昭和レトロサウンド考房 -4ページ目

昭和レトロサウンド考房

昭和レトロサウンド、昔の歌謡曲・和製ポップス、70年代アイドル歌手についての独断と偏見。 音楽理論研究&音楽心理学研究など

シェリー 「カリブの夢」(1976年)
作詞:山川啓介 作曲:筒美京平 編曲:船山基紀

「恋のハッスル・ジェット」のB面曲。
通常、歌には1番、2番といった歌詞の単位がある。童謡や校歌ではそれが明確である。1コーラス、2コーラスとも呼ばれる。
昔の大衆歌謡は1コーラスあたり一部形式(8小節)、二部形式(16小節)のようなシンプルな規模であったが、時代とともに形式が自由化、複雑化してゆき70年代には1コーラスあたり24~50小節くらいの規模になったと思われる。
そんな中、なんと! 

♪さよなら二人の夏 さよなら昨日の夢♪

という歌詞だけで1コーラスが終わる曲がある。「カリブの夢」である。長さは8小節と短い。

8小節といえば、♪お馬の親子は仲良しこよし~♪の童謡「おうま」と同じなのである。

しかし実際には、後に続く歌の無いBメロ(8小節)と合わせて1コーラスを形成していると考えられる。
もしかしたらBメロにも歌が入るはずだったかもしれない。それをあえて歌無しにしたとも考えられる。いずれにしても挑戦的なアイデアである。

全体的には Aメロ(歌)+Bメロ ×4回 という構成になっているが、歌詞カードには番号は振っていない。この頃はもう1番2番という形式なんて崩壊しているのだろう。
一見、単調になりそうな構成だが、Bメロのアレンジが毎回違うのが心憎い。しかもカッコいい! 3回目以降には半音高く移調もする。

B面にしておくのはもったいないくらいの良曲である。


youtube動画 シェリー 「カリブの夢」
万物創世紀のテーマ オーケストラver (1995年)

ビートたけしMCの番組(テレビ朝日系列)のテーマ曲。
筒美京平作曲としてはめずらしいインストルメンタル楽曲。歌ではない仕事はスーパーファミコンソフト「いただきストリート2」以来ではなかろうか?
(いただきストリート2については後日、取り上げたい。)

全体的にはA → B → A'というようなトリオ形式。
オケVerとなっているが、A A’の箇所はBoz ScaggsのようなAOR風アレンジである。

サックスが演奏している主旋律は、そのまま野口五郎さんや郷ひろみさんが歌ってもハマリそう。

注目すべきは、中間部 Bである。女性スキャットによる、物憂げでシリアスなメロディーが静かに展開する。生命が進化する過程における試練・・・みたいなストーリーを表現しているのだろうか?筒美先生があまり書かない曲調である。
これなら一度、ファンタジー系RPGの作曲もチャンレジしてもらいたいとファンとしては思う。


youtube動画 万物創世紀のテーマ オーケストラver

斉藤由貴「卒業」(1985年)
作詞:松本隆 作曲:筒美京平 編曲:武部聡志

NTTが誕生した1985年。「卒業」と題する作品が4曲も登場した。
  斉藤由貴「卒業」  1985.2.21
  菊池桃子「卒業 (GRADUATION)」 1985.2.27
  尾崎豊「卒業」    1985.1.21
  倉沢淳美 「卒業」  1985.2.14

偶然か?業界で申し合わせた結果か?阪神タイガースが優勝してしまう奇跡の年だから、歌謡界にもなにか起こったのかもしれない。

筒美フリークの私はもちろん斉藤由貴「卒業」をピックアップしたい。
注目すべき特徴はたくさんあるが、今回は松本隆氏による詞の語数が多いことを挙げたい。

音楽に拍があるように、言語にも拍(モーラ)がある。促音「っ」や長音「ー」も1モーラとしてカウントする。
語数が多いと当然モーラ数も多い。斉藤由貴「卒業」の詞(繰り返し部分もカウントする)のモーラ数を数えてみるとなんと465モーラもある。
ちなみに松本隆初期の作品、太田裕美「雨だれ」は237モーラである。

松本隆さんと組む場合は、原則、詞が先とのこと。この語数で詞先はさぞかし難しいだろう。松本隆さんにはちょっと意地悪なところがあって、「なーに、筒美さんなら上手く曲を付けてくるよ」といったノリで容赦なく難しいのを渡すそうである。有名な「木綿のハンカチーフ」は歌詞を渡されたときは筒美先生もたまげたそうである。しかし、しばらくしたらニコニコしながら「出来たよ~」と持ってくるのが筒美センセ。

