『バベル オックスフォード翻訳家革命秘史(上・下)』R.F.クアン著(古沢嘉通訳)東京創元社
『バベル オックスフォード翻訳家革命秘史(上・下)』R.F.クアン著(古沢嘉通(ふるさわ・よしみち)訳)東京創元社を読みました。書影は画像のみです。リンクしておりません。言語の力が世界を支配する。ふたつの言語における単語の意味のずれから生じる翻訳の魔法によって、大英帝国が覇権を握る19世紀。秘密結社ヘルメスは帝国に叛旗をひるがえす。銀の棒の両端に、ふたつの言語の単語を刻む。そしてその言葉を、二言語をあやつれる翻訳者がとなえ、その意味のずれから起きる魔法の力によって、大英帝国が世界の覇権を握る19世紀。英語とは大きく異なる言語を求めて広東(カントン)から連れてこられた中国人少年ロビンは、オックスフォード大学の王立翻訳研究所、通称バベルの新入生となり、言語のエキスパートになるための厳しい訓練を受ける。だが一方で、学内には大英帝国に叛旗を翻す秘密結社ヘルメスがあった。言語の力を巡る本格ファンタジー。ネビュラ賞、ローカス賞受賞作。本作は2026年の日本翻訳大賞の候補作になっています。とっても面白かった~!☆5つ!実際の歴史的出来事をふまえながら描かれるファンタジー小説です。魔法学校で絆を深める主人公たち4人はハリー・ポッターシリーズを連想しました。四人の友情もさることながら、「二言語間の翻訳によりこぼれてしまうニュアンスが具現化して魔法の力になる」という発想が面白かったです。普通は翻訳によりこぼれてしまうニュアンスは「翻訳の限界」という、ネガティブなとらえかたがされがちだと思うのですが、それを逆手にとって「魔法の力」になるのが新しい。主人公ロビンも大好きなのですが、私が一番心惹かれたのは、もともとはバベルにいたのに、反バベル結社に身をとうじたロビンの兄・グリフィンの心の屈折。彼を主人公にした外伝もあったら読んでみたいです。以下、ラストシーンまですべての内容に触れています!未読の方はご遠慮ください。19世紀のイギリス。銀の棒をつかった魔法で乗り物や機械が動く世界。この時代はイタリア語やフランス語をそのまま外来語として英語にくみいれることが増え、ヨーロッパ内の言語間で生まれる言葉の意味の差が少なくなり、大英帝国の魔法の力が弱まっていました。アジアやアフリカなどの言語を英語に翻訳し、その差によって起きる魔法については、まだまだ未知の領域。母をなくした広東(カントン)の少年は言語学のラヴェル教授を後見人として、彼につれられてイギリスにわたり、北方中国語のほか、ラテン語やギリシャ語を学びます。彼は自分で自分の英語名をつけました。「ロビン・スウィフト」。『ガリバー旅行記』の作者から付けた名前です。(←旅をするガリバーの姿がロビンに重なりますね!)ロビンはオックスフォード大学に入学し、大学内の王立翻訳研究所、通称バベルで言語の研究をすることになります。ラヴェル教授とロビンの顔はよく似ており、あきらかに親子なのですが、ラヴェル教授はイギリスに妻子がおり、ロビンを息子として認知しておらず、父親だと名乗ったこともありません。大学寮に入寮したロビンと同室になったのはラミズ・ラフィ・ミルザ(通称ラミー)。カルカッタ出身のイラスム教徒。褐色の肌をした少年で、ウルドゥー語とアラビア語とペルシャ語が話せます。彼はロビンのことをバーディ(小鳥)と呼び、ふたりは親友になります。ある日ロビンは忘れ物をとりに夜に図書館に戻ったところ、黒づくめの見知らぬ3人組を目にします。「無形(中国語:ウウシイン)」と彼らは口にしていましたが、魔法がうまく作動していないようです。中国語で「助けてくれ」といわれたロビンは思わず彼らに近寄り、「invisible(インヴィジブル)」と口にします。するとロビンも含めた4人の姿が消えます。