifty.com/i250-higainokai/)

[7] 薬事・食品衛生審議会薬事分科会(平成14年6月12日開催分)議事録 (http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/06/txt/s0612-2.txt)

[8] 京都大学原子炉研究所、医療照射について (http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/index/iryo.html)

[9] MRIC by 医療ガバナンス学会 vol 87 適応外薬品を何とかしないとドラッグラグはなくならない!! 卵巣がんのジェム (http://medg.jp/mt/2010/03/vol-87.html)

[10] MRIC by 医療ガバナンス学会 Vol. 225 「未承認薬・適応外薬検討会議」をガス抜きに終わらせるな! (http://medg.jp/mt/2010/07/vol-225.html#more)

[11] http://www.nccn.org/professionals/drug_compendium/content/contents.asp

[12] ドイツの医療制度について~透明性の高い理想的な保健医療制度 (http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/m401.htm)
MRIC投稿予定原稿の2次稿です。
事実関係の誤認や、反対意見など、お寄せ頂けますと幸いです。
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「ある癌患者から診たイレッサ問題の教訓と今後の医療に望むこと」

癌患者 study2007

イレッサ訴訟は国とアストラゼネカ社が東京・大阪両地裁の和解案を拒否し、2月28日に大阪地裁で判決が下りました。和解案では国の責任も認定しながら判決では国家賠償は認められないなど疑問点もありますが、本稿ではイレッサ問題から得るべき教訓と医療に望むことを私の理解の範囲で記載致します。国、製薬会社のみならず患者や医療者の皆様の広範な御意見・ご批判など伺えますと幸いです。

1.イレッサについて:
私は2007年3月に多発肺転移を有する進行癌と診断され国立がんセンター中央病院で化学療法を開始しました。初回治療はカルボプラチン+パクリタキセルでした。その後放射線治療と抗癌剤を繰り返しながら現在まで治療を継続しております。残念ながらEGFR遺伝子変異は無く私自身はイレッサ適応はありません。治療を開始した2007年以降もイレッサは広く医療現場で使われており、イレッサの適応がある方の経過を聞く度に羨ましく感じております。

近年改善されてきたとはいえ白金系やタキサン系抗癌剤の副作用が強いのは事実です。二剤併用レジメンは4~6コースが治療の目安で半年以上の継続は通常困難です。それに対しイレッサの副作用は比較にならないほど軽微だと言えます。効果の程度や耐性までの期間に個人差はあるものの年単位の処方も可能です。2010年にはEGFR変異を有する手術不適応患者の化学療法として第一選択肢になりうることを示唆する治験結果も出ています。イレッサは進行肺癌治療の現場にリスクを上回るメリットをもたらしました。その事実は現在も市販開始当時も同じだと思います。大阪地裁の判決もイレッサの効能そのものは否定しておりません。

2.裁判の争点について:
判決では製造物責任法2条2項「指示・警告上の欠陥」が問われました。添付文書の記載が不充分で間質性肺炎の注意喚起が不充分だったという判断です。重要なものは前の方に書くとの「通達」が根拠になった様です。原告が訴えたのは「文書だけ」では無かったと思います。アストラゼネカ社が臨床試験や臨床試験以外の使用実績における副作用情報を軽視したこと。販売を急ぐあまり積極的な注意喚起を怠ったこと。また国がそれら副作用情報を得ていたにも関わらず承認時に深く考慮しなかった事などの責任を追及しています。

私も原告の指摘は方向性として正しいと思います。アストラゼネカ社も国も自らの判断と行動の中に反省すべき点がなかったか正直に振り返り今後の教訓とせねばならないと思います。その一方で、いくつかの抗癌剤を経験した癌患者としてイレッサの添付文書(初版2002年7月)に不法と言える程の不備があったとはやはり私には思えません。間質性肺炎の記述が2ページ目の重大な副作用の4番目に記載されているからといって、軽んじたり見落としたりすることは有り得ないと思うからです。

間質性肺炎は一般には馴染みのない病名かもしれませんが、癌治療中に肺炎を併発することの恐ろしさは患者も医療者も文字通り骨髄に染みて感じています。重要な副作用欄に間質性肺炎とあればレントゲンを頻回に撮り、また咳や熱に注意し主治医と相談しながら治療を行います。イレッサは一般の消費者が薬局で自由に買って処方する薬剤とは違います。医師により処方され、その指示に従いながら投与をすれば他の抗癌剤に比べ決して危険とは言えません。原告は「臨床試験の結果を軽視した」と追求しました。確かに数万人が使用した現在に比べ販売開始当時の知見が乏しかった事も事実だとおもいます。しかしながら間質性肺炎の恐れを隠したわけでは無く「頻度が不明」である事も含め添付文書に明記したアストラゼネカ社と、販売を承認した国に法的責任まで認定するのは行き過ぎだと感じます。

3.真の問題はなにか?:
販売後わずか2年半に500人以上が死亡した事実は甚大です。全症例を解析しないと明確なことは言えませんがイレッサ関連死が一定の割合で起こったであろう事は私も疑いません。ですが、その原因の全てが「添付文書の記載が目立たなかった」事だけに拠るとは恐らく誰も考えていないはずです。

・原告に限らず「夢の新薬」や「神の手」を追い求める信仰が我々癌患者には無いでしょうか?。週刊誌やインターネットの情報は信じても腫瘍内科医の提案には耳を貸さない。内容を理解せず手術の同意書にサインをし「先生にお任せします」。日常的にそういった患者・家族を見かけないでしょうか?

