昭和レトロサウンド考房 -3ページ目

昭和レトロサウンド考房

昭和レトロサウンド、昔の歌謡曲・和製ポップス、70年代アイドル歌手についての独断と偏見。 音楽理論研究&音楽心理学研究など

藤田淑子 『ムーミンのうた』 (1972年版) 宇野誠一郎研究④
作詞:井上ひさし 作曲:宇野誠一郎

『カルピスまんが劇場』と銘打って1969年から始まったテレビアニメ『ムーミン』(フジテレビ系)の主題歌。

わたしは、藤田淑子さんの声が好きである。
ムーミン本放送の時期は、わたしの幼稚園~小学校低学年に相当する。いい年こいたオッサンがこういうことを書くのは赤面ものだが、藤田淑子さんは、私が「声に恋した」最初の声優・歌手さんだろうと思う。なにか幼児心をくすぐる秘めたパワーがあったに違いない(笑)

他に、松島みのり版、玉川砂記子版、堀江美都子版も発売されたそうだが、やはりムーミンの歌は藤田淑子さんでなければならない。

藤田淑子版にも1969年録音と、1972年録音の2バージョンあるのをご存知だろうか?
1969年版は初々しい声だがちょっと大人しい感じ。 一方、1972年版は、のびやかで声に張りがある。
違いがわかりやすいのが、 ♪恥ずかしがらないで~♪ の歌い始めの「は」の部分で、1969年版は普通に歌っている感じだが、1972年版は少し笑い声を含ませたような表情がついている。
声優としても貫禄がついてきた証拠で、歌にも余裕が感じられる。ここでは1972年版を紹介したい。

さて、この音楽も前回の『幸せをはこぶメルモ』と同様、クラシカルなオーケストラにジャズ要素をふんだんに織り込んだ長調(メジャー)の曲。

今回は終奏部についてピックアップしたい。ムーミンのオープニングは、♪だから ねえ こっち向いてっ♪ と歌が終わった後も、比較的長い時間、演奏が続くことを覚えている人は多いのでは?
この曲の終奏部は単なるお約束の付け足しではない。むしろ歌の伴奏区間よりも手が込んでおり、楽曲中、最も壮大に盛り上がる区間なのだ。

 前段4小節は、ほぼ順当な循環コード。だんだん頂上へ近づく気配を感じさせる。
後段4小節はこの曲のピークである。これまでもしつこいくらい書いてきた、長調におけるⅣm が使われる。やはりピークにふさわしい和音なのだ。(Bb dim はⅣmに順ずる和音と解釈できる)
きわめつけは最後のメロディー ミ → ファ → シb だ。  に対して経過音 ファ は半音を構成する。この経過音 ファ は抜いても旋律として成立するが、あえて入れたのは勇気ある決断だったと思う。結果、ピークのピークを締めくくる最も印象的なメロディーとなった。

これぞ宇野誠一郎の世界である。メルヘンな世界をここまで繊細かつ鮮やかに表現し、しかも子供にも親しめるメロディーを乗せることができる日本人作曲家は少ない。
後年、テレビアニメの仕事をされなくなってしまったが、もっともっとムーミンやメルモちゃんのような傑作を書き続けてほしかった・・・

 
youtube動画 藤田淑子 『ムーミンのうた』1972年版
桜井妙子 『幸せをはこぶメルモ』(1971年) 宇野誠一郎研究③
作詞:岩谷時子 作曲:宇野誠一郎

1971年の10月に放送開始された、手塚治虫原作のテレビアニメ『ふしぎなメルモ』のエンディングテーマ。
前回とりあげた『さるとびエッちゃん』の開始も1971年の10月であり、このころの宇野誠一郎先生は『ひょうたん島』『ムーミン』の好評もあってか、依頼が集中していた感がある。

オープニング曲の『ふしぎなメルモ』については、今でも不意に口ずさむ人が多いだろう。それほどインパクトが強かった。一方、エンディング曲は、すぐに思い出せない人も多いのではなかろうか?
静かな感動が要求されるエンディングの性格上目立たないが、『幸せをはこぶメルモ』は、しっとりと心に染みる素晴らしい曲である。