そのなかのひとりはロビンに顔がとてもよく似ていました。彼らが何をしていたのか、ロビンはきこうとしますが、その青年は「ねじれた根っこ亭にこい」とだけいって、そのまま仲間たちとともに姿を消します。学校では授業がはじまり、ラミーとロビンは女子生徒ふたりと仲良くなります。男子生徒を動揺させないようにということで、ふたりはズボンをはいて学校に通っています。ひとりは白人の少女レティシア・プライス(通称レティ)。イギリス人で元海軍提督の娘。フランス語とドイツ語が話せます。もうひとりはヴィクトワール・ディグラーヴ。ハイチ生まれの黒人女性で、フランス語とクレオール語が話せます。バベルの防犯魔法をになっているプレイフェア教授は、4人の血をとり、防犯装置が作動しないようにします。「バベルだけがヨーロッパ出身以外の学生を受け入れている。その出自がゆえに、諸君はイングランドに生まれた人間にはまねできない語学の才能を有している。」ロビン、ラミー、レティ、ヴィクトワールは一緒にすごし、お茶を飲み終えるころには四人は友人同士になっていました。「ひとつのことが四人全員を結び付けた。バベルがなければ、彼らにはこの国で行き場がないのだ。」ロビンはひとりで「ねじれた根っこ亭」にいき、自分とそっくりな顔の青年の名前を知ります。彼の名は「グリフィン・ラヴェル」。ラヴェル教授と中国系の女性との間の子供で、ロビンの異母兄でした。彼もラヴェル教授にひきとられ、もともとはバベルにいました。しかしグリフィンの銀の魔法の成功率は50%くらい。中国語ネイティブの感覚を手に入れる前にイギリスにきてしまったため、中国語のイメージをうまく思い浮かべることができないのです。ラヴェル教授にとってはできそこないの息子。グリフィンは5年前に死を偽装してバベルを出ました。グリフィンはヘルメス結社という反バベル組織に所属しています。結社はイギリスに銀の富が集まりすぎていることは良くないことだと考え、バベルの語学書や銀を校外に持ち出し、ほかの国にも魔法の力を広めようとしています。ロビンはバベルへの愛がありつつも、ロビンの母の話をしないラヴェル教授への不信感、血のつながった兄グリフィンとつながりをもっていたいという気持ちもあり、窃盗犯としてではなく、バベルの扉を開く協力者くらいの役目ならと、グリフィンに力を貸すことを決めます。「ロビンはいままで胸にこんなぬくもりをおぼえたことはなかった。バベルと友人たちとオックスフォード。それらが心の中の一部の鍵をあけてくれた。陽だまりと所属意識を感じさせてくれる場所の鍵を。ヘルメス結社に100パーセント入れ込む心の用意はできていなかった。」ロビンはバベルの学生として銀の魔法の講義を受けます。ふたつの言語の翻訳で失われるものを顕現させるのが銀の棒の魔法。たとえば英語の「garden(庭)」と中国語の「斎(ジャイ)」は同じ意味ですが、「斎」という言葉には「清めの儀式」という「garden」にはない意味も内包されているため、そのふたつの文字を刻んだ銀の棒の魔法を発動させると、庭が「静かで清められた場所」になります。銀の棒に刻むふたつの言葉は適合対(てきごうつい)と呼ばれ、言語の自然な進化により分岐した言葉、たがいに近い関係にある言葉が使われます。そしてその二つの言葉の意味を、両方の言語を頭にイメージできる翻訳者が口に出すと魔法が発動します。そしてその魔法を持続させるには銀の純度と量が関係してきます。安い銀ではすぐに効力がきれてしまうため、刻んだ文字を彫りなおしたり棒を修理したりする保守の業務も重要。交通機関など全土にある銀を同じように作動させるためには、バベルを中心としてイングランド内の小規模な共鳴センターに連絡路を維持して、調整をおこなっています。在学中のロビンにひさしぶりにグリフィンから連絡があり、ロビンは彼にあいます。