・マスコミもプレスリリースを吟味せず無責任な報道をしなかったでしょうか?。例えば現在も「抗癌剤は効かない」とか「がんもどき」など証拠レベルの極めて低い情報が週刊誌に大々的に報じられ治療判断に悪影響を与え続けていないでしょうか?。そういった出版社の過失責任はアストラゼネカの無過失責任とは比較にならないくらい重大だと思えます。

・また販売当時の医療現場に慢心は無かったでしょうか?。例えば原告の一人の方の治療経過では、間質性肺炎の恐れが明記されている新薬の初回治療なのに「30日分処方して退院させ」前縦隔への放射線治療から僅か2週間後に服用を開始させるなど油断があったと言わざるを得ません。

イレッサ訴訟は医療問題に対する「裁判の限界」を示していると感じます。癌治療の背景と土壌に横たわり続ける本当の問題を考え直す機会を逸しました。また患者の抗癌剤へのアクセスを更に悪くしたとも思います。「ドラッグラグを人質に取るのは卑怯」との意見もありますが、もしも今回の司法判断を受け入れるのなら今後は副作用の頻度とグレードを第III相試験で統計的に見極め、法令か通達に基づく字体、大きさ、字色、順番、などを忠実に守らねばなりません。承認までの期間と試験量が増大することはいわば数学的事実です。卑怯かどうかは関係がありません。それは誰も望んでいないことでしょうし、とりわけ治療が必要な癌患者にとってはまさに死活問題です。

イレッサ問題を真に教訓とするならば、通常の裁判所の下位に医療問題を扱う調停機関として医師による医療裁判所を設けることを検討してはどうでしょうか?。第三者の医師・専門家が審理する合理的な判断の場をつくり原則として責任追及よりも原因の解明、改善策の示唆、補償内容の提示を行う。希に起こる「故意」による医療事件などは通常の裁判所に廻し医師の職権の停止・剥奪なども行う。医療問題ではしばしば病院や医師の能力・資格についても国民の関心が集まります。これらの問題を国の管理・指導に頼らず「医師の自治」で解決できる様になれば国民はそれを受け入れると思います。医療裁判所は国民と医療の信頼関係を醸成する一助に成り得るのではないかと考えます。

4.患者が望むもの
原告や患者が最も強く望む(望んだ)ものは何でしょうか?それは「治癒すること」だと(だったと)確信します。手術不適応進行癌における治癒とは癌に勝つ事ではなく長期にわたる「引き分け」だと私は定義しています。例えば私は「診断から5年生存」をひとつの目標に設定しました。もしも世界中の抗癌剤や分子標的剤、ワクチン療法や高性能放射線装置など、全ての武器を自由に使わせて貰えれば恐らく5年はクリアできると想像しています。さらにBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)などの開発費も出して貰えれば10年生存も夢ではないと期待しています。費用や治療待ち期間に制限されず全ての患者が個々に最適なルートを辿れば全生存期間は飛躍的に伸びると信じます。

仮に治らないとしても「望んだ延命・緩和治療がうけられる」ことは切実な要望だと思います。この部分が適切にフォローされない限り「夢の新薬」事件はいつでも起こり得ると思います。「がんもどき」騒動が沈静化しても繰り返し同様のスキャンダルや根拠のない代替療法が現れると思います。この状況を抜け出し負担に見合った医療を実現する為には何が必要でしょうか?私は乗り越えなければならない壁が少なくとも2つはあると感じています。

第一の壁は医薬品・機器の承認制度です。薬や機器の使用や保険適応を監督官庁が主催する会議や所管する独立行政法人で一元的に承認・審査するのは合理的ではないと考えます。ある患者に抗癌剤が有用かどうかは学術的研究を基に個々の治療現場で判断する以外にない事を治療の過程で学びました。また保険負担とすべきかどうかは必要性や費用対効果、地域性など考慮し県もしくは医療圏単位で医療費と医療現場の実状に合わせて調整すべきことがらだと考えます。

第二の壁は医療の分散化です。進行癌の治療は何かひとつの薬や治療法では通常制御しきれない事も知りました。複数の分野でそれぞれに高度な技量を持った医師に協力して貰う事が必須です。均てん化という政策は「分散化」の側面が強く、専門化と集約化が求められる現在の医療現場には対応できていないと思います。人口分布や疾病毎の統計を根拠とした効率的な病院の配置と専門医の育成が急務だと考えます。

この二つの壁を乗り越える為には患者(国民)も医療費や医師といった医療資源に限りがあることを思い直す必要があると思います。ランチバイキングの様に医療に殺到し全体のバランスを考えず「自分」達の薬や診療を声高に注文し続ける。こういった態度を改め「公」の医療を育てる自覚を持たない限り医療現場の疲弊は改善されず高度で合理的な医療の実現も程遠いはずです。

5.まとめ
イレッサ問題は「どこまで手を尽くしたのか」のがひとつの争点になったと思います。議論があるのは良いことですが、少なくとも利益と不利益、目指すべき目標(容認できる事故発生率)などを定量的に話し合う必要があると思います。有限な医療資源(医療費、専門医、新薬開発に要する費用や時間)を度外視して究極の安全を求めるのは非科学的な幻想であることを国民は知るべきと考えます。「私には解りにくい」「いや医学的には常識だ」という水掛け論でなく定量的な評価と判断を基に「合意」されることを一人の癌患者として願います。

現実には医療事故も副作用死もゼロにはならないと思います。しかしながら医療裁判所や無過失補償制度などを設けることで医療者や患者のリスクと不満を最小化することは目指せるはずです。「お上」がいて一部の団体が陳情する、難しいことは医者や企業に丸投げで、何かあれば訴訟を起こす。イレッサ問題がそういった従来型の発想ではなく権限と責任の一部を「民と地域」に移管・分散し現場の事実の積み重ねにより科学的に運用される、そういう効率的な医療の実現を目指すきっかけになる事を切に期待いたします。


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MRIC投稿予定原稿の1次稿です。
事実関係の誤認や、反対意見など、お寄せ頂けますと幸いです。
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「ある癌患者から診たイレッサ問題の教訓と今後の医療に望むこと」