斉藤由貴「卒業」では、メロディを16ビート基調で構成することにより上手く収めていると思う。譜割りを16分音符単位で調整しやすい。

斉藤由貴 卒業

それでも、随所が早口言葉のような感じになっていることも否めず、歌う斉藤由貴さんはたいへんだったのではとも思う。
しかし、おっとりキャラの斉藤由貴さんが、一生懸命、時に早口に、訥々と歌う姿が、結果的にはファンの心をつかんだのではないだろうか?



youtube動画 斉藤由貴「卒業」(1985年)

南沙織 早春の港(1973年)
作詞:有馬三恵子  作曲・編曲:筒美京平

筒美京平作品を語る上で南沙織さんは外せない。
沖縄生まれの南沙織さん。1971年に「17才」でデビュー。翌年、沖縄は日本へ返還された。

沖縄に新鮮なイメージを抱き、特別な関心を持って迎え入れるムードが日本全体に高まっていた時期。 そこへ美形&美声、そしてどことなくエキゾチックな雰囲気があいまって即人気急騰。
小学2年生の私が初めてテレビを通して見るアイドル歌手らしいアイドル歌手だった。

沖縄娘に「海」というキーワードは、当然セールスポイントとなったであろう。実際、海をイメージする歌が多いし、やはり海の歌が似合う。

「早春の港」は6作目のシングル。
「海辺の青さ」や「港」といった情景に若い男女の恋愛を重ねる有馬三恵子さんの歌詞が冴える。
発売からちょうど40年経ったがこの曲の素晴らしさは変わらない。


ではイントロの解析から。
2小節で出来ているリズミカルな短旋律(riff)が2回反復される。筒美先生が早い時代から音楽の部品化傾向にあったことは、よく指摘されている。これをモータウン的という人もいるが、私はバートバカラックの影響が大きいと思う。
Ⅰ → Ⅳ → Ⅰ → Ⅳ の和声進行はサザエさんエンディングを思わせ、たいへんのどかである。
鑑賞者はイントロを聴くだけでさほど深刻ではない歌と知り、ほっとする。準備OKである。

 
歌い出しの、♪ ふるさと持たないあの人に~♪  の

コード進行 B → D#m7 →  G#m →  Em 
の最後のEmは同主調のⅣに当たり、これぞ筒美先生の必殺技。「楽しい」でも「悲しい」でもない微妙なせつなさを付加する借用和音である。
エイメン・コーナー「ハーフ・アズ・ ナイス」に似てるとの指摘があるが、1小節ほどメロディーが似てるだけでその後の展開もアレンジもぜんぜん違うので、まったく別曲。

 
随所に入るスティールギターの役割も大きい。柔らかく気持ちの良い音が胸に広がり、リゾート気分に引き込まれる。ハワイアンが流行した昭和では、お約束的な「海」の演出方法だったのだろう。

 
最も素晴らしいと思えるのは、2番が終わった後の間奏の前半4小節。

ベースが二分音符のF#を8回も繰り返す。
低音が一定の高さを持続しながら、上にのるコードが変化するペダルポイントというテクニックで、聴く人が土台(低音)の不変性を認知するとスケールの壮大さを連想するという心理的効果がある。

私はこの間奏を聴くたびに、連絡船から見る視界が一気に広がり、水平線をくまなく見渡せる光景をイメージするのだが、皆さんはいかがであろうか?

 
それにしてもこの歌詞。主人公の女性のなんと献身的なことか・・・その点も含めて昭和が恋しい。

 


youtube動画 南沙織 「早春の港」 (1973年)

久保田早紀「異邦人」(1979年)

前回の投稿に続き、久保田早紀作品の話題。
1979年の秋、三洋電機のCMがテレビから流れたとき衝撃を覚えた。それほど歌とアレンジが私にとって斬新なものであった。

時に私は15歳(高校1年)。
なにを思ったか某スポーツ強豪校の剣道部に入ってしまっていた。
男子校の部活の一年生は、軍隊の初年兵と同じ。掃除洗濯など雑用に追われながら、怒鳴られ、小突かれ、走らされ、また怒鳴られ、等々が日課である。
出来の悪い私はとりわけ叱られた。
冬、寒風を浴びながら、たくさんの手ぬぐいを冷たい水で手洗いする。その時も鼻水たらしながら頭の中で
    ちょっと~振り向いて~♪
となぐさめに歌っていたように思う。