では、音楽の特徴を。前回の『エッちゃん』同様に、せつなさを帯びる長調(メジャー)の曲である。
バートバカラックを思わせるゆったりとしたシャッフルビートに、プロコル・ハルムばりのハモンドオルガン、たまにさりげなく入るジャズピアノ風のオブリガートなどなど、子供向けとは思えないスタイリッシュなアレンジ。
宇野先生の音楽性は、クラシカルなオーケストレーションをベースにジャズを織り交ぜるスタイルなのだろうと推測する。

前にちょっと触れた 7thメジャー7th の効用についてピックアップしてみよう。

 ♪昨日を知るのは今~♪
 ♪明日を知るのは今~♪
両モチーフともに「いーまー」の「ま」で終わるわけだが、前者がAm77thに当てられ、後者がGM7メジャー7thに当てられている。
不思議で心地いい響きになっているのがわかっていただけるだろうか?

桜井妙子さんの歌もGood!歌いだしのウィスパーぎみの声も悩ましげでムード満点だが、声を張って歌う箇所のなんとケナゲなことか!堀江美都子さんや本田美奈子さんの声にも通じるケナゲさだ。

ちなみに桜井妙子さんは、同年のテレビアニメ『アンデルセン物語』でも宇野先生作曲の主題歌を歌っている。

この時代の作曲家と歌手の関係は師弟制度に近いものに見える。
増山江威子さん、藤田淑子さん、桜井妙子さんいずれも宇野先生が大切に育てようとした歌手なんだろうと思う。このあたりの事情、歌手選定の経緯などを知りたいものだ。


youtube動画 桜井妙子 『幸せをはこぶメルモ』
増山江威子『エッちゃん』(1971年) 宇野誠一郎研究②
作詞:山元護久 作曲:宇野誠一郎

石ノ森章太郎原作のテレビアニメ『さるとびエッちゃん』のオープニングテーマ曲。
作詞家山元護久氏とは、アニメ『一休さん』の主題歌2曲でもコンビを組んでいる。
落ち着いた3拍子で増山江威子さんが優しく丁寧に歌う。心に染みる名曲。

わたしは「せつなさ」や「哀愁」が表現された長調(メジャー)の音楽が好きである。

ここに「せつなさ」、「哀愁」という単語を使ったのは、他に言い表す言葉がないからである。
音楽の響きから受ける心象を言葉で表すのは難しい。言い表したいのは「楽しい」でも「悲しい」でもないファジーな概念だ。
もしかしたら「郷愁」や「旅愁」という熟語で使われる「愁える(うれえる)」という言葉のニュアンスは比較的近いかもしれない。
しかし、つまるところは音楽を聴いていただくしかない。

長音階上に作られる長3和音 Ⅰ、Ⅳ、Ⅴ(スリーコードという)だけで構成すると、明るく陽気な響きだが、たいへんそっけない。そこでⅡ、Ⅲ、Ⅵ の短3和音を混ぜることにより幾分バリエーションがつくが、上記のような心象を表現するにはまだ不十分である。

以前、井上陽水『カナディアンアコーデオン』の投稿でも書いたが、6thコード、7thコード、メージャー7thコードを使用すると表現の選択肢が増え、響きもぐっと豊かになる。
たとえば、長調のエリック・サティ『ジムノペディ』などはメージャー7thが売り物のような曲で、とてもお洒落な響きだ。
メージャー7thの響きは『幸せをはこぶメルモ』(作曲:宇野誠一郎)でも強調されているワザだが、『エッちゃん』の本質はそれだけではない。

長調(メジャー)を「せつなく」する鍵は、これまで何度も書いてきた同主調のⅣであろうと思う。
これこそが夢の最も深いところへ誘う必殺技 だと私は確信している。

先日とりあげた『ははうえさま』
♪ゆうべ杉のこずえに明るく光る星ひとつ~♪  の箇所も細部で違いがあるものの、コード進行の本質は同じである。やはり同主調のⅣが芯なのである。