癌患者 study2007

イレッサ訴訟は国とアストラゼネカ社が東京・大阪両地裁の和解案を拒否し、2月28日に大阪地裁で判決が下りました。和解案では国の責任も認定しながら判決では国家賠償は認められないなど疑問点もありますが、本稿ではイレッサ問題から得るべき教訓と医療に望むことを私の理解の範囲で記載致します。国、製薬会社のみならず患者や医療者の皆様の広範な御意見・ご批判など伺えますと幸いです。

1.イレッサについて:
私は2007年3月に多発肺転移を有する進行癌と診断され国立がんセンター中央病院で化学療法を開始しました。初回治療はカルボプラチン+パクリタキセルでした。その後放射線治療と抗癌剤を繰り返しながら現在まで治療を継続しております。残念ながらEGFR遺伝子変異は無く私自身はイレッサ適応はありません。治療を開始した2007年以降もイレッサは広く医療現場で使われており、イレッサの適応がある方の経過を聞く度に羨ましく感じております。

近年改善されてきたとはいえ白金系やタキサン系抗癌剤の副作用が強いのは事実です。二剤併用レジメンは4~6コースが治療の目安で半年以上の継続は通常困難です。それに対しイレッサの副作用は比較にならないほど軽微だと言えます。効果の程度や耐性までの期間に個人差はあるものの年単位の処方も可能です。2010年にはEGFR変異を有する手術不適応患者の化学療法として第一選択肢になりうることを示唆する治験結果も出ています。イレッサは進行肺癌治療の現場にリスクを上回るメリットをもたらしました。その事実は現在も市販開始当時も同じだと思います。大阪地裁の判決もイレッサの効能そのものは否定しておりません。

2.裁判の争点について:
判決では製造物責任法2条2項「指示・警告上の欠陥」が問われました。添付文書の記載に不備があり間質性肺炎の危険性の注意喚起が不充分だったという判断です。重要なものは前の方に書くとの「通達」が根拠になった様です。ただ、いくつかの抗癌剤を経験した癌患者としてイレッサの添付文書(初版2002年7月)に不法と言える程の不備があったとは私には思えません。間質性肺炎の記述が2ページ目の重大な副作用の4番目に記載されているからといって、軽んじたり見落としたりすることは有り得ないと思うからです。

間質性肺炎は一般には馴染みのない病名かもしれませんが、癌治療中に肺炎を併発することの恐ろしさは患者も医療者も文字通り骨髄に染みて感じています。重要な副作用欄に間質性肺炎とあればレントゲンを頻回に撮り、また咳や熱に注意し主治医と相談しながら治療を行います。イレッサは一般の消費者が薬局で自由に買って処方する薬剤とは違います。医師により処方され、その指示に従いながら投与をすれば他の抗癌剤に比べ決して危険とは言えません。原告は「臨床試験の結果を軽視した」と追求しました。確かに数万人が使用した現在に比べ販売開始当時の知見が乏しかったのは事実だとおもいます。しかしながら間質性肺炎の恐れを隠したわけでは無く「頻度が不明」である事も含め添付文書に明記したアストラゼネカ社と、販売を承認した国に法的責任まで認定するのは行き過ぎだと感じます。

3.真の問題はなにか?:
とはいえ販売後わずか2年半に500人以上が死亡した事実は甚大です。全症例を解析しないと明確なことは言えませんがイレッサ関連死が一定の割合で起こったであろう事は私も疑いません。ですが、その原因の全てが「添付文書の記載が目立たなかった」事だけに拠るとは恐らく誰も考えていないはずです。

・原告に限らず「夢の新薬」や「神の手」を追い求める信仰が我々癌患者には無いでしょうか?。週刊誌やインターネットの情報は信じても腫瘍内科医の提案には耳を貸さない。内容を理解せず手術の同意書にサインをし「先生にお任せします」。日常的にそういった患者・家族を見かけないでしょうか?

・マスコミもプレスリリースを吟味せず無責任な報道をしなかったでしょうか?。例えば現在も「抗癌剤は効かない」とか「がんもどき」など証拠レベルの極めて低い情報が週刊誌に大々的に報じられ治療判断に悪影響を与え続けていないでしょうか?。そういった出版社の過失責任はアストラゼネカの無過失責任とは比較にならないくらい重大だと思えます。

・また販売当時の医療現場に慢心は無かったでしょうか?。間質性肺炎の恐れが明記されている新薬の初回治療なのに「30日分処方して退院させ」前縦隔への放射線治療から僅か2週間後に服用を開始させるなど油断があったと言わざるを得ません。

「添付文書を裁く」だけで医療上の水準や常識を規定するのは限界があると考えます。「ドラッグラグを人質に取るのは卑怯」との意見もありますが、もしも今回の司法判断を受け入れるのなら今後は副作用の頻度とグレードを第III相試験で統計的に見極め、法令か通達に基づく字体、大きさ、字色、順番、などを忠実に守らねばなりません。承認までの期間と試験量が増大することはいわば数学的事実です。卑怯かどうかは関係がありません。それは誰も望んでいないことでしょうし、とりわけ治療が必要な癌患者にとってはまさに死活問題です。

4.患者が望むもの
では原告や患者が望む(望んだ)ものは何でしょうか?それは「治癒すること」だと(だったと)確信します。手術不適応進行癌における治癒とは癌に勝つ事ではなく長期にわたる「引き分け」だと私は定義しています。例えば私は「診断から5年生存」をひとつの目標に設定しました。もしも世界中の抗癌剤や分子標的剤、及びワクチン療法や高性能放射線装置など、全ての武器を自由に使わせて貰えれば恐らく5年はクリアできると想像しています。さらにBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)などの開発費も出して貰えれば10年生存も夢ではないと期待しています。費用や治療待ち期間に制限されず全ての患者が個々に最適なルートを辿れば全生存期間は飛躍的に伸びると信じます。

患者の希望は「治ること。もし治らなくても適切な治療・緩和がうけられること」です。これが実現され無い限り「夢の新薬」事件は起こると思います。「がんもどき」騒動が沈静化しても繰り返し同様のスキャンダルや根拠のない代替療法が現れると思います。この状況を抜け出す為には乗り越えなければならない壁があると感じます。