グリフィンは「イギリスは今、銀が品切れになりかけている。その銀は今は中国に集まっている。磁器や漆や絹や茶がイギリスにわたり、イギリスは銀でその代価を支払っているからだ。中国にあと必要なのは銀工術師だけだ。その流れを加速するために俺は活動している」と話します。グリフィンは言います。「歴史は出口のないとざされた世界じゃない。おれたちは歴史を形成できる。作るんだ、ただ歴史を作るための選択をしなきゃならないだけだ。」ある日、ロビンはいつもヘルメス結社の手助けをするときのように、彼らをバベルの建物の外に出そうとしますが、そのとき防犯装置が作動し、ロビンの腕を銃弾がかするケガをします。ロビンは自分で自分のケガをぬいましたが、その危険な出来事について、グリフィンからはなんの連絡もありませんでした。ヘルメス結社のずさんな計画、秘密主義、末端の者たちを大事にしないことにロビンは不満が生じてきます。しばらくして、ロビンたちに指導してくれていた黒人の上級生アンソニーが西インド諸島からの航海の途中で亡くなったことをロビンたちは耳にします。しかし大学ではアンソニーに対する追悼式もなく、まるでアンソニーが初めからいなかったような様子。ロビンは腹をたて、グリフィンにその話をします。「そういうことは驚きじゃないんだ。バベルが学生を扱うやりかた、特に海外から採用した相手の場合は。おまえたちは連中にとって資産なんだ。それだけの存在なんだ。翻訳機械だ。いったんお前がしくじれば、もう用済みになる。」北の工場で銀の魔法を導入したことにより大量解雇された人間の労働者たちがバベルに嫌がらせ行動をする出来事が発生。ロビンはバベルを愛する心と、バベルが特権階級のためだけに銀の魔法を提供している事実との間で心がひきさかれます。しかしヘルメス結社に注力しようと思っても、結社が何を成し遂げているのかの成果がみえず、ロビンはグリフィンとたもとをわかちます。そして四人は三年生になり、銀工術試験に挑むことになりました。銀工術のコツはまずひとつめは宗教の言葉に手を出さないこと。ふたつめは同語源語を探すことに集中すること。類似形異義語に用心すること。みっつめは適合対のふたつの単語が進化しすぎて意味がかけはなれているとき、媒介する第三あるいは第四の言語を加えること。ロビンは試験で「明白(ミンバイ)」「understand」と銀に刻み、明るい光を起こすことに成功。四人は全員試験に合格します。「人が記憶の全部を銀に刻むことが出来さえすれば、とロビンは思った。なぜなら紙に記した単純なインクでは、この黄金の午後を描くのには不十分だったからだ。気取らぬ友情のぬくもり。教室の寒さの記憶を溶かし去る陽の光。舌にしっかり残るレモンの味、四人の驚きと喜びに満ちた安堵感を描くには。」コレッジでは三年に一度、記念舞踏会が開かれます。レティがそれに参加したいとヴィクトワールのドレスを手配し、ラミーとロビンは裏方役としてパーティーに参加します。しかしよっぱらった男子学生がヴィクトワールにからみ、ラミーたちはヴィクトワールを助けて、パーティを出ます。そのまま彼らはバベルに戻って自分たちだけでパーティをやりなおそうとしますが、バベルのロビーには同じように記念舞踏会に参加していない数名の大学生や大学院生たちが集っていて、そこにいた日系人のイルゼ出島はこのバベルのことを「居場所(イバショ)」と表現しました。パーティが終わってロビンとラミーがレティたちを送っていく途中で墓地を通ったとき、彼らは教授が優等生だといっていた女子学生「イーヴリン・ブルック」の墓碑をみつけます。イーブリンはアンソニーともグリフィンとも同学年の生徒でした。ある夜ロビンはバベルの塔で、ラミーとヴィクトワールが防犯装置の銀の糸にひっかかっているのをみつけます。彼らの様子から、おそらくふたりはヘルメス結社に協力しているのだとロビンにはわかりました。