2011年1月7日東京地裁と大阪地裁でイレッサ訴訟に関する和解勧告が出されました。
それをうけてか医薬品副作用被害救済制度に「抗癌剤」を含める動きが報道されました。
イレッサ訴訟は随分前に一度調べたのですがこれを機にメモを書いておくことにします。
ちなみに抗癌剤「治療」についての救済法案は実質的に運用不可能だと思います。
例えばイレッサでも投与量は同じでも血液動態は相当に差があります。[1]
最終末期では薬のダメージの度合いはさらにバラツキがあるはずです。
どこまでの投与が適切でどこからが補償に値するか判断のしようがないと思います。
抗癌剤投与現場の萎縮による治療中断や、酷い場合は補償目当ての無謀な投与の
要因にすらなりうると懸念します。こういう薄っぺらい議論しかできないうちは
まともな司法判断も医療制度改革も完全に不可能だと失望させられます。
study2007
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(意外と官僚的ですが)仮に私が裁判員ならば以下の様な判断をすると思います。
【私見】
・地裁がアストラゼネカ社と国の責任を認定したのは法的根拠がない。
・主観的な不満や医療者の不注意による責任を製薬メーカーや国に転嫁するのは不合理。[2]
・医療事故に対し法に基づかない処罰が横行するのは国内における臨床試験、医薬品販売
等の活動を妨げ、ひいては国民の健康に不利益をもたらす恐れがある。
・ただし2002年7月から同10月の緊急安全性情報までに服用し間質性肺炎を発症した患者には
アストラゼネカ社から「臨床開発協力金」等の名目で見舞金を支払え。
・国は医療における安全性を担保するため腫瘍内科医等の専門医制度の整備をはかれ。
【理由】
・少なくとも2002年5月時点でZD1839(イレッサ)は抗腫瘍効果が認められた。[3]
・重篤な副作用(間質性肺炎等)についても販売時添付文書と同意書に記載があった。[4]
(リンク先では最新版が表示されますが、2002年7月当時の初版でも記載があります。
新規抗癌剤投与時にこの注意書きを見落としたとすれば医師免許は返上すべきです。
またこの同意書が無効だったと認定されれば今後一切の医療行為は不可能になります)
・作用機序やEGFRに対する感受性の有無等の理解は販売後明らかになった部分もあるが、
他の抗癌剤に比べ、それら理解が格段に不足していたとは言えない。[5]
・イレッサは作用因子のある患者には大きな治療効果をあげるとともに、従来の抗癌剤
に比べると副作用も軽微と認められる。また本剤は医師により処方される医薬品である。
同社の宣伝・広告も誇大とまでは言えないし薬剤の使用判断に本来影響しうるものではない。
・申請から承認までの期間短縮も患者・医療者の希望に沿ったものであり、そのこと自体
をもって国の落度とすることはできない。[6]
・本件で死亡例が頻発したのは専ら経口抗癌剤に対する医師の理解の不足、すなわち従来型
のUFT等の医療現場における蔓延から生じた油断が素地にあったものと推測される。[7]
・ただし死亡患者の多くは通常の「手術不能または再発非小細胞肺癌」に対する抗癌剤治療と
同定度のフォローさえ受けられれば死に至らなかったとも推測され、緊急安全性情報以前に
投与を受けた患者は特にその不利益が大きく同情されるべき点がある。
・医師として最低限の知識と注意力のない者が癌治療等にも従事しうる現行の医師免許制度は
明らかな欠陥があり、国民の安全、医療水準の維持、新薬の開発・承認において、根本的な
障壁となっている。国は本件において直接の賠償責任はないが、これを改善する義務がある。
【参考文献】
[1]イレッサ耐性と再奏効の可能性について(4.補足、参考文献、謝辞)
[2]「イレッサ薬害被害者の会」ホームページ.