第一の壁は医薬品・機器の承認制度です。薬や機器の使用や保険適応を監督省庁が主催する会議で一元的に承認するのは合理的ではないと考えます。ある患者に抗癌剤が有用かどうかは学術的研究を拠り所に個々の治療現場で判断する以外にない事を治療の過程で学びました。また保険負担とすべきかどうかは必要な医療の緊急度や費用対効果を地域性など考慮し、県もしくは道州単位で実状に合わせて判断すべきと考えます。(もちろん議論の結果、私のやりたい治療が保険適応されなくても受け入れなければなりませんが、、)

第二の壁は医療の分散化です。進行癌の治療は何かひとつの薬や治療法では通常制御しきれない事も知りました。複数の分野でそれぞれに高度な技量を持った医師に協力して貰う事が必須です。均てん化という政策は「分散化」の側面が強く、専門化と集約化が求められる現在の医療現場には対応できていないと思います。人口分布や疾病毎の統計を根拠とした効率的な病院の配置と医師の専門化が必要だと考えます。


5.医療のあり方について
そもそも30兆円の国民医療費に現状どれくらいのムダがあるか?誰も把握していない様に見えます(CTは本当に1万台も必要か?小児の慢性疾患の医療費は本当に無料化できないのか?など)。国と独立行政法人(PMDA)に許認可や裁量が集中し、行政が医療費抑制を睨みながら全ての疾患と全ての地域の医療を差配するのは既に限界を越えている様に見えます。

・「官」は医薬品・機器に関する許可業務から離れるべきと思います。何かを判断する事や何かに責任を持つことは学会や地域ごとに設ける医療会議(仮称)などに委譲し、例えば疾患・労働統計の解析など各種判断に必要な情報の収集に務めるべきと思います。また医薬品・医療機器の評価・価格交渉など医療の安全性向上と効率化に寄与する業務にシフトすべきと考えます。

・「医」は医学的・臨床的な研究・診療に専念し世界最高レベルの医療を実現して欲しいと期待します。集約化と効率化をはかり低コストで高品質な医療を実現する。医薬品や医療器具の選定には医師の判断と裁量の幅を拡げ患者ごとに最適な診療を実現するとともに、それに耐える技術を持った専門医の育成をはかる。

・医療費の配分は地域ごとに公開された議論の場、例えば地域医療会議(仮称)などを設けそこで公平に決める。医療費負担と医療の質・量、そして医療者や業者の報酬・利益を包み隠さず議論し決定する。患者(民)は欲しいサービスと払える負担を決め自分達の決定と結果に責任を持つ。

6.まとめ
イレッサ問題は「どこまで手を尽くしたのか」のがひとつの争点になったと思います。議論があるのは良いことですが、少なくとも利益と不利益、目指すべき目標(エンドポイント)などを設定せず、コストを度外視して究極の安全を求めるのは非科学的な幻想であることを国民は知るべきと考えます。「私には解りにくい」「いや医学的には常識だ」という水掛け論でなく定量的な評価と判断に結びつくことを期待します。

現実には医療事故も副作用死もゼロにはならないと思います、が、医療裁判所や無過失補償制度などを設けることで有限な医療資源のなかで医療者も患者もリスクの最小化を目指すことはできるはずです。「お上」がいて一部の利益団体や患者団体が陳情する。難しいことは医者や企業に丸投げで、何かあれば訴訟を起こす。イレッサ問題がそういった従来型の発想ではなく権限と責任の一部を「民と地域」に移管・分散し現場の事実の積み重ねにより科学的に効率良く運用される、そういう医療の実現を目指すきっかけになる事を切に期待いたします。


参考文献:~~~~
MRICという意見欄にイレッサ訴訟に対する私の考えを投稿しようと思います。
事実関係の誤認や、反対意見など、お寄せ頂けますと幸いです。



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「ある癌患者から診たイレッサ訴訟の教訓と今後の医療に望むこと」

癌患者 study2007

イレッサ訴訟は国とアストラゼネカ社が東京・大阪両地裁の和解案を拒否し、2月28日に大阪地裁で判決が下りました。和解案では国の責任も認定しながら判決では国家賠償は認められないなど疑問点もありますが、本稿ではイレッサ訴訟とその背景についての私見、及びこの問題から得るべき教訓について一癌患者である私の理解の範囲で記載致します。国、製薬会社のみならず患者や医療者の皆様の広範な御意見・ご批判など伺えますと幸いです。

1.イレッサについて:
私は2007年3月に多発肺転移を有する進行癌と診断され国立がんセンター中央病院で化学療法を開始しました。初回治療はカルボプラチン+パクリタキセルでその後放射線治療と抗癌剤を繰り返しながら現在まで治療を継続しております。残念ながらEGFR遺伝子変異は無く私自身はイレッサ適応はありません。治療を開始した2007年以降もイレッサは広く医療現場で使われておりイレッサを経験された方の経過を聞く度に羨ましく感じております。

近年改善されてきたとはいえ白金系やタキサン系抗癌剤の副作用が強いのは事実です。二剤併用レジメンの投与期間は4~6コースが目安とされており半年以上の継続は通常困難ですし、それ以上の効果もあまり期待できません。それに対しイレッサの副作用は比較にならないほど軽微です。効果の程度や耐性までの期間に個人差はあるものの年単位の処方も可能です。2010年にはEGFR変異のある手術不適応患者の化学療法として第一選択肢になりうることを示唆する治験結果も出ています。イレッサは進行肺癌治療の現場にリスクを上回るメリットをもたらしました。その事実は現在も市販開始当時も同じだと思いますし大阪地裁の判決もイレッサの効能そのものは否定しておりません。

