『この本を盗む者は』深緑野分著(角川書店)を読みました。

 

書物の蒐集家を曾祖父に持つ高校生の深冬(みふゆ)。父は巨大な書庫「御倉館」の管理人を務めるが、深冬は本が好きではない。ある日、御倉館から蔵書が盗まれ、父の代わりに館を訪れていた深冬は残されたメッセージを目にする。

 

“この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる”


本の呪いが発動し、街は侵食されるように物語の世界に姿を変えていく。泥棒を捕まえない限り世界が元に戻らないと知った深冬は、探偵が銃を手に陰謀に挑む話や、銀色の巨大な獣を巡る話など、様々な本の世界を冒険していく。やがて彼女自身にも変化が訪れる。

 

深緑野分さんの最新刊です。(2020年10月出版)

 

書店がたくさんある読長町。(よむながまち)。ひしがたの形のその町の中心にあるのは、曽祖父、御倉嘉一(みくら・かいち)が揃えた多くの古書を抱える「御倉館」。

 

御倉館の蔵書を守るのは、普通の警備ではなく、特別な呪い(ブック・カース)。御倉館は、今は嘉一の孫で30代の女性ひるねが暮らしています。そして管理は、ひるねの兄であるあゆむが担っています。しかしあゆむが入院することになり、本を読み、寝ているだけの伯母ひるねの世話を、あゆむの娘で女子高生の、深冬(みふゆ)が言いつかります。

 

ある日ひるねが寝ているところに深冬が夕食を届けにいくと、ひるねの手に「この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる」と書かれたお札のようなものが握られていました。その紙に触れたとたん、深冬は不思議な世界に入り込みます。そして深冬のすぐそばには、犬耳をした少女・ましろの姿が。深冬とましろはその不思議な本のなかの世界で、本を盗む者(ブック・カースの世界では、犯人はキツネの姿になります)を探して奔走します。

 

選ぶ本によって、その世界はおとぎ話のようだったり、ハードボイルドだったり、銀の獣がでてくるファンタジー小説だったりします。違うジャンルの文体をちりばめた実験小説のようで面白かったです。そしてブック・カースの世界が映像的。最後、あゆむの過去に分け入る章では、白い文字が景色の中に浮かんでいたりしてアニメ的だなと感じました。

 

表紙のイラストが、真珠の雨がふったり、キツネが隠れていたり、ハードボイルド探偵や気球が登場したりして、作品の世界を存分に表現しているのが素敵だと思いました。装画は宮崎ひかりさん。装丁は鈴木成一デザイン室です。