[3]Journal of Clinical Oncology, Vol 20, Issue 9 (May), 2002: 2240-2250
ZD1839, a Selective Oral Epidermal Growth Factor Receptor–Tyrosine Kinase Inhibitor, Is Well Tolerated and Active in Patients With Solid, Malignant Tumors: Results of a Phase I Trial
[4]med.astrazeneca.co.jp/product/IF/IRE_IF.pdf
[5]Journal of Clinical Oncology, Vol 20, Issue 18 (September), 2002: 3815-3825
Selective Oral Epidermal Growth Factor Receptor Tyrosine Kinase Inhibitor ZD1839 Is Generally Well-Tolerated and Has Activity in Non–Small-Cell Lung Cancer and Other Solid Tumors: Results of a Phase I Trial
[6]薬事・食品衛生審議会薬事分科会(平成14年6月12日開催分)議事録
[7]国内臨床試験(2)「N・SAS-BC01試験」事件から得られる教訓
それをうけてか医薬品副作用被害救済制度に「抗癌剤」を含める動きが報道されました。
イレッサ訴訟は随分前に一度調べたのですがこれを機にメモを書いておくことにします。
ちなみに抗癌剤「治療」についての救済法案は実質的に運用不可能だと思います。
例えばイレッサでも投与量は同じでも血液動態は相当に差があります。[1]
最終末期では薬のダメージの度合いはさらにバラツキがあるはずです。
どこまでの投与が適切でどこからが補償に値するか判断のしようがないと思います。
抗癌剤投与現場の萎縮による治療中断や、酷い場合は補償目当ての無謀な投与の
要因にすらなりうると懸念します。こういう薄っぺらい議論しかできないうちは
まともな司法判断も医療制度改革も完全に不可能だと失望させられます。
study2007
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(意外と官僚的ですが)仮に私が裁判員ならば以下の様な判断をすると思います。
【私見】
・地裁がアストラゼネカ社と国の責任を認定したのは法的根拠がない。
・主観的な不満や医療者の不注意による責任を製薬メーカーや国に転嫁するのは不合理。[2]
・医療事故に対し法に基づかない処罰が横行するのは国内における臨床試験、医薬品販売
等の活動を妨げ、ひいては国民の健康に不利益をもたらす恐れがある。
・ただし2002年7月から同10月の緊急安全性情報までに服用し間質性肺炎を発症した患者には
アストラゼネカ社から「臨床開発協力金」等の名目で見舞金を支払え。
・国は医療における安全性を担保するため腫瘍内科医等の専門医制度の整備をはかれ。
【理由】
・少なくとも2002年5月時点でZD1839(イレッサ)は抗腫瘍効果が認められた。[3]
・重篤な副作用(間質性肺炎等)についても販売時添付文書と同意書に記載があった。[4]
(リンク先では最新版が表示されますが、2002年7月当時の初版でも記載があります。
新規抗癌剤投与時にこの注意書きを見落としたとすれば医師免許は返上すべきです。
またこの同意書が無効だったと認定されれば今後一切の医療行為は不可能になります)
・作用機序やEGFRに対する感受性の有無等の理解は販売後明らかになった部分もあるが、
他の抗癌剤に比べ、それら理解が格段に不足していたとは言えない。[5]
・イレッサは作用因子のある患者には大きな治療効果をあげるとともに、従来の抗癌剤
に比べると副作用も軽微と認められる。また本剤は医師により処方される医薬品である。
同社の宣伝・広告も誇大とまでは言えないし薬剤の使用判断に本来影響しうるものではない。
・申請から承認までの期間短縮も患者・医療者の希望に沿ったものであり、そのこと自体
をもって国の落度とすることはできない。[6]
・本件で死亡例が頻発したのは専ら経口抗癌剤に対する医師の理解の不足、すなわち従来型
のUFT等の医療現場における蔓延から生じた油断が素地にあったものと推測される。[7]
・ただし死亡患者の多くは通常の「手術不能または再発非小細胞肺癌」に対する抗癌剤治療と
同定度のフォローさえ受けられれば死に至らなかったとも推測され、緊急安全性情報以前に
投与を受けた患者は特にその不利益が大きく同情されるべき点がある。
・医師として最低限の知識と注意力のない者が癌治療等にも従事しうる現行の医師免許制度は
明らかな欠陥があり、国民の安全、医療水準の維持、新薬の開発・承認において、根本的な
障壁となっている。国は本件において直接の賠償責任はないが、これを改善する義務がある。
【参考文献】
[1]イレッサ耐性と再奏効の可能性について(4.補足、参考文献、謝辞)
[2]「イレッサ薬害被害者の会」ホームページ.
[3]Journal of Clinical Oncology, Vol 20, Issue 9 (May), 2002: 2240-2250
ZD1839, a Selective Oral Epidermal Growth Factor Receptor–Tyrosine Kinase Inhibitor, Is Well Tolerated and Active in Patients With Solid, Malignant Tumors: Results of a Phase I Trial
[4]med.astrazeneca.co.jp/product/IF/IRE_IF.pdf
[5]Journal of Clinical Oncology, Vol 20, Issue 18 (September), 2002: 3815-3825
Selective Oral Epidermal Growth Factor Receptor Tyrosine Kinase Inhibitor ZD1839 Is Generally Well-Tolerated and Has Activity in Non–Small-Cell Lung Cancer and Other Solid Tumors: Results of a Phase I Trial
[6]薬事・食品衛生審議会薬事分科会(平成14年6月12日開催分)議事録
[7]国内臨床試験(2)「N・SAS-BC01試験」事件から得られる教訓