2.裁判の争点について:
裁判では製造物責任法2条2項の「指示・警告上の欠陥」が争点になりました。添付文書の記載に不備があり間質性肺炎の危険性の周知が不充分だったという判断です。重要なものは前の方に書くとの「通達」が根拠になった様ですが、いくつかの抗癌剤を経験した癌患者としてイレッサの添付文書(初版2002年7月)を読む限り頻度不明の間質性肺炎が2ページめのこの位置にある事に何の違和感も感じません。文言通りに解釈し間質性肺炎に注意しながら投与するだけです。恐らく殆どの医療者も同様の理解だと想像いたします。間質性肺炎は一般には馴染みのない病名かもしれませんが癌治療中に肺炎を併発することの恐ろしさは文字通り骨髄に染みて感じています。進行癌の治療は厳しく経過にもよりますが1ヶ月先の事も約束出来ません。風邪を引かないように人混みを避け、食事に気を配り、睡眠をとる。抗癌剤投与は医師と協力しながら慎重に検討を重ねベストと考え得る案を命がけで探究する。重要な副作用欄に間質性肺炎とあればレントゲンを頻回に撮り、また咳や熱に注意し主治医と相談しながら対処するべきと考えます。イレッサは一般の消費者が薬局で自由に買って処方する薬剤とは違います。病院で処方されるのですから初めて治療に臨む患者であっても医師の説明と指示に従い投与をすれば他の抗癌剤に比べ決して危険とは言えないと思います。

イレッサに限らず抗癌剤は抗腫瘍効果や副作用を第II相試験で確認し承認されます。私も癌患者としてこの方法には賛成です。むしろ海外とりわけ韓国のような東アジア系の国々で使用されている薬に関しては適応拡大など急ぐべきであると感じます。ただしこの段階では低頻度の副作用や特殊な使用条件下におけるリスクの全てを把握できているとはいえず、その説明と理解は不可欠です。進行・難治癌の場合、白金系抗癌剤の様な多数の実績がある薬をあえて避け販売されたばかりの新薬に挑むのも反対は致しません。ただしその場合はII相試験で抽出しきれない副作用や晩期障害など覚悟し、同意書にその意思を明記して進める。そういった責任が患者側にもあると考えます。

数万人が使用した現在の理解に比べ販売開始当時の知見が乏しかったのは事実だとおもいます。しかしながら、間質性肺炎の恐れを隠したわけでは無く抗癌剤添付文書に明記したアストラゼネカ社に法的責任を認定するのは飛躍があると感じます。

3.真の問題はなにか?:
もちろん販売後2年半に500人以上が副作用した事実は甚大です。ただ私には抗癌剤治療を取り巻く医療環境に何の不備も落ち度も無く、ただ添付書類の記載順序が一般的過ぎて目立たなかった事だけが原因だったとは思えません。

・原告に限らず「夢の新薬」を追い求める信仰が我々癌患者には無いでしょうか?。週刊誌やインターネットの情報は信じても専門医の提案に耳を貸さない。内容を理解せず同意書にサインをし「先生にお任せします」。そんな患者が溢れてはいないでしょうか?

・マスコミはそれにつけ込みイレッサに関する根拠も責任も無い報道をしなかったでしょうか?。例えば現在も「抗癌剤は効かない」とか「がんもどき」など証拠レベルの極めて低い情報が週刊誌に大々的に報じられ治療判断に悪影響を与え続けていないでしょうか?。そういった出版社の過失責任はアストラゼネカの無過失責任とは比較にならないくらい重大だと思えます。

・恐らく控訴審や最高裁では国とアストラゼネカの責任は「法的には」問われないと予想します。ですが同社と国はEAPの副作用情報を本当に軽視しなかったでしょうか?新しい作用機序を持つ薬を販売する際の畏怖に欠けてたのではないでしょうか?国と製薬会社はこの問題を教訓とし薬剤の安全性の確保をめざす義務があると思います。

・同様の慢心は投与当時の医療現場にも無かったでしょうか?。間質性肺炎の恐れが明記されている新薬を、縦隔への放射線治療から2週間後に30日分処方して退院させるなど油断があったとは考えられないでしょうか?

「添付文書を裁く」だけで真にイレッサ問題が解決するとは私には思えません。製造物責任法2条2項だけで医療上の水準や常識を規定するのは限界があると考えます。もしも今回の司法判断を受け入れるのなら今後は副作用の頻度とグレードを第III相試験で統計的に見極め、法令か通達に基づく字体、大きさ、字色、順番、などを忠実に守らねばならないはずです。承認までの期間と試験量が増大することは明らかだと考えます。それは誰も望んでいないことですし、とりわけ治療が必要な癌患者にとってはまさに死活問題です。

医療裁判は真に認めなければならない問題を反省する機会を奪います。イレッサ訴訟は医療問題に対する「裁判の限界」を示していると感じます。また抗癌剤の承認、使用、被害者救済など治療システムの改善が必要なことも示しています。一般医療費の約12%(3兆円:平成19年概況)を占める癌治療の制度を改善するには医療制度全体の改革が必要だと考えます。

4.イレッサ問題の教訓と今後の医療に望むこと~病床8策~:
ひとりの癌患者として医療現場で感じた事とイレッサ問題の教訓から以下の医療制度改革を提案いたします。本来は数十年をかけて、ゆるやかに移行すべき政策判断だとは思いますが高齢化と医療の高度化による医療費爆発を抑え、持続可能な社会保障を実現し得るひとつの案として行政、医療者、患者(国民)及び医療機器・薬品メーカー関係者にお考えいただければ幸いです。

・医療裁判所の設置:
通常の裁判所の下位に医療問題を扱う調停機関として医師による医療裁判所を設ける。原則として責任追及よりも原因の解明、改善策の示唆、補償内容の提示が主な役割だが、希に起こる「故意」による医療事件などは上級裁判所に廻すとともに医師の職権の停止・剥奪なども行う。イレッサの添付文書の様な問題も医学的・科学的な見地から評価すべきと思います。第三者の医師・専門家が審理する合理的な判断の場をつくることで患者も医療者側も納得のいく議論、結論が得られるようになると期待します。医療事故と報じられるものの殆どは刑事や民事などの裁判になじまず、補償や改善によって解決されるとの印象を持ちます。