宇野誠一郎先生は、以上のようなワザを駆使して長調(メジャー)に自由自在に情感を色づけする達人だと思う。


youtube動画 増山江威子『エッちゃん』
大和田りつ子 『わたしのビートン』(1976年)
作詞:大隈正秋 作編曲:川口真

テレビアニメ『ろぼっ子ビートン』(TBS系)の主題歌。
川口真(かわぐちまこと)さんは、歌謡曲の作編曲の大御所である。
私などは「川口真」というクレジットを見ると、どうしても弘田三枝子さん、金井克子さん、夏木マリさんのような、大人の色気たっぷりな作品を連想してしまうが、実はアニソンも手がけておられた。
 オープニング曲『わたしのビートン』
 エンディング曲『なぜ? なぜ? ビートン』
は、数少ない川口真作のアニソンである。

シンプルで親しみやすい曲。それでいて一定のオリジナリティーがあり、不自然な接続箇所もない。つまり「普通に良い曲」なのである。実はこういう「普通に良い」こそ作るのが難しくセンスが要求されるものだとつくづく思う。
奇抜で、とんがった要素がある曲はえてして不自然な接続、不自然な展開がみられるからだ。昔の職業作曲家は「全体を自然にまとめる」という一種の掟を忠実に守っていたように思う。
上記楽譜は、唯一マイナー調の女の子らしく、慎ましやかな口調になる部分。さりげない4小節だが、 重要な布石である。

川口真さんは御歳75歳。すでに大先生でいらっしゃるが、そんな川口真さんがさらに師と仰ぐ作曲家がいた。
特撮ヒーロー、ロボットアニメの神、渡辺宙明さんだ。
なんと!川口真さんは渡辺宙明さんの助手をされていた時期があるらしい。歌謡界での活躍も宙明さんの紹介がきっかけだったとのこと。
渡辺宙明さんは御歳87歳。
お二方とも、まだまだ第一線で活躍してほしいと、昭和ファンとして強く願う。



youtube動画 大和田りつ子『わたしのビートン』
倍賞千恵子 『学生時代』
作詞・作曲:平岡清二  編曲:小川寛興

1964年公開のペギー葉山『学生時代』のカバーである。オリジナルも素晴らしいが、より優しく可憐な声の倍賞さんバージョンを聴いていただきたい。

戦後の社会主義思想の台頭に根ざす労働歌、革命歌、そしてその影響を受けたであろうと思われる当時の学生演劇を調べているうちに、この曲に行き当たった。

ただ、この曲自体はそういうイデオロギー闘争とはまったく無縁な作品である。
歌詞に「チャペル」、「賛美歌」というキーワードが並ぶように、ミッションスクールでの情景を歌ったきわめて清楚で純朴な歌で、爽やかなノスタルジー感が胸に残る傑作である。
東京の青山学院がモデルらしく、ペギーさんも作曲者の平岡清二さんも青山学院出身とのこと。
青山学院卒業生は大いにこの名曲を誇ってよいと、地方大学出身の私は思う。

ここでは、イデオロギーを志向するしないにかかわらず、当時多くの日本人の耳にロシア民謡が浸透していたことに触れたい。
一説によるとロシア民謡はシベリア抑留者引上げの際に持ち込まれたともいう。マイナー基調の物悲しいメロディーが日本人の美意識に刺激するところがあったのだろう、神秘の国ソビエトに対する好奇心もあいまって、またたく間に普及し、多くの人に親しまれた。東京には歌声喫茶なるものも登場し、ロシア民謡が盛んに歌われたそうである。
60年代以降ロックの影響を受けはじめるまでは、日本人の音楽体験には、少なからずロシア民謡の堆積があったと思う。

『学生時代』にも、偶然の産物ではあるがロシア音楽の潜在的影響を受けていると推測される箇所が散見できる。

サビの ♪秋の日の図書館のノートとインクのにおい~♪ は、

ソビエト連邦軍歌『赤軍に勝る者なし』とコード進行が同一でメロディー構成が近似している。  また、♪枯葉の散る~♪ のメロディーは、『モスクワ郊外の夕べ』を思わせる。