つらい時代に耳にした良歌ほど心に染みるものはない。
ここに『流行歌』というものの効用を見る。
自分にとってその時代の象徴となるからだ。

部活練習が休みの日は、安モノのレコードプレイヤーで繰り返し繰り返し聴いて癒されたものである。
「明日からまた練習かぁ~」と思うとよけいに「異邦人」がセツナクなる。
聞けば、隣の柔道部のT君も同じ感慨だったらしい。異邦人仲間か(笑)

今は、歌も、怒号飛び交う光景も、懐かしい思い出のひとつ。

あの時・・・。叱られっぱなしの鼻ったれ初年兵にとって、久保田早紀さんは間違いなく女神であった。

;久保田早紀「異邦人」(1979年)
久保田早紀「朝」(1979年)



ミリオンヒットとなった『異邦人』
この「朝」という曲は、1stアルバム『夢がたり』において「異邦人」へ導く前奏曲のような曲順となっている。



日本人は中近東に対して、お伽話「アラビアンナイト」のようなイメージを漠然と持っていたであろう。

それを詞と音楽によって神秘的で美しく発展させた久保田早紀さんの才能はすごい。

「異邦人」流行当時、多くの日本人が中近東に想いを馳せ、美しい幻影を見たことと思う。それでいて、歌詞には具体的な地名や「モスク」や「砂漠」など、直接的に地域を特定する言葉は出てこない。



久保田早紀さんの描く世界観も素晴らしいが、萩田光雄さんのアレンジも見逃せない。

太田裕美さんの作品で数々の名アレンジを生み出してきた萩田光雄さん。特にストリングスのアレンジは格別。クラシカルで美しく優しいストリングスアレンジではあの筒美先生も一目置くのでは?と勝手な想像をしたりする。



この久保田早紀「朝」は、「異邦人」とともに、萩田光雄ストリングスアレンジの集大成といってもよい作品だと思っている。 

今回は、重厚なストリングスが始まる [サビ1回目] を見てみる。

久保田早紀「朝」

夢うつつを表現したような、ゆったりとした3拍子に、

    Gm9 → C9 → FM9 → BbM7

といった浮遊感たっぷりのコード進行が載る。

メロディーに9thメジャー7thが当てられ、一層神秘さを増す。

サビ2回目の「優しい人ばかりなのに涙が~」の始まりの音を、1回目と少し変えている工夫などは、もはや卑怯であるとさえ思う。



二人の素晴らしい才能が出会って生み出された作品。

もっと評価されるべき作品と強く思う。


youtube動画 久保田早紀 「朝」 
石野真子「思いっきりサンバ」(1981年)
作詞: 有馬三恵子 作曲: 筒美京平 編曲: 大村雅朗

ブラジルの音楽、サンバのリズムが陽気で快活であることは周知のとおり。特筆すべきはそのリズム上に乗るメロディーやハーモニーが旧宗主国ポルトガルの影響もあって西洋的な調性音楽として成熟してきたこと。
その後ジャズの影響も受けてさらに魅力的な和声進行を生み出すまでに進化。
有名な「Samba De Janeiro」に見るようにマイナー調との相性も良い。

「思いっきりサンバ」は、マイナー調の循環コードがひときわ冴える「石野真子史上最も情熱的」と私が思い込んでいる傑作であります。

なんせ、サビの対旋律が素晴らしい!
サビの対旋律はコーラスごとにバリエーションがあるが、特に秀逸な1コーラス目の対旋律を見てみる。


対旋律は、なんと
 D → E → F → F# → G → A → B → C 
と4小節かけて7段階も上昇し、一度ちょっと下がってさらに
Bb → B → C#
と上昇し、高揚感を大いに煽る

こういう定規でひいたような直線的な変化は、主旋律(歌)には担当させられない。つまり主旋律がやれないことを対旋律が担っているのね。
対旋律途中に出現する F# は、和音構成音ではなくクロマティック・オルタレーションと呼ばれる装飾音であろう。
この F#→G の半音進行が上昇運動に滑らかさ を与えており、なおかつ、聴いててなまめかしい(笑)
「上手な対旋律が書けてこそプロ」とあらためて認識させられる曲。

あと、歌のメロディー「はなやいで~」の箇所の、 G → C と4度跳躍し、C → A → G → F とペンタトニックスケールで降りてくる音形は、ラテンブラスのお約束的な奏法を思わせる。

○。。。...