・医薬品・医療機器の承認と保険適応の分離:
日、米、カナダ、英、独、仏、韓などで第I/II相試験が済み世界的に認知された学術雑誌やコンペンディアなどに載った医薬品は保険適応とする。医薬品の承認はガイドラインの様な役割を担う。

・市販後情報の収集と副作用被害救済:
広範な使用で発生する頻度の副作用情報は市販後の医療現場で収集する。抗癌剤使用は登録制とし、一般的な第III相試験の登録数である1500~3000症例、もしくは半年~1年程度を目安に補償の対象とする。事前に予見し得ず、また明らかな過失のない症例に対しては無過失補償制度を適応する。

・腫瘍内科医認定の制度化:
現在学会が行っている認定制度を国が行い、原則抗癌剤治療は認定医もしくは認定医の指導する医師による投与に限る。ただし認定医の裁量は広げる。指定された学術雑誌やリストに載った薬剤、レジメン及びその改良された方法を自由に用いることができるようにする。使える薬や適用範囲を決めるのは監督省庁やPMDAなどの「裁量」ではなく、医学的・科学的な「根拠」に基づくべきである。ドラッグラグや混合診療は問題自体が存在しなくなると期待する。

・レセプトの100%オンライン化と公開:
医療は公的なものとの観点から全病院施設のレセプトは100%オンライン化し、厚労省のHPで閲覧可能にする。また支払い側は毎年全施設の2%以上の病院・診療所についてレセプトのサンプル調査を行い。疑義がある場合は説明・報告を求める。突出して技能の高い病院などは必然的に医療費も上がるが情報を公開すれば国民の理解は得られ尊敬の対象になると考える。

・病院・診療所の抑制:
公的・私病院の数と専門医の配分は原則として人口分布や疾患統計に基づき数値的に制限する。ひとつの目安として病院数3千施設,私病院(家庭医)数6万施設に減らすことを目指し公平に展開し集約化と専門化をはかる。開業条件にも勤務医経験15年もしくは救急経験5年など必要な条件を設ける。地域ごとに決められた数以上の診療所は開設させず、病院あたりの医師数70~80名体制を目指す。現在の均てん化は「分散化」の側面が強く今後さらに高度化・専門家する医療に対応できないと考える。

・地域医療会議の創設:
県もしくは道州単位に医療会議を設け地域性を考慮した各分野の医師数、疾患毎の予算配分、私病院の報酬を決める。支払い側は年度毎の診療報酬の総額をこの会議に渡す。疾患統計による数値的制限の2割程度の範囲で専門別の予算と医師数の調整を認める。域内の病院のレセプトを詳細に検討し、疾患別に患者1人あたりの医療費が域内平均の10%以上を越える病院の診療内容を検証する。会議の内容は全て公開される。医療費抑制の役割を厚労省からこの会議に委譲し包み隠さずオープンな議論を行う。もちろん有限な資源の範囲で医療の質に限界はあるが現場の事実の積み上げで優先順位を決める。
(例えば、個人的には小児と産科、救急の拡充を優先的に進めるべきと希望するが、そういった判断もこの会議の合議で決める。)

・医療統計室、及び医薬品・医療機器評価室の新設:
厚労省は医療統計の収集と分析を行い公正で高精度な数値目標の策定にあたる。また医薬品や医療機器の評価・使用法の調査など行いガイドラインの策定を行う。その中で製薬会社やメーカーに対し価格や性能について交渉・指導などを行う。何かの使用を許可したりしなかったりする判断は監督省庁ではなく「学術的な議論」に従う。また医療費を抑制する機能は「地域医療会議」と国民の合意に委ねる。許認可権を持ったり、裁量を行使する仕事を縮小し効率的な医療提供をサポートする役割にシフトする。

5.まとめ:
中医協でも勤務医の過重労働がとりあげられ「医療へのアクセス」が問題になった様です。しかしながら医療現場は既に医療費の制約により制限されている様に感じます。癌治療の1例をあげると故山本孝史氏が指摘した腫瘍マーカーの回数、必要な遺伝子変異検査、海外で実績のある抗癌剤など救えたはずの命もアクセスを断たれ失われ続けていると考えます。対GDP比12%ぐらいまでは耐えられるかも知れませんが破綻確実な現行制度の微調整では早晩限界がくるものと危惧いたします。

自分の病院、自分の専門、自分の選挙区、自分の会社、自分の権限、そして自分の病気。イレッサ問題がこれら「私」を一度全て忘れ、自分が何を我慢すれば有限な医療資源のなかで「公」の医療を維持しこどもの命をまもれるのか。それらを考え直すきっかけになることを期待いたします。


参考文献:~~~
東京、大阪地裁の和解案では国、アストラゼネカ両者の責任を認定していながら
大阪地裁の判決では国家賠償は避けており「数学的に破綻している」と考えます。

私自身はイレッサの添付文書にも欠陥はないと考えていますが、仮に不充分と
認定するのであれば中医協などで添付文書の記載方法についても議論を重ね、
イレッサを承認した国の責任も問わねばならないはずです。

(薬事・食品衛生審議会薬事分科会(平成14年6月12日開催分)議事録)

(イレッサおよびイレッサ訴訟に関する私見はこちら、、、)


報道をみる限りですが、判決内容の要旨は
・イレッサの有用性は販売当初も現在も認められる。

・ただし販売当初の同社の添付資料には「間質性肺炎」の注意書きが赤枠で冒頭に記載
 されておらず不充分。抗癌剤としての安全性を欠く欠陥があった。

・また承認・審査?については当時の医学的知見からは一応の合理性が認められる。
 国に対しては責任を問える程ではない。というもの。

イレッサ訴訟の弁護団側が公表した判決要旨はこちら、、
(一方の当事者からの発表ですのであくまでも参考程度ですが、、、)


