『精霊の箱(上・下)』川添愛著(東京大学出版会)
『精霊の箱(上・下)』川添愛著(東京大学出版会)を読みました。精霊の箱 上: チューリングマシンをめぐる冒険Amazon(アマゾン)1,501〜8,580円今作のテーマは「チューリングマシン」です。物語は、前作『白と黒のとびら―オートマトンと形式言語をめぐる冒険』最終章の数ヶ月後から始まります。前作と同様、作中の人物、団体、場所、物理・化学法則はすべて架空のものですが、物語の根底を流れる数学的原理は現実のものです。錬金術、偽呪文、土人形の討伐、巨大織機の破壊…新米魔術師ガレットに次々と襲いくる苦難と試練。前作からさらに広がった世界のなかで「計算」と「コンピュータ」の基礎を学びます。川添さん初の上下巻の小説です。装丁は上巻が銀、下巻が金、そして箱の周囲には大小の鍵・・・、これらがまさに、この物語の「鍵」となるんですよね~。主人公は前作『白と黒のとびら』で、見習い魔術師だったガレット。物語はガレットの章と、前作にも登場した、若き研究者ふたり、ユフィンとヴィエンの物語が並行して進みます。ガレットは塔の守り人となり、新しく錬金術を学ぶため、ティマグ大神殿にやってきていました。ある夜ガレットは神殿に忍び込む不審な少年の姿を認め、彼を追います。その少年を追ってうっかり崖から落ちてしまったガレット。気づくとガレットは少年の住む「放浪の民」の天幕で手当てされていました。少年はサイロスという男に頼まれて、神殿の人間の気をひきつけ、その間にサイロスは神殿から大切な書物を盗んでいました。サイロスが盗んだ書物には様々な金属を示す「○」「●」を組み合わせた文字があり、その文字をもとにして、ある金属をほかの金属に短時間だけみせかけられることができます。サイロスはそれを利用して貴族カルルカンのもつ金の子馬と鉄の子馬をすりかえようとしていました。しかしサイロスの真の狙いは「金」ではなく、その子馬の中に隠された虹色の玉。実はそれは「クージェの魂魄」と呼ばれる貴重なもの。この世の中には私たちに見えている表層界のほかに浄罪界という世界があり、この「クージェの魂魄」はその浄罪界を守るためのものだというのです。サイロスに渡さないために、「放浪の民」の老婆からその「クージェの魂魄」を託されたガレット。浄罪界は表層界とつながっており、表層界で呪文を唱えると浄罪界で変化が起こり、その変化がまた表層界に変化を及ぼします。ガレットは「クージェの魂魄」を手にいれてから、前作でガレットが恋に落ちた少女・ティルの姿を夢に見るようになります。一方学園にいるユフィンとヴィエン。学園の優秀な研究者たちは、大貴族ファウマン卿に頼まれ、いろいろな装置の設計図を書かされていました。「ある動作を繰り返す」「ある動作をとまならなくする」装置など・・・ファウマン卿の狙いとは一体?「クージェの魂魄」を手にいれ、命を狙われるようになったガレットは、名前を隠して騎士団に入団し、背中に呪文を書かれた土人形に対峙したり、浄罪界に入ったり、さらに恋愛要素も加わり、本作は前作より格段に冒険度がUPしていて面白かったです!そしてラストシーンには涙・・・。コンピュータの知識を使いながら、これだけ豊かな物語世界をつくりだせる川添さんはやっぱりすごい。