かように要所でロシア民謡成分が見られるとはいえ、  「(秋の)ひ→の」がラ#→ミ、 「(としょか)ん→の」シ→ファ#  と 日本語歌詞の要請から語句の終止音程を工夫している点など、十分にオリジナリティーを発揮しており、独立した価値のある素晴らしい日本歌曲であることは間違いない。



youtube動画 倍賞千恵子 『学生時代』
藤田淑子 『ははうえさま』 (1975年) 宇野誠一郎研究①
作詞:山元護久 作曲・編曲:宇野誠一郎

昨今、南無サンダーなる必殺技で妙なブレイクをしたアニメ「一休さん」(テレビ朝日系)のエンディングテーマ。
手紙の文章がそのまま歌詞になっていることを覚えている人は多いと思う。音楽の構成も「手紙の構成」を模したものとなっている。

 頭語 「母上様~お元気ですか?~」  4小節
 本文1 昨日あった日常の出来事前半  6小節
 本文2 昨日あった日常の出来事後半  6小節
 本文3 一休さんの決意または心情   10小節
 結語 「それではまたお便りします~」 8小節
     (※小節数はBPM=140として換算)

まず、リズム楽器の無い伴奏で 「母上様~」と静かに始まる。

次に “昨日あった日常の出来事” の部分のコード進行は、優しくほのぼのとした雰囲気。
C → Em → C7 → F → Fm6 → C→ F → C  を2回繰り返す。

ここで Fm6 は、私の好きな借用和音、同主短調のⅣmである。(サブドミ・マイナーとも呼ばれる)
上記コード接続により耳は、ド → シ → シb  と ラ → ラb → ソ  という心地よい流れを知覚する。
途中からさりげなくスイング伴奏になるのも心憎い。


それに対して“一休の決意または心情”の部分は
Am → Em → Am → Em → Am → Em  → Am → G → BbM7
 
と、マイナー基調のやや深刻な和音が続く。一休さんの強い意志、感情が表現されている。しかし、最後の「いつかたぶん~」では、希望を予感させる響き BbM7 (同主短調のⅦ)で締めくくる。

この一連の、 
静かな出だし → 優しくほのぼの → 深刻(真剣) → 希望の予感 → 静かに結語
という心理的構成は見事である。

後日書く予定の「さるとびエっちゃん」にも通じることだが、宇野誠一郎さんの曲は、流行スタイルにこだわることなく、子供にも伝わる心情表現に徹していて、それが上手だと思う。

私の大好きな藤田淑子さんの優しい声と相まって切なさ倍増である。

youtube動画  一休さん「ははうえさま」
新藤恵美ほか『美しきチャレンジャー』(1971年)
作詞:岩谷時子 作曲・編曲:筒美京平

50歳よりも上の世代で、 ♪律子さん、律子さん、中山律子さん~♪
というCMソングを知らない人はいないだろう。大阪万博のあった1970年ごろの日本は、空前のボウリングブームだった。

『美しきチャレンジャー』は、新藤恵美さん主演のテレビドラマ(TBS系)の主題歌である。
なんとこの曲には、新藤恵美、藤田とし子、富田智子、中村晃子、堀江美都子、計5人分のバージョンが存在する。それほどこのテレビ番組の人気が高かった。
2番目の藤田とし子(藤田淑子)さんは、アニメ『ムーミン』の主題歌や、一休さん役・キテレツ役の声優としても有名。
私個人的には堀江美都子バージョンが可憐かつ健気で好き。

筒美メロディーの素晴らしさは言わずもがなであるが、この作品はベースの16ビート速弾きテクが光る。
ベースの神様的存在である寺川正興さんという人が弾いてるらしいが、残念ながらすでにお亡くなりだとのこと。
寺川さんは他に尾崎紀世彦『また逢う日まで』欧陽菲菲『恋の追跡』などのベースを担当しているほか、『勝利だ!アクマイザー3』 『戦え!電人ザボーガー』などの子供向け番組の主題歌を演奏しているのも興味深い。
その音は、決して出しゃばらず、とんがらず、それでいて正確なビート感を与え続け、楽曲の芯となって溶け込む、という心強い存在である。

筒美アレンジのカッコよさは、こういう名も知れぬベテランプレイヤーが一端を支えていたのである。

寺川ベースについてもっと調べたいが、ほとんど資料がない。詳しい人がいれば折に触れてご教示いただきたい。

youtube動画 美しきチャレンジャー 堀江美都子
詩子 「虹の彼方~windy blue」(1991年)
作詞:田口俊 作曲:杉真理 編曲:鷺巣詩郎

グリコ・カフェオレのイメージソングとしてバブル景気終焉期の1991年に公開された作品。
4月24日という発売日は「初夏」をターゲットにした投入タイミングである。
爽やかで明るいポップに仕上がっており、初夏のイメージにぴったり。杏里さんを思わせるしっかりとした歌声もポジティブな気分にさせてくれる。