問題となった初版の「添付資料」の1~2ページ目を示します。
2002年当時のごく一般的なフォーマットだと思います。
「間質性肺炎」なども明記されており順番は問題にならないと思います。
転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ

転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ


また原告の1人が署名した同意書においても「間質性肺炎」については明記されております。
一般の患者には聞き慣れない病名ですが、少なくとも医師であれば急激に進展し致死的な
経過を示す可能性があることは判るはずです。


本ブログは公人や公的なものを除き、特定の病院施設や個人名を挙げない原則ですが、
例外的に原告の1人である男性患者の経過を並べます。肺炎を誘発したのはイレッサかも
しれませんが、より多くの原因は治療方針にあった事が「証言」されています。
ーーーーーーーーーーーーーーー以下、原告の1人の治療経過ーーーーーーーーーー
・2001年9月  :肺がんと診断
・   11月5日:右肺上葉摘出手術(99%再発はないとの説明?)
・2002年2月  :検査も異常なし
・   5月   :縦隔リンパへの転移(7センチ?)
 親族の肺癌の経験から抗癌剤を拒否、セカンドオピニオンでイレッサを知る

・2002年7月  :縦隔に放射線治療開始~9月まで照射?
・2002年9月11日:1ヶ月分のイレッサを処方され退院
 放射線治療の影響を避ける為2週間?間隔をあけるよう指示される

・   9月25日:イレッサ服用開始。3週後ごろ高熱が出始める。
・   10月25日:40度の高熱。救急で処置しステロイド投与で一命を取り留める。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

→患者の言い分だけを信じる訳にはいきませんが、
「99%再発はない」などの評価はほぼ全ての癌種・病期で不可能です。

→術後3ヶ月の検査で縦隔リンパ節転移を見逃している可能性があります。
 5月に7cmなら2月には3~4cmぐらいと想像されます。

→転移の個数にもよりますが放射線の前後に抗癌剤を想定すべきです。再発・難治癌
 ですので必ずしもガイドラインや保険適応の治療に固執する必要はないと思いますが、
 エビデンスの確立していない治療に臨む場合の自己責任は自覚すべきです。

→放射線後抗癌剤という判断もあり得ますが、縦隔への(恐らく?)根治的な照射線量
 ならば抗癌剤治療は最低でも3ヶ月、できれば半年は間隔をあけ慎重な投与をすべきです。

→間質性肺炎と明記されている抗癌剤の初回治療で「30日分渡して退院」などあり得ません。

抗癌剤が何であれ肺炎を誘発するリスクの高い本症例についてまで
アストラゼネカの責任を問うのは酷だと思いますし、仮に副作用被害補償制度があっても
適用すべき症例とは考えられません。

例えば私は重粒子治療や自分で指定した抗癌剤レジメンに対し病院や医師や製薬会社、
あるいは機器メーカーに何かを補償してもらうつもりは当然ありません。
確立していない手法を自己選択する時、その結果にも自己責任を持つのが当然だと
考えます。


今回の件は患者が利益とリスクを判断するに十分な情報が提供されたかどうか?
が争点だと思います。アストラゼネカから医療機関への情報伝達に問題が
あったとは私には思えません。が、

・より安全で正確な医療情報のあり方と、

・医療機関を通じて手に入れる情報とネットやマスコミなどを通じて
 流布される情報に対する患者側の理解や姿勢、

などについて教訓とすべき点があるように感じます。
私は呼吸器癌の骨転移に重粒子と陽子線治療を行ったが、
最も重篤な右足の機能低下について様子を記録してみます。

・2008年10月
 右仙骨・腸骨への重粒子線治療 10cm×10cm 60GyE/12回


・2009年5月
 右坐骨への陽子線治療 8cm×8cm 64GyE/8回

2カ所の照射は場所も時期も近い為、どちらによる副作用か判別はできないが、
陽子線の方が周辺の皮膚や筋肉への侵襲範囲が広い印象はあった。

どちらも照射後1~2ヶ月後に皮膚は日焼けしたが患部が深いため、
アズノール軟膏は必要ない程度ですんだ。

転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ



1.2008年10月の仙骨・腸骨への照射前後:
 癌の痛みによる太もも裏側からふくらはぎ外側までの「しびれ」と「こわばり」
 照射後は急速に痛みがひき、眠れるようになる。
 ただし、痛み、痺れ、こわばり、は10段階の1~2程度は残存。

2.2009年5月の坐骨への照射前後:
 坐骨患部による痛みが再燃していたものの、この時点で副作用は殆ど出ていない。
 
3.2009年8月頃
 陽子線の経路の臀部(おしり)が硬化した感じ。テニスボールを敷いて座る感じ。
 この頃には「痛み」は全て無くなる。

4.2009年12月頃(照射から半年~1年経過)
 ふくらはぎの「しびれ」は殆どなくなり、代わりに「無感覚」が出始める。
 ふくらはぎの外側と足の甲はシャワーを当てても判らない感じ。

 足首の稼働範囲が半分くらい?特に足先を上に曲げる筋力が落ち始める。
 「ドロップフット」との診断。歩いててスリッパが脱げたりする。
 以後、徐々に足首の可動域と筋力が落ち続ける。

5.2010年5月頃(照射から1年~1年半経過)
 GWに本や書類の整理をしてダンボール20~30箱を運んだり作業をしたところ、
 急激に足首に力が入らなくなる。腰に負担のかかる姿勢を続けたのが大失敗!!
 1~2日のあいだに半年分くらい一気に悪化した感じ。


 ついに足首がぶらぶら状態になり、スリッパで歩けなくなりバッシュを買う。

6.2010年8月頃
 足首以下の無感覚と力が入らない程度が最悪レベル。
 ふくらはぎは左足の半分程度の太さになる。(骨と皮で折れそうな感じ、、)

7.2010年12月頃~(照射から1年半~2年経過)
 なんとなく足首にも力が入るような感じになり、多少スタスタ歩ける。
 ふくらはぎも少しずつ筋肉が復活しつつある。


