『辮髪(べんぱつ)のシャーロック・ホームズ』莫理斯(トレヴァー・モリス)著(船山むつみ訳)文藝春秋を読みました。
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19世紀の偉大なる名探偵シャーロック・ホームズがもし、ビクトリア朝時代の英国人ではなく、清末の時代に生きた中国人だったとしたら。そして、彼が奇妙な事件を解決したのが大英帝国の首都ロンドンではなく、東の果ての植民地香港だったら。
ホームズとワトソンを彼らとまったく同じ時代に生きた中国人、福邇(フー・アル)と華笙(ホア・ション)とし、物語の舞台を香港にした極上のパスティーシュ作品。正典ホームズ・シリーズからの換骨奪胎ぶりが絶妙。1880年代の香港の様子が生き生きと描かれ、ミステリーであると同時に、歴史小説としても読み応え十分。
シャーロック・ホームズのパスティーシュ。舞台は清朝時代の香港。そのため、中国人だけでなく、イギリス人も登場します。
ホームズ(福邇)は漢民族ではなく、満州人!辮髪!手に取るのはバイオリンではなく胡琴!乗るのは馬車ではなく人力車!住んでいるのは荷李活(ホーリー(ひいらぎ))道(ロード)221乙番地!
…と、このように物語の舞台や小道具は変われど、観察力と推理力の慧眼はさすが!のシャーロック・ホームズなのです。
物語は以下の通り。
『血文字の謎』(『緋色の研究』が元ネタ)
『紅毛嬌町(フンモウギウガイ)』(『赤毛連盟』が元ネタ)
『黄色い顔のねじれた男』(『唇のねじれた男』が元ネタ)
『親王府の醜聞』(『ボヘミアの醜聞』が元ネタ)
『ベトナム語通訳』(『ギリシャ語通訳』が元ネタ)
『買弁(ばいべん)の書記』(元ネタ?)
『血文字の謎』は壁にあった「仇」という血文字を福邇が謎解きします。元ネタである『緋色の研究』はドイツ語で『rache』(復讐)と書かれていました。犯人を見つける手がかりになる手紙が、中国の「地方によって違う言葉」だったり、「地方によって発音が違う言葉」を、代書屋があてる漢字をまちがえて、それを元にホームズが謎解きするので、これはちょっと中国人読者じゃないとわからない部分だな…と思いました。
『紅毛嬌町』は、毎日家系図をかきうつすためだけに、きまった建物にいかされる老人の話。
『黄色い顔のねじれた男』はバークリーという男の死に黄色い顔のねじれた男がどのようにかかわっているのか?というもの。
『親王府の醜聞』は、親王の妹がかけおちのために軍隊府の鍵を人質にぬけだし、その鍵をとりもどすようホームズが依頼されるもの。この話、私、大好きです!
『ベトナム語通訳』ではホームズ(福邇(フー・アル))のお兄ちゃん、福邁(フー・マイ)登場!
『買弁の書記』では、買弁とは中国商人のこと。この作品の元ネタがわからず…。
この本では、元ネタがひとつだけではなく、いくつかの短編をくみあわせてひとつの作品になったりしています。
著者はこのあと同じ登場人物であと3作続編を書く予定だそうです。モリアーティがどのように描かれるのか楽しみ。
続編が出たらまた読もうと思います♪