ラミーたちは、実はアンソニーは生きていて、彼から誘いをうけたのだといいます。ロビンは自分が銀の糸にひっかかり、ラミーとヴィクトワールを逃がします。防犯装置を解除しにきたのはラヴェル教授でした。ロビンは別室につれていかれ、「いつからヘルメスのために働いてきたのか」と尋ねられます。ラヴェル教授はヘルメス結社のことも自分の息子のグリフィンがそれに加担していることも知っていたのです。ラヴェル教授は、かつてイーヴリンを殺したのはグリフィンだと話します。そして彼が殺害につかった銀の棒をロビンに渡します。ヘルメス結社に協力したくなったら、グリフィンが恐ろしい男であることをこの銀の棒を見るたびに思い出せといって、ロビンのポケットに納めます。ラヴェル教授はロビンにヘルメス結社の情報を提供しろとせまり、ロビンはセント・オールデート教会という隠れ場所を教授に伝えます。ほどなくして四人は広東にいく船にのり、三週間中国にとどまるようにと、学校からの通知をうけとります。それは阿片の輸入制限の撤廃をもとめる商人の通訳をする仕事でした。イギリス側は自由貿易の旗印のもとに関税撤廃を要求します。清朝の林大臣は中国側の法律を無視するイギリスに異を唱えます。ロビンはイギリス側の通訳をしながらも、この交渉に加担したくないという気持ちを強く持ちます。自由貿易の実態はイギリスの帝国的支配であり、海軍力に依存する貿易の何が自由だと感じたからです。ロビンは林大臣とふたりになったときに率直な気持ちを伝えてほしいと大臣に言われ、「イギリスに中国に対する尊敬の念はないと思います。」と伝えます。席を辞したロビンは、ラミーとふたりで町を歩きます。ラミーはインドには大きな阿片畑があることを話します。「イギリスはおまえの故郷に麻薬を送り込むためにおれの故郷を麻薬軍事国家にかえようとしている。そうやって大英帝国はおれたちを結び付けているんだ。」港で煙があがっているのをロビンとラミーは見ます。イギリス船の阿片の積み荷が清国の手によって燃やされたのです。その経済的損失の大きさに怒り、ラヴェル教授はロビンが林大臣になにをいったのかとつめよります。ロビンは自分はアヘン貿易に加担したくないとラヴェル教授に伝えます。「いまやロビンが父親の目にはひとりの人間として映っていないことが明らかになった。人間であるためにはヨーロッパ人の純血性が必要なのだ。ロビン・スウィフトは資産なのだ。そして資産は自分たちがとても待遇がいいことに果てしなく感謝すべきなのだ。」自分への反抗心を息子の目にみたラヴェル教授は、ロビンのポケットに手をのばします。とっさにロビンはその銀の適合対を口にしました。「爆(バオ)」「burst」。ラヴェル教授の胸には穴があき、彼は血を流し倒れて亡くなります。そこへラミーたち3人がかけつけます。ここから下巻。バベルが供給する、銀を用いた魔法によって世界を支配する大英帝国。通訳として広東を訪れたロビンたちは、イギリスが阿片貿易を口実に清朝政府に戦争をしかけ、中国が持つ膨大な銀をわがものにしようとしていることを目の当たりにする。そしてロビンは、後戻りのできないひとつの決断をする。帰国したロビンたちは、戦争を食い止めるべく奔走する。ラミーたちはラヴェル教授の遺体を夜に海に捨て、彼の死を隠蔽することにします。船内では「彼は伝染病にかかって自首隔離している」ことにして、下船の時は「教授は先に降りた」といって切り抜けます。ハムステッドで独り暮らしをしている教授の家にロビンたちは向かい、そこの書斎でロビンはラヴェル教授あての書簡を見つけ、以前から商人や宣教師たちは清国をスパイしており、阿片の関税撤廃を口実にして戦争を仕掛ける気であったことをから知ります。彼らは清国と交渉をする気持ちははなからなく、交渉決裂を戦争の理由にするつもりだったのです。