同季節の飲料CMに観月ありさ「伝説の少女もあり、タイアップCMソング花盛りの感があった。バブル終焉といってもまだまだ華やかで、1991年はさほど暗い景況ではなかったように思う。

作詞・作曲は前年、「ウイスキーが、お好きでしょ」でブレイクした田口俊さんと杉真理さんのコンビ。編曲は「笑っていいとも」のテーマ曲で有名な鷺巣詩郎さん。

みんな50年代生まれ(当時30代半ば)の作家陣である。テレビが絶大な威力を持っていたこの1980年代末期から1990年代初頭は、世代交代が比較的急ピッチで起こり、“50年代生まれ作家陣” が商業音楽界のベテランとして定着した時代と捉えている。

グリコ・カフェオレ・・・パッケージデザインも大きく変わらず未だ健在である。

MIO 『エルガイム-Time for L-GAIM-』(1984年)
作詞:売野雅勇 作曲:筒美京平 編曲:松下誠

アニメ『重戦機エルガイム』初期のオープニング曲。
筒美京平作曲のアニソンということでは「サザエさん」「怪物くん」以来、長らくブランクがあったが、前年の「スプーンおばさん」からアニソンも復活というところか。

編曲は、ギタリストの松下誠氏が担当。ロック色が強い曲の場合に松下誠氏と組むことが多いようである。

今回は、筒美京平と“短調のⅥの和音”との関係について書いてみたい。

『エルガイム-Time for L-GAIM-』のサビの
  「Show me the way to you」のメロディー(2小節)と
  「Lead me now where you are」のメロディー(2小節)は、
全く同一で、モチーフを2回くりかえしているだけである。だが、和音は F#m → DM7 と変化する。

このDM7が短調のⅥの和音である。短調のⅥは、通常のツーファイブ進行から外れるためか、古いアメリカンポップにはあまり見られない。
短調Ⅵにメジャー7thを付加すると、なんというかユーロロック寄りというかシンフォニックな響きになる。
筒美センセの代表的なネタ元がソウルミュージック、カントリーウエスタン、バートバカラックあたり(ポールモーリアもあるが)ということなので、自ら編曲している時代の作品には短調Ⅵの使用頻度は少ない。

80年代に入り、若手アレンジャーと組むようになってきた頃からユーロテクノ系などの新しい響きも積極的に採取していったと推測される。
河合奈保子『エスカレーション』、本田美奈子『殺意のバカンス』などは、短調Ⅵを使いたいために作ったような曲に思える。

○。。。.

『エルガイム-Time for L-GAIM-』・・・加工音声「heavy metal」がなにげにカッコいい


youtube動画 MIO 『エルガイム-Time for L-GAIM-』
井上陽水「カナディアン アコーデオン」(1993年)
作詞:井上陽水 作曲:筒美京平 編曲:佐藤準

NHK連続テレビ小説「かりん」の主題歌として使用されたC長調の明るい曲。
最大の特徴は、6thコード、7thコード、メージャー7thコードで変化をつけている点。この曲の本質といっていい。
6th、7th、メージャー7thで変化させるアイデアが先にあり、そのアイデアが活きるようにメロディーを合わせた節がある。

たとえば、F → F6 → FM7 → F6 と接続することにより、
耳はド → レ → ミ → レ という流れを感じとる。


同様に、Dm → DmM7 → Dm7 と接続すると、
レ → ド# → ド と半音ずつ降下する流れを感じ取る。

これら流れは、歌メロディーの別働隊(カウンターメロディー)として働くし、歌メロディー自体がその流れをたどることもある。

Rootが変化しないことから、先日にも書いたペダルポイントと同質の心理的効果をもたらす。スケールの大きさ、空間の広がりを感じさせる効果だ。
そこへ快活な16ビートとアコーディオンの音色も加わって、とてもカナディアンな雰囲気に仕上がっている。


youtube動画 井上陽水「カナディアン アコーデオン」