2025年 面白かった本
2025年に読んで面白かった本を紹介します。 申し訳ありませんが、書影は画像のみです。リンクしておりません。●『極夜の灰』サイモン・モックラー著(東京創元社)1967年末。ある火災の調査のため、精神科医のジャックは、顔と両手に重度の火傷を負い、記憶を失ったコナーという男と向かいあっていた。北極圏にある極秘基地の発電室で出火し、隊員2名が死亡。彼は唯一の生存者だという。火災現場の遺体は、一方は人間の形を残していたが、もう一方は灰と骨と歯の塊だった。なぜ遺体の状態に差が出たのか?謎と陰謀が渦巻くミステリ。面白かった!二体あった焼死体の差はなぜか?生き残ったコナーに聴取しようにも彼は記憶喪失。最初からアレもコレも謎だらけのミステリーより、ひとつひとつてがかりを追っていき、少し謎がとけたが、さらに次の謎が生まれ…というタイプの、てがかりがつながっていく話が好きなので、とても好みでした。ラストも予想外。●『酒を主食とする人々』高野秀行著(本の雑誌社)幻の酒飲み民族は実在した。すごい。すごすぎる。改めて私の中の常識がひっくり返ってしまった。デラシャ人は科学の常識を遥かに超えたところに生きている。朝から晩まで酒しか飲んでいないのに体調はすこぶるいい。出国不能、救急搬送、ヤラセ、子供が酒を飲む、まさか「クレイジージャーニー」の裏側で、こんな“クレイジー”なことが起こっていたとは。目撃者たった一人のUMA状態の酒飲み民族を捜しに、裸の王様に引率された史上最もマヌケなロケ隊が、アフリカ大地溝帯へ向かう。エチオピアの酒・パルショータを主食とする民族・デラシヤに取材したルポルタージュ。酒を主食にしている民族がいるということも、石で道がつくられた村の風景も、すべてが初めて知ることだらけで目からうろこポロリ。高野さんの語り口も面白い。●『ようやくカレッジに行きまして』光浦靖子著(文藝春秋)英語を上達させたい、将来カフェを開くための勉強をしたい、そしてカナダで働いてみたい。そんな思いを胸に、2022年8月、カナダの公立カレッジのプロのシェフを養成するコースに入学したヤスコ。カレッジの門を叩いたヤスコは、言葉がわからない状況の中、様々な年齢や人種のクラスメイトと一緒に授業や実習で学び、課題に追われる毎日を過ごします。そこでは想像を超えた肉体的疲労、人間トラブルが巻き起こるのですが、同時にカナダでの様々な出会いや素晴らしい自然のおかげで、肉体が強くなったり、自分に対しての新たな気づきも。50歳から新しい挑戦をし続けるヤスコの、元気と勇気をもらえる最新エッセイ。汗と涙の50代留学体験記。英語がききとれない、料理の用語がわからない、課題を提出するパソコン操作がわからない、ないないづくしの日々。文字通り歯をくいしばりながら(前歯の差し歯がぬけたらしいです。)の学生生活。学ぶ内容は調理の技術だけでなく、収支表の計算や肉の解体など多岐にわたります。先生たちは個性豊かで、理不尽な先生もおり、生徒たちの来歴もいろいろ。ミツウラさんの観察眼と表現力が光ります。香港ガールズ4人組、なんでもできるイラン女子ネル、日本人理系サラリーマン・ヨウイチ、韓国紳士のギバンなど、人間模様が興味深い。しんどい経験もあまさず書かれており、50代で、しかも海外での学びなおしの奮闘に、尊敬の念を抱きました。冒頭のカラー写真もミツウラさんの暮らしぶりがわかって良いです。カナダでの語学学校の模様を語った前著『ようやくカナダに行きまして』もおすすめです。●『高宮麻綾の引継書』城戸川りょう著(文藝春秋)精魂込めて作り上げた新規事業が、親会社に潰された。理由はリスク回避。「なんであんたたちの意味わかんない論理で、あたしのアイデアが潰されなきゃなんないのよ!」怒りを爆発させた三年目の社員・高宮麻綾は、社内外を駆けずり回り、〝リスク〟の調査に乗り出す。私は私の仕事をモノにしてみせる、だってそういうたまらない瞬間のために生きているんだもの。忖度、義理、出世……それって昭和の話? いえいえ、いつの時代も会社はややこしくって面白い。今日の味方は明日の敵。めくるめく令和のサラリーマン小説が爆誕。お仕事小説は普段あまり読まないジャンルなのですが、この小説は主人公の麻綾のキャラクタが強烈で、笑える会話がたくさんあり、かつミステリ仕立てになっていて、とても面白かったです。D審などなかなか知ることができないお仕事の描写も興味深かったです。続編も読もうと思います。楽しみ。ほかに短編で面白かった作品は、坂崎かおる著『箱庭クロニクル』(講談社)に収録の『ベルを鳴らして』。中国人の先生に教わる邦文タイプライタの話。2026年1月発表の芥川賞に坂崎さんの作品がノミネートされていて楽しみです。受賞するといいな。「該当なし」は御免だ。灰谷魚著『レモネードに彗星』(KADOKAWA)に収録の『純粋個性批判』。高校生の頃の空気をぎゅっととじこめた小説。お互いの毒に興味をもって近づき、しかしお互いの毒ゆえに近づききれない友情。また、今年作家読みしたお気に入りの作家は、料理ライターの岡根谷実里さんと、エッセイストの伊藤亜和さんです。ふたりとも実体験を描かれているので、本をまたいでエピソードが重なるときもあるのですが、おふたりの語り口が好きなので、どの本も楽しいです。どれか一冊おすすめを言うなら、岡根谷さんは『世界の食卓から社会が見える』(大和書房)、亜和さんは『アワヨンベは大丈夫』(晶文社)かな。今年もたくさんの面白い本に出会えました。来年もすばらしい本に出会えますように!みなさま、良い年をお過ごしください。