ラミーはロビンに言います。「おまえが刑務所に行ってもなにも解決しない。戦争はまだつづくんだ。ちゃんと償うための唯一の方法は、それを止めることだ。」ラヴェル教授が戻らないことは早晩明らかになるはず。ロビンたちはヘルメス結社が連絡場所につかっている場所にメッセージを残し、自分たちはカモフラージュのために大学に戻ることにします。大学では全員出席の学部のパーティがあり、4人はパーティの気分ではありませんでしたが、怪しまれないために参加します。するとプレイフェア教授がロビンに近づいてきて「ラヴェルがロンドンに戻ってきていないことは知っている。わたしはヘルメス結社のシンパだ。」といってロビンから情報をひきだそうとします。しかしロビンは直感でおかしいと思い、あいまいな表現で切り抜け、4人でパーティを抜け出します。行くあてのない4人でしたが、大通りにでたときに、アンソニーが彼らを迎えにきました。アンソニーは礼拝堂の碑の下にある抜け道から彼らを案内し、隠れ家である旧図書館にたどりつきます。ヘルメス結社には同じバベルの学生のイルゼ出島やヴィマル、キャシーなどがいました。彼らが食事をしていると、グリフィンが戻ってきます。アンソニーはこれからの任務について語ります。イギリスを中国との戦争に向かわせることはイギリスの利益に反すること、アヘンは非人道的な薬物であることなどを書いた小冊子をつくり、それを銀の棒の魔法を使って全国に飛ばし、人々に読んでもらおうとアンソニーは話します。銀の産業革命はこの国の不平等や公害や失業の最大の要因となっており、労働者階級とヘルメス結社が結びつけば、議会を動かせる可能性があるとアンソニーは話します。グリフィンは庭でロビンに銃の稽古をします。ラヴェル教授にきいた、「グリフィンがイーヴリンを殺した」のは事実かとロビンは尋ねます。グリフィンはイーブリンをヘルメス結社に誘い承諾をもらっていたこと、しかしそれは実は罠で、まちあわせの場所で現行犯逮捕されそうになり、銀の棒の魔法を使ったこと、自分の魔法の稼働率は低いため、本当に魔法が効くとは思っていなかったことをロビンに話します。潜伏生活がつづいて耐えられなくなったレティは建物を抜け出し、警察に隠れ家をリークします。レティには、不穏な相談をしている犯罪者たちにロビンたちがそそのかされていると感じたからです。警察がなだれこんできてヘルメス結社の仲間たちは殺されます。とっさに閲覧室にかくれたラミー、ロビン、ヴィクトワールの前にレティが銃を手に現れ、ラミーを撃ちます。ヴィクトワールとロビンは警察にとらえられてしまいます。ロビンはオックスフォード城にとじこめられます。ロビンから情報をひきだすために拷問官としてあらわれたのはスターリング・ジョーンズ。この時代の最高の翻訳家であるウィリアム・ジョーンズの甥で、グリフィンのかつての同期です。なぜバベルで学んだ恩を忘れてヘルメス結社に加わったのかと問うスターリングにロビンは答えます。「大学はぼくらが特別であり、選ばれた者であり、選択されたものであるとぼくらに告げるけれど、実際には母国から力ずくで切り離し、ぼくらがけっして真の意味ではその一部になれない階級のすぐそばで育てた。それは善意ではないんだ。残酷さだ。」銀をつかった拷問用の手錠に苦しむロビン。ぐったりしたロビンのもとへグリフィンが助けにきて、ヴィクトワールも救出されます。火事でみなの気をひいているうちに逃げ出す計画でしたが、門の前にスターリングがいました。グリフィンと彼は因縁の相手。ふたりは相撃ちになり、死んだグリフィンの姿に呆然とするロビンをヴィクトワールが無理やりひっぱり、外へ逃げます。ロビンとヴィクトワールはかつてグリフィンの隠れ家になっていた場所で夜を明かします。そこにはランプがあり、「燎(リイアオ)」「Beacen(ビーコン)」と書かれていました。