・私の失敗から教訓があるとすれば、腰椎や骨盤に照射した場合は、
 1~2年の間は腰に負担のかかる作業や長時間の姿勢維持は極力避けるべき。

・神経が断絶?するのだけは防ぎ、どんなに細々とでも可動域を維持するよう、
 務めるべきと考えます。
2010年11月に最後に残った右肺下葉の重粒子治療を行った。
この時点で画像上全ての患部がなくなり、寛解状態になった。


・2011年2月時点で、CT, MRIともに明らかな異常所見はなく、
 診断後約4年を経過した時点での評価は「(一応)寛解」という事になる。


・ただし2月15日のPETで新たな集積が現れており(SUVmax=5.2)
 正式なレポートは来週だが私の評価では「転移」と理解している。


・体調的には仙骨・坐骨への重粒子・陽子線照射による副作用で、
 右足を引きずっている以外は特に問題はない。薬等の服用も無し。


最も新しい転移が2009年5月頃だったので1年半は新たな患部は
発生しておらず、もしかしたらこのまま「完全寛解」に向かうかも?
と期待したが、まだ折り返し地点の「手前」だった様である。


これまでの放射線治療箇所(転移は小さいのも含めると数十個(笑))
・肺門部原発
・左肺下葉
・左肺上葉
・仙骨・右腸骨
・右坐骨
・第一腰椎
・右上腕骨
・頭蓋骨底
・第五腰椎
・右肺下葉
合計約600GyE(等価グレイ)という事になります。
そろそろギネスブックに申請してみましょうかね?爆
佐賀の重粒子線装置の起工式が行われたそうです。
2013年春のオープンを目指す。とのこと。
http://www.saga-s.co.jp/news/saga.0.1812860.article.html


九州新幹線の新鳥栖駅前!!に1万平方メートルの土地を鳥栖市が無償貸与
するとのこと、、。田んぼにしとくよりは遥かに有益ですね。(笑)

これで重粒子施設は4カ所(放医研、兵庫、群馬、佐賀)
陽子線は8カ所(筑波、NCC東病院、静岡がんセンター、兵庫、若狭湾、福島、指宿、福井)
が稼働、もしくは近年中に稼働が確実となりました。
加えて名古屋も陽子線?の計画が進むと報道されています。

少なくとも粒子線治療が殆どの癌に対し効果があることは確認されています。
保険適応の壁であった「偏在性」という理由(言いがかり)も、もはや通用しないと
思います。

中医協と医系技官等の関係者の皆さんは不作為による殺人行為をやめ、
「固形癌における粒子線治療」の認可を急ぐべきと考えます。

仮に「偏在性」を理由に不許可を続けるのであれば、
国内人口の何%が何時間以内にアクセス出来るようになれば偏在でないのか?
合理的で科学的な規準を示す義務があると思います。
もしも私か、あるいは私の家族が小細胞肺癌と診断されたら間違い無く
ソマトスタチン受容体スキャンを行うと思います。ただ勿論、第一選択肢は例え
限局型であっても抗癌剤だと思います。イリノテカン+シスプラチンぐらいを
(自分であれば)死ぬギリギリまで5コースくらいやって寛解を目指します。

しかし、それでも再燃したら「、、次はカルセド、、」と言われると思います。が、
私ならソマトスタチン受容体スキャンで集積があればPRRTをやりにスイスか
ドイツに行きます。1~2回試してそれで引っ張れる様なら限界まで引っ張り、
その間にペプチドワクチンか分子標的剤を探します。

小細胞肺癌は肺が原発なので「肺癌」の仲間として呼吸器科で扱われますが、
病理学的にはカルチノイドなどと同じく神経内分泌腫瘍に分類されることが
わかっています。

以下、東海大学の長村義之教授の解説からの抜粋ですが、、
www.saitama-med.ac.jp/jsms/vol37/01/jsms37_084_085.pdf

国内の年間罹患率はおよそ
膵内分泌腫瘍で10万人に一人程度(1000人程度)
消化管カルチノイドで二人程度(2000人程度)

これに対し、小細胞肺癌が肺癌全体の約15~20%とすると年間1万人近く
であり、最も患者数の多い神経内分泌腫瘍グループと言うこともできる。


ソマトスタチンはソマトスタチン受容体を介してホルモンや細胞増殖の抑制の
役割をおっている。ソマトスタチン受容体は殆どの神経内分泌腫瘍に存在して
いるが、膵内のランゲルハンス島腫瘍で約95%が、カルチノイドで90%に発現
しているのに対し、高悪性度の小細胞肺癌,甲状腺髄様癌,子宮頸部小細胞癌
におけるSSR2の発現は約50%、しかも細胞数も少ないと言われている。

ソマトスタチンは細胞増殖を抑制するので抗腫瘍効果が期待されるが、
半減期が分単位(あっと言う間に無くなる?)なため、それ自体が癌をどうこう
することは出来ない。そこで作られたのが人工的に作られたソマトスタチン製剤、
つまりは酢酸オクトレオチドなどのSSR2やSSR5に親和性が高く半減期が長い
ペプチドで、こういったオクトレオチドに放射性物質をつければPRRTとなる。


仮に小細胞肺癌患者の半分にSSR2が発現し、そのまた2割に有意な集積があれば全体の
1割に奏効~著効が期待できる。「打率一割」というのは非小細胞肺癌全体における
イレッサと同程度のインパクトであり年間1000人の患者が死なずに済むかもしれない。

予めオクトレオチドスキャン(PET)をすることで効果のある患者を選別できる上に、
イレッサよりも遥かに副作用が少なく恐らく長期間(3~4年?)効果が期待できる。

再発後小細胞肺癌のセカンドラインとしてエトポシドだカルセドだ、あるいは放射線だ、、
という選択の前にソマトスタチン受容体スキャンをするのは当然のことだと考える。