20歳になったばかりの真子ちゃん。歌が一段と大人っぽくなった(しみじみ)

youtube動画 石野真子「思いっきりサンバ」
稲垣潤一「ドラマティック・レイン」(1982年)
作詞:秋元康 作曲:筒美京平 編曲:船山基紀

70年代にキャッチーなメロディーとカッコいいアレンジで不動の地位を築いた筒美先生。
筒美京平研究家の榊ひろと氏によると80年代前夜から筒美メロディーの複雑化(高度化)が始まるという。
同時に、この時期から自ら編曲をしなくなる。

シンプルなメロディーというものは石油資源と同じで、みんなで採掘してゆくうちにいつか枯渇する。
この時期、より一層新しい旋律スタイルを開発する必要に迫られたのだろうと推測する。

「ドラマティック・レイン」の実験的かつ巧緻なメロディー設計は、それを象徴するものだと思う。
今回はサビに注目してみたい。
 

注目1: メロディーの芯となる音が1小節ごとに a → b → cと上行しているのに対し、ベースは a → g# → gと下降形クリシェラインを形成しており、対位法的な設計といえる。しかも「1小楽節=4小節」という型にとらわれず、中途半端な3小節目で一旦終止(っぽく)させている。

注目2: 4小節目はサビ前半の部品ではなく、サビ後半への導入・助走区間として費やされている。4度の5度の和音(A7)が近親調への発展を聴く人に期待させ、メロディはFまで駆け上がる。

注目3: f → c → b という動きは、完全4度→半音という音程関係にあり、通常忌避されがちなメロディー。それを確信犯的に使用している。鼻歌だけで作る人には思いつかないメロディー。しかし、この一見妖しい音程が「濡れて~」の歌詞に不思議にフィットし、最も印象的な箇所になっている。

以上、8小節のサビにいくつもの「意外性」を仕掛けた形跡がみられるチャレンジングな楽曲なのです。それでいて不自然さを感じさせないところが筒美センセのすんごいところ。まさにドラマティック!

ちなみにwikiによると「作詞家秋元康にとって初のヒット曲」とのこと。

youtube動画 稲垣潤一「ドラマティック・レイン」
ラヴ・アンリミテッド「愛のテーマ」(1973年)

日本ではインストゥルメンタル盤が、キャセイパシフィック航空のCMで流れたり、FMラジオ番組「ジェットストリーム」で多用されたりしたので航空会社のテーマ曲とのイメージが強いが、実は黒人女性3人グループ “ラヴ・アンリミテッド” の歌。

彼女たちのために総勢約40人というディスコオーケストラが編成された。
当時の音楽産業にはけっこうな予算がついたのですね。

この頃、フィラデルフィア・インターナショナル所属のオーケストラ“MFSB”が隆盛で、明らかに“MFSB”の流れを汲むサウンドに仕上がっており、ラヴ・アンリミテッドも「フィリーサウンド」とひとくくりにされることも多い。
フィリーサウンドは山下達郎さんも大いに影響を受けたという。

ちなみにボーカル入り盤はインストゥルメンタル盤よりもキーが低い。

今聴いても、何回聴いても、ゴージャス&リッチでかっこいい「愛のテーマ」。
ああ一度、ファーストクラスで飛行機旅行してみたい・・・

ラヴ・アンリミテッド「愛のテーマ」

 
林寛子「素敵なラブリーボーイ」(1975年)

林寛子さんの歌としては最も売れた作品。後に小泉今日子さんもカバーした。

メロディーがドレミファソ~とゆるやかに変化するものを順次進行といい、逆にド→シのように離れた音程へいきなり飛ぶことを跳躍進行という。
古典的な作曲法の授業では「大きな跳躍は歌いづらいから要注意」または「ここぞというところで使う」と習う。

「素敵なラブリーボーイ」の冒頭の♪あなたは特別な~♪の箇所は、シレシレシシシシレと長6度も離れた音程を往復する、なんとも思い切った斬新かつ挑戦的なメロディーであります。
当時27歳の穂口雄右先生はチャレンジャー! 

伴奏アレンジは穂口作品らしく、ストリングス省略の軽編成オケ。


もっと売れてもよかったと思う良曲のひとつ。


林寛子 素敵なラブリーボーイ