「灯り」「燃やす」のほかに「信号」も指す言葉です。ふたりは武装蜂起のよびかけの紙をランプにちかづけるとシュっと音がして紙が消え、灯りが消えました。翌朝ロビンとヴィクトワールはバベルに向かいます。ロビンたちはバベルを占拠してストライキを行うことを宣言します。銀の保守が切れて町の生活が崩壊したら、議会も動くであろうことを期待しての行動です。ビーコンでの連絡はバベルのチャクラヴァルティ教授が受け取っていました。ストライキに賛同する人たちだけがバベルに残り、反対する人たちはバベルの外に出ました。「帝国は利益を得ている元を破壊できない。バベルは資産だった。バベルだけが帝国を機能停止に追いやることができるのだ。」議会に「中国との戦争はやめてほしい」とバベルの要求を伝えましたが、議会は無視、軍隊をオックスフォードに派遣します。ロビンたちは帝国内にはりめぐらされている銀の魔法の共鳴棒を毎日少しずつ抜いていきました。銀の保守はきれ、建物はくずれ、下水道は嫌なにおいを発し、時計はとまり、灯りは消え、帝国の生活は壊れ始めます。「われわれは可能な限り都市が研究所に依存するようにしたんだ。われわれは数週間しか銀の棒の効果が続かないように設計した。なぜなら保守業務は金になるからだ。これは価格をつりあげ、人為的に需要を創出した代償だ。」ストライキをはじめてから数日目、塔にアーベルという男がやってきます。彼も銀の産業革命に抗議するためにバベルのストライキに参加したいといいます。塔にはそのあとも支援者があらわれ、毛布や食べ物を置いて行ってくれました。彼らは町にバリケードを築き、軍の侵攻をとめようとします。ロビンたちは銀の魔法の保守台帳をみて、1週間以内にウェストミンスター橋が落ちることを知ります。そのことを議会に伝えますが、議会は動きません。外国人の言うことを聞くくらいなら大英帝国が崩れる方がましだと考えているのだとロビンたちは議会に失望します。ロビンたちのもとにレティが交渉にやってきます。軍が夜明けに塔を襲撃する予定のため降伏を勧めに来たのです。ロビンたちが命をかけても、大英帝国はまた新しいバベラーを育てるだけで世界は何も変わらないと。ロビンはレティの勧めには応じず、彼女を帰します。夜明けがきて軍が侵攻してきます。ロビンたちはバベルの塔を倒す決意をします。かつて授業で教授が教えてくれました。「翻訳」にあたる言葉は銀に刻んではいけない。「翻訳」という言葉は各言語によってそれぞれ違った意味を内包し、翻訳の適合対は存在しないため、パラドックスが生じ、銀がこなごなになってしまうと。午前6時、彼らはそれぞれ異なる階、異なる区画にわかれて同時に唱えます。「翻訳(ファンイー)」「translate」。「怖がるだろうとロビンは思っていた。痛みにとらわれるだろうと思っていた。だが、そのときロビンの心をもっとも感動させたのは、その美しさだった。銀の棒が震えながら歌っていた。自分たちに関する筆舌に尽くしがたい真実を表現しようとしているかのようだとロビンは思った。それは翻訳が不可能だという真実だった。ひとつのものになろうとして吸収できるような言語はない。千もの異なるみかた、世界の動き方がある。そして翻訳は、どれほど無駄であろうと、異なる世界の間を行き来するために必要な努力なのだ。」ロビンは塔の下敷きになって亡くなり、最後は生き残ったヴィクトワールの語りになります。ラストシーンが胸に迫り、泣いてしまいました…。敵のアジトをやっつけたなら、やった!となりますが、今まで自分が愛してきたバベルを自分たちの手で壊すのがせつなかったです。でも「バベル」という題名なら、ラストはこうなるか…という納得感もあり…、でもやっぱり…主人公が死ぬラストは哀しすぎました。物語としては最高に面白かったです。実写でもアニメでもいいので、映像でも見